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第二ヤンデレ タイプ(妹)

リアルで立て込んでいた上に、ストーリーを根本から変えたので大分、更新が遅れました。

 今回の話は、大一話から数年間の話。今回の視点は、第一話で出番が無かった(笑)主人公の田上 太郎です。

 突然で悪いがこの俺、田上太郎には妹がいる。



 とは、言っても血が繋がっているわけじゃない。俺の母親の姉の娘、いわば従妹。その従妹、佐原牡丹(さはら、ぼたん)と初めて出会ったのは今から四年前の事で、牡丹の家族が俺の家の近くに引っ越して来た時だ。


 牡丹は年もわりと近かった事もあって俺になついて来た。

 ……ああ、そりゃあ牡丹は可愛いし、多少なりとも俺もドキドキしていたから牡丹に親切丁寧に対応して好きなだけ遊んであげたのは真実だ。だが、その事を小学校からの腐れ縁の渡こと、石井 渡に話した時、真顔で『ロリコン』って言いやがったんで、問答無用で渡の腹に右ストレートを入れたのは今になってはいい思い出だ。



 確かにその時、牡丹は小学校卒業したばっかしの12才で。十分ロリっ娘って言えたのだろう。でも、俺は中学三年の15才。3歳しか違わないのにいきなり『ロリコン』はねーよ。反論は認めない



 まぁ、そんな事がありながら当然のように牡丹は俺と同じ中学校に入学し、それからしばらくは学校内で牡丹と出会っても話す事が少なくなったんだが……。



 あれは牡丹が入学してから数ヵ月が過ぎた事だ。ある日俺が一人で廊下を歩いていたら、牡丹が数人の女子に囲まれてうずくまっていたんだ。俺は様子がおかしいと思ってとりあえず牡丹に近づいて見たんだが、その牡丹を囲んでいる女子が牡丹に向かってひっでえ言葉を投げ掛けてるんだよ。



 そう、『死ね』とか『学校に来るな』とかな。俺は当然、牡丹を囲んでいる女子から引っ張りあげると牡丹を囲んでいた女子共を睨み付けた。



「お前ら何やってんだ!」



俺に睨み付けられた女子達は案の定、



「はぁ? あんたは関係無いでしょ善人ぶってるつもり?」



 と、まるで俺が悪いかのように小馬鹿にした様子でそんな事を言ってきたんで俺は、連中をさらに強く睨んでこう言った。



「ところが関係大有りなんだな。こいつは俺の可愛い従妹なんでね」


  で、そんな風に勢いに任せて言ったものの、その時の俺はこれからどうするか何てをまるで考えていなかったので睨み付けたまま数秒が過ぎ、膠着状態に陥ってしまった


 と、その時だった


 気配も無く廊下の反対側、俺と牡丹を睨み付けている女子達の背後から渡が現れ、俺が驚いている間もなく歩いてきた渡は、一目で察したのか囲んでいた女子達の耳元で俺達には聞こえないような声で一人一人順番に何かを囁いた

 するとまるで手品のように急に威勢の良かった女子達が、青ざめた顔をして地面に崩れ落ちてブツブツと何かを呟きだしあっと言うまに戦意を争奪していったのだ。(渡が言うには、この時は『彼女達の自尊心を大きく崩してやっただけだ』らしいが)


 兎も角、そんなわけで俺は渡の協力で無事に牡丹を救いだし、保健室に連れて行くとじっくりと牡丹から、何故苛められていたのか、話を聞いてみた。



 結果、話は単純で、牡丹の外見に目を付けた何人かの女子達からの低レベルな嫌がらせだった。話が終わったとたんにワッと、泣き出す牡丹を俺は精一杯、つたない言葉で慰めて優しくその背中を撫でて励ました。


 そう、そこまでは良かった。が、泣き止んだ牡丹が顔を赤くしながら言った次のセリフが問題だった。


「あ、あの、太郎さん。わ、私の、私の……私の、お兄ちゃんになってくれませんか!?」


へ?って思ったね。今、思い出して見ても、へ?だ。あと、渡が物凄く腹の立つ不快なニヤニヤとした目で俺を見ていたのが記憶に残ってる。


 聞けば、牡丹はとても小さい時に兄を亡くしており、それ以来ずっと自分の兄のような人物に憧れていて、その希望に俺がジャストフィットだったんだと。

 

  初めて聞く話だったが大切な従妹を聞いておいて何もしないのも躊躇う俺は、牡丹の頼みを聞いてやり、そして今



「お兄ちゃーん。遊びに来たよー♪」


 毎日のように牡丹は俺の家にやって来て俺のオヤツを作ったり、俺と遊んだりする。そんな生活は忙しいなれども決して嫌な訳では無い。……嫌な訳じゃ無いけど、あれ以来すっかり渡が俺を『ロリコン』扱いする様になったのが……(屈辱的なので、渡が言う度にパンチやキックを入れているが)


