わからないんだよ
今日も同じように登校して、自分の席に座る。いつもならとっくに来てるのに、まだ啓太は来てない。朝は低級のやつらはその太陽の光に耐えられない。だから、一緒じゃなくても大丈夫だけど。上級のが来たら俺でもわかるし。まぁハンターは別だけど、ハンターは人間は狙わないから察知しない。だからまぁ、メイヴィスが来たのに気付かなかったわけだけど。
「変なとこで寝るんじゃなかった……」
首が痛い。多分後ろを振り向いたりは無理。ちょっと右に傾けるのも控えた方がいいだろうな。
「どうしたんだよ、寝違えたりしたのか?」
「そうっぽい、おはよ」
「はよ。足はもういいのか?」
「ん、昨日よりはまし」
「そ。ほら、これやるよ」
そういって啓太は自分のカバンから、緑色のギンガムチェックのバンダナにくるまれたものを俺に差し出した。
「お弁……当?」
「そ。いらないなら別にい―けど」
正直、いらない。でも、ちょっと欲しい。
「なんで?」
「昨日食いたそうにしてないっけ?あれ、違った?」
うーん、微妙に違うけど。
「もしかして、今日ちょっと遅いのってこれ作ってたから?」
「まぁな。俺だけなら適当にぶち込むけど、お前にやる分そうももいかないだろ?」
「別によかったのに……ぶちこんでもさ。でも……ありがと」
このお弁当で、お腹が膨れることは決してないけど。だからって無意味なものってわけじゃない。啓太が俺のために作ってくれたもの。俺のために……。それがすごく単純にうれしい。何なら今すぐ開けて食べちゃいたいくらい。でも、一緒にお昼食べたいし、それまで大事にとっておこう。
「たかがそんな弁当で、そんな顔するか?」
「する。今日は朝から良いことあった」
「……テンションあがってるとこわりーけど、一時間目……化学だぞ?」
「うげぇ……」
「ぷっ。あからさまに表情変えたな」
そりゃまぁ、あいつ大っきらいですから?化学も嫌いだし、ダブルパンチだ。啓太のお弁当パワーで何とか乗り切れるかな。
◆
アハハ、黒板に書いてある一切がわからないよ。なにあれ、あれはなに。
読めるけど理解は出来ないな。無理。
とりあえず写しとこう。化学は暗記さ。たまに計算とかもあるけど、暗記できれば、平均くらいいくさ……。できれば、ね。
「それで、此処にOが結合する。するとこれは……」
眠い。やる気がないぶん、眠気が半端ない。腹ぺこといい勝負だ。むしろ腹ぺこより質が悪い。我慢出来そうにない。
「はい、じゃあこれを……玖月」
「はひ!?」
「これくらい行けるだろ?」
無理に決まってんだろ。ドヤ顔すんな、ぶん殴るぞ。
「……酢酸」
「ぶー。答えは塩化ナトリウム」
知るか!!塩化なんとかとか、そんなアルファベットの羅列がなにかとか、ぱっと見わかるわけない。もう、解ろうという努力すらしてないけど。
大体、絶対俺が答えられないってわかった上で出しただろ。質悪すぎ。
変な奴に目を付けられたよな、俺。
あ、もう前からそうか。
納得できるわけない!!
◆
さて、待ちに待った昼休み。椅子ごと回れ右して、啓太の机で食べる。お弁当を広げると、何故か俺のお弁当箱は楕円型の紅色っぽいいろした可愛いやつ。蓋の隅にピンクの桜が小さくかかれてる。
「こんな弁当箱使うの?」
「それしかなかったんだよ」
「やっぱり啓太の?」
「んなわけねーよ。それは妹のだった奴」
「ふーん。ま、だよね」
「わかってたなら聞くなよ」
いや、意外性もあるかなと。
蓋を開けてみると、から揚げにウィンナ、卵焼きに南瓜の煮物、ミニトマト。
「……ミニトマトやだ」
「でかいトマト丸々一個よりましだろ?」
「ぶちってするし、皮も……」
あと、時々熟れすぎたやつ。あれ嫌い。ぐにゃぐにゃだから。
ご飯がないな、って思ったらなんと二段弁当だったみたいで下にちゃんとあった。
「……梅干しやだ」
「食え」
「ハチミツのがいい」
「あれは邪道だ」
「シソもいや」
「梅干しにシソは必要なんだよ。文句ばっかだと食っちまうぞ」
そりゃね、俺だってこれで空腹が満たされるなら文句なんか言わないよ。梅干しだってなんだって、結局腹の足しにはならないし。
この世界の食べ物は気を紛らわす為に食べてるだけだし。
啓太が作ってくれたこの弁当。俺にとってはご馳走なんだ。だから文句は言ってるけど、残したりはしない。したくなんかない。
「あのさ、毎日じゃなくていいから、また作ってって言ったらくれる?」
「まぁ……気が向いたらな」
約束守れるかわからないけどね。
化学苦手だから、正直今もよくわからない私が書いてますので……
だって、化学って社会に出て必要な人って限られてくると思うんだ。
私は絶対いらないけど。あと数学も。
連立方程式とかもうできないし。
うん、無駄な知識だな。
次回8月6日19時更新(予定……)