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◇第七ヤンデレ タイプ (巫女)

 遅れながら更新です!今年は頑張ってたくさん更新していきたいです!あと………今回は虫嫌いの方は非常に閲覧注意です!

 息切れしながら急な階段をかけ上がって甲板に出ると、柔らかい潮風が顔に吹きつけてそっと自己主張し、太陽は容赦なく照りつけてきた。遠くではウミネコが鳴きながら次々と遠ざかり、姿が見えなくなり小さく声だけがするようになると、やがて水平線の向こう側に寂しげに浮かぶ小さな島が見えてきた。

 僕の名前は豊河(とよかわ) 秀昭(ひであき)、血液型はO、父さんと二人暮らしをしている。運動は人並み、趣味と言うか特技と言うべきなのか生物の知識に関してはわりと自信のようなものがある。

 今、現在僕は芸術家である父さんと共に長年住み慣れた町を引っ越しの為に離れて隣の県の港から二人分のそう多くは無い荷物を積み込んだ車ごと船に乗り、次に僕と父が暮らすことになる新天地の小さな孤島、木慈島へと向かっていた。船内の客室に置いてあった中途半端に手作り感が滲み出ているパンフレットには木慈島は人口500人程の島で漁と名物の翡翠の工芸品が盛ん、さらに自然が数多く残っている故に非常に生態系が豊かで近年数が少なくなっているような珍しい生き物が数多く生息しているらしい。

 『珍しい生き物が数多くいる』その一文を見た瞬間、強い興味をひかれた僕は、まもなく木慈島に到着すると言う船内アナウンスが聞こえた瞬間、次の作品のアイデアを考えようとしてそのまま居眠りしている父さんを置き去りにして甲板へと飛び出したのであった。

 甲板から軽く身を乗り出しつつ徐々に近付いてくる木慈島を眺めていると、十分後には船は木慈島に着き、僕は今だ半分寝ぼけている父さんと共に車で木慈島の港に降り立った。 

 木慈島の港は活気に溢れ、いくつものの漁船が並び様々な年齢の漁師が丁度、頂点へと登った太陽に照らされて輝く海を背にして忙しそうに作業しているのを父さんが運転している車の助手席に乗りながら眺め、港を抜け少しまばらに住居が立ち並ぶ町中の上り坂をしばらく車で登っていくとやがて新居へとたどり着いた。

 新しい我が家は、青々とした山を背に建てられた見た目は古いながらもしっかりと管理が行き届いた立派な屋根瓦を持つ大きな一軒家で、ガスや水道と電気はもちろん、あらかたの生活に必要な家具が置いてあるうえにきちんと部屋の掃除がされており、さらに僕と父の荷物を運ぶのを親切に僕達の新居の近所に住む島の人達が手伝ってくれ、夜には歓迎会を開いてくれると言う。

 こうして、非常に親切な人々のお陰で僕は予定よりずっと早く自由時間を手にいれ、昼食の引っ越しそばを平らげるとすぐさま島の探索に向けて歩き出したのであった。



「おお………ここらはコナラやクヌギ………あ、クリやヒノキも多いなぁ」


 僕はまず、島にある日用品や生活必需品が売られている商店などの施設を巡り、自分が明日から通うことになる僕がこの島を訪れる前に通ってた学校の半分程しかない小さな学校をチェックすると、一端家に戻り持ってきた捕中網と虫籠を持ち、少し服装を変えると最初に見たときから気になっていた家の後ろにそびえ立つ山へと向かって行った。さて、いざ山へ来てみると山道は非常に整備されて歩きやすく、ゴミ一つ落ちていない。山の木々からはミンミンゼミやニイニイゼミ、ツクツクホウシなどのセミの声が賑やかに聞こえ、僕の目の前を通りすぎたギンヤンマやマダラチョウを掴まえつつ、自然溢れる光景を見ながらひたすら山道を登っていくとやがて、いりくねった山道の先に灰色の石段が見えてきた。石段の上には朱色の立派な鳥居がそびえ立ち、鳥居には達筆な字で『木慈神社』と書かれていた。


「神社かぁ………今日、引っ越して来たばかりだし、挨拶てがらお参りでもして来ようかな?」


 そう考えた僕は、捕中網を杖のように使いゆっくりとちょっと長い石段を登り、鳥居を潜り抜ける。

 周りを森に囲まれた木慈神社は以外と広く、境内に入るとまず正面に派手な飾りこそ無いもののどこか強い威厳を感じさせる巨大な本殿。左手には木々を切り開いて作ったらしい広間に5mほどの木のやぐらが組まれ、右手には神木らしき樹齢が三桁は過ぎてるであろう青々と生い茂った巨大なシラカシの木、そのすぐ隣には神社の風景に合ったこれまた古めかしい社務所らしき建物があった。

 そんな光景を見ながらあちらこちらに視線を移し、当初の目的であるお参りをするべく僕は本殿へと続く道を歩いていた。


「ん、んん?ねぇねぇ君はだぁれ?」


 と、突如、調度僕の頭上あたりから不思議そうな感じの女の子の声が聞こえてきた。


「う、うわっ!?」


 突如、かけられた声に僕は思わず声をあげ、手にした捕中網を落としてしまい、捕中網は音を立てて石の上へと落ちてしまった。


「あははっっ!そんなに驚かなくてもいいのに……ボクは妖怪とか化物なんかじゃないよ?どちらかと言うと……うん、正義の味方の方だよっ!」


 からかう用な声を聞き、僕は落ち着きを取り戻してハッと声のした頭上へと視線を向けてみた。


「落ち着いたー?」


 僕が見上げた先には、太いクヌギの木の上の枝に軽く腰掛け、太陽に照らされて煌めく黒髪をそよ風に揺らし、肩まで伸ばした左側の髪は朱色のゴムで小さく結んでいる巫女服姿の少女が僕に向けて可愛らしい笑顔を浮かべていた。


「よっ………ほっ……やっ……とぉおっ!」


 僕が少女を眺めていると、そのまま少女は巫女服のまま器用にするすると木の枝を伝わって下へ降りていくと、最後に木の枝から跳ぶと華麗に僕の隣へと着地し、立ち上がるとじっと僕の肩よりちょっと上くらいの高さからじっと僕に視線を合わせる。


「初めまして……だねっ!ボクはこの神社の巫女。木慈(きじ) (かおる)だよっ!君は何て言うの?」


 そう言うと少女、木慈 薫は白く健康的な歯を見せニカっとした感じの笑顔を僕に見せた。


「う、うん、僕は秀昭。豊河秀昭だよ」


「豊河?……………思い出した!お母様が今度ココに引っ越して来るって言ってた人だ!!えへへ、改めて木慈島唯一無二の木慈神社へようこそ秀昭」


 僕の名前を聞いた瞬間、木慈さんは首を傾げて一瞬悩む様子を見せるがら次の瞬間には満面の笑みを浮かべながら傷ひとつない右手を僕に差し出した。


「よ、よろしくね……木慈さん………」


「薫、でいいよ。だってボクと秀昭って同じくらいの歳でしょ?あ、ボクは14才ね」


 僕がそっと差し出された木慈さんの手を取ると、木慈さん、いや薫は困ったように笑いながら僕にそう言った。


「ご、ごめん……薫、僕は15 さ………」


「ああああああああああぁっ!?」


 と、僕が自分の歳を薫に告げようとした瞬間、薫は突如空気が裂けんばかりの大声を上げ、次の瞬間には抱き付くように僕に弾丸のごとく詰め寄って来た


「ねぇねぇ秀昭、秀昭っ!!」


「は、はいっ!!」


 その迫力に押されて何故か敬語を使って返事をした僕だったが、肝心の薫はそんなことは関係ないとばかりにキラキラと輝く目でそわそわしながら近距離で僕を見ていた。


「さっきは気が付かなかったんだけど………秀昭は昆虫採集してたの?虫、好きなの………!?」


「う、うん………結構………」


 捲し立てるようにも感じる僕がそう答えた瞬間


「やった!ボクと同じだね秀昭!」


 薫は突如、感極まった様子で軽く跳ね上がりそのままの勢いで僕の手を握ってきた。


「……わわっ!?おっっとと………!」


 突如、薫が手を握ってきた事によって当然ながら薫との距離が一気に近くなり、必然的に遠目では分からなかった恐ろしく謙虚ながらもなんとか主張している薫の胸のやら髪や体から漂う甘いお香の薫りが漂い思わず僕は顔を赤くしてしまう。