「お兄ーちゃん♪」


俺が、ボンヤリと考えていると、いつの間にか俺の部屋に入って来た牡丹が、後ろから俺に抱き付く。


「おい、牡丹。いきなり抱き付くのは止めろ」


無駄だとは思いながらも俺は振り向かずに、牡丹に言う。牡丹が俺を、『お兄ちゃん』と呼ぶようになってから、いつもこうだった。そう、牡丹は、本物の兄弟でも、そこまではしないだろう。と、思うくらい激しいスキンシップをしてくる。正直、とても照れ臭い。


「フフッ、冗談だよ」


牡丹は、そう言って俺を解放して、俺の首を掴んで、後ろを振り向かせた、ぐえ。


「はい、どうぞ。今日は、ガトーショコラだよ。」


牡丹は、そう言って、可愛らしくラッピングされた、チョコの香りが仄かにする。箱を渡して来た。


「おお、ガトーショコラ好物なんだ。ありがとよ。」


俺は、牡丹に礼を言い、箱を開けた。中にはこれまた綺麗にカッティングされたガトーショコラが四、五切れ入っていて、俺はそのうちの一切れを手でつかんでかじりついた。とたんに、俺の口の中には濃厚なチョコレートの味が広がり、そして、そのチョコレートの味が無くなる瞬間にフッと、爽やかな一味が加わった。おお、身内評価をしなくても、これは十分に美味い。俺はグルメでは無いが、それだけは十分過ぎる程分かる。


「牡丹、また、腕を上げたな、めっちゃくちゃ美味いぞ」


俺が素直に感想を牡丹に伝えると、牡丹は顔を真っ赤に染め、


「ええええええっ!お、お兄ちゃん!それ、本当!?」



「本当だ、めっちゃくちゃ美味いぞ。お前、本当にパティシエールになれるんじゃないか?」


「本当?えへへ~お兄ちゃんに誉められると嬉しいな。」


牡丹はそう言って、はにかんだ。可愛いなチクショウ。

その後、俺は、牡丹が持ってきたトランプで罰ゲーム付きのスピードをして、途中から渡の奴も家に呼び、三人で罰ゲーム付きの大富豪をした。ちなみに、一番罰ゲームを受けたのは、俺で、やれ尻バットやら牡丹との公開ちゅ~やらをするはめになった。恥ずかしかったな、いろんな意味で。

ちなみにその後、渡は、牡丹手作りの俺の家の夕食まで食べて、帰っていった。それにしても、渡の野郎、いきなり夕食をくれと頼んだくせに、俺より多く、唐揚げ食べやがって・・・。明日の昼のお弁当は唐揚げ弁当にする様に、牡丹に頼もうかな。まぁ、笑顔で『ダメ』って言われるのがオチだろうがな。まぁ、そんな感じで俺の休日は終わった。

牡丹と兄妹になってから半月が過ぎた日の事だった。






「だからさぁ、やっぱり、なのはさんの方がいいって!フェイトちゃんより強いし、可愛いぞ!」


「むぅ、お前は何を言ってるんだ。フェイトちゃんには、スピードと黒タイツがある。おまけに金髪だ、この三拍子は俺の好みに100%フィットしている。だから田上、俺はお前が何と言おうと断然、フェイトちゃん派だ。」


相変わらずの無表情で、静かに、しかし熱く、フェイトちゃんに対する愛を語る、渡。 月曜日の朝、中学校への通学路を歩きながら、俺と渡は、なのはとフェイト、どちらが萌えるかを超真面目に話し合っていた。ちなみに議論は完全に泥沼で、お互いに完全に感情論になっていた。


「ふえぇ・・・、お兄ちゃん達の話、全然分かんないやぁ。」


「いや、牡丹。普通の女子中学生としては、それで正解だ。」


俺は、頭上に?マークを出して、首をかしげる牡丹をフォローした。本当、牡丹は分かんなくて良いから!一生分かんなくて良いから!


「ふむ、少し熱中して議論しすぎたな。少々吹っ切れないが、ここまでにしておくか」


「ま、まぁそうだな」


牡丹に悪い影響が出たら俺がおじさんに怒られそうだしな。 渡は、それだけを言うと、歩調を速めて歩き出す。俺も続く、牡丹が慌ててパタパタと足音を立てながら置いてきぼりにされないように、後についてくる。(まぁ置いてきぼりにするつもりなんて毛ほども無いんだが)

それが俺達の日常の朝の風景だった。










「なぁ、田上……」


「ん? どーした渡……?」


渡に続いて足を速めた俺に渡が、小さな声で俺に耳打ちしてきた。そう、牡丹には聞こえないような声だ。釣られて俺も、小声で返事を返す。渡が再び小声で、真剣な表情をして話を続ける。


「牡丹ちゃんの作った、料理やお菓子の味がここ、二、三日前から変わってないか?」


「はぁ?」


どうしたんだ?いきなり?渡は、殆ど無駄な事を話さないのでまったく意味の無い事を言っているとは思えないんだがな・・・何が言いたいんだ?

