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◇第四ヤンデレ タイプ(ツンデレ)前編

 余りも長い、ストーリーになりそうなので前後編にしました。後編はたぶん前編の半分以下。

 俺の名前は、石井 渡。砂子中学校在学の中学三年生だ。趣味は、アニメ、ゲーム、女子パンツ捲り(以下18禁レベルの下品な発言をしたため削除 )

 友人は、田上 太郎。本人曰く妹の様な彼女がいるが、暴走すると刃物を振り回す。


 さて、俺が突然こんなに長々と自己紹介を始めたのかを疑問に思うかもしれないので、説明する。

 問題は、俺の目の前で起こっている出来事である。

 俺は今日の下校時に、何時ものようにラブラブっぷりを発揮している田上カップルから離れ、今日発売のゲーム(対象年齢ギリギリのギャルゲー)を買うため、ゲームショップへの近道を進んでいた。

 と、そのとき進行方向の路地裏から妙な声が聞こえた。 気になったので、足を早め、物陰に隠れて覗いて見ると、俺と同じクラスの女子の、志波しば 三奈子みなこが一目で分かる薄汚い色の金髪のDQNに絡まれているようだった。とりあえず現状を把握するために、身をすませて二人の会話を聞いてみると、やはり金髪DQNが志波に、しつこく、ちょっかいをかけていて、志波が何回断っても金髪DQNは、ニヤニヤ笑いながら、ちょっかいを出すのを止めない。志波は元から、つり上がってる目をさらにつり上げて、明らかな不快感を露にしていた。

 ふむ、一体、どうしたものか。ここで志波を見捨てて、ゲームショップへ行けば、間違いなく目的の新作ゲームを購入する事が出来るだろう。しかし、せっかくの女の子にそんな態度を取るのは、紳士として許さん(まぁ俺の場合、「紳士」の前に「変態」が付いて「変態紳士」なんだが)さっさと助けに行こう。


「おい、そこの金髪変態ゴミ野郎。痛い目見たくなけりゃさっさとその子を置いて立ち去れよ、クズ。」


 俺は物陰から出て、思い付く限りの悪口を指差しつつ、暗唱するように、金髪DQNに言う。


「あぁっ!?なんだとこのガキ!」


 案の定、相手は俺のセリフに乗っかかり、怒りで蛸のように真っ赤な顔になって俺に詰め寄る。整髪料がかなり臭い。


「てめぇ、この俺とや…!ぶぎぃ!


 何か喚こうとしたその顔面にストレートパンチを叩きこむ


「この…クソガ…ぐげええぇぇ!」


 さらに、怯んだ隙に遠慮無く溝尾にフルパワーの膝蹴りを決めた。


「がっ……!ゲエエぇ……」


 金髪は、嗚咽と共にゆっくりと、地面に崩れる。よし、墜ちたみたいだな。


「馬鹿だな、この程度の挑発に乗ってあっさり隙を見せるなんて」


 俺は、そう一言呟き立ち去る。いや、立ち去ろうとした。


「ま、待ちなさいよ…アンタ」


 ん?何だ?志波が俺の学生服を引っ張る。俺は、さっさと立ち去りたいのだが。まぁ、せっかく女の子が呼び止めているのに無視する訳は無い。俺は、踏み出した足を使い、回れ右をして志波の方に振り向いた。


「あ…あの、えと」


 俺が振り向くと、志波は顔を真っ赤にしながら、俺に何かを言おうとしていた。ふむ、こうして見てみると非常に可愛い。砂子中学校美人ランクの評価をAからAAに上げるべきだな。俺が、そんな事を思考していると、志波はやがて、絞り出すかのように、でも、はっきりと俺に向かって言った。


「あ、ありが……とう」


 そして、言い終わった直後に顔を真っ赤にしたまま猛スピードで走り去ってしまった。

 ううむ、ツンデレか、これは俺的にポイントが高い。

 そして、パンツは水色と白の縞か、素晴らしい。何?いつ見たんだって?さっき志波が走る去る時にスカートを捲ったのだ。だてにパンツ捲りを5年やっている訳じゃない。このくらい朝飯前だ。もちろん、相手に気付かれない自信もある。それでいて、俺からはしっかりと目視出来るように捲っているのだから自分で言うのも何だが、まさにパーフェクトだ。


 その後、俺は無事にゲームショップで一本だけ残っていた目的のゲームを入手して、次の日の朝5時までやり込んだのだった。


「どうした渡、具合悪そうだな」


 朝、寝不足のために多少ふらつきながら通学路を歩いていると、田上が心配して話しかけてきた。


「そういえば、いつもと比べて顔色が悪いね。どうしたの?渡さん」


 しっかりと手を握って渡の隣を歩く牡丹ちゃんも心配そうに言った。む、田上はともかく牡丹ちゃんにそんな思いをさせる訳にはいかないな。特に問題は無いので真実を話す事にするか。


「なに、大した事じゃない。昨日、購入したゲームをほぼ不眠不休で10時間程プレイしてた為に寝不足なだけだ」


「はあああああぁぁっ!?バカだろお前!昨日、ゲーム買って帰ってから夕飯の時以外ず~っとプレイしていたのか!?」


「当然そうだが、何か問題あるか?」


 俺は、ギャアギャアうるさい田上に当然の事を言った。ただし、一般人として、では無く、ゲーマーとして、だが。


「ふえぇ、すごいですね~渡さん。ゲームにそこまで情熱をかけられるなんて……」


「いや牡丹、尊敬しなくて良いから、コイツみたいな奴は特に」


 む、田上に何か失礼な事を言われた気がしたが、まぁ聞かなかった事にしておいてやろう。事実のため強く反論出来ないしな。ちなみに、どうでもいい話だが、牡丹ちゃんが、はうぅ、とか、あぅ、とか、ほえ?と、時々言うのは、喜ばしい事に、猫かぶりなどでは無く、ほぼ間違いなく、純粋、天然そのものだと言う事に俺は最近になって気付いた。さすがは牡丹ちゃん、ロリ、一途、家庭的、と言う萌えの三種の神器を持ち合わせているだけの事はある。そのためか、今日の牡丹ちゃんのパンツ、うさぎさんパンツが非常に良く似合っている。

 何?なんで友達の彼女のパンツ覗いてるんだと?まぁ、これは俺の癖でスカートの女性に対する挨拶なのだ。理解出来なくとも理解してくれ。





それから、もちろんパンツ捲りを、田上にも牡丹ちゃんにも気付かれ無いままに学校に辿りつき、授業中に適度な仮眠を取りつつ、質問されたら三秒以内にキッチリ答えて、休み時間にはクラスの女子のパンツチェックをする。

