表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い雫の誘惑  作者: 朝比奈 黎兎
第Ⅰ章
6/24

不安なんだよ

私の予告ほど不確かなものはないですね


 今日もいつもと変わらない時間が過ぎていく。パックのイチゴ牛乳を飲みつつ、席からグラウンドを見下ろす。昼休み、外でサッカーをしてるその風景を眺めてたら、突然啓太が何かを思い出したのか声をあげた。


「どうかしたの?」

「やっべ、化学の問題集出し忘れてた。俺ちょっとだし行ってくる」

「え!?ちょ……」


 何でよりにもよって化学なんだよ。しかも行動早いし……置いてかれた。

 どうしよう。今からでも追いかけた方がいいかな。メイヴィスが啓太に何もしないとは限らないし、相手は一応魔界の存在だし。元バンパイアだし。でも、メイヴィスは俺を狙ってるんだし、啓太には何もしないはず……はず……。


【ズゴゴゴゴゴ】

「……今の俺に……メイヴィスから啓太を守るどころか、自分を守る力すら……あるかわかんないなんて……」


 空っぽになったパックを、力いっぱい握りしめた。噴き出したわずかなピンク色の液体が、つぅっと手をつたった。



 化学準備室を覗く。だがそこに先生の姿はない。職員室にもいなかったから、こっちにいるもんだとばっか思ってたがそうでもなかったみたいだ。まぁ、直接渡さなきゃいけないわけでもないから、机に置いておけばいいか。

 そう思って、奥の机に出し忘れてた問題集を置いた時だった。わずかに開いていた一番上の引出し。その隙間から写真らしきものが見えた。まぁ、此処は先生の部屋とも言うべきところだろうし、写真くらいあるだろう。

 だが何でかしらね―けど俺はその引出しに手をかけていた。そして引き出しを開けてみると、そこには2枚の写真があった。その写真を見て、俺は目を見開いた。


「んだよ……これ……」


 一枚は優里、そしてもう一枚は俺が写っていた。隠し撮りなのか、いつ撮られたのかも怪しい。だが、それよりも優里の写真は異様だった。

 真っ赤に染まっていたんだ。赤黒い気もする。赤い絵の具にでも付けたかのように、真っ赤に塗れた優里は、写真の中でものすごい笑顔でいた。それがさらに不気味さを醸し出してるんだ。

俺の写真は何ともない……いや、首のところで真横に引き裂かれたらしい。軽くテープで留めてある。何だよこれ……あいつ一体……。


「いい趣味してるな、速水」

「っ!?」


 不意に耳元でささやき声が聞こえ、俺は反射的にそこから飛びのいた。いつの間に現れたのか、白衣のポケットに手を突っ込んだ先生がいた。全く気付かなかった。いくら写真に気を取られてたからって、真後ろに来られても気付かないなんて……。


「なんなんだよ……あんた」

「何がだ?」

「その写真……どういう意味だ」

「ふっ。よく撮れてるだろう?」

「そういう問題じゃねーだろ。俺の写真はともかく、優里の写真はなんなんだよ」

「あいつには赤がよく似合う。確かに単体でもそれはきれいだが……、赤が加わるとさらに映える。この写真を見るたびに、その時が待ち遠しい。狂いそうになるほどな」

「?」


 なんだ……、すっげー寒い。それに、先生なんかいつもと雰囲気が違う?なんだこの凍てつくような感じ。それに目の前に肉食獣でもいるかのような危機感……。

 反射的になのか、俺は気付かないうちに後ずさりしていた。


「狩られるものは、狩るものを目の前にすると必ず恐怖する。それはどの世界も共通しているものだ。それは変わることのない理。特に抗う力を持たないものは恐怖を覚えるのが早い」

「何言ってんだよ……」

「気付かなければ、お前は今に失うだろうな。俺が手を出さずとも」

「はぁ?」

「ほら、そろそろ昼休みが終わるぞ。さっさと教室に戻りな」

「……」


 見てはいけないものを見たんだろう。だが、さっきのあの赤い写真。あれが頭から離れない。何かこれから、優里に何か起こるんじゃないかと思わずには居られなかった。

 

 昔から、関心が薄かった。何に対しても関心を示すほどのめり込むこともできずにいた。


 そんな俺が、興味を持った初めての対象が優里だった。転校してきたその日から、なぜかあいつに引き寄せられた。それからほどなく仲良くなって、今では親友という間柄にもなった。誰かのために何かをするなんて、あまりなかった俺があいつの世話を焼いた毎日を送ってる今が、信じられない時もある。


 だけど、いつのまにかそれが自然に思えるようになった。俺の隣にはあいつがいる。それが当たり前のように思えていた。

 それなのに、あの写真を見て何故か思い浮かんだのはあいつがいない世界。体中が戦慄するほど、それがすごくリアルに思えた。


 教室に入ると、優里は自分の席で机にふせって寝ていた。自分の席にすわり、その背中を見つめる。


「お前……いなくなるとか、ないよな……」


 一瞬、優里の体が透けて見えた気がした。

啓太単体だと、ちょっと動かしにくいですね。


今回はもう脱線しないように頑張ります。

なので今までの作品よりは話数が少ないはず。


その分、一話一話がすこし長くなってます。ちょっとですけどね。


次回10日19時更新。(予定……←)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