とりあえず心の中で考えた事をそのまま渡に伝える。すると渡は、考える様に目を閉じて、静かに呟いた。


「そうか、分からないのなら、それで良い」


渡は、それきり何も語らず、そのまま学校に着いてしまった。

渡は、何が言いたかったんだ?初めて出会った時から妙な奴だと思ったが、ここまで変なのは見たことが無い。一体、渡は俺に何を伝えようとしたんだ?そんな感じで、渡の言葉を考えようと、モヤモヤしながら授業を受けていた俺は、運悪く担当教師に指名され、しかも俺はその事に気が付かず、教師からの教科書チョップをくらい、クラスメイトから大笑いされた。

くそ、渡まで笑いやがって、いつも無表情なくせに、なぜ今回に限って笑う。元はと言えば、半分はお前のせいなんだぞ。まぁ屁理屈に過ぎないが。



まぁそんなこんなで、あっという間に時間は過ぎてゆき放課後になった。いつものように、帰宅部の俺は、同じく帰宅部である渡と牡丹の三人で下校するために渡と連れ立って一年生の牡丹の教室へと行く。

そう長くない廊下を歩き、牡丹のクラスへとたどり着き、戸を開けて教室にいる牡丹を呼ぶ。と、ふと教室を見てみると牡丹のクラスの目が、主に女子の目が、渡へと注がれていた。

あ~確かに渡は黙っていれば、中の上くらいで、そこそこ格好良い、一応、分類的には美少年なんだと思う。だが、しかし、君達、知っているか?そいつが去年発生した、女子水泳部連続水着盗難事件の真犯人だって事が、あと、渡は常に今、クラスメイトの女子がどんなパンツ知ってるんだぞ?まぁいわゆる大変なHENTAIって奴だ。それでもいいのか?まぁ、俺はそんな事はどうでも良かったので、予定通り牡丹に『帰るぞ』と、言い。手を差し出し、回れ右をして廊下に向き直る。

・・・・・・?おかしいな?牡丹の手の感触が伝わってこない。気になって首だけで後ろを見てみると、牡丹は俺の手を握ろうとしたのか、右手を伸ばしたまま、困った様な表情で静止していた。


「どうした、牡丹?」


すると、牡丹は慌てて伸ばしかけていた手を引っ込め、申し訳なさそうに俯いた。


「はうぅ、ごめんねお兄ちゃん。私、今日は用事があるんだ。お兄ちゃんと一緒には帰れないよぉ。」


「なんだ、そんな事か。」


俺は心から安心して、そう言った。


「そ、そんな事って!」


急に牡丹が口調を荒げる。が、すぐにハッとした表情になり、次の瞬間には、いつもの笑顔になっていた。なんなんだ、一体?


 「お、お兄ちゃん、そ、それじゃあね!あ、明日は、一緒に帰ろうね!」


 俺の疑問に答える事もなく 牡丹はそう叫ぶように言うと、まとめてあった自分の荷物を抱えて逃げる様に廊下の外へと出ていってしまった。俺には何がなんだかさっぱり分からなかった。


「何なんだ?ホント一体……」


「おお、無能、無能」


俺を見ながら、腹立つ顔と目で、渡が呟いたので、とりあえず顔面パンチを渡に放った。渡は『ウェ!』と、叫んでわざとらしく倒れた。


「オンドゥルルラギタンディスカ!!」


「あ~もう、やっとれやっとれ、一生やっとれ」


立ち上がりかけた状態で、俺に向かって喚く渡。俺は、軽くスルーして玄関へと歩いてゆく。渡はさらに、『アンダドゥーオレバアナカマジャナカッタンデ…』とか呟いていたが更に無視。


「むぅ、ボケたのに完全無視されるのは辛いんだぞ。そこんとこ分かってるのか?太郎くんよ」


「気安く名前で呼ぶなってんだろ。変態」


「否定はしない、だが俺は変態であっても常に冷静で無駄に騒がないように心がけているから、『紳士』を付けて、『変態紳士』と呼んでもらいたい」


「んな事、知るか」


そんなたわいもない会話をしながら歩いていると玄関に着いた。いつもの様に下足箱から自分の登校靴を取り出そうとして、気付いた。


「えっ?」


「どうした、田がm…何……だと……」


俺の下足箱には朝履いてきた靴の他に、小さな白い封筒が鎮座していた。

当然の事ながら朝、自分の靴を入れたときには封筒は無かったはずだ。しかも、さらに封筒をよく見てみると、封筒の背には赤いハートマークが描かれていた。

そう、いわゆるラブレターとか言うものを俺は受け取ったらしい。


「むぅ、お前がラブレターをもらうとは、完全に予想外だ。驚いたな」


珍しく渡がいつもの無表情を止めて、心底驚いた顔で、ラブレターを見ていた。


「で、どうするんだ、全力で断るのか?」


「なんでだよ、決めるのは、まず相手を確かめてからだろ?」


「おいおい『なんで?』だって?お前には牡丹ちゃんがいるだろ」


渡がさも当たり前のように言う。こいつは一体何を言っているんだ? 俺と牡丹はあくまで義兄妹のような関係で、牡丹が俺を慕っているのは、兄としての、そして助けてもらった感謝のレベルとしてに過ぎないはずだ、少なくとも俺はそう考えてる。そんな感じの事を渡に伝えると、渡はボソッと『やっぱり鈍いなお前は…』と呟いた。訳のわからん奴だ…