 うん、実に日常的で充実感のあるスクールライフだ。さて、充実しているとなれば、光陰矢のごとし、と、言うべきか、昼休み、つまりは昼食の時間になっていた。


「おい、渡。いつまでもボサッとしてないでお前も机動かせよ。牡丹がもう来ているんだぞ」


 田上が、ズズズと、うるさい音を立てる自身の机を引きずりながら、軽く、時の流れについて考え始めていた俺に、面倒臭そうに言った。牡丹ちゃんは、ニコニコしながら二人分のお弁当、つまりは、自分と田上のお弁当を持ちつつ、空いてる机に座って田上と俺を待っていた。

 あの事件以来、ずっとこんな感じだ。そう、具体的に言うと、牡丹ちゃんと田上の距離が縮まった。田上は柔らかく、牡丹ちゃんの愛情表現を受け入れる。それに感動して牡丹ちゃんはより一層、田上に愛を捧げる。恋人同士としては、理想的な状態と言えた。この状態にするために俺は、腹部を小刀で刺されたりしたのだが…。まぁ過ぎた事を執拗に気にかける様な行為は個人的に嫌悪感に近いものを持っているので口に出すのは止めておく。


「はい、お兄ちゃん、あ~んしてぇ」


「ちょっと待て牡丹。中庭ならまだしも、さ、さすがにクラスの皆が見ている教室で、あ~んをするのは恥ずかし」


「あ~ん」


「……しょうがねぇなぁ、あ~ん……って、こら渡、こっちみんなよ」


 一応言っておくが、俺は二人を凝視などしてない。俺が少々注目したのはあくまで牡丹ちゃんの胸部だ。牡丹ちゃんは、あの事件以来、元々、大きめだった胸がさらなる成長をとげて、今では中学生とは思えないバストサイズとなっていた。俺は、それを牡丹ちゃんに決して気が付かれない用に目視しただけであり、決して田上の言う通りに二人を見ていた訳では無いのだ。そこをよく理解してほしい。

 まぁただの詭弁なのだが。

まぁ、そういう事で、俺は実に微笑ましい二人を眺めながら(さっき見てないって言ってただろ。と、いう類いのツッコミは受け付ける)自分の手作りの弁当(本来は母が作ってくれるのだが、母が寝坊をしたために俺が朝に作った。

 ちなみに竹の皮で包んだ三個の握り飯で中身は、シャケ、塩昆布、梅干し)を取り出して机の上で広げた。


「おま…今の時代で竹の皮で包んだ、おむすびを弁当に持ってくる奴なんて初めて見たぞ… 」


「ふえ、時代劇の人みたい……」


 田上が牡丹ちゃんは俺の弁当を見て一時、イチャつくのを止め、驚きの声をあげた。


「竹の皮くらいだったら、ホームセンターにも売ってるぞ。買って真似してみるか?」


「んな事誰が真似するかよ……誰が」


「うーん、私は、お兄ちゃんが竹の皮のお弁当が良いって言うなら何時でもいいよ」


 ふむ、やはりこの二人の中は良好の用だな。俺がそう考えながら、塩昆布の握り飯を掴み、一口程を口に運んだ時だった。


「ち、ちょっと、今、このクラスに石井渡って奴はいる!?」


 突如、どこか聞き覚えのある、気の強そうな少女の声が聞こえてきた。ふぅむ確か、この声は…


「あ!そこにいたのね!もう、呼ばれたら返事くらいしなさいよ!」


 少女が俺を見つけて近づいて来る。ああ、思い出した。この、気の強そうなつり目、さらさらとした髪のツインテール、見た目のイメージ通りの強めの声。

 間違い無い、俺が昨日助けた同級生の女子、志波三奈子がそこにいた。うむ、やはり女の子が自分に会いにクラスに来てくれる。と、いうシチュエーションは素晴らしい。バーチャルで体験した時はそれほど興味を引かれなかったが、それがリアルとなると…

 感動的だな、勿論、決して無意味では無いが。


「ちょっと!あんた話聞いているの!?」


 む、少々、脳内妄想に浸りすぎて志波の事を放置してしまったようだ。これは、俺にしてはとんだ失態だ


「ああ、すまない少し考え事をしていたんだ。」

 

 気付いた瞬間に俺は迷わず、そう軽く志波に謝罪した。


「まったく…人の話はキチンと聞いておきなさいよ!」


「ああ、本当にすまない。俺が悪かった」


「わ、分かったなら良いのよ…」

                  

「ところで、単刀直入で悪いが、俺に用件とはなんだ?」


 俺がそう尋ねると、志波は恥ずかしそうにモジモジしつつ、背後から何かが入った小さな小袋を取り出し、俺の机に置いた


「き、昨日のお礼よ…!ありがたく受け取る事ね!」


「うん、ありがとう。開けてもいいか?」


 軽く志波が頷いたのを確認して、俺は小袋を開いた。


 小袋を開くと、ほのかな甘い香りと共に、チョコチップの入ったクッキー(見た目からして、ロッククッキーのようだ)が姿を表した。まぁ、見た目は喜ぶべきか判断しかねるお約束の不恰好な形だったが。(現実にもらうとなると精神に来るものがあるな)自分から許可を貰っておいて食べないと、いう選択は初めから存在するはずも無いので早速、クッキーの一つを掴んで、口に放り投げた。志波が緊張した眼差しで俺を見つめる。

「……ふむ、38点。…と、いう所か。」

 その瞬間、回りの空気が凍り付き、今まで野次馬のように雑談をしつつ、俺と志波を見ていたクラスメイトは会話を止め、田上と牡丹ちゃんは苦笑いを浮かべ、当の志波は、口を平仮名の、あ、の字に開いて呆然としていた。

「あ、アンタねぇ…。」

「言いたい事は三つある。」

 志波が何かを言おうとしたが、それよりも早く俺が志波に告げる。今、ここで泣かれても、憤怒されても、困るのは俺だからだ。

「まず一つ、このクッキーは粉を篩にかけていないな?」

 的中したらしく志波が無言で頷く。

「篩にかけると、いうのは粉に混じったゴミを除去し、ダマを細かくする重要な作業だ。それを怠ったため、このクッキーは、粉っぽさが強く出てしまっている。そこが、まず一つ」

「二つ目は、砂糖の量だ。」

 唖然として、俺を見てる志波が、何も言わないのを見てさらに続ける。

「いくら、甘いクッキーとはいえ砂糖を入れすぎだ、強すぎる甘味が、チョコの風味を消してしまってる。」

「そして、いよいよ三つ目だが…。」

「もう…いい…。」

「ん?」

「もう、いいって、言ってんのよ!」

 俺が三つ目を告げようとしたとき、顔を真っ赤にした志波が涙混じりの声で、それを制止した。

 俺が仕方なく話を止めると、志波は、涙がこぼれそうな目で俺をキッと睨み付け、教室から立ち去ろうとした。

「悪いが、少し待ってくれないか?」

「!?」

 当然、そのまま、放置する訳もなく、俺は席から立ち上がって、立ち去ろうとした志波の右腕を、そっと握った。再びクラスの視線が俺と志波に集中する。

「三つ目に言いたいのは、お礼だ。」

 俺がそう言うと、志波が歩みを止めたので俺は掴んでいた手を離して続ける。

「確かにあのクッキーの味は酷いもんだ、だが志波、君の心は伝わって来た。真剣に俺のために作ってくれたんだな、ありがとう。」

 俺は、そう言って軽く、志波に頭を下げる。

「次も、楽しみにしてるぞ。」

 俺が、言い終わり顔をあげると、再び志波の顔は、当然の用に赤いままだった。ただし、先程とは赤する理由が明らかに違うようだった。

「ふ、ふ、ふん!ま、また気が向いたら作ってあげるわよ!期待しないで待ってる事ね!」

 志波は、言い終わると、脱兎のごとく駆け出して今度こそ教室から立ち去っていった。よし、想像していたより可愛い。まぁ、単に俺が心に思った事を率直に告げただけなのだが大成功だな。そして