「ねぇねぇボクも一緒に昆虫採集に行ってもいい?いい、ポイント知ってるんだよ」


 薫はそんな僕の様子に気付いてないようで、満面の笑みを浮かべ、僕に抱き付いたままそう言ってきた。


「ぼ、僕はかまわないけど……神社の仕事があるんじゃあ……?」


「それなら大丈夫だよ、こうやって……」


 僕がそう訪ねると薫は僕から離れて何やら巫女服から書道に使う半紙とセロテープを取りだすと、半紙をセロテープを使い本殿の賽銭箱にに張り付けた。張り付けてある半紙を見てみると薫が書いたのか少し達筆な字で『本日、巫女は臨時休業です。何とぞご了承ください』と書かれていた。


「ねっ、これでバッチリでしょ?」


 本職巫女がそれでいいんだろうか……。得意気な顔をしながら僕を見る薫に対して僕は心の底からそう思った。



「ここ、ここ、ここにはいつも大きいカブト虫やクワガタがいるんだよ」


 巫女服姿のままで手には網、腰には虫かご頭に麦わら帽子という妙な姿の薫に案内され僕は神社の裏手側の森に来ていた。


「えへへ、ここはボクが見つけた秘密のポイントなんだ。秀昭にだけ特別に教えてあげる」


「そんな大事な場所……僕に教えていいの?」


 僕を先導するように一歩先を歩きながら得意気に言う薫に、僕は思った事を率直に尋ねてみた。


「もちろん!今日引っ越してきた同級生の子と趣味が同じなんて巫女としては神様の導き……な~んて考えちゃうからね、これくらいの事は当然だよっ。ほらほら、あの木を見てみて?あそこがポイントなんだ」


 薫はそう笑って答えると歩きながらすぐ先に見える一本の木を指差す。

 薫が指差した木は周りの木々より一回り大きく成長したクヌギの木があり、薫と共に歩きながらさらに木に近づいてよく見てみるとクヌギの黒々とした樹皮にはまるで刃物で勢いよく切られたかのような多きな傷があり、そこから樹液がたっぷりと染み出ていた。そして、樹液の周囲には樹液を吸わんとカナブンやタテハチョウ、そして僕らの目当てだったカブト虫やノコギリクワガタやらミヤマクワガタ、コクワガタが入れ食い状態で集結していたのであった。


「す、すごい………まだ昼過ぎだっていうのにこの数は……」


「へっへっへ~だから言ったんだよ、秘密のポイントだってね。ボクを褒めてもいいんだよ?」


 思わず感嘆の声を上げた僕に薫が得意気な顔をしながら軽く自分の胸を叩く。


「あぁ、薫は本当に凄いよ。こんなポイントを見つけれるなんて」


 薫の言葉に僕は薫の凄さを純粋に認め、素直に褒め言葉で返す。


「え、えへへ………そう正面から褒められると照れちゃうな……」


 俺の言葉を聞くと褒められ慣れていないのか薫は突如、顔を赤く染め恥ずかしそうにうつむきながらそう呟く。その姿は非常に女の子らしく………つまり、その、とてもかわいかった。思わず見とれて無言になる俺と同じく、薫も照れているのかモジモジしたまま無言になり、僕と薫の間にはしばし何とも言えない無言の時間が過ぎた。


「あ、ああっ、こんな事してるより早く虫達を採らないと!?に、逃げちゃうから……?」


「そ、そうだね!こんなチャンス滅多に無いだろうし!!」


 薫の一言に僕は無理矢理笑いを浮かべ、二人して気まずいムードを打ち払うようにやけに馬鹿騒ぎしながら木に集まったクワガタやカブト虫を一匹、一匹取っていく。そうして立派な獲物達がほぼ僕と薫の虫籠に入っていき、直ぐ様、木の上からは蝶とカナブンだけになった。


「…………………………」


 思っていたよりも早く採集が終わってしまい、お互いに体制を立て直せず再びお互いにモジモジと見つめ会うだけで何も言えない気まずい空気が僕と薫の間に流れる。困った、非常に困った。この空気をなんとかしたいと思うものの僕にはそういった知識はほぼゼロに等しく、全くのお手上げ。


「(あぁ……先輩達ならこんな時どうするか分かるかも知れないのに……)」


 僕が内心でそう諦めていた時だった。

 突如、空気を震わす特徴的な羽音が連続して僕と薫の背後から響きわたり、真っ直ぐにこちらに近づきながら硬直したままの僕と薫の間をすり抜け、連続して先程まで採集していたクヌギの木に音を立てて着地すると後ろ羽を鮮やかな赤茶色に輝く固い前羽の中にたたみ、二匹仲良く樹液を吸いだした。


「か、カブト虫の雌雄ペアだぁ………!それも二匹揃って特大サイズだよ………」 


 突如、僕達の前に現れた若くて巨大なカブト虫のペアに薫が興奮した様子で言う。と、その瞬間薫はハッとしたかのように何かを思い付いたかと思うとすぐさま表情を変え、耳元まで真っ赤になった。


「ねっ、ねえっ秀昭っ!!」 


「は、はいいっ!?」


 突然の薫の大声につられて思わず体を跳ねさせると同時に何も考えず勢いのまま返事をしてまう。そんな僕も気にせず薫はすっかり樹液に霧中になってるカブト虫を指差すと


「こ、この二匹はボクたち二人で飼おうよ!その………ふ、二人が出会った記念に……駄目……かな?」


 最初元気を振り絞って言っていた様子の薫だったが次第に風船から空気が抜けテイクかのようにこえは弱まり、最後に僕を見上げながら恐る恐ると言った感じで尋ねてきた。


「うんっ!いいよ、二人で飼ってみようか!」


 そして僕は、薫が急に見せた弱々しい姿を見てはとても断るなんていう非道な行為はする事が出来なかった。


「ほ、本当っ!?ありがとう秀昭!」


 僕がそう言った瞬間、薫はぱあっと顔を明るくして満面の笑みを見せた。僕はそんな薫にまた軽くときめいていまし動揺を隠すのはとても苦労した。






「どうぞ、いいよ薫あがっても」


「えっへへへ………おっじゃましまーす」


 あれから少しして昆虫採集をおえた僕と薫は、僕からの提案で僕は薫を引っ越したばかりの僕の新居へと休憩と薫へのお礼を兼ねて招待していた。


「うわぁ……男の子部屋ってこんな風になってるんだ……以外にシンプルなんだね、ボクの部屋より物が少ないかも?」


「まだ出してない荷物はあるけど………大体はこんな感じかな」


 興味深そうに首を動かして僕の部屋を見渡す薫。新居の僕の部屋は畳と襖で区切られた部屋で、備え付けだった漆が所々剥げたタンスとシックな雰囲気の勉強机に液晶テレビ、あとは持ってきた収納棚二つにはおおまかな私物を入れておりそれ以外は段ボールに箱に詰められて部屋の片隅に並べていた。