その後結局、俺と渡の間に微妙なムードが漂ったまま、帰宅した。


「それにしても、本当にいったい渡は何を言いたかったんだ?」


自分でもしつこいと思うが、自宅の玄関を開きながら俺は、また渡の言っていた事を考えていた。気になって渡と別れた時から考えていたが、さっぱり分からない。分からなすぎて頭が沸騰しそうだ。う~ん、何かスッキリしないが考えるのを止めるか。これ以上考えたら変になりそうだ。

そう思い、冷静になってから家の中に入った、靴を脱ぎお茶でも飲もうとして俺は台所のあるリビングに向かった。そこで、ふとリビングテーブルを見てみるとテーブルの上には一枚の紙が置いてあった。気になって見てみると、親からの伝言だった。


「えっ、父さんと母さん今日帰れないのか……仕方ない今日の夕食は牡丹に頼むか」


俺は、そう考え制服から部屋着に着替えて、すぐ近くの叔父さんの家、つまりは牡丹の家へと向かった。牡丹の家に着くと牡丹はすでに帰宅していて、俺の頼みを快く、満面の笑顔で引き受けてくれた。あ、そういえば着替えて準備もバッチリな牡丹と共に帰るとき、やけに叔母さんがニヤニヤした顔で俺をみていたけどあれは一体何だったんだろうな?

まぁそんな事は、俺にはどうでも良くて、今、注目したいのは現在進行形で牡丹が作っている俺の夕食だろう。正直、こうして臭いを嗅いでいるだけで涎が止まらない。

俺の家に来るとき、ヤケに大きな荷物を持っていると思っていたら、その中には様々なスパイスの入った瓶が詰め込まれおり、牡丹は今、舌を噛みそうな名前のスパイスを使い分けながら料理をしている。恐らくはハンバーグなのだろうが、素材が良いのか、スパイスが良いのか、それとも俺が空腹なのかは分からないが、リビングにはそれは、それは素晴らしい香りが漂っていた。やばい、何かテンション上がってきた。考えて見ると今日は物凄く良い日だ。照れ臭くて隠していたがラブレターを貰ったのは、とてつもなく嬉しい。これで漸く、年齢=彼女居ない歴から卒業ってわけだ。そうと決まれば、牡丹のハンバーグをしっかりと味わって食べてから、よ~く手を洗って丁寧に拝読しよう。


「お兄ちゃ~ん、ハンバーグ出来たよぅ~」


おっと早速、牡丹がハンバーグを完成させたみたいだな、俺は寝転びながらTVを見るのを止め、立ち上がってテーブルへ歩く。テーブルにはすでに俺と牡丹それぞれのハンバーグが皿に盛り付けられて鎮座していた。無論、ハンバーグの皿には俺の好きな野菜料理ベスト10に入っているニンジンのグラッセも添えてあった。さすがは牡丹。分かってるね

俺はひとしきりハンバーグを観察してから自分の席に座る。その後に、飲み物を持ってきた牡丹が続き、俺の座る席に座る。牡丹はこうして俺と対面する形で食事をするのが好きなのだ。


「さぁお兄ちゃん早く食べて、今日は自信作だよ♪」


牡丹がキラキラした笑顔を向けながら俺に催促する。


「おいおい、待てよ牡丹。食べるまえにする事があるだろ?」


「?……あっそっか、忘れてた」


 どうやら気付いてくれた様子の牡丹に合わせて俺は動き、同時にテーブルの上で両手を合わせる。


「「いただきます」」


「ん、分かってくれて俺は嬉しいよ」


「本当?えへへ~」


牡丹はそう言って嬉しそうにはにかんだ。

さて、いただきますも済ませた事だし、早速牡丹特製ハンバーグを食べるか、そう考えハンバーグに箸を伸ばす。出来立てのハンバーグからは湯気が立ち、箸で割ると肉汁が溢れでた。一口大の大きさに切り分け、口に運ぶ……やべぇマジ美味い。何だこれは、俺が食ってきたハンバーグの中で一番美味い、気のせいか中毒的な程の美味さを感じて、気づくと俺は数秒程でハンバーグを胃に収めていた。牡丹ってお菓子だけじゃなくて料理までこのレベルまで出せるってマジハイスペックだろ…。


「あ、あのっ、お兄ちゃん!ハンバーグどうだったか、な…」


俺が感動の余韻に浸っていると、牡丹が少し不安そうな顔をして俺に言う。そういや、何も言って無かったな。よし、ここは正直に言って安心させてやるか。


「大丈夫だ牡丹。もう最っっ高に美味いハンバーグだったぞ」


俺の言葉を聞いた途端、牡丹は目を輝かせる


「ほ、本当!?」


「本当だとも、いやーこんなに美味いハンバーグが食えて俺は幸せだなぁ!」


牡丹の嬉しそうな顔を見て、ついつい俺も調子に乗って牡丹をおだてる。


「やった…お兄ちゃんが…お兄ちゃんが私の特製料理を食べて幸せになってくれた…お兄ちゃん…これでお兄ちゃんは……


牡丹は顔を真っ赤にして、そんな感じの事をブツブツと呟きながら俯いた。嬉しそうで何よりだ。


と、まぁそんな感じで良いムードのままに夕食は終了した。まぁ今から考えて見ると俺は気付くべきだったんだよな。そしたら……いや、気が付こうが、気が付かまいが、いずれかは起こり得る出来事だったんだろうな。たまたま、その日が今日だった、と、いうだけだ。