「今日のパンツの柄は、 白地に赤の水玉柄か…美しい…。」

「お前…あの状況で覗いたのかよ…アホか…。」

 小声で今日の成果を呟いた俺に、先程の膠着状態から一瞬で復帰した田上が俺にツッコミを入れる。いつもながら見事だと感じる。だが田上、俺はアホでは無い、変態紳士だ。そこをよく理解してほ「セイッ!」…田上の肘打ちが俺の肩に直撃し、俺は少し前にのけ反った。


「なんか、今、突っ込むべきだと思った。」

 うむ、田上のツッコミレベルは日々上昇している。さすがだな。

 俺はそんな事を考えながら、俺がふらついた先に立っていた女子のパンツをチェックした。








―放課後―



「さぁ、田上、放課後だ、Let Count the ガン○ライドだ。」



「また、やんのかよ…。」



 田上はブツブツ言ってるが、俺は先日、田上が始めてLRを出した時の舞い上がりっぷりを忘れてはいない。

 俺か?俺はLRを、力、速、技、で各、四枚ずつ、計十二枚を所持しているが、何か問題があるか?



「あ、お兄ちゃん達、また帰りにゲームセンターに行くの~?私もついていっていい?」


 牡丹ちゃんが、少し嬉しそうに俺と田上に尋ねる。牡丹ちゃんはこう見えてもクレーンゲームが大得意で、よく可愛らしい人形や、俺や田上が欲しがっていた景品を取ってくる。その事を牡丹ちゃん自身も少しの楽しみとしているのだ。

「ああ、もちろんいいぞ牡丹。」

 そんな牡丹ちゃんに田上は笑顔でOKを出した。

「ありがとう、お兄ちゃん♪」

 牡丹ちゃんは、田上の手をギュッと優しく握り田上に礼を言った。





「それで渡、今日は何試合ぐらいするんだ?」

 話をしながら、三人でゲームセンターへの道を歩く。

「六試合。ちなみに一試合目で負けた方が、残り五試合おごりだ。」

「また、そのパターンかよ…俺、それやり始めてから10回に3回くらいしかお前に勝った事が無いんだが。」

「まぁ、気にするな。田上。」


「気にするよ、毎回1000円の出費は大きいんだぞ」


 いつものように、俺と田上が話して、牡丹ちゃんが相槌を打つ、そんなふうに歩いていた時だった。





「おい!てめえ!そこの能面野郎!」


 唐突に、そんな汚いダミ声をかけられた。しかも、腹が立つ事にどうやら俺に対してらしい。


 仕方なく、振り向いて声をかけられた方向を見てみる。

「へっへっへっ、久しぶりだなぁ。」


 …見て損をした。そこには、いつぞやの金髪DQNが金属バットを持って、汚ならしくニヤニヤ笑いながら俺を見ている。さらに、その背後には仲間らしき(どう見ても全員DQNだ)連中がビール瓶やモンキレンチ、さらには鉄パイプを持っている奴もいる、そいつらは、これまたニヤニヤしながら俺達もとい牡丹ちゃんを性欲の混じった視線で見ていた。

 はぁ、こんな奴等ごときに振り向く事でカロリーを消費してしまった事を強く悔やむ。

 一方、田上は連中の視線に気付いて素早く牡丹ちゃんを自分の背中に隠す。ん、良い判断だ。


 さて、間違い無く連中は交渉可能な相手では無いのは明確だ。と、なると必然的に俺と田上が相手をする事になる。しかし、今は10人程の人数を確認出来るが、連中は俺達の背後にも人を用意して合図と共に、俺と田上に挟み撃ちを仕掛けてくる可能性がある。連中の正確な人数が解ると助かるのだが……。

 俺が、そう思考を巡らせていた時にも、金髪DQNはやたらと喚く。

「へっ!どうしたぁ!さすがに10対2じゃあひびったかぁ!まぁてめぇを、ぶち殺す武器も全員持っているがな!」



 どうやら敵は今、確認出来る数で全員のようだ。俺は隣の田上に目で、合図をする。



『もう一回、合図をしたら行くぞ。一人頭、五人だ。』




『はいはい、了解、了解。俺も戦わないと牡丹が傷付きそうだしな。』




『それじゃあ行くぞ…1、2、「まずお前らをぶち殺したら、その女を犯して、その瞬間をネットに公開してやるぜ!」





『……………………。』

『……………………。』




 金髪DQNのその言葉を聞いた瞬間、田上の顔が鬼神のような顔に変わった。



『おい、渡。計画変更だ。俺が八人倒す。お前は残りを始末しろ。』



『…分かった。』




「それじゃあ、マズは頭蓋骨をぶち割ってやるぜぇ!」

 金髪DQNが、わざわざ自分の攻撃する場所を宣言してから金属バットを俺に向かって降り下ろす。


「ガッ!?」



 だが、そのバットが俺に直撃する事は無かった。何故なら


「させるかよクズ野郎。」

「が、はぁっ……。」


 田上の繰り出したハイキックが完全に金髪DQNの顔面に入っていたからである。

「…っ、てめぇっ!」


「なめんなよ!」


 金髪DQNが倒れた事で一瞬だけ連中は唖然としていたが、その中の二人が慌ててモンキレンチとビール瓶を構えて田上に突っ込んでゆく。が、そうはさせない。俺は、モンキレンチを持った奴の顎に全力で右ストレートを放つ。

