3話 仲間
目が覚めたら、何か変な生き物がいた。
「なんだ、あれ?」
見た目は蟻だ。だが、直立で立つ蟻だ。身長は俺と同じくらい。つまり1メートル程。
‥‥それは、蟻と言ってもいいのだろうか?
とりあえず、《分析》してみる。
名前:なし
種族:《働き蟻人》
レベル:1
なんだ、こいつら。俺達《幼生虫人》よりも強そうな気がするんだが。
《働き蟻人》達の数は約二十ほど。それは、昨日あった卵の数と殆ど一致する。
「なんだ、こいつら?」
起きてきたロメルダに聞いてみることにした。
「新しい子供達よ。主に戦闘と家の増築をしてくれるわ」
確かにこれ以上、お仲間の数が増えるようなら、増築は必要だろう。
蟻なら、イメージ的にそういうことが得意そうだし、最適かもな。
どうでも良いが、昨日結構な量あった角兎の死体の山が綺麗に無くなっている。
ロメルダよ、どんだけ大食いなんだ?
◇ ◆ ◇ ◆
皆さん、起き出したのを見計らってロメルダが昨日と同じように召集をかけた。
今日は昨日とは違い、新入りが二十人ほど増えている。
昨日、帰ってきた《幼生虫人》が結局、二十人ほどだったから、今、この場にいるのは約四十人ということになる。
つまり、半分は新入りという訳だ。
「《働き蟻人》達は半分が私達の家の増築、半分は外で狩りをしてきなさい。
《幼生虫人》達は全員、昨日と同じく、外で狩りよ」
ロメルダの指示に文句も言わずに従う虫達。
これを見ているとロメルダと話したり、意見したりする俺はやはり異常なのだと実感させられる。
「俺達も行くぞ」
アグルとフィンを連れ、外に出る。
相変わらず巨大な《オベロンの神木》―この木の名前は先日、ロメルダに教えて貰った―を背にジャングルへと向かう。
途中で《働き蟻人》達が五人のチームを二つ作って、ジャングルに入るのを見かけた。
どうやら《働き蟻人》は《幼生虫人》よりも頭が良いらしい。
戦闘力でも知能でも負けたら《幼生虫人》は立場がないな。
まぁ、俺には関係ないけどさ。
俺は失われた宝物を取り戻すことに必死だから。
◆ ◇ ◆ ◇
ジャングルに入り、昨日と同じく角兎を倒していく。
多少は無理もするつもりだが、多少の無理ではとても勝てないような魔物も多く存在するので、結局今は昨日と同じように角兎を狩っている。
それでもアイテムボックスを利用できるようになったから、昨日よりも狩りは遥かに楽だ。
死体はアイテムボックスに保管できてしまうので、手で運ぶ必要がないのが大きい。
アグルとフィンはいきなり消えた角兎の死体に驚いていたが、俺が大丈夫だと言うと、簡単に信じてくれた。
少しくらいは疑えよ、と思わなくもないが、信頼されるのは嫌な気分じゃない。
何も考えていないだけという確率も高そうだけど。
太陽が真上に上がる頃には角兎の死体は五匹となっていた。
割と良いペースだ。だが、そろそろもう少し強い魔物とも戦いたい。
おそらく《豚人》レベルなら、今の俺達でも勝てるだろう。
根気よく《索敵》で敵の位置を探っていく。
お、こいつは丁度いい。
俺が見つけたのは鼠。ただし、とても巨大な鼠である。
大きさは俺の二倍、立ち上がれば俺の三倍ほどの体躯を誇る。
《分析》してみると、種族は《巨鼠》でレベルは12ということが分かった。
これなら俺達でも勝てるだろう。
一度、アグルとフィンを待たせていた場所まで戻り、強敵と闘うことを伝える。
アグルは強敵と聞いて喜び、フィンは少し不安そうな表情を浮かべた。
最近、二人の性格が段々と分かってきた。
アグルは、脳天気な戦闘狂で、フィンは冷静だが少し心配性。
時間が経つにつれて、二人の精神も成長しているらしく、最近は雑談もできるようになってきた。生後二日ということを考えたら異様な成長スピードだと言える。
そんな二人を連れて《巨鼠》のもとへ戻る。
あまり複雑な作戦を立てても二人は理解できないと思うので、アグルは木の枝で、ひたすら《巨鼠》の頭部を殴打、フィンは隙を見て角兎の角て攻撃、という指示をだす。
で、俺は二人が《巨鼠》の注意を集めている間に背後から近付いてスキル《毒》を使って麻痺毒を纏わせた角で攻撃。
これが今までの俺達の必勝パターンである。
だから、今回も上手くいくはずだ。
俺の不意打ちから戦闘は始まった。
《隠密》で気配を消した俺の攻撃は、《巨鼠》の後頭部に直撃。
大ダメージを与えたはずだが《巨鼠》は倒れない。
麻痺毒も注入したが、体が大きいからか毒の周りが遅いらしい。
麻痺させるにはもっと大量の麻痺毒を注入する必要があるようだ。
まぁ、ここまでは想定内である。
俺に敵意を剥き出しにした《巨鼠》へ茂みから飛び出したアグルの一撃が炸裂する。
更にフィンも現れ、《巨鼠》と対峙する。これで三対一。
さて、ここからが正念場だ。
◇ ◆ ◇ ◆
「案外なんとかなるもんだな」