初めに言っておこう


原因は


俺にある


「え…?牡丹、今、何て言った?」


「そのままの意味だよ、お兄ちゃん♪」


俺は愕然として牡丹の言葉を聞く。


「お、お、お泊まりしたいだって…!?」


そう牡丹は、夕食を終えて食休み中の俺に笑顔で『今日はもう遅いから、お兄ちゃんの家に泊まらせて♪』と、言ってきた。


牡丹が家に泊まるのはそう珍しい事じゃない。ただ、今の状況が問題なのだ。ご存知の通り、今現在我が家には俺と牡丹の二人きりしかいない。…二人きり…あの…なにか、その、とてもに不健全な妄想しか出てこない。牡丹は一応、俺にとって妹のような存在に過ぎない、過ぎないはずなのだが、何だこの胸の高鳴りは!そういえば前々から思っていたが牡丹はとても可愛い。特にあの小さなポニーテールとか、小さな手の平とか、そして、牡丹の年の割にはかなり主張している胸、と、か、…いかんいかんいかんいかん!!!これじゃあ本当に渡の言う通りに、俺がロリコンみたいじゃないか!!ああっでも、こうして見ると何か牡丹って、通い妻みたいだよなぁ…

か!よ!い!妻!ああっダメだ俺は本格的にダメかもしれん!冷静になれない!さっきから何回も『クールになれ田上 太郎』と呟いているがまるで効果が無い。あぁクソ、浜ちゃん俺をハリセンでひっぱたいてくれ!


「あの、お兄ちゃん…大丈夫?も、もしかして今日は私が家に泊まっちゃイヤ?」


その言葉に、さっきまで冷静になれなかった頭が一気に冷静さを取り戻した。よく見てみると牡丹は軽く目に涙を浮かべている。俺は、牡丹の肩にそっと手を乗せ、安心させるために言う。


「大丈夫、俺が牡丹を嫌がる訳が無いだろう?そりゃあ最初は驚いたけど、俺と牡丹は兄妹みたいなもんだろ?だったら泊まって行けよ牡丹」


と、そう言った次の瞬間だった、一瞬、そう一秒にも満たない時間、涙の後が残る牡丹の目に憂いが生じた様に感じた。しかし、それに気が付いた瞬間、牡丹の顔はいつもの笑顔に変わっていた。


「うん、そうだよね、お兄ちゃん。私達は兄妹みたいなものだよね」


…俺の勘違いだったのか?


さて、そういう訳で牡丹を家に泊める事になったわけだが、さすがに牡丹も一線はわきまえているらしく、俺の部屋のすぐ横の客間に寝る事になった。

部屋に戻った俺は、さっそく通学バックの中から今日貰ったラブレターを取り出し、ベッドに腰掛け、静かに封を開けて中の手紙を読み始めた。差出人は…おい、マジかよ…女子生徒美人ランキングのトップ組、渡の審査でも、ランクAAAを獲得した。嶋崎しまさきじゃないか。なんでそんな素晴らしい特Aランクの女の子が俺みたいな奴にラブレターを書いたんだ?やっぱあれか?ドッキリか?

とにかく疑問を解決するため、さらにラブレターを読み進める。


~数十分後~

俺は感動の涙を流していた。手紙の文面には丸っこい女の子らしい文字で丁寧に、嶋崎がどうして俺を好きになったのかが、そして嶋崎の俺に対する熱く真っ直ぐで一途な思いが書かれていた。手紙のあちこちには、何回も書き直したのだろう消しゴムで消した後が残っている。それを見て、再び俺の目には涙が流れ出していた。まずい、こんなにも俺の事を考えてくれる女の子がいたなんて。気付かなかった俺は馬鹿だな。

よし、明日さっそくOKの返事を出そう。


そう考えた時だった。


「お兄ちゃ~ん、デザート作っっ…た…


部屋のドアを開け、牡丹が入ってきた。手にはプリンらしき物が入っている小皿と小さなスプーンを持っている。そして、部屋に入ってきた瞬間、いや俺の手に握られたラブレターを見た瞬間に、牡丹の目の色が変わった。そう、いつもの輝くようなキラキラしたものから、深く、暗いものに。


「…お兄ちゃん、その手紙なに…?」


暗い目のまま、牡丹が俺に尋ねる。その言葉には今まで感じた事が無かった程の殺気、そして、『正直に答えろ』という、脅迫に近い威圧感の無言のメッセージが込められていた。