「ふぅん、ちょっと以外か……っ!?」


 と、突然部屋を観察していた薫の声が驚愕の声に変わる


「ど、どうしたの?」


 突然の薫の変化に父から受け取った金魚が描かれたガラスのコップに冷えた麦茶を渡そうとしていた俺は思わずコップを取り落としそうになるのを辛うじて堪えて薫に訊ねる。すると薫は腕を震わせながら指を収納棚のすぐ近くに置いてあり、蓋を開けて中の荷物を半分ほど取り出した段ボール。正確にはその中身を指差した。


「ひ、秀昭……あ、あれって………ウ○トラマンのDVDボックスなの……?」


「そ、そうだけど………」


 薫が今、指しているDVDボックスそれは主に特撮作品が好きであった僕に、この島へと引越しをする前日に先輩が別れの駄賃と言ってプレゼントしてくれた物であった。すると薫は急に僕にぐぐっと近寄ると


「ねぇねぇ秀昭っ!このDVDいまから見てもいい?あ、どうせなら秀昭もボクと一緒に見ようよっ!!ねっ?」


 と、弾けるようなとびきりの笑顔で僕に聞いてきた。そんな勢いに流され僕は


「う、うん、いいよ、お茶菓子持ってくる……」


 当然のように流されて、お茶菓子を調達しに台所へと向かって歩き出す。部屋から出るときに僅かに見えた薫はまるで無邪気な子供のように巫女服のまま目を輝かせていた。



「ふわぁぁ……やっぱりヒーローはいいなぁ……」


 僕の隣で座蒲団に座り共に一本のDVDを見終えた薫はうっとりとした表情でそう呟く。


「あのね秀昭……ボクね……お菓子とかおしゃれよりも昔から虫とかヒーローとか……男の子が好きそうな物がすきだったんだ……」


 と、感慨深くなったのか唐突に薫は語り始めた。薫の顔からは出会った時から見せていた活発さは消え、どことなく儚げなものに変わっていた。


「あはは……おかしいよね?でも、今日はボク嬉しくて仕方ないんだよ?ボクと同じ趣味でからかわないでいてくれる……秀昭と会えて」


 そこで薫は少し体を動かして真っ正面から僕を見つめて言う


「秀昭、良かったらボクと友達になってくれるかな………?」


 その薫の曇り一つ無い、真っ直ぐな言葉に僕は 


「当然じゃないか……薫、もう二人で昆虫採集をした時から僕達は友達だよ……僕はそう思ってる」

 

 薫の気持ちに答え、同じく真っ直ぐに薫を見つめ返しながら答えたのであった。


「ありがとう……ありがとう秀昭っ!……えへへっ……男の子の友達は初めてだなぁ……これからよろしくね」


 僕の答えに薫はとても嬉しそうに目を細めて笑うと、そっと僕に右手を差し出してきた。その手を握手かと思い握った瞬間、ぱっと薫の左手が伸び握ろうとした僕の手首を包むと、ゆっくりと腕を下げてそのまま自分の頬に僕の手の平をくっつけた。当然、僕の手の平に柔らかくなおかつ暖かい感触が伝わってきた。


「わわっ、かっ薫!?」


 薫の何のそぶりも見せなかった突拍子も無い行動に僕は声をあげてしまった。


「えへへっ……ほんとうにありがとう秀昭………大好き……今日、会った時からね……」


「えっ!?ええっ!?えひえええあええええ」


 頬を染め、潤んだ瞳で囁くような声で僕にとっては核弾頭クラスにも匹敵する凄まじい告白をしてきた薫に僕の頭は一瞬でスパークしてしまい、気付けば悲鳴とも奇声とも言いがたい珍妙な声を大音量で叫んでいた。そんな僕を見て、薫はクスクス笑う。


「な~んてね、冗談だよ秀昭」


「な、何だ……そういうジョークは止めてよ……」


 薫の言葉に、残念やらホッとするやらかは分からないけど、とりあえず落ち着きを取り戻して一息付く。全く……今日日出会った時から今までに出会った事が無いほどに元気に満ち溢れた女の子だとは思っていけれど、まさかこんな嘘を突くとは完全な予想外だった。正直、薫は僕から見て十二分に美少女の分類に入る。平たく言えば僕の好みだ。そんな美少女から告白されて動揺しないはずは無い。そう、思いながら完全に落ち着きを取り戻す事が出来る寸前の時だった。


「うん、冗談だよ、半分はね……………」


「半分っ!?」


 僕の精神の回復を見通したかのように、薫は追い打ちをかけてきた。僕はそんな薫にただ振り回され薫が帰った後も妙に悶々とした気持ちが消えないまま夜を迎えるのだった。



「おっはよー秀昭、迎えに来てあげたよ」


 翌日、ろくに眠ってないフラフラ頭で朝食を胃に流し込み、通学カバンを抱えて玄関の扉を開いた瞬間、そう元気よく薫が挨拶してきた。その服は当然のごとく昨日のような巫女服姿では無く、黒いセーラー服に着替え、髪を結んでいたゴムも色だけが同じリボンへと変わっていた。


「お、おはよう……」


「うんっ、いい返事、それじゃあ二人で元気に行ってみよー!」


 驚愕で静止しててた頭を何とか立て直し、僕が何薫に挨拶を返すと薫は非常に満足した様子で笑い、僕の手を握って歩き出した。


「わわっ、ちょっと待ってよ薫!」


「えへへっ………さぁ一緒に行こう秀昭!」


 突然の薫の大体な行動に驚く僕をからかうように笑いながら薫は僕の手を握ったまま歩き出す。楽しそうに鼻唄を歌いながら僕の一歩先を歩く薫はどうやら手を離してくれる事は無さそうだ。それを理解した僕は諦めて薫の歩くスピードに合わせて学校へと続く道を歩き出すのであった。……道中、漁師の方々やご近所さん達、そして同じく通学中だった学校の生徒達に微笑ましい物を見るような目で何回も見られたのは精神的にキツかったけど。まぁ、薫の輝くような満面の笑顔を見られたので…まぁいいか、な………?



「うーんと……ねぇ、秀昭ここ教えて?」


 一時間目の授業中、偶然か否か僕の隣の席になった薫が教科書を持ち僕に質問してきた。


「あぁ、ここはね……」


 僕は、薫の質問に答えつつふと横目で軽く教室を見渡す。僕らの通うこの学校は全校生徒の人数が圧倒的に少なく、この教室には小学校高学年と僕ら中学生が同じ教室を利用し、小学生組が授業を受けている横で僕達は、授業の始めに先生から課題とプリントを渡され、それを授業終了までにやり遂げると言うスタイルだ。こんな風に僕達はほぼ放置されてる状態にも関わらず、意外にも面倒臭そうにして課題をする者はいるが誰も不真面目な態度は取ってはいない。指導がしっかりとしているのだろうか?