「ぎゃあっ!」


「あっ、ケンジ!ぐぇっ!」

 そして、その勢いを利用してビール瓶を持った奴の首に回し蹴りを叩き込み、トドメにふらつく、モンキレンチを持った奴の背中に肘うちを決めた。

「が……うっ……。」

「ゲハッ……。」


 二人は、その声と共に地面に崩れ落ち、気絶した。

「ふう……。」

 俺は制服に付着した泥を手で払いながら一息ついた。そこで、ふと前を見てみると


「ぶぎぃっ!」


「ふざkッひげぇっ!」


「てめぇ!調子に乗、あべべっ!!」


 田上が壁を利用した三角蹴りを使って三人を一気に撃破していた。

「このおおおおっ!俺ら武羅津駒銅鑼権ブラックドラゴンなめんなぁ!」


 うわっ、なんだその酷いネームセンスのチーム名は。俺がそうして、若干引いてる間に割れたビール瓶を持った奴が着地した田上に向かって、勢いよくビール瓶を振り回した。

 しかし、田上はそれを見透かしていたらしく、体を反らしてビール瓶をかわして、相手の鳩尾にパンチを打ち込み、相手は目を白黒させて気絶した。


「クソが!アイツを囲め!」


「分かった!」


「死ねやコラァ!」


 と、残った三人が一致団結して田上を囲もうとする。しかし田上は特に慌てずに、両腕を広げて


「おう、あんがとな。」


「えっ?」


「へっ?」


 田上は両方の腕で襲いかかる二人の頭を掴み、そのまま、後頭部を勢いよくコンクリートに叩きつけた。


「「……………!!」」


 叩きつけられた二人は声にならない悲鳴を上げて気絶した。残った一人はそれを呆然とした様子で見つめていた。


「おい、お前」


 田上が残った一人に話しかける。


「ヒィッ!?」


 最後の一人は、すっかり怯えきって手に持っていたレンチを落とした。

「「どうする?まだ俺(達)と戦うか?」」

 俺は、瞬時に田上の言葉に被せて話す。



「う、うわわああああっ!」



 最後の一人は、俺達の言葉を聞いた瞬間に悲鳴と共に、倒れた仲間を見捨て、脱兎のごとく逃げ去っていった。



「おい、渡、せっかくの決めセリフを被せるなよ。」




 相手が完全に立ち去った後、若干不満そうな声で田上がそう言った。



「まぁ、いいじゃあ無いか。二人で言った方が迫力があるだろう?」



「ま、まぁ、そう言われるとそんな気もするけどな。」



 俺と田上がそんな会話をしていると、物影に身を潜めていた牡丹ちゃんが、おずおずと出てきた。



「お、お兄ちゃん…あの、大丈夫…?」



「ああ牡丹、もう大丈夫だぞ。」



 そんな牡丹ちゃんに田上は優しく微笑みかける。すると牡丹ちゃんは、ふるふるっと言った感じで、小さく首を振った。



「ち、違うよっ!?……私は……私はお兄ちゃんが心配で……お兄ちゃんケガしていない?」



「ぼ、牡丹……。」



 牡丹ちゃんの言葉に、田上は恥ずかしそうに顔を拭う。と、突如、自分の手の甲を見て「あっ。」と小さく呟いた。



「どうした田上?」



「いや、完璧に避けきったと思ったんだがな、一発かすったみたいだ。」



 田上はそう言って自分の頬を指差す、そこには鋭く赤い筋が走り、ゆっくりと血が流れ出していた。それを見た牡丹ちゃんは、目を見開き、

「お、お兄ちゃんがケガしてる!お兄ちゃん!治療するから、少しかがんで!」

「あ、ああ。」

 田上は牡丹ちゃんの必死さに押されて、思わず言うがままに前屈みになる。牡丹ちゃんは、それを確認すると素早く鞄から、ハンカチと消毒液を取り出した。

「お兄ちゃん、ちょっと染みるよ!」

 そう言って、消毒液を軽く染みる込ませたハンカチで田上の傷を優しく撫でる。

 そうやって傷を拭き取り終わると、そっと田上の頬に絆創膏を貼った。

「はい、もういいよ♪」

「っ、ぷっ!」

 牡丹ちゃんの合図と共に顔を上げた田上を見て俺は思わず吹き出してしまった。

 先程は気がつかなかったが牡丹ちゃんが田上に貼った絆創膏はキャラクターがプリントされた物らしかったらしく田上の頬に堂々とマイメロディが自己主張していた。それが凄まじいアンバランスを醸しだしていて、俺は思わず笑いを堪える事が出来なかった。

「おい渡、お前今、笑ったよな……?」

「いいや、全然笑ってないぞ、呼吸だぞ?(棒読み )」

 本来なら腹を抱えて大爆笑したかったのだが、田上が言葉にするならば

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 と、言った感じのオーラを発動していたので必死に手で口を押さえて笑うのを堪えた。










 その後、俺達は気を取り直してゲームセンターに行き、田上と俺はガンバライド、牡丹ちゃんはクレーンゲームをプレイした。何?ガンバライドの結果か?五勝一敗で俺の勝利だったが何か?



「ちっきっしょ…全部ゲキレツアタックでノーダメージ勝利とかありかよ…。」



「まぁ、そうむくれるな。このカードをお前にやるから機嫌を直せ。」



 俺は、そう言って自分のデッキから一枚のカード(ノーマルのデ○ケイド)を取り出して田上に渡す。



「……渡、俺、お前がこのディ○イドのカードを六枚以上持ってて、時々『イラネッ』って言ってるの知ってるんだぜ……?」



「む、気付いていたか。お主やるな。」



「お前はなぁ!」



 田上が、そう言って軽くどついてくる。俺は、それを軽くいなして、


 そして彼女を見つけた。



 それを確認した俺は急いで椅子から立ち上がる。

「う、うぁっ!急に立つな!」

 俺が急に立ち上がった事により田上がバランスを崩し、椅子から落ちそうになる。俺は、左手で一瞬だけ田上を支え、右手に荷物を持って彼女の所へと向かった。




「やぁ、奇遇だな。」


 俺が背後からクレーンゲームマシンの前に立っていた彼女に話しかけると、彼女は「ひゃうっ!」と言って手足をバタバタと上下させながら2、3cm程浮き上がり、音速にも感じる勢いで振り返る。その顔は真っ赤だった。



「あ、あ、あ、あんたは石井渡!何でここにいるの!?」

 彼女、志波三奈子はそう大声で俺に向かって言った。


「君と同じさ、俺も放課後にゲームセンターに遊びに来たんだ。友人と共にね。」

 俺が志波の質問に答えると、志波は少しだけ小首を傾げて、

「えっ友人?…ああ、あの田上とか言うやつね。」

 と、思い出すかのように言った。

「そう、その田上、正確には田上太郎だ。」

「アイツなんか地味で思い出しにくいのよねぇ、顔もブサイクって訳じゃないけど、カッコイイ訳でも無い、なんか中途半端なのよね……」


 俺が志波とそんな話をしていた時


「わーたーるさーん、見てくださーい!こんなに大きいて可愛いぬいぐるみが取れましたよー。」

「ちょっ…何あれ…。」

 自分の体が殆ど隠れてしまう程に巨大なウサギのぬいぐるみ(何故かスーツを着ている)を抱えた牡丹ちゃんが、小走りしながら俺に近づいて来た。その様子に志波は若干引いたらしく、一筋の冷や汗と共に少し後ろに下がる。