「え、えと、これは、あれだよ、ほら、ラブレター…とか、いうやつだよ」


牡丹の迫力に押され、しどろもどろになりながらも、何とか返事を返す。


「ふ~ん、ラブレター…ね。じゃあ、そんなのお兄ちゃんには要らないよね?邪魔だよね?ほら、渡して?捨てといてあげるから」


牡丹は、笑顔で俺に手を差し出す。しかし、目が恐ろしい程、冷たい目をしていた。俺はそんな牡丹に心底背筋が凍えた。

な、な、何なんだ!?いきなり牡丹はどうしたんだ!?これじゃあまるで…


「……どうしたの?早く渡して?ねぇ、渡してよ…渡してよ…早く渡してよっっっ!!!」


「ヒッ!」


  俺は情けない声を出して後ろに飛び退く、それほどまでに今の牡丹に恐怖した。牡丹はそんな無様な姿など気にせず、俯いたまま呟く様に語る。


「なんで……なんでなの?なんで私の気持ちをお兄ちゃんは分かってくれないの?お兄ちゃんは、ホントのお兄ちゃんより、かっこよくて強くて優しくて、ずっと私が夢見てた理想のお兄ちゃんなのに…なんで、なんでなの?お兄ちゃん、なんで…」


「牡…丹?」


牡丹は語りを止めると共に、視線を上げてじっと俺を見つめた。


「どうしたんだ牡丹。お前、なんか変だぞ… 」

 

 俺は、恐る恐る牡丹に言う。すると、牡丹は急に倒れる様に俺に垂れかかってきた。牡丹の髪の臭いが鼻を擽る


「そうだ…なんで気が付かなかったんだろ。そうだよ、そうすればいいんだ。アは……あははははははっ!」


 そう 急に不気味に笑い出した。ますます異常性を感じる。そして、次の瞬間、とんでもない一言が牡丹の口から発せられた


「ねぇ、お兄ちゃん。今から、お兄ちゃんの足の腱、切るけど別に良いよね♪」


…え?…今、牡丹は何て言った?…オレノアシノケンヲキル?


「大丈夫だよ、動けなくなったお兄ちゃんの面倒は当然、私がキチンと見るよ。だって…」


牡丹は、そこで言葉を止め、しっかり俺の顔を見て言う。満面の笑みだった。


「お兄ちゃんの体には私の一部が混じってるしね。」



「気付かなかった?お兄ちゃんが、おいしい、おいしいって食べてくれたガトーショコラ。あれには私の血が入っているんだよ。あと、お兄ちゃんの好きな唐揚げには私の皮膚が入ってるんだよ。」


「あ、もちろん今日のハンバーグもそうだよ。あれは特別性で、私の髪の毛と皮膚と血と肉と体液が入ってるんだ。ほら、これが証拠だよ。」


牡丹はそう言って目の前で腕を捲る。見ると、そこには今しがた付けたばかりと思われる、刃物によるものらしき生々しい傷跡が無数に存在していた。そして、それを見た瞬間、吐き気が込み上げてきた。

俺は…今まで…人の肉を…牡丹の肉を食べて来たのか…

思わず、自分の口に手を当てる。


「じゃあ、お兄ちゃん。すぐ終わるから、動かないでね」


牡丹はそう言って、背中から何かを取り出す。

それは鋭い銀色に光る小刀だった。


「うふふ~私、いつもこの小刀で体を切ってお菓子や料理に混ぜて来たんだ。今度はこの刀でお兄ちゃんを…うふふっ」


 心底楽しそうに笑いながら牡丹が小刀を振り上げる。


その時に出来た僅かな隙を見つけた俺は


「きゃっ!」


力一杯牡丹を突飛ばし、部屋から飛び出して、裸足のまま、玄関を飛び出し、家の外へと全力疾走をした。


夜の町を全力で走る、小石で軽く足の裏を切ったが走りは決して止めない。だって、走るを止めたら牡丹に捕まりそうな気がした。

 



 俺は走って走って走って、近所の大きな自然公園にたどり着き、迷わず公園の講習トイレへ全力で駆け込むと、トイレの個室に入って勢いよく扉を閉め、鍵をかけた。



「ハァハァッ……。何なんだ……何なんだよ一体っ!」



 口に出して言ってみる。しかし当然答えは浮かばない。少し冷静になった俺は助けを呼ぶため、ジャージの中に入れておいた携帯電話を取り出し電話をかける。



  頼む、出てくれ…!




 そんな願いを込めながら呼び出し音を聞いていると、やがて相手が電話に出た。



「もしもし……どうした?」



「あっ!渡か!?助けてくれ!」



電話に出た渡の、いつも通りのぶっきらぼうな声を聞いて安心し、思わず声が大きくなる。



「ふむ、いきなり『助けて』か、何があった?まぁ、あらかた予想はついてるが。」



 俺は渡の言葉に引っかかりを感じたが、今は気にしないようにし、渡に今日起こった事を話した。



  牡丹の異変



 牡丹の作る食事に混じっていた牡丹自身の血や肉



 そして牡丹が襲いかかって来たこと



 俺の話を全て聞いた後、渡は少し沈黙し、呆れた様に言う。



「まったく……お前な、そういう事なら俺より先に警察に通報しろよ」



「あ」



 今更気付いた。そういえばなんで俺は警察に連絡しないで渡に電話したんだ!?