俺は倒した《巨鼠》のモモ肉を食べながら、今回の戦闘について考えていた。
結局、アグルとフィンが敵の気を引き、《隠密》で気配を消した俺が背後から麻痺毒付きの角を急所に突き刺すという作業を計三回繰り返した辺りで、《巨鼠》が麻痺状態になり、後は俺達でたこ殴りにして勝った。
最初はその巨体にびびったが、蓋を開けてみれば大して苦戦すらしなかった。
最前線のアグルが多少、擦り傷を負ったが、それはポーションで即治ったので実質、こちらの被害は皆無と言える。
「鼠、美味いな」
「美味い美味い」
「美味いです」
角兎ばかり食ってきたから、鼠の肉が珍しく、その分更に美味しく感じてしまう。俗に言う付加価値という奴だ。
《巨鼠》の肉は美味かったのだが、流石に三人で全てを食べきれる訳もなく、半分はロメルダ用に持ち帰ることにした。
アイテムボックスに半分になって、お子様には見せられないようなグロい姿の《巨鼠》をしまったら、再び《索敵》を使い、魔物を探す。
できれば、レベル上げの為にもあと二か三匹は《巨鼠》を倒しておきたい。
俺の願いが天に届いたのか、その後、五匹連続で《巨鼠》に出会った。
勿論、全て倒して今はアイテムボックスの中だ。
そろそろ日もくれそうだし、帰るか。
今日は結構たくさんの魔物を倒すことができた。
俺とアグルとフィンのレベルも上がったし、巣に戻ってもいいだろう。
という訳で、巣に向かった俺達だったが、帰り途中で俺の《索敵》に異様な反応が示された。
青い点に複数の赤い点が群がっているのだ。
どうやら、お仲間が襲われているらしい。
う~ん、助けるか?
しかし、助けるとなるとこの赤い点の群れに突っ込むことになる。
赤い点の数は十だから、結構な数だ。
魔物の種族が分からないから、見てみないと判断がつかないが、闘うのなら覚悟がいるだろう。
とりあえず、敵の様子を見てから考ようということで、いつも通り俺が単身《隠密》で姿を消して敵に迫る。
そして、草村の中に上手く隠れた俺が見たものは《竜騎士物語》にも出現した一般的な雑魚敵《小鬼》と、それらに囲まれる《働き蟻人》だった。
《小鬼》なら問題ないかな。
この状況、考え方を変えれば、あの《働き蟻人》が囮になって、あいつらの注意を引いているとも言える。
つまり、奇襲し放題ということ。
早速、アグルとフィンを連れて戻ってくる。
まだ、《小鬼》と《働き蟻人》は戦闘中だった。戦闘、と言っても《働き蟻人》が《小鬼》達にただ攻撃されているだけで、《働き蟻人》は防御しかできていないが。
それでも、まだ生きていられるのだから大した生命力だと言えるだろう。
腕が折れ、額には罅が入って、牙も曲がってるけど、まだ息はある。
‥‥いや、割と瀕死かもしれない。
ここまで来て死なれても寝覚めが悪いので、さっさと助けてしまおう。
勿論、主目的は経験値稼ぎだけれどね。
アグルには手前の二匹、フィンには手前の一匹を襲撃するように指示。
俺は少し遠くの位置の奴を片っ端から葬り去ることに。
戦闘が開始されて、数秒も経たないうちに、敵の《小鬼》は半分以下の四匹となった。
作戦通り、フィンが手前の一匹、アグルが手前の二匹、そして俺が三匹減らした。
フィンは手先が器用らしく、上手く角を使って敵の喉笛を切り裂き、アグルは持ち前の腕力で棍棒のような木の枝を振るい、二匹同時に葬り去っていた。
俺に関しては【隠密者】のレベルが上がり、俊敏さと隠密の精度が上昇したのが大きく、速度を生かして気付かれる前に暗殺してやった。
あと、角も暗器に属するらしく、その熟練度にも補正が掛かったみたいだ。
四匹にまで減った《小鬼》など、俺達の敵ではなく、簡単に殲滅が完了。
グロテスクな死体をさっさと片付けたいところだけれど、まずは助けた《働き蟻人》の治療が先決と判断し、アイテムボックスから取り出したポーションを振りかけてやることに。
「凄いな、ポーション」
ポーションである緑色の液体が《働き蟻人》の身体に降りかかる旅に折れた腕が、曲がった牙が、元に戻っていく。
あまり効果の高いポーションでは無かったから、完治までに五本も使ってしまったが、それでも驚くべき治癒能力だと言わざるを得ない。
試しに摘んであった薬草を絞って傷口に塗ってみたが、殆ど効果は無かった。せいぜい、血―因みに俺達の血は人間と同じく赤い―が止まる程度だ。
やはり、【薬剤師】の能力でポーションにしたのが原因なのだろう。
《働き蟻人》の傷を全て治してから、《小鬼》の死体をアイテムボックスに収納して回った。
《小鬼》の肉は食ってみたが大変、不味い。なので、全てロメルダに献上することにした。
《働き蟻人》は完治しているのだが、動き出す気配を見せない。息は一応しているので、生きてはいるのだろう。
仕方ないのでアグルに背負わせて巣に戻ることにした。
ロメルダ曰わく夜は強力な魔物が動き出すらしいので、さっさと帰りたい。