「えへへ~これ二回で…あうっ!」

「おっと。」

「あ、渡さん…ありがとうございます。」

 目の前まで来て、バランスを崩して転びそうになった牡丹ちゃんを人形の上から支える。

「ね、ねぇ、その子、もしかして…あんたの…。」

 そんな俺と牡丹ちゃんを見て志波が呟いた。あきらかに、その顔は少し引きつっていた。

「ああ、違うぞ。この娘の相手は…。」

 俺は志波にそう言いながら、特徴的な足音が聞こえてきた方向を指差す。

「おい渡。いったい何なんだよ…って、うわっ!何だ牡丹、そのでっかい人形は!危ないから俺が持ってるやるよ。」


「…あいつだよ。」

「あん?何だよ渡。」

 指差された相手、田上は牡丹ちゃんから人形を受け取りつつ不思議そうな顔で俺を見た。志波はそれを唖然とした表情で見ていた。

「ありがとう~お兄ちゃん♪」

「なぁに、いいって事よ。」

「えっ、でも、ほら、お兄ちゃんって…。」

 今だに口をパクパクしながら田上と牡丹ちゃんを指差す志波。そんな志波に俺は諭すように言う。

「ああ、田上にとって牡丹ちゃんは。」

「従兄妹で彼女だからですよ。」

 俺の言葉に牡丹ちゃんが田上と腕を組みながら続けた。志波は右手で頭を抱えて、左手で俺達を一人一人指差しながら考えるように難しい表情で言う。

「え、じゃあ、あなたと田上がカップルで…石井は二人の友達なだけ…?」

「そうですよ♪」

「…?、まぁそんな感じだけど。」

「そういう解釈でも構わない。」

 俺達三人の言葉を聞いた瞬間に志波は肩の力を抜く、その顔には明らかな安堵が現れていた。

「な、何だ、石井の彼女じゃないんだ…。」

 気が抜けたためか思わず声に出して呟く志波。しかし、俺の視線に気付いてハッとする。

「べ、別に安心したとか、そんなんじゃないわよ!田上にも彼女がいるのに、いまだにフリーのアンタに呆れてため息が出たのよ!」

 志波は、俺をビシッと指差してそう告げた。当然、頬は赤く染まってる。

「ああ、分かったよ志波。深く反省する。ただ、中々、相手に巡り会えなくてな。」

「フフン、どうせ、そんな事だろうと思ったわ。全く仕方無い奴ね。」

 志波は、目を細め、軽く胸を貼って得意そうに言った。そんな顔も可愛いな。俺は、その言葉を心の中に止めておいて、最初に気になっていた事を志波に言う。

「で、志波。いったいこのクレーンゲームで何を取ろうとしたんだ?」

「う、うぇっ?あ、あれよ、あそこの白猫と黒猫でペアになってる、ぬいぐるみ。」

 志波の言葉に俺が志波が立っていたクレーンゲームの中を見てみると、確かにマシンの真ん中あたりに肩を組んでる白猫と黒猫(どうやら白猫がメスで黒猫がオスのようだ)があった。

「さっきからチャレンジしてるんだけど、上手にいかなくてねぇ。端から真ん中に持って行くのに1200円も使っちゃったわよ。」

「あっ、それなら私が取ってあげましょうか?」

 相手がクレーンゲームだと知って、牡丹ちゃんがニヤリと笑ってゲーム機に近づこうとする、が、俺は牡丹ちゃんを手で遮る。

「ふぇ、渡さん?」

「いや、牡丹ちゃん。ここは俺に任せてくれ。」

「……ああ、そういう事ですね。がんばってくださいね渡さん。」

 俺のその一言で牡丹ちゃんは納得したらしく。スッと、後ろに引いて田上の腕に戻った。うん、俺は空気読める娘好きだよ。

「 ちょっと、アンタ!」

「大丈夫だ、俺に任せておけ。」

 志波が俺を止めようとするが、俺は志波を軽く無視して、自分の財布から小銭をマシンに投入してマシンを動かした。そして、





「よし、こんなもんか。」

 アームの力が強かった事もあってぬいぐるみの重心を掴んだ俺は無事に一回でぬいぐるみを取る事が出来た。

「わ、す、凄い。アンタこんなのも上手なのね…。」

 俺は、関心している志波にぬいぐるみを渡した。そのまま背後を振り返ろうとした時、

「ち、ちょっと待ちなさいよ…。」

 再び志波に背後から引っ張られた。俺が、振り向くと、さっきのぬいぐるみの片方、黒猫のぬいぐるみ(どうやらマジックテープで剥がす事が出来るらしい)を俺に手渡す。

「そ、それはあげるわ…勘違いしないでよね!ただのお礼なんだから!」

「ああ、ありがとう。大切にするよ。」

 俺は、それを受け取りそっと鞄に仕舞った。そして、志波に一言


「明日のお菓子も楽しみにしているぞ。」

「ば、馬鹿っ…期待するなって言ったでしょ…しかも38点って言ったのに…。」

 志波は、そう言ったきり顔を真っ赤にして自分の肩を抱き押し黙ってしまった。

 そんな志波に、ちょこちょこと牡丹ちゃんが近づき、耳元に何かを囁く。すると徐々に志波の顔が明るくなっていった。


「ホ、ホント…っ?」

「はい、私でよければ♪」

「あ、ありがとう…えと…牡丹。」

「いいえ、私にまかせてくださいよ。」

 そう、得意げに牡丹ちゃんは志波に言ってのけた。

 それから田上を見て、急に申し訳なさそうな表情になり

「ごめんねお兄ちゃん。私、ちょっと志波さんに用事が出来たから、そのウサギさんを私の家に持ち帰って欲しいんだけど…イヤ…?」

「いや、全然っ嫌じゃないぞ。大丈夫だぞ。俺に任せておけよ。」

 上目で見つめる牡丹ちゃんに、田上はすっかり顔を赤くし、俺の手を引っ張りズンズンと出口に向かって歩いて行く。

「おい、田上。引っ張らなくても自分で歩くから手を離せ。」

「じゃ、じゃあな!二人とも頑張れよ!」

 俺は田上に抗議するが田上は完全無視して俺を引きずる。そんな俺と田上を牡丹ちゃんは手を降って、志波は半分呆れたような表情で見送った。










「おい、俺の制服の右腋が破れているんだが。」

「スマン…牡丹の、あの表情に思わず冷静さを失っちまって。可愛過ぎだろ…アレは。」

「まぁ、それは理解出来るが…。」

 田上はゲームセンターを出て少しした頃にようやく平静を取り戻して俺を解放した。しかし、その時には俺の制服の腋が破れて、部分的にだが、例の神社の腋巫女の用になってしまった。だから、あれほど離せと言ったのに。