「まぁ、警察には俺から通報しておく。」


「……しかし今、重要なのは田上、お前の事だ。」


「は?」


「例えば田上。今、この電話を、個室。そうだな……反響から考えて、それもおそらくは公衆便所の個室あたりでしているだろう」


ズバリ当てられた。声が反響でもしていたか?


「当たっていたのなら今すぐ、注意しながら、その場所から離れるんだ」


「!?」


「牡丹ちゃんは、たぶん今、恐ろしい程に勘が鋭くなっているはずだ。そんな時に、こんな大声をだしていたら直ぐに居場所がバレる。そうなったらもう、最悪。こっちは素手、相手は小刀を持っている。結果は目に見えるだろう?」


「で、でも、また隙を付けば…」


「厳しいな、さっきお前が隙を付けたのは牡丹ちゃんも油断していたからだ。だが、次は…」


「じゃあ、どうすりゃあいいんだよ!」

 迫る危機に俺は苛立ち、声を荒げる


「さっき言った事を忘れたか?静かにしろ」


渡は、軽くため息を付いて言った。クソっ、頭じゃ冷静になるべきと分かっているのに!


「とにかく、その場から逃げろ。そして武器を探せ」


「ぶ、武器ってオイ」


「今は、それくらい本気にならないとダメだ。じゃないと…お前、死ぬぞ」


「死…ぬ……?」


「あぁ、元々は牡丹ちゃんは、田上、お前の足の腱を切って監禁をしようとしたらしが、今の牡丹ちゃんがそれだけで済ませようとするとは限らん。勢い余って…と、言うことも十分に考えられるんだ」


勢い余って…少し考えただけで背筋が凍える


「解ったか?じゃあ早く逃げるんだ」


「待ってくれ、渡。最後に一つだけ聞かせてくれ。」


「……出来るだけ、すぐ答えられる質問にしろよ」


「じゃあ言うが渡、お前、予想はしていたって…こうなる事がわかっていたのか?」


「………」


渡は少しの間、口をつぐみ、やがて一言一言、絞り出すかのように言った。 


「…気のせいだと思っていたんだ。ほら、この前、俺も一緒に牡丹ちゃん作った夕食を食べた時があっただろう?」


「あの時、俺は、お前の皿の唐揚げも喰っただろう?あの時にな、味に違和感を感じたんだよ。そう、俺の皿の唐揚げとお前の皿の唐揚げじゃ味が違うと思ったんだ。まるで、肉に何かが混じってるみたいな味がな。」


「それで…か」


「ああ、まさか、牡丹ちゃんの愛情があそこまで暴走しているとは予想外だったんだよ。」


「愛情!?牡丹に好きな人がいるのか?」


すると、電話の向こうで渡がずっこけた音がした。


「オイオイオイオイオイ。田上、それ、本気で聞いてるのか?」


「当たり前だ。全然、心当たりがねーもん」


すると電話の向こうで再び渡がため息を付いた。


「あ~この際、はっきり言ってやる。牡丹ちゃんが好きなのはな……


俺は、そこで否応無しに電話を中断する事になる。


何故なら


トイレのドアにもたれかかかるようにして、電話をしていた俺は


ドアから突然、飛び出して来た刃に


空いてた左腕を斬られたからである。


「うっうわあああああああああっっ!!」


「お兄ちゃん、みぃ~つけた♪」


扉の向こうから、楽しそうな牡丹の声が聞こえる。み、見つかった!


「お兄ちゃんダメだよぅ。そんな大きな声を出していたら私だったらすぐに見つけちゃうよ?」


「あ、あと、お兄ちゃんの悲鳴って、すっごく、いい声だよね。もっと聞きたいなぁ…」


扉の外から聞こえる牡丹の声はうっとりとした声だった。


「ヒイィッ!」


必死で俺は、多少ふらつきながらもドアから離れ、個室の奥へ逃げ込む。

瞬間、俺がドアから離れてコンマ一秒も過ぎないうちに

ダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!

機銃のような勢いで、ドアから次々と刃が飛び出した。ドアは目にも止まらない速さで穴だらけになっていく。もし、あと少し遅れていたら…


やがて、機銃のように飛び出していた刃が引っ込み、出来た穴の一つから、牡丹がこちらを覗いていた。

「あれ~お兄ちゃん、避けちゃダメだよ。大人しく、してなくちゃあ…めっ!だよ」


からかう様に牡丹は言う。しかし、穴から除く牡丹の目は、全く笑っていなかった。そう、その目はまるで獲物を捉えた爬虫類のような目だった。


「ねぇ、お兄ちゃん。鍵を開けて出てきてよ。ほら、早く。早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く…」