「……ねぇ、秀昭ちょっと良いかな?」


 と、そんな風に僕が軽く余所見をしていると、少し真剣な口調で薫が僕に話しかけて来た。


「あ、あぁ何、薫?」


「うん、実はボク、ちょっと秀昭に頼みたい事があってね……」

 

 薫の声に慌てて僕が視線を薫に戻すと、薫は真剣な眼差しで僕を見詰め返しながら言葉を続ける。


「あのね……一ヶ月後、夏休みの始めにボクの家の神社でお祭りがあるのは知ってる?」


「あぁ、回覧板に書いてあった奴だね。豊作祈願祭だっけ?」


 僕は昨晩、家にやってきた丸々として人の良さそうな近所に住むおばちゃんが自慢の漬け物と一緒に持ってきた若干、ヌカ臭い回覧板に書かれていた内容を思い出しながら返事を返す。


「うん、でも今回のお祭りは秀昭達の歓迎祭もかねていてね……その、秀昭にはボクと一緒にお祭りの神事に参加して欲しいんだ」


「いいけど……僕はそう言う神事とか全くやった事無いからなぁ……不安だな」


「それなら大丈夫っ!」


 僕が思わず心配事を口にした瞬間、薫は驚くような早さで返事を返す。……気のせいか、薫が何故か焦っているような気がする。


「秀昭はただ、やぐらで座ってればいいだけだから!面倒な事は全部ボクがやっちゃうから!……ね?」


「う、うん分かったよ……」


 勢いよく言ってくる薫に押され、気付いた時には思わず僕は肯定の返事を出していた。その瞬間、薫の顔から焦りは消えぱあっ一気に明るい顔に変化した。


「ありがとう秀昭~えへへ、良かったぁ……」


 心底嬉しそうに笑う薫を見て、僕はふと思い出す。そう言えば、先輩もこの島には凄く興味を持ってて一度行ってみたいと言っていた気がする。そう思った僕は早速、薫に訪ねてみることにした。


「あのさ……薫、俺の前に住んでた所の先輩、その祭に招待して良いかな?」


 僕がそう言ったまさに、その瞬間だった


「えっ…………?」


 一瞬、ほんの一瞬僕に向けている薫の澄んだ瞳が深く、暗い底知れないような闇が広がる色へと変わった。が、


「うん、勿論だよ!この木慈島が凄く良い所だって先輩さんにも教えてあげようね秀昭!」


 次の瞬間には薫の目は純粋に陰りの無い目に戻ると僕にそう笑いかけると再び薫は勉強を始めた。その急激な変化に驚かされて固まる僕だったが、すぐに薫に続いて勉強を始める。正直な話さっきの薫の目が気になって仕方が無かったが、冷静に考えて見ると単なる気のせいとも思える。


「(いや……そもそも薫が先輩の話で急に態度を変えるなんてまず、考えられないよ)」

 

 そう僕は自己解釈して再び問題集との格闘を僕は始めた。

 

 その後も授業は続き、休み時間や昼食時には薫と何度も会話したが薫の目の色が従業中に見たように奇妙に変わることは無く、放課後には僕が見た変化は完全にただの見間違いだと結論付けていた



 森林と畑しか無い道を歩き、流れ出る額の汗を服の袖で拭い、僕はこの数十分だけで三回目になる言葉を再び口にする。


「迷った……」


 学校から帰宅して着替えたすぐ後に父に頼まれて商店で日用品と本日の夕食の材料を買いに出かけた僕は買い物を済ませ、さて帰ろうとばかりに道を引き返したのだがどこかで道を間違えていたらしく、現在進行形で僕は道に迷っていた。あちこち歩きまわったせいで疲れて汗が止まらないうえに足は痛いし、おまけに両手に持った夕食の材料が入ったビニール袋まで指に食い込んできた。


「こんな時は交番に行くのが一番良いんだろうけど……交番の場所が良く分からないし、そもそもここが何処なのかも分からない。おまけに回りには人が見当たらない……はぁ、本当にどうしよう………」


 全く、手の打ちようが無い現状に途方に暮れ、僕がそう溜め息を付きながら呟いた時だった。


 突如、僕の目の前を太陽の光で美しい青さで輝く一匹の虫が羽ばたきながら通りすぎ、僕から1メートルほど離れた地面に着地する。地面でいそいそと羽をたたんでいるその虫の名を僕は知っていた。


「あれは……ハンミョウ?」


 オサムシの仲間で全国に生息しているハンミョウがここに現れる事は何もおかしくは無い。しかし……どうも言葉では言い表せないが本能的に奇妙な予感がする。

 そんな感覚に支配された僕がハンミョウを観察しようと屈んだ瞬間、ハンミョウは羽を広げて飛び立ち、緩やかに飛びながら数メートル先の丁字状の曲がり角を右に曲がると再び着地する。その様子が僕にはまるでハンミョウが道を教えてくれるように見えていた。 


「そう言えば、ハンミョウは人が近付くと数メートルだけ飛んで逃げて着地する………その習性から『ミチオシエ』って通称もあったっけ………ようし、どうせ全然、道が分からないんだ一か八かあのハンミョウの後を追いかけてみよう!」


 いかさか発想がメルヘン過ぎじゃないだろうか……と、心のどこかで軽く思いながらも僕はハンミョウを見失わないように追いかけて走り出した。




 それから数分ほど数メートルおきに飛んでは着地するハンミョウを追いかけ、いくつかの道を曲がり何回か坂を登り降りした時だろうか?息を切らせながら次にハンミョウが飛んだ先を確認しようとした僕の視線の先に何と見間違い無い我が家が見えて来た。


「んなっ!?まさか本当に家に帰れるなんて……」


 目の前で起こった信じがたい出来事に僕は思わず絶句する。いやいや、確かに『ミチオシエ』って言われてるけどハンミョウ自身にそんな能力があるはずも無い。しかし、今、目の前で実際にハンミョウを追いかけた僕は無事に自宅へと戻れたのだ。……少し偶然にしては出来すぎている。


「あれ、秀昭どうしたの?」


 そんな風に僕が軽く混乱している時、突然後ろから声をかけられた。


「重そうな荷物だねぇ、夕食の買い出し?」


 慌てて振り返ってみると、そこには見慣れ始めた元気な笑顔を浮かべた薫が立っていた。服装は自宅に戻って着替えたのか朝に見た制服から巫女服へと変わっている。


「か、薫?なんでここに!?」


 突然の薫の登場に、未だに頭が冷静さを取り戻せない僕は思わず直球で薫にそんな質問を投げ掛けた。


「何でって……お母様が『良い』って言ってくれたから、秀昭の家に遊びに行こうと思ってきたんだよ………ボクが来ちゃ嫌だったの?」


 そう言うと薫は、む~、と言いながら口をへの字に結んで頬を膨らませると不機嫌な表情をしてみせた。


「い、嫌、そんな事は無いけど……」


 裏表の無い率直な感情を見せる薫に、一瞬驚かされた僕は慌てて弁解をして取りつくろうとする。


「そう?なら、いいよ。あ、荷物ボクも持ってあげる!」


 すると薫は、ぱっと表情を満面の笑みに変えて僕の手から荷物を受けとると家に向かって歩き出す。


「ちょ、ちょっと待ってよ!遊びに来た……それも女の子に荷物を持たせるなんて……」


 そんな薫に、僕は残った体力を使って早足で薫を追いかけながら諭す。


「いいの、いいの、何だったら夕食だってボクが作ってあげるよ?」


「だから薫にそこまでさせる訳には………」


 薫は全く気にしていない様子でそう僕に笑いかけながら結局、僕の荷物を持ったまま家に入りるもそのままなし崩し的に夕食まで作り最終的には僕と父、そして薫の三人でテレビを見つつ薫が作った夕食を食べることになりその姿はさながら一つの家族のように僕は感じてしまった。

 ちなみにこの妄想は冗談では済まなかったらしく薫が注いだ食後のビールで酔っぱらった父さんが薫に『秀昭の嫁になってやってくれ』とやたらに薫に絡み、僕は恥ずかしさで酒も飲んでもないのに父より顔を赤くしてしまい、そこを薫にからかわれわ、薫と父さんでカラオケをしだすわで、まさに踏んだり蹴ったりの思いをすることになったのだった。