「それにしても、牡丹は一体、志波に何を言ったんだ?」

 その言葉を聞いて俺は頭からずっこけた。

「全く…お前は相変わらず鈍いな…。」

「な、なんだよ、どういう事だよ…訳わかんねぇぞ。」

 心底、不思議そうに俺に尋ねる田上。牡丹ちゃんと一緒に過ごす事で少しは改善されると考えたのたが…まだまだ俺が甘かったかな。

「雰囲気的に考えて、牡丹ちゃんは志波に『よかったら、私がお菓子作の作り方を教えましょうか?』と、でも言ったと考えるのが妥当だ。」

「はーなるほど、そいう事か。確かに志波の奴は、期待するなって散々、渡に言ってたけど絶対に明日も作って来ると思ったしな。」



「そういう空気は読めるってのが俺にはお前を理解しかねるのだが…。」



「まぁ、お前程じゃねぇよ。」



「否定はしない。」



 そんな会話をしながら歩き、途中で俺と田上は別れて、帰宅し。自室に入って、俺は、志波から貰ったぬいぐるみを何処に配置するか少し考え、本棚の上、八神はやてと仮面○イダースト○ンガーの間に置く事にした。










 そして次の日の昼休み



「さぁ、食べなさい。言っとくけど昨日のとはレベルが違うわよ。」



 自身満々と言った感じで志波が保冷剤が入った袋から取り出したのは、カラメルソースがたっぷりのカスタードプリンだった。

「うむ、頂きます。」

 昼食を終えた俺は一回ナプキンで口を拭いてから、手渡されたスプーンを持ったまま、両手を合わせて、スプーンでプリンを一口すくって口に運んだ。


……成る程、確かにレベルが違う。口に入れた瞬間、プリンは溶けるように消えてしまい、それと共に、舌にまろやかな味と深みが広がる。

「ふむ……96点と言った所か…。」

「あっ……。」

 志波のその一言で、周囲の空気が一瞬固まる。そして

「や、やったああぁっ!やりましたよ!志波さん!渡さんは嘘をつかないんですよ!本当に美味しいと思ってくれたんですよ!」

「な、なに言ってるの、わ、あなたのアイディアで私が作ったのよ…と、当然じゃない…。」

 嬉しそうに跳ね回る牡丹ちゃん。そんな牡丹ちゃんに志波は何とか平静を装って返事を返しているが、明らかに声が上擦り、目からは涙が滲んでいた。

「あ、明日も作って来てあげるわよ!言っとくけどアンタは私の新しいお菓子作りの毒味役なんだからね!そこの所を勘違いするじゃないわよ!」

 志波は、そう言って、真っ赤に蒸気した顔でビシッと俺を指差し、逃げるように教室から出ていった。そして、志波が立ち去って俺が一言。



「黒下着か…グレイト…!」


 そう呟いた瞬間、俺は後頭部に田上の回し蹴りをあびて、机に顔面衝突した。

「いい雰囲気なのに、お前ってやつは……。」

 田上の呆れたような声が聞こえてきたが関係ない。そこにスカートがあったのなら捲って中身を確認したくなるのが男の本能なのだ。










 それから数日は実に平和な日々だった。志波は毎日俺にお菓子を作って来て、確実にレベルを上げている。それに牡丹ちゃんも影響され、牡丹ちゃんも毎日、田上の為にデザートを持ってくるために、俺と田上には昼食後のデザートタイムは半ば日常的になっていた。




 いつの間にか志波が俺達と一緒に帰宅するようになった。慣れないせいか志波は、最初の頃は牡丹ちゃんとばかり話していたのだが最近では俺と田上の会話にツッコミを入れれる程になってきた。

 


 そして、その頃には、成り行きで志波を俺の家に招待した。父さんと母さんのテンションが異常に高くて志波も緊張していたが、何とか二人には丁寧な対応をしていた。









 丁度、その時辺りだった。


 登校中に妙な視線を感じるようになった。

 志波とメールをすると志波が30分に120 通程のメールを返して来るようになった。


 俺の私物が頻繁に目をはなした僅かな時間に盗難にあい返って来なくなり、唯一、発見したリコーダーも涎まみれになっていた。



 そして、決定的だったのが、

「………………。」

「うん?どうしたのよ石井。」

「いや、何でもない志波。気にする事は無い」

 志波の作るお菓子の味が『田上の彼女になる前の牡丹ちゃんの味』に、似てきた事だ。

 全ては気のせいであるのかもしれない。しかし、どうにも気になって仕方が無い。

 だから俺は、ある日の食後、本日デザートのシフォンケーキを食べ終わった後、何気なく、違和感が無いように志波に。

「なぁ志波。明日あたりお前の家に行って良いか?」

「えっ…い、いきなり何を言ってるのよ!アンタは!」

 志波は予想通りの反応をした。それを確認して俺は話を続ける。

「いや、何。志波の料理の腕も上がってきた事だし、志波手作りの出来立てのお菓子を食べて見たいな、と考えてな。」

「で、でも、アンタねぇ……。」

 困ったような顔で自身の髪を回す志波。俺はその反応を見た瞬間に行動に出る。

 顔を静かに下に傾け、ずっと志波に合わせていた視線を僅かにそらす。

「そうか…志波が嫌ならば仕方が無い……。」

 その瞬間に志波は急にオドオドした表情になり、慌ててように俺に言う。

「あ…、し、し、仕方が無いわねぇ!いいわよ!明日家に来ても!特別なんだからね!」

「そうか…ありがとう…。」

 俺は安堵の表情を志波に見せる。

 (よし、計画どおり…)

 そんな心の声を志波に見抜かれないようにして。





 その夜、俺は自室で志波の家に行く準備をしていた。まず、クローゼットから一番気に入っている服を取り出して丁寧に畳んで椅子に置く。そして少し考え、明日持って行く予定の鞄に少し仕掛けをする事にした。

 まず先週宅配便で届いたゴジラのフィギュアに入っていた梱包用のスポンジをカッターで薄くカットし、さらに再びカッターでスポンジの真ん中に小さな穴を空けくり貫く。

 次に、手提げ鞄の底敷きを取り出し、先程のスポンジを入れる。そして、タンスからバタフライナイフを取り出して穴に入れる。

 そして最後に、その上から底敷きを元のように設置して、何も無かったかのようにする。これで、準備完了。

「出来れば、こんな物を使わずに済むと良いんだがな……。」

 そう独りでに呟いて、ふと思い出す。あの日、田上を助ける為に、夜中に牡丹ちゃんと僅かな時間だけ戦った時の事を。

 あの時、牡丹ちゃんの振りかざす凶刃を俺は一、二度はギリギリで捉えて木刀で反らす事が出来た。だが、三回目、あの突きだけはまるで反応が出来なかった。そう、気付いた時には吸い込まれる用に俺の腹部に牡丹ちゃんの小刀は突き刺さっていた。

