守るんだよ
いままでが平和すぎてたのかも。
戦争だって身近なものじゃないし、殺人とかも頻発してない。平和な所。それは今でも変わっては無いけど、まるでかりそめの平和だったように思える。
まぁ、そんなこと考えてるのは俺だけだろう。
「おい、優里!!」
「……ぶっ!!?痛っ−−−−!!」
サッカーの最中に考え事はまずかったか。
「大丈夫か?」
本当に心配してるなら、その半笑いは何。泣くぞ。痛くてすでに涙目だけどな!!しかも、脳天じゃなくて、顔面だし。もろ右目直撃したんだけと。あとなんか足痛い。立てない。なんで?
「捻った?」
「はぁ?お前、鈍臭……」
「鈍臭くない!!っつ……」
「無理すんなって。先生−鈍臭いこいつ足捻ったっぽいんで、俺保健室まで運びますよー」
「はぁ?ちょ……無理!!それは無理!!」
いくらなんでも、おんぶは無理!!引っ張んな馬鹿!!
なんて、力の差は歴然だったけどさ。美味しそうな臭いすんなちくしょう。かぶりつくぞその首に。
出来ないけど。
◆
「ぎゃ−−−−!!痛い!!痛いってば痛い!!」
「んじゃ、こっちは?」
「んぎゃー!!」
「……」
この保健の先生、頭おかしいんじゃないのか!!捻った足を躊躇も遠慮も手加減もなく、あっちへこっちへ曲げる?
「大丈夫、ちょっと捻っただけたし、湿布して安静にしとけばすぐ治るよ」
ほんわか笑顔に癒され……ない!!このドSが!!癒し系でドSってどんなやつだ!!
湿布を何回もゆっくり貼って剥がしてを繰り返したのもどうかしてる。冷たいんだよ。ぞくって冷って……。
啓太が知らんぷりしてたのは酷い。自分だけ逃げたな。
自分の力を使って、一瞬で治せるのは、内緒。まぁ自分の為には使いたくないけどさ。
◆
「おい、本当に大丈夫かよ」
「平気、平気。保健室行った時よりは痛くないから。歩いて帰れるし」
「あんま無理すんなよ。んじゃ、俺バイトあっから途中でくたばってもしらねーからな」
「わかっ……わかっわわわわわっ!!頭ぐりぐりするなぁ!!」
身長縮む。これ、結構重要!
因みに足はちょっと魔力使って、痛みは無くしてる。まぁ特に支障ない程度のごく僅かな量だ。
さて、今日は啓太はバイトの日か。確か今日は9時までだっけ?夜って危ないんだけどな。いや、人間がどうのじゃなくて、夜って人間界にも魔族とかが現れやすい時間だし。低級の生物なら簡単に入り込んで人間の精気を奪う。悪い奴はそれこそ魂ごと抜きとったりもする。
だから、俺がひそかに結界を張った啓太のマンションにいてほしいんだけど。まぁ、一人暮らしするためには必要だろうし。俺がうるさく言えるわけないんだけどさ。
無事、啓太が帰宅できるよう排除しないと……ね。
◆
魔に狙われやすい存在は、大きく分けて二つ。潜在的にそういう要素が備わった存在か、欲深い存在かだ。
特に最近の人間界は後者が圧倒的で、それゆえ魔界から招かざる客が増えている。欲の塊が渦巻いた、そういう魂ほど、魔界の存在は欲するらしい。まぁ、低級のやつらの事だから俺はあまりよく知らないけど。
でもそれにより、潜在的に狙われやすい要素を持った存在が喰われることもある。これが一番厄介だ。
そういう存在というのは、霊感が強いとか、何かしらの力を持っているとか、魂の質が違うとか、前世が……。まぁ、一見変わらないような存在だけど、中が特殊。そういう存在の事だ。
でも、そういう存在は魔に食われるわけにはいかない。世界の秩序云々のためらしい。
そして、そういう存在を守護するために、魔界は存在する中でも力があり、かつ悪事を働かず忠義を尽くす5つの族にその存在を守る使命を与えた。
そう、俺が属するバンパイア族もそのうちの1族だ。
「だからこそ……俺は探してた……俺が守るべき存在を……!!」
◆
どさりと、腰をおろしたのはとあるマンションの屋上。すっかり息も上がって、正直立つのは今すぐは無理。
さっき、啓太が帰宅したのを確認した。これで今日も大丈夫。ちゃんと守れた……だけど……。
夜はそれでも、空腹が気にならないはずなのに。むしろ空腹であることがすでに、当たり前のように感じられさえしてきたのに。
「めっちゃ……腹減ったよ……」
あまり魔力は使わないように、セーブしながら数百体もの魔族・魔物を倒した。
屋上の壁にもたれかかり、天高く輝く青白い月に手のひらをかざした。
「あと……どれくらい……守れるのかな……。一緒に居たいよ……友達でいいから……。だから……消えるその時まで……一緒にいよ……け……たぁ……」
月明かりの中、俺は静かに瞳を閉じた。
優里の性格が、未だに掴めない……
なんか難しいです。
逆に啓太と皐月は楽。
腹ぺこバンパイアめ。
さて……段々一日置き更新が無理そうに
早めの展開にしますかね……