 時が流れるのは早いもので気付けば木慈島に来て一ヶ月が過ぎ、学校には大分慣れて同級生達ともそれなりに話すようにはなった。が、やはり最初に仲良くなった薫と話す時間が圧倒的に多く、休み時間は勿論、放課後を過ぎても一緒にいる事は多く。休日には薫が家に来て特撮のDVD鑑賞会や二人で山を歩き回って昆虫採集をするのが当たり前のようになっていた。


 そして今、僕は


「あ、暑い……」


「夏、真っ盛りだからねぇ……大丈夫、秀昭?」


「逆に薫は何でいつもの巫女服なのに全然平気そうなの……?」


「ん?あー……ボクは巫女だからね」


「いや……意味分からないよ。………それにしても先輩達はまだかな……」


 一ヶ月弱しか通って無かった学校も夏休みに入って数日した時、予告通り先輩が彼女も引き連れて木慈島に遊びに来ると連絡を入れて来たため。僕は今現在、木慈島の港で先輩達が乗っているという船の到着を待っていた。ちなみに薫は、僕の付き添い。どうにも僕の以前住んでいた場所の知り合いが気になるらしく、わりと強引に僕についてきた。


「えーっと……今、2時10分だからもう少しすれば船が来るはずだよ」


 何気なく呟いた僕の言葉に反応し、薫が軽く空を見上げると妙に正確な時間を告げてきた。


「いやいや……見た感じ薫、時計も携帯も持ってないよね。なんでそんな正確な時間が分かるの?」


 僕は思わず少しの感覚をあけて同じペンキが剥げてるベンチに腰掛けてる薫に身を乗り出して尋ねる。


「え?そうだなぁ……」


 すると薫は顎に手を当て、軽く小首を傾げて考えるような仕草をすると、やがて口を開いた。


「ボクが巫女だから?」


「薫、『巫女だから』って言えば何でも誤魔化せると思ってない?」


「………そんな事は無いよ?たぶん」


「たぶん!?」


 衝撃的な薫の一言に僕がベンチからずっこけたその時、低い汽笛の音が鳴り響いた。


「「あ」」


 と、僕と薫二人の声が重なる。慌てて二人で海を見てみると水平線の先にはいつの間にか現れたのか1隻の船が真っ直ぐ僕と薫がいる港へと向かって来ていた。


「船が来た……行こう薫!」


「うん……そうだね秀昭」


 船が来たのを見た僕は真っ直ぐに船着き場へと向かって歩き出す。

 

 だから僕は気付かなかった


 この時、僕の背後にいた薫が僕に聞こえないように小さく小さく舌打ちをし、あからさまに不快な顔をしていた事を。


 僕がこの事に気が付き、後悔するのはこれから大分後の話になった。




「久しぶりだな秀昭、元気にやってるか?おや、 その萌え要素トップギア風味な巫女さんは?秀昭の恋人か?まさか、イケない関け……ぐぇっ」


「着いて早々、何言ってんのよアンタは!!」


「せ、先輩達も元気そうで何よりです………」


 目の前で自身の恋人の志波先輩から豪快な平手打ちでの一撃を受けて悶絶する先輩、石井渡先輩を見て冷や汗を流しながら僕は何とか挨拶を返す。やはり渡先輩は変わっていない……色んな意味で。


「あぁ、さっきの誉め言葉なら安心しろ。俺のナンバーワンは永久不動で三奈子だ」


「んなっ………!?ほ、本当にバカなんだから……」


 どこか楽しげにダメージを楽しんでいた渡先輩がそう言った瞬間、志波先輩の顔が一瞬で真っ赤に染まる。あぁ……これも昔からの一種のお約束パターンだ………。


「あははっ秀昭の先輩さん達って本当に楽しい人達だね!」


「う、うん、前から先輩達はこうなんだ……会う度こんな調子だよ」


 二人を見て心底楽しそうに笑う薫に、そう僕が説明した時だった。


「うわっ!?」


「だーれだっ?」


 そんな声と共に突如、僕の視界はほんのり冷たい手のひらで塞がれ、困惑する僕の耳に昔から聞き慣れた少女の声が聞こえてきた。


「まさか……」


 間違えようが無かった、昔からずっと僕の家に住んでいた同じ年の女の子。僕が引っ越す事で別れてしまった幼馴染み。


(あかね)?………」


「そうっ、久しぶりっ!秀昭……」


 僕がそう答えた瞬間に視界が解放され、それと同時に僕の背後から回り込んで、後ろで軽く髪を結んでいる薄い青の髪の少女が現れた。

 その少女こそまさに僕の幼馴染み、茜こと、海鳴(うみなり)茜、その人だった。


「茜、来るなら教えてくれたって……」


「えへ、秀昭を驚かせたかったからね~」


 僕の質問に茜は笑いながら、その場で軽く笑うと軽やかなステップを踏む。その動きを見てふと、茜がバレエを習ってた事を思い出した。


「海鳴とは俺達は船内で遭遇してな、偶然とはあるものだな」


 俺と茜を見ながら胸元に志波先輩を引き寄せ、何か納得したように渡先輩が言う。ちなみに抱き寄せられてる志波先輩は『何、急に抱き締めてんのよ……馬鹿じゃない?』と言ってるものの顔は赤く、片手で渡先輩の服の裾を握って離さない。


「ねぇねぇ……先輩さん達は分かったけど……その子、誰?」


 と、そこで話においてけぼりにされ気味だった薫が膨れっ面で僕に聞いてきた。


「あぁ……薫、この子は僕の幼馴染みでね……」


「海鳴、茜です!よろしくねっ」


 僕の言葉の途中で遮るように茜が薫にそう言い、手を差し出す。そんな茜を薫はちらりと見ると


「……うんっ、よろしく!ボクは薫。木慈薫だよ」


 一瞬、妙な感覚をあけて笑顔でしっかりと茜の手を握り返してきた。


 その後は何気無い会話をしながら、渡先輩と志波先輩、そして茜も泊まる事になった僕の自宅まで皆で歩いていった。

 僕の家に付き、渡先輩達が泊まる部屋を決めて荷物を置いたら薫の案内で日が暮れるまで島の各地を散策して廻り、日が沈むと夕食は女子三人が作ると言い出して、料理が不得手な茜のフォローに志波先輩と薫が追われて結果、うまいともマズイとも言えない微妙なカレーライスが出来たり、風呂に入ってる女子三人の声を聞きながら渡先輩が恐ろしい早さでキーボードを叩いて何かをメモしていたりと、 とかく忙しい一日となった為に。風呂から上がって体を拭き、着替えると僕は庭から聞こえてくる鈴虫の声をBGMがわりに布団に入るなりすぐに寝てしまった。



「に、賑やかだなぁ………」 


「あむあむ……うん、この島で一番盛り上がる祭りだからね。皆、気合入れているんだよ」


 祭、当日の夜、神社内に立ち並ぶ屋台と祭に合わせて立派な飾りが施されたやぐら。そして神社に設置されたスピーカーから聞こえてくる音頭に合わせて楽しげに踊る浴衣を着た島の人々に気圧された僕が呟くと。口にイカ焼きをくわえた薫が口をもごもごさせながら答えた。ちなみに薫が着ている巫女服はいつも着ている物とは細部がいつもとは違い何となく豪華な作りになっている。ちなみにそれを薫に聞いてみると