 正直言って信じる事が出来なかった。普段の牡丹ちゃんは、むしろ病弱で、同じクラスの女子よりも大幅な体力差が見てとれる程だった。

 一方の俺は、自慢する訳では無いが、剣道四段で、実戦もそれなりに経験しているつもりで、そこらの不良の放つ全速力のパンチ程度だったら余裕で回避する事が出来た。




 それほどの条件があっても俺は牡丹ちゃんに完敗した。





 田上には失礼かもしれないが、あの時の牡丹ちゃんは人外的な強さを感じた。


 理由は、さっぱりわからない。だが今、確実に言えるのは、今の志波からはあの時の牡丹ちゃんと同じ雰囲気がする気がする。

「ならば万が一、そうだ、万が一を考えて武装をしておくべきだな。…たとえ気が進まなかったとしても。」

 俺は、自分に言い聞かせるように静かに呟きベッドに横たわって、部屋の電気を消した。いつもの暗闇が今日は妙に不気味に、真綿で首を絞められるように感じた。








「やぁ志波。今、来たぞ開けてくれないか?」

 翌日、結局俺はナイフ入りの鞄を持って約束の時間に志波の家に行き、志波の家の茶色のドアを左手で軽く叩いた。

 俺がノックしてしばらく待つと、家の中からバタバタと人が動き回る音がして、ゆっくりとドアが開かれた。

「も、もう来たの…早いじゃない…。」

 ドアから静かに顔を除かせた私服の志波がおずおずと言った感じで小さく呟く(うん、私服もやはり可愛い。)。

「ああ、俺は人を、特に女の子を待たせる用な事はしない主義なんだよ。」

「ふ、ふんっ!いい心がけじゃない。」

 志波はそう言って小さく胸を張る。その顔はほんのりと赤く染まっていた。

「ところで志波。出来るだけ早めに家に上げてくれると喜ばしいのだが……。」

 説明を忘れていたが、今の季節は冬、それも真冬と言っても差し支えが無い月なのだ(実際にこの日は外には薄く雪が積もっていた)。当然、このまま外にいては凍えてしまう。

「あっ……ゴ、ゴメンッ!は、早く入りなさい!」

 志波は俺のその言葉を聞いた瞬間に、慌ててドアを開いて俺を室内に招き入れた。



「ほぉう、実に興味深い……。」

「ちょっ…そんなに見ないでよ……。」

 赤い頬で恥ずかしそうに志波が言う。

「いやいや、ごく一般的な男子だったら、女の子の家に興味を持っていて当然だぞ?」

 俺は志波にそう言って、志波の家のチェックを続ける。現在の収穫は…、志波の父親が開業して医者をやっているって事が分かったくらいか。

「うん、医者というのは興味深い。ぜひ会って見たいのだが…。」

 俺はそう言い、チラッと何かを訴える視線で志波を見る。

「あ、お父さんなら今日は居ないわよ?あとお母さんも。商店街のクジが当たって二人で旅行に行っちゃったの。」

 それを聞いて、俺は少し残念そうに。


「そうか……。」


 とだけ呟いた。

 志波はそれを対して気にせず、逆にモジモジして俺をチラチラ見だした。

「ほ、ほら!そんなに人の家ばっかり見てないでさ…ぁ…。い、今から私が出来立てのお菓子を作ってあげるからそこに注目しなさいよ……あっ、でも、アンタは毒味役なんだからね!そ、そこを勘違いするんじゃないわよ!」

「ああ、そうだとしても俺は嬉しいよ。」

 俺がそう言って志波に微笑みかけると、志波は耳まで真っ赤になってテーブルに掛けてあったエプロンを片手で掴み、全速力で台所へと走ってゆき、超高速で料理を始めた。

 そんな志波の様子が可笑しくて俺は思わず吹き出してしまう。

 俺は、それを志波に悟られ無いように手で口を押さえ、何事も無かったかのようにテーブルに腰掛けてお菓子の完成を待つ事にした。





 それからしばらくして


「ま、待たせたわね……。」

 志波がおずおずと皿に乗っている生クリームでコーティングされ、マーブルチョコでデコレーションされたたロールケーキのようなお菓子を持って来た。

 志波は、やや不安な手つきでロールケーキのようなお菓子を切り分け、小皿に乗せてフォークと共に無言で(顔は真っ赤)俺に差し出した。

 俺はそれをフォークで小さく切り、口に運ぶ。……なるほど、見た目からしてロールケーキかと思ったが少し勘違いだったようだ。どうやらこれは、ミルクビスケットを使ったビスケットケーキのようだ。味は…志波の頑張りのせいかとても良い。つまりは旨いのだが…ただ、やはり昔の牡丹ちゃんの作った料理のような味がした。が、それを気にしない様にして冷静に審査する事にした。

「ふむ……98点と言った所か。」

「や、やった……最高得点…!。」

 俺の呟きに志波は思わずガッツポーズをしながら立ち上がる。と、次の瞬間ハッとした様子になり慌てて胸を張り

「ふ、ふん!と、当然じゃない!わ、私が作ったのよ!」

 と、再び小さく胸を張った。

「ああ、すごいな志波は。ところで熱い飲み物があると喜ばしいんだがウバはあるか?」

「ふぇ、う、うば?」

 俺の言った事に、小首を傾げて頭から?マークを出す志波。可愛い、凄く可愛い。だが俺は、そんな志波の姿を鑑賞するのを二秒に堪え、志波に説明をする。

「ああ、ウバっていうのは紅茶の葉の事だ。ダージリン、キーマンと並んで世界の三大紅茶と呼ばれているんだが……その様子じゃあウバは無さそうだな……ウバを使ったミルクティーは最高なんだが……。」

 俺は、志波に残念そうにそう言って、悲しげな表情をして見せた。すると予想通り、志波は四~五秒くらいは椅子に座りながらウズウズしていたが、やがて我慢出来なくなって勢いよく立ち上がり

「あ、あぁ、も、もうっ、仕方無いわねぇっ!そんなに飲みたいのなら私が買ってきてあげるわよ!い、言っておくけどこれは同情なんだからね!と、特別な感情なんて…な、な、ない、ないんだから…!」

 志波は何故か目をつぶりながら、蒸気しそうな顔で一気にそう言い切ると、信じがたい程のスピードで準備をして、逃げるように家から出ていってしまった。

「雪に注意するんだぞ。」

 俺は窓を開けて去り行く志波を見送りながら、俺は軽く志波に注意をする。

「わ、分かってるわよ!すぐに帰ってくるから大人しく待っているのよ!」

 志波は器用に走りながら横を向いて俺に返事をし、そのまま走り去っていった。






「さて、始めるか……。」

 志波が完全に見えなくなってから俺は動き始める。まず手提げ鞄から志波の家を訪ねる前にホームセンターで購入した針金を取り出してポケットに入れ、手提げ鞄をしっかりと右手に持った。

