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赤い雫の誘惑  作者: 朝比奈 黎兎
第Ⅰ章
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嫌なんだよ


 現実的にあり得ない状況に、あっけにとられていた間に目の前の手が震えだしいつの間にか拳になっていた。相変わらず震えたままだ。


「そんなに……そんなに大事なら……何故選らんだ!!」

「?」

「お前は何をしにここまで来た!弱りに来たんじゃないだろう!!それをお前は、大事だからだなんだうんぬんを抜かし、挙句の果てにこのざまか!!今のお前に……何の価値もない。これまでお前を狩ることだけを目指してたのがばからしくなってくる」


 さっきの震えは、どうやら怒りからのものだったらしい。いまだ目がさめぬ優里に向かって、皐月は怒鳴り散らした。

 今にも殺しかかりそうだったので、俺はそっと優里を抱え、抱きしめた。もう、何の重さもないその体は、きっと綿よりも軽いだろう。だけどまだ此処にいる。それを忘れないように腕の力を強める。

 ようやく落ち着いてきたらしい皐月は、あらがった息を整えていた。


「……あんたは、優里を消し去りたいわけじゃないのか?」

「ふん、人間風情に答える筋合いはない」

「今の優里は狩る価値ゼロってことか」

「当たり前だ。そんな人形同然の物体、何の価値もない。家畜のえさにするほうがまだましだろう。お前がなにもできない以上、もはやそれは消える運命」

「……俺に、できることないのか?」

「何?」


 別に俺にはなんの特別な力もない。さっきのよくわからない壁?みたいなものもまだ理解できてない。優里の事も全然知らない。皐月が言っていることの半分もわからない。俺になにができて、どうすればいいのかもわからない。

 わからないことだらけだけど、でも今ここにいるのがただの偶然じゃないのだとしたら。


「優里を助けられるなら、なんだってする……。俺の命だって……お前はいらないかもしれないけど。でも、俺がさしだせるものだったらなんだってさし出す……。だから、教えてくれ」


 優里を助けたい。失いたくなんかない。きっと、この状況を作ったのは、俺にも原因があるんだ。だったらなおさら、俺は優里のために何かしたい。たとえどんな犠牲を払おうとも。

 俺に出来るなら、それにすべてを賭けたい。


「優里を助けられる方法、知ってるなら教えてくれ」

「……」


 俺と皐月の視線が交差し、部屋は静寂に包まれる。時計が時刻を刻む音が、一定のリズムで聞こえる。いつも何の関心も示さないその微々たる音、だがいまはそれが嫌に遅く感じられるほど、気が向けられている。


「むしろ、それは一番最初にいうことだろう」

「……」

「しかも人に頼む態度なのかそれは」

「人じゃないあんたに、頼む態度なんかこれで充分だろ。つーか、あんたに膝ついて懇願するなんかしたくねーよ」

「……よく、俺が人じゃないと見破ったな」

「勘だけど。でもあんたが何となく人間じゃないってのはわかる……。あとたぶん、優里もそうだろ。はっきり断定はできないけど、この世界のいきものとは違う感じがする」


 昔。あのとき感じた気配と同じものを、皐月からも優里からも感じ取ることができた。それは忘れられない記憶の中にあった。もう二度とお目にかかりたくはなかった気配。それと同じものが再び現れて、俺は少なからず嫌だった。今度もまた何かに巻き込まれる、何かを失うんじゃないかと思った。

 もう、何も失いたくなんかなかった。


 あの日、俺は一人になった。謎の一家惨殺事件。生き残ったのは俺一人だけ。俺の両親と妹は、血と骨の塊となって、面影もなかった。そして、俺の記憶にいつまでも残る異形の存在。ゲームに出てくる魔物がそのまま表れたかのようで、正直夢だったんじゃないかとも思う。

 でも、一人になった理由は決して夢なんかじゃなかった。


 喪失感と恐怖が俺を支配して、俺はそれから何に対しても関心を示さないようになった。失っても、悲しみを感じないように。

 だが、そうしてても関心を持ってしまった存在。

 そして再び、俺は失いかけてる。


「でも、たとえ違う存在でも……優里は……優里だけは失いたくない。一緒に……生きていきたいんだ……。これからもずっと……」


 そう呟き優里に視線を落とした俺の頭に、固くて小さいものが降ってきた。痛みに顔をしかめながら、その何かが落ちたところを見る。そこにあったのはザクロ色の小さい瓶だった。そして俺を見下ろす皐月は、それを飲ませろと言い、どこかへ姿を消した。

 あ、やっぱりただの人間じゃなかったんだな。

 つか、これなに?毒……じゃないよな。

啓太はなんていうか……妙なところ頭が働きます。

勘も野生の勘並み。


皐月がなんかそんなやなやつじゃなくなっちゃった!?

何でだ……

もう誰からも憎まれるようなキャラにしようと思ったのに!←え


ま、それはおおげさですけど。



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