『この巫女服はお祭り限定ミレニアム特別ヴァージョンなんだよっ』


 と、得意気によく分からない返しをされ、何故か一緒に聞いていた渡先輩とハイタッチを決めていた。

 ちなみにそんな渡先輩、そして志波先輩が今どうしているかと言うと


「お、見ろ三奈子。この射的屋の景品に蒼龍のプラモデルがあるぞ。二人で狙わないか?」


「あんたは、いつもそんな所にばっかり目が行くのね……別に二人でやらなくてもいいじゃない、一人でやれば?」


「俺は三奈子と協力して取りたいと思っているんだが……。そう、例えるならば夫婦のケーキカットの如く……な?」


「んなっ……!?わ、分かったわよ……気が変わったわ。仕方ないから私も手伝ってあげる。そう、仕方ないなんだからね!」


 二人の会話が終わり、にやにや笑う渡先輩に言いくるめられて、白い花が描かれたされた薄紫の浴衣を着た志波先輩が真っ赤な顔で代金をハラウト射的屋の銃を手にとる。……うん、先輩達は二人きりに放してあげた方がいい。そう確信した僕は無言で僕と薫の少し先にいる渡先輩達から視線を外した。


「んぐっ……時間はもう少しあるし……次はどこに行こっか秀昭?」


 最後に小さく残ったイカ焼きを飲み込むと、薫はそう僕に聞いてきた。


「いいけど………薫、練習は良いの?僕、何をするか殆ど聞いてないし……」


「ふぇっ!?だ、大丈夫だって、秀昭はじっと座ってボクが差し出すお神酒とか飲んでればいいし……。あっ……あぁ、そうだ!次はあの水ヨーヨーの店に行こっか?」


 不安が残る僕の質問に薫は急に顔を赤らめ、ぐいぐいと僕の手を引っ張って歩き出す。


「わわっ!か、薫っ!?」


 そんな薫の勢いに押されて僕が軽くふらついた時だった。


「おっまったせー秀昭!待たせてゴメン!!」


「ぐえっ!?」


 僕の背後から唐突に茜が、そんな事を言いながらタックルを仕掛けて来た為に僕は奇妙な声をあげてのけ反った。


「いっやーまさか順番とはいえ、浴衣の着付けにあんなにかかっちゃう何てね~。祝い事以外で着るのはアタシは勘弁だわ」


 何か一人で納得して頷く茜。着ている浴衣は手鞠が描かれた水色の浴衣。

 ちなみに志波先輩と茜、二人の浴衣を用意し着付けてくれたのは薫のお母さんの珠稀(たまき)さん。丁寧に僕達にも挨拶をしてくれた珠稀さんは薫と良く似た美しい髪が特徴的で、とても一児の母親とは思えない程に若々しく落ち着いており、まさしく大和撫子そのものだった。


「さてさて、アタシが合流したからには祭をエンジョイしちゃいますか!よっしゃ!さっそくあの輪投げ屋にゴー!」


「少し落ち着いてよ……大体、薫が……えっ?」


 僕はそう言おうとした所でふと、言葉を止める。


「秀昭どしたの?」


 急に言葉を止めた僕を疑問に感じたのか茜が首を傾げて僕に尋ねてきた。


「いや……さっきまで薫が僕の手を掴んでいたんだけど……急に居なくなって……」


 そう、突然全く予兆も無く薫がいなくなった。慌てて薫が行こうとしていたヨーヨー屋の方角を見るが薫の姿は見えない。


「そういえば、さっきまで薫ちゃんいたよね……?」


 茜もまた気になったのか首を動かして辺りを見渡し出し、僕も続いて薫を探すべく数歩歩いてゆっくりと周囲を確認する。が、まさに消えてしまったかのごとく特徴的な巫女服姿の薫はどこにも見つからない。と、その時だった。


「痛っ!?」


「茜?」


 後方で探していた茜が小さく悲鳴を上げ、僕は慌てて振り返った。見ると茜は膝を抱えて座り込み、浴衣の裾を少し捲って右足を押さえていた。


「茜、一体どうしたの?」


「な、何か足が刺されたみたいにチクっとして……」


 近付きながら茜の右足を見てみると、確かに茜が何かに刺されたと言う場所の皮膚は大きさこそ小さいものの赤く腫れていた。見たところ、蚊や虻に刺された物とは違うように見えるけど何なのかは分からない。と、なると下手に僕が対処するのも逆効果になってしまうかもしれない。そう悩んだ時だった


「あー……ここら辺にいる毒虫に刺されたみたいだね。茜ちゃん、社務所に万が一の時の事故の時とかケガした人を見てくれる所があるからそこで一度見てもらうといいよ?」


 全く気配を感じさせずに僕の背後から現れた薫が茜の傷口をじっくりと見ながら茜に告げる。

 そんな余りにも急な薫の登場に僕は思わず硬直し、ただ優しげに茜に微笑みかける薫を見ている事しか出来なかった。


「ええっ!?か、薫ちゃんいつの間に!さっきまでいなかったのに!?」


 急過ぎる薫の登場に当然と言うべきか茜は非常にうろたえた様子で薫に問いかける。しかし薫はそんな茜の言葉をまるで聞いていないように顔を近づけ再びじっくりと茜の傷口を見ると眉をひそめ、静かに茜に言う。


「うーん……やっぱり急いで見てもらった方がいいと思うよ茜ちゃん、?あとが残っちゃうかもしれないし……」


「えっ……そ、それは嫌かな……うん。ゴメン秀昭!もうちょっと待ってて!後で楽しもうね!」


 薫の言葉を聞いて急に不安になったのか、茜は矢継ぎ早にそう告げると足早に薫に教えられた通りの社務所に向かって軽く右足を引きずりながら歩き出していった。


「薫、一体どこ行ってたの?急に居なくなって心配したんだよ……」


 茜が立ち去ったのを確認すると僕はすかさずそう薫に聞いた。すると薫は少し恥ずかしそうに頭をかいて答えた。


「ごめんね秀昭、ボクちょっと用事があったの思い出しちゃって……」


「だとしても言ってくれれば……」


「うん、本当にごめんね………」


 そう言うと薫はしゅんとした顔で僕に頭を下げてきた。


「そ、そこまでやらなくてもいいよ……薫」


 そんな薫の態度を見ていると、いたたまれない気持ちになり僕は慌てて薫にそう言って止めさせた。


「ありがとう……やっぱり秀昭は優しいね」


 そう僕に言う薫の顔は、出会ってから一度も見せた事が無いほど儚く切なげな笑顔で、気付いた時には僕の胸は自然と高鳴っていた。


「もうすぐボクと秀昭の神事が始まる……一緒に行こうか?」


 上の空だった僕は、そう告げて僕の腕を組んで歩き出す薫にされるがままの形で屋体が立ち並ぶ道を抜け神社の中央、そこに組まれたやぐらへと向かって歩いて行くのであった。



「(やぐらの上って以外と広いんだな……ざっと畳、五畳とちょい……かな)」


 薫の指示に従いやぐらの上にしいてあった座布団に腰掛けてそんな事を考えつつ、僕は目大幣を持ち祝詞の言葉を会場全体に通る声で唱えながら目の前で華麗に舞う薫を見ていた。真剣な表情で滑らかに一糸乱れず美しく舞う薫の姿はいつもの元気で無邪気な薫の姿からは明らかに一戦を引いており、何と言うか女性特有の色気を感じた。

 と、そこで薫が一体、舞を止め僕の前にお猪口に入ったお神酒を差し出し、僕は慌てて教わった通り無言のまま軽く薫に向かって一礼するとお猪口の中に入った透き通るお神酒を一気に飲み干した。


「(うわっ……に、苦い……そ、それに喉が熱い!)」


 人世、初であった酒は僕の口の中に入った瞬間に独特の苦味を、そして飲み込んだ瞬間に喉が焼けるかのような熱さと言う強烈なインパクトを残して僕を悶絶させ酒のせいか赤くなる顔で僕は必死で座布団の上で姿勢が崩れないよう堪える。