 分かっているとは思うが、今回、俺が志波の家を訪ねた理由、『志波の作りたてのお菓子を食べたかった』と言うのは建て前だ。本来の目的は最近、俺の周辺で発生している不可解な出来事の犯人が志波と考えた上での自宅調査だ。無論、志波が犯人だと言うのは決定的な証拠が存在しないため俺の空想理論なのかもしれない。しかし、しつこく言うように言葉で表現しようの無い『何か』が引っ掛かるのだ。その『何か』の正体を突き止めたいと思う好奇心を俺は抑える事が出来なかった。

「『好奇心は猫をも殺す』と、言うが……。今は、そんな事にはならないのを祈るしかないな。」

 俺は誰に言うでもなくそう言い、志波の家の調査を開始した。

 それから数分程が過ぎた頃だった。俺はようやく志波の部屋を見つけた。が、案の定ドアは施錠されている。

「やはり、か……。すまないな志波……。 」

 俺は今だ志波が帰宅してないかを確認し、罪悪感に苛まれながらも持っていた針金で解錠を開始する。さて、南京錠程度ならば3分程で開けられる自信はあるのだが……。果たして何分が必要となるのだろうか。


ガチャ


ガチャガチャ


ガチャガチャガチャ


カチャリ


 !……どうやら解錠に成功したようだ。使用した時間は十分程だろうか。……まぁ、鍵が単純なタイプだったのが幸いしたようだな。

「もうここまで来たら後戻りは出来ない。もし本当に単なる俺の勘違いだったら志波に全力で土下座して謝るべきだな。」



 そして俺は再度、志波が帰宅していないのを確認して、ゆっくりとドアを開いた。






「なっ………………!」

 ドアを開いた瞬間、俺は圧倒された。志波の部屋の中には写真、それも俺には全く見に覚えの無い俺を撮影した写真が、壁、天井、机、タンス、果てには床の一部にまで無数に貼られていた。

 いや、それだけでは無い。部屋の中に入って、さらに良く見てみると、よく見慣れた物、俺の下着や歯ブラシ、ボールペンやハンカチなど、盗難にあった俺の私物がガラスケースに入った状態で美術品を展示するかのように部屋の隅に置かれていた。

「………っ、どうやら気のせいじゃあ無かったようだな。残念な事に。」

 これは不味い、志波は今、昔の牡丹ちゃんと同じ状態、いや、もしかしするとさらに悪化した状態になっている可能性がある。これは、一刻も早く志波が帰宅する前に対策を練らねば。俺はそう考えて、志波の部屋から……




「ふぅん、アンタ勝手に人の部屋に入ったんだ……。」





「っ………!!??」

 背後から突然、本当に突然、背筋が凍りつく程に冷たい志波の声がした。それと共に後頭部に強烈な打撃を受ける。そんな…そんな馬鹿な…なぜ…気配が…まるで……。

「あ~あ、ばれちゃった。仕方無いわねぇ、だったら予定より早めに…。」

 第二撃が俺の後頭部に直撃し、そんな志波の声を聞きながら俺の意識は闇の中に沈んでいった。










「ん………こ、ここは…。」

 意識を失った俺は、カビ臭ささと、ひんやりとするコンクリートの冷たさで目を覚ました。目を擦りつつ霞む目で周りを見渡して見ると、壁と床がコンクリートの地下室らしき光景が広がっていた。部屋の隅には収納用らしきチェスト、そしてその反対側にはくすんだ朱色の扉がある。

「く、痛っ………。」

 俺が、そうして部屋を観察していると頭部に強烈な痛みをを感じ、思わず痛む場所を右手で押さえようとする。が。


ジャラッ



「!?」


 そう、鈍い音が響くだけで右手を僅かにしか動かす事が出来なかった。


 慌てて俺が自分の腕を見てみると、俺の両手首がガッチリと手錠で拘束されており、さらに両足には大型犬用の太いチェーンがしっかりと巻き付けられていて足を殆ど動かす事が出来なかった。

「なっ………。」

 俺が再び驚愕して、思わず硬直していると、突如ガチャリと鍵の開く音がし、音が聞こえた方向に視線を向けて見ると、静かなきしみと共に朱色のドアが開いて、志波が姿を現した。


「あ、アンタ目を覚ましたんだ。」


 志波は、俺を見て艶かしい顔で言った。妙な、いやらしさを感じるが今は、それどころでは無い。俺は、何も感じて無いふりをし、静かに志波に尋ねる。

「志波、三つ程、質問してもいいか?」

 志波が、笑みを浮かべたまま何も言わずに頷いたので、俺は話を続ける。

「そうか、だったら行くぞ、まずは、①『ここはどこだ。』②『今は何月、何日の何時だ。』そして、まぁ大方の予想はついてるんだが、③『何故こんな事をした、俺を解放する気はあるのか。』以上だ、答えは嘘偽り無く頼む。」

 俺がそう話し終えると、志波は静かに笑う。

「アンタねぇ…それじゃあ四つじゃない…。まぁ、いいわ。まず、①の答えね。ここは、昔、お父さんが勤めていた病院の地下。まぁ今は廃病院なんだけどね。私の家から車で一時間程かしら?ちょっと知り合いに協力して貰ってアンタをここまで運んできたの。」

 志波の家から車で一時間か、と、言うことは最低でも50km以上は俺の家から離れてしまった事になるな。

「で、次に質問②の答えね、今は平成20年の2月7日よ。アンタが意識を失って2日が過ぎたわね。さて、いよいよ③の答えなんだけど……。」

 その瞬間、志波の空気が変わる。目が獲物を狙う爬虫類のように変わり、どす黒い執念にも似た欲望の気迫が俺に向かって一直線に当てられる。

「ねぇ、アンt…渡は私の事が好き?」

 志波は、そう言いなかがら俺に近づき、俺の左頬を右手で優しい撫でる。

「私は、渡が大好き。初めてクラスで会った時からいいなって、思ってて、渡が私を助けてくれた時にはもう夢中だった。でも、中々素直になれなくてね。いっつも恥ずかしくて誤魔化してばっかりでさぁ、私もそれが我慢出来なくてね、渡の物を盗んだりしたんだ。物だったら照れずにずっと近くにいる事が出来るからね。でも、今、私はもう恥ずかしがらない。渡に正面から好きって言える。だから、ね、渡『渡は私の事が好き?』」


「俺は…、俺も志波が好きだ。」


「それは、友達として?それとも異性として?」

 たたみかけるように質問する志波に俺も即答で返す。無論、心で思ってる事を正直に、

「それは、両方だ。俺は志波が異性としても友達としても大好きだ。」

 俺が、そう答えた瞬間に志波の迫力が収まる。口元は優しげな笑みを浮かべている。

「そう、なら良かった。③の答えを言うわ、私がこんな事をした理由は、渡を愛しているから、渡の世界を私と渡だけにするため。そして、そのためには当然。」





 渡、あなたを一生こから出す気は無いわ。






 夕食は、また後で持ってくるからね。志波はそう言って、ドアを開いて部屋から出ていった。

 そして、その瞬間。俺は脱出する為の方法を頭の中で全力で練り始めた。

 後編を急ぎます!

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