だからなんだよ
放課後のそれも夕方6時を過ぎた校舎内には、もう生徒の姿はほとんどない。
俺だって帰宅部だし、さっさと帰りたいのだが、あの皐月に呼び出され、しぶしぶ化学室にやってきたわけだ。めんどくさい。啓太と帰りたかった。
なんでなんだ。
まぁ、あれだよな。原因はわかってるさ。
「その呼びだした本人どこ行ったんだよ……。帰るぞー。帰っちゃうぞー。よし帰ろう」
「何自己完結してんの?」
「どわぁ!?」
どこから現れるんだよ。窓から入ってくるな……って、此処3階じゃなかったっけ?
「俺が人間じゃない……この世界の住人じゃないってわかってんだろ、ユーリ」
「ユーリじゃないし、優里だし。……俺は皐月憐なんて知らない」
「あー、それ仕事上の偽名」
「結構あけ抜けとばらすね」
「本名はメイヴィス」
「!?」
メイヴィス。その名前に思い当たる一人の人物。過去に、俺がけしたはずの存在。だけど今、そいつは目の前にいて、薄気味悪い笑みを浮かべている。
「メイヴィス・タージェント。お久しぶり、ユーリ様」
「お前……生きてたのか……」
「あのとき殺されそうになったけど。今ではいい思い出さ。おかげで新たな仕事に身を置いて、動きやすくなったし?」
「仕事?」
「俺、今ハンターだから」
「は?」
そういって、皐月――――メイヴィスはネクタイを緩め、シャツのボタンを2・3個外していった。そして、はだけたシャツの隙間、鎖骨のやや右下に棘に覆われた漆黒の羽の刻印が見えた。それは魔物ハンターの証。だがそれは、メイヴィスにあるはずがないものだ。
「お前……堕ちたのか?バンパイアのお前に、それがあるなんて……」
「もともとの俺の行動からしたら、おかしくはないだろう?何せお前は、俺の生涯最大の標的なんだからさ」
「ッ……」
確かに、メイヴィスはたびたび問題を起こしていた。
同族や、ほかの魔族、魔物を狩ったりしていた。狩る、というよりは殺していたのほうがあってるだろう。ハンターなんかやつにとっては天職ともいえる。
「ハンターになったおかげで、今まで抑えてきた本能をすべて惜しみなく出せる。今ではハンターの中でもそれなりに有名なんだぜ?魔界じゃ、お節介にも指名手配までされたし……」
再び、あのとき感じた悪寒が体中を駆け巡った。
寒くないはずなのに、体は小刻みに震えだす。メイヴィスから、知らず知らずのうちに距離を取り出す。古傷のように、首筋がピリッとした痛みを発しているようにすら思える。
魔界とか、バンパイアとか。はたからしたら架空のおとぎ話の世界の事のように思えるだろう。けど、俺にとっては、それは現実の事で。俺自身この世界の住人じゃないし、人間でもない。目の前にいる男と同族だ。
探し物があって、あちこちの世界をめぐった。そしてやっとこの世界で見つけたんだ。かけがえのない、ただ一つの存在を。
「何しに……」
「そろそろ。狩り時じゃないかと思って。でもがっかりだ。この世界に長い間いるから、てっきり契約者がいて、力も最高潮のを手にできると思ったのに。もう魔力が底をつき始めてるな」
「うっさい……」
「確か……速水だったっけ?ずいぶん、気に入ってるな。何で手に入れない?」
「ッ!!!」
血が頭に昇り、俺は何も考えず右手を前に薙ぎ払った。
どこからともなく炎の球体が出現し、メイヴィスに向かって、飛んで行った。だが今の状態じゃ威力が今一つだった。メイヴィスにいとも簡単に消されてしまった。
「無駄遣いはよせよ。死ぬぞ?」
「うっさい!お前……啓太は……啓太に危害加えてみろ……今度こそ殺す……」
「族を裏切ったものは制裁を加えるって?次期バンパイア族、長……ユーリ・ヒューグランティー様?」
「っ!」
もう一度同じように手を薙ぎ払う。今度は鋭い氷の塊が飛び出した。
それと同時に俺はその部屋を飛び出した。
胸がぐるぐるして、気持ち悪い。心臓がうるさいくらいに鳴ってる。
◆
ぱらぱらと、氷の破片が床へと落ちる。放たれた氷は、素手で簡単に砕けた。手に残った拳大の塊を、メイヴィスはいとしそうに、舌で撫でた。
「必ず、あれは俺が狩る。俺だけのものに……」
まずは、あいつが執着してた人間を――――
やっと、優里の正体?(まぁ、あらすじでバンパイアって書いてあったけど。)
本編でようやく本名まで書けましたね。
ちょっと因縁ありな優里と憐(メイヴィス)
またこのお話は後日。
皐月→五月→May(英語)→メイ→メイヴィスw
なんか……なんもひねりないな。
優里は感じにしただけですし。名字は関係ないし……
ネーミングセンスは今だないです。はははw