 だから薫が、僕にも負けないほど頬を赤く染めながら近付いて来たことには気付かず。僕が薫に気付いたのが顔にほんのり暖かい薫の指が触れた時だった。


「えっ……?」


 僕がそんな間抜けな声を上げた時にはもう、心底恥ずかしそうな薫の声が間近にまで迫り……僕と薫の唇は重なった。


「~っっ!?」


 不意打ち、余りにも急過ぎるファーストキスに僕は声にならない声をあげる。舞をする前に薫が綿あめか何かを食べていたのかファーストキスの味は砂糖の甘さがした。




「秀昭、まだ祭りの日の事を引きずってるようだな」


「わ、渡先輩、え、ええ………まぁ」


「まぁ俺も、あんなに大胆な子だとは予想外だっただからな。あえて言うなら『これ何てギャルゲ』って感じか。む……語呂悪いのが難点だな」


 僕と渡先輩が二人並んで座る縁側で、渡先輩がそう言いながら切ったスイカを口にしつつ何故か一人で納得したように頷く。が、僕はそれにツッコミを入れる気力も無くただぼうっと吊るされた赤い風鈴を眺め……

 薫とのキスを思い出して一瞬で顔が真っ赤になった。


「祭りの日から二日が過ぎてるというのに……お前も中々純粋な奴だな」


 そんな俺を見て渡先輩が薄く笑いながらそう言い、僕は思わず恥ずかしさを誤魔化すように盆の上に乗っていたスイカの一切れを吸い込むように一気に食べた。

 ちなみにファーストキスをしてきた薫も祭りの日から心境の変化があったらしく、いつもの通りの元気が溢れだして止まらないでいるような姿を見せているのだが、ふとした瞬間に僕と視線を合わせたり、偶々渡先輩達や茜が近くにおらず薫と僕が二人きりになったりすると薫の顔は急激に赤く染まり、何処かぼうっとした表情で僕を見つめてくるようになった。それが僕には薫が普段見せる活発な少女と言う姿を脱ぎ捨てて、一人の『女』として成長したかに見え、正直……かなり惹かれた。


「……そうだ今日の午後には俺と三奈子は帰るからな、最後に一言だけ言っておこう」


「ん、何ですか渡先輩?」


 僕がそんな思考にふけってた時、もう一つのスイカを食べ終わった渡先輩が再び口を開く、僕はそれに何気なく返事を返したが、次の瞬間、渡先輩の口から飛び出した言葉に僕は思わず自分の耳を疑った。


「あの子……薫には十分に気を付けるんだ。くれぐれも接し方を間違えるんじゃないぞ」


「えっ……?」


 思わず、いつもの冗談だと思って渡先輩を見る。が、その表情は非常に真剣で真摯に僕の事を思って言っているのが嫌でも理解できた。


 困惑する思考の中、僕が見た先、渡先輩の背後には昼食の買い物を終え楽しそうに話をしながら家へと帰って来る志波先輩と茜。


「……………………」

 そしてそんな茜を背後から無言で睨み付けながらぴったりと後を追いかけて歩く薫の姿が見えた。


「薫…………?」


「俺の勘違いであって欲しい……だが、どうか気に止めておいてくれ……」


 そう、辛そうに言う渡先輩の言葉を聞いた瞬間ら僕の心の中には言葉に言えないような重く息苦しくなるような不安がのし掛かかり僕はその重圧に思わず倒れそうになってしまう。


「はぁ……はぁっ……はぁっ……」 


 何とか精神を落ち着かせようとする僕の耳に、近くの草村で急に鳴き出した鈴虫の声が僕の脳内を侵略するかのように鳴り響いていた。 




「世話になったな。では、機会があればまた……」


「た、楽しかったわよ……ありがと」


 その日の午後、渡先輩と志波先輩はそれぞれそう港まで見送りに来た僕と薫に告げて船に乗り込んで帰っていった。そして、


「渡先輩!志波先輩!さよならぁぁ!」


「……茜も二日後には本島に帰るけどね」


 水平線の彼方へと消えていく船を見送りながら手を降る茜に僕はそう苦笑しながらツッコミを入れる。そう、茜は今回、渡先輩達共には返らずあと二日島に残るのだ。ちなみに茜はその話を茜の両親や父さんから密かに許可を貰っておきながらサプライズと評して隠し続けておいて、今日になって始めて発表し、僕は大変驚かされた。


「さっ……秀昭、茜ちゃん。先輩さん達が乗った船も見えなくなったしボク達も帰ろっか?」


「!?」


 と、そこで背後から薫に声をかけられ僕は思わず地面と摩擦で音が出るほど勢いよく振り返る。脳内には自然に渡先輩からの忠告が再生されていた。


「どうしたの秀昭?」


 そう、不思議そうに僕に聞く薫。その姿はいつもの薫と何ら変わらないように見える。が、渡先輩の警告が、そして僕自身が見た茜を忌々し気に睨み付ける薫の姿が何か引っ掛かるがそれが何を意味するのかは分からない。


「いや……何でもないよ薫。うん、帰ろっか」


 結局、僕はその場をそう言って誤魔化し腑に落ちない者を感じながら三人で並んで家へと帰っていった。



「すまん!仕事で急用が入った、一週間は帰って来れそうに無い!悪いが一週間だけどうにかしてくれ!本当に悪い、お土産買ってくるからな!あ、薫ちゃんと茜ちゃんはゆっくりしていきな……」


 家に着くなり、身支度していた父さんはそう言い

僕に軽く頭を下げると嵐のごとく家から出ていった。


「大丈夫だよ秀昭」


 余りにも突然の事態に僕が呆然としていると、近付いて来た薫がそっと僕の肩を抱き寄せて来た。


「ボクがいる……ボクが秀昭を助けるよ?」


 薫はそのまま僕の耳元にそっと囁くように言葉を続ける。その顔はやはりいつもと変わらない……ように見えるのだが頬がうっすらと赤く距離が妙に近い、それこそ後数㎝程で祭りの日の如く互いに口付けをしそうになるくらいに。


「もちろんアタシも秀昭を助けちゃうよ!」


 と、そこで茜が薫の真似をしてか、ふざけて僕の腹めがけて軽く抱きついてきた。と、その瞬間


「っ……!?」


「うん、お願いね茜ちゃん!」


 何気ない様子で茜に微笑みかけて返事を返す薫。しかし僕には、薫に肩を抱き寄せてられてる僕には分かった。


「任しといてよ薫ちゃん!……って、あれ?どうしたの秀昭?」


「な、何でもないよ?うん……本当に何でもないから……ね?」


 僕の様子が気になってか不思議そうに僕に聞いてくる茜に、僕は慌てて顔を無理矢理笑顔にして茜に言葉を返す。

 そう、茜が僕に抱きついてきた一瞬、恐らくは一秒にも満たない僅かな時間、僕の肩に置かれた薫の手が異様に、それも『人間がこんな力を出せるのか』と思ってしまうほどの強さで僕の肩を握ってきたのだ。幸いにもそれは余りにも短い間だった為か骨が折れたりヒビが入ったかのような感覚はない。が、まるでその部分に熱湯をかけられたかのような鈍痛が肩に響く。

 こっそり肩を押さえ、茜と楽しそうに笑いながら薫の姿を見ていた僕の胸には未だかつてない不安と恐怖が色づき始めていた。



「………………はぁ」


 その日の夜、時間は午前2時。とっくに夕食も済ませて布団に潜り込んだ僕であったが、薫の事が気になり上手く眠れずにいた。後々も薫は特に変わった様子は見せず率先して家事をこなしてくれた。が、やはり何か言葉に出来ないような違和感が僕の胸にくすぶり、その小さな違和感から生まれた傷は時間と共に徐々に大きくなっていく。


「かと言ってその違和感を説明しろって言われてもうまく説明出来ないんだよなあ……」


 誰に言うわけでも無く、そう呟くと僕は気分転換がわりにとトイレに向かうことにした。

 布団から起き上がり、襖を開けて部屋から出て、少々きしむ板張りの廊下を歩くとすぐにトイレへとたどり着いた。幸いな事にこの家の見た目に反してトイレは中々きれいな水洗トイレだ。まぁ、和式ではあるのだが。


『……から、……だよね……』


『……えっ………るの?』


「………ん?」


 用を済ませた僕が顔を上げると、ふと、トイレに取り付けられた窓、つまりは外から声が聞こえてきた。何故かそれが妙に気になった僕は思わず窓に近より外を覗いて見た。


「全く……何回も言わせないでよ茜ちゃん」


「か、薫ちゃん……!?」


「薫……茜……?」


 なんと外で話しているのは、薫と茜。困惑したかのように言う茜はパジャマ姿なのに対し、呆れたように腕組みしながら言い放つ薫は巫女服姿。話のトーンから判断してどうやら二人が言い争っているようである。と、そこで薫が腕組を止めて茜を指差して口を開く。


「もう一回だけ言うよ茜ちゃん、明日この島から出ていって。そして、秀昭の事は諦めて二度と連絡もしないで」


 瞬間、僕を心臓を握られたような悪寒が全身を走る。平然と、あまつさえ軽く笑顔を浮かべながら言い放つ薫の目は以前、僕に一瞬見せたのが生ぬるく感じてしまう程に暗く淀み、夜の闇さえ上回る程の黒さが滲み出ていった。


「そ、そんな一方的な要求……!?」


「……飲めないの?」


 そんな薫に怯えながらも何とか茜が言い返そうと頑張るが、薫に軽く睨まれるとひっと小さく悲鳴を上げた。


「い、嫌だよ……だって……だってアタシ……秀昭の事が好きなんだもん……絶対に譲れないよ!」


 しかし、茜はこぼれ落ちそうな程に瞳を潤せ、足をがくがくと震わせながらも薫を睨み返した。そして、薫は


「へぇ……」


 そんな茜を心底興味無さそうに見ると巫女服を探り一枚の札を取り出し


「流石にかわいそうだから使いたくなかったけど………仕方ないね」


 残酷な処刑の判決を茜にくだした。


「皆、行っておいで……」


 薫がそう言って取り出した札をぴっと構えた瞬間。


「えっ…………?」


 地面から、空から、涌き出るように表れた無数の黒い雲が轟くような鈍い音と共に一斉に茜に向かって襲いかかった。


「ぎゃぁあああああぁああぁぁぁぁっっ!?い、痛い!いだいぃぃ!!」


 茜に襲いかかったのは黒い雲はオオスズメバチ、トビズムカデ、シデムシ、クモ、蛾等の虫、虫、虫、虫。まるで一つの生物の如く大量の虫が小柄な茜に一斉に襲いかかっていた。


「ああぁぁぁぁあぁぁぁ!痛いょぉぉ!!痛ひぉぉぉ!!あぁぁああぁぁぁあぁぁぁ!!」


 無数の虫で多い尽くされた茜の体は、ありとあらゆる虫によって複数の毒が注入され、皮膚が切り裂かれ、あまつさえ一部の虫は皮膚を食い破り茜の体内へと侵入して行く。


「本当はね……神社のアレは最初のボクからの警告だったんだよ?でも、茜ちゃんはボクからの警告を三度も……そして今日も!無視して秀昭にベタベタベタ……秀昭はボクのなのに!秀昭はボクの物だって神様から示されて決まってるのに!!」


 声に鳴らない悲鳴を上げて苦しむ茜を見ながら薫は怒りを爆発させて声を荒げる。


「だから……死ぬのは当然だよねぇ……茜ちゃん」


「い……た………い……」 


 そう嘲笑う薫。そして茜は最後まで痛みで苦しみ涙を流しながらながら動かなくなった………。


「ひっ………あっ……うわああああぁぁぁぁ!!」


 その瞬間、恐怖で今まで動けなかった僕は弾かれたようにトイレから飛び出す。


「何なんだあれは!?何なんだ一体アレは!!」


 トイレから飛び出した僕は真っ直ぐ薫がいた方向とは正反対、家への勝手口へと向かって走り出した。一刻も早く、薫に気付かれぬように……そう思いながら僕が勝手口のドアノブに手をかけた瞬間だった。


「ひーであき♪」


「ひっ!!」


 背後からそっと甘えた声の薫に抱き締められた。直後、体から一瞬で血の気が引き、逃げ出そうとしていた力は抜けていった。


「怖がらせちゃってごめんね?でも、大丈夫!ボクは絶対に秀昭や秀昭のお父さんを、あの子達に襲わせたりしないよ?むしろボクが助けてあげる!あの時のハンミョウ……みたいにね」


 力が抜けた僕を振り向かせ、いやらしく指を動かして僕の体をまさぐって服を脱がせながら、薫は楽しそうに言う。


「でも、だからと言ってボクを裏切ったら駄目だよ?島の人はみーんなボクの味方だし、あの子達はいつだって秀昭を見てる……秀昭はボクの物になるしか道は無いの……」


 そう言って薫は、一切の迷いが無い瞳でそっと僕を抱き締めた。


 逃げ場が無い、詰み、チェックメイト、終わり、ゲームオーバー。


 あらゆる言葉が僕の脳内を駆け巡り……気付けば僕は失禁していた。

 

「ん?……あははっ秀昭、赤ちゃんみたーい!」


 薫はそう言いながら丁寧に残った僕の下着をも脱がすと、そっと僕を背中に背負う。


「いいよ……ボクが下着を変えてあげる……勿論それだけじゃ無くて……うふふふふ……あははは……」


 薫が僕を背負ったまま、蕩けきった表情でそう僕に囁く。


「あはっ……あははっ……あはははは……」


 僕は全てを諦め、何もする気力は無かった。思考が止まり、壊れたように狂ったようにあるいは薫への服従の証としてか、口の中からただ笑い声だけが溢れだして空虚に響き渡る。


「そっか、秀昭も嬉しいんだね……。いいよ、今夜はボクが日が出ても眠らせない………」  


 無意味に笑う僕を満足そうに見ながら薫はボクを布団に寝かせ、僕の部屋の襖を閉じる。


 たん、と音を立てて閉まる襖は僕のこれから全ての希望や未来、その全てを立ち切る音にも聞こえた。

ヤンデレ愛劇場も皆様の応援がありまして今年で五周年になります。そこで、五周年を祝いとしてありがちながら人気投票をさせていただきます。なお、この投票で一位になったキャラクターには一位になったキャラの特別エピソードを書こうかと思います。

※投票受付はメッセージ、感想欄等でお一人様三票とし、奮ってご応募くだい。なお受付は三月一杯で終了とさせていただきますので御了承ください。皆様の票をお待ちしております。

 人気投票エントリーキャラ

① 田上 太郎

② 佐原 牡丹

③ 石井 渡

④ 志波 三奈子

⑤ 長谷川 勇真

⑥ 秋森 由

⑦ 木戸 良一

⑧ 三咲 信

⑨ 草部 澄

⑩ 樋村 志那野

⑪ 草部 日吉

⑫ 樋村 柚木

⑬ 豊河 秀昭

⑭ 木慈 薫 


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