牡丹は念仏でも唱えるように呟くながらドアにタックルしはじめた。その一撃でドアは大きく揺れ、ギシギシと悲鳴を上げる。


「だ、大丈夫だよな…いくらなんでも入って来れないよな……」


「無理だな、すぐに、逃げれるなら逃げろ。逃げられないならトイレのシンクの蓋を使って防ぎしつつしのぐしかない」


携帯電話から聞こえてきた、その言葉でハッとする。そう、電話はまだ渡に繋がっていた。慌てて俺は、逃走経路を探す。

よく見てみると、便器の向こう、つまり個室の奥には、換気用の窓が取り付けてあった。多少小さいが、どうにか俺にもくぐり抜ける事が出来そうだ。

俺は、段々と激しくなっていくドアの軋む音に恐怖しながら、窓を全開まで開けて、携帯をジャージに仕舞い、足から外に出る。振り返る時にドアを見てみると恐ろしい事に今だ数分も経っていないのにも関わらず、ドアは大きく軋み、今にも壊れそうだった。牡丹の全く疲れた様子のない楽しげな声が聞こえる。


「お兄ちゃ~ん。待っててね~。今、この邪魔なドアを壊してあげるよ~」

 

 そんな声に震えながら俺は、急いで窓に体を滑り込ませる。乾いたコンクリートの衝撃が足の裏に伝わった瞬間、頭を引っこ抜き、再び俺は全力で走り出した。決して後ろを振り向かずに。

…どれくらい走っただろう。息が上がって、足はガクガクだが、決して走るのを止めない。足を止めた途端に牡丹の小刀が襲いかかってきそうだっからだ。


「やっぱり、闘わなくちゃいけないのか…牡丹と…」


正直、それだけは意地でも避けたかった。牡丹は今あんな状態だが、それでも俺は心の何処かで牡丹を大切に思う気持ちが残っていて、傷つけられても失う事が無かったそれが牡丹を傷つける行動を拒否する。


「…でも、このまま放っておくのは絶対にダメだ。」


と、なると、やはり

  

「闘う…!出来るだけ牡丹が傷付かないように闘って牡丹ともう一度話し合う!!」


そう決めた俺は、とりあえず走りながらも辺りを見渡して、牡丹の小刀に対応出来そうな武器を探す。

と、道の端に積まれた木材の山に気が付く。たしかあれは、来月辺りにこの辺り建設予定の休憩所の材料のはずだ。もしかしたら、手に持てる太さの角材があるかもしれない。それを武器にすれば良いんだ。先程、牡丹に斬られた左腕の傷も浅かったらしく、今はもう流血が止まっている。まさに絶好のタイミングだ。

そう考えた俺は、傷口は塞がっているが痛む左腕を庇いつつ、素早く木材をかき分け、手頃な角材を探す。案外すぐに丁度良い長さと太さの角材が見つかった。長さは50㎝程か。木材の山から角材を引っこ抜き、再び走りだそうと正面を……!


「お兄ちゃん、まぁた見つけたぁっ♪」


 間一髪、牡丹の凶刃を倒れる様に体を仰け反らせて回避する。しかし完全にとはいかずに頬を軽く斬られてしまい、さらに、あまりにも勢いよく避けたため、倒れるギリギリで持ちこたえるつもりが勢いを抑えきれず、後ろからひっくり返って腰を強く打ち付けてしまう。 痛みで動けない俺に牡丹がにじりよる。


「むぅ……お兄ちゃんもう諦めて? 大丈夫、お兄ちゃんには素直になって貰うだけだから…ね、だから大人しくしててね」


 牡丹は笑顔でそんな事を言いながら一歩、また一歩と近づいて来る。牡丹のその姿に強い恐怖心を抱く。まるで背中に冷凍庫から出したばかりの氷柱でも入れられたのかと思うぐらいの寒気を感じた。

 次の瞬間、俺は無意識のうちに恐怖の感情に負けて、左腕に持っていた角材を牡丹に向かって降り下ろそうとして


 当たる直前に正気に戻り、理性がこのまま降り下ろすと牡丹が死んでしまうと理解させた瞬間、角材のスピードを致命的な程に鈍らせた。

 

「しまっ………!」


 当然、角材は牡丹に容易く避けられ牡丹の小刀の刃は迷わず角材を持っている俺の左腕に、重く、深く突き刺さった


「うっっ、ぎゃああああああああああああああああぁぁっっ!!」


 経験した事がない、焼けつく様な激しい痛みが俺に襲いかかり、俺は悲鳴を上げてのたうち回った。

 左腕に絡み付く火傷の様な激しい痛みがあり、左腕が殆ど動かない。だくだくと流れる血は止まらず、鉄錆び臭い臭いが漂って来た。


「あっははははははははははは!やっぱりお兄ちゃんは最高!凄っごくいい悲鳴!」


牡丹は、苦しみにのたうつ俺を見て、狂喜の笑顔で楽しそうに笑う。そして、自身の小刀に舌を這わせてそこに付着した俺の血液を舐めとる。


「あぁっ!やっぱりお兄ちゃんの血は美味しいよ……」

 

 牡丹は、しごくうっとりとした表情で言う


「ねぇ、お兄ちゃん…私から逃げた罰として、もう少しだけお兄ちゃんの悲鳴と綺麗な血を見せて!」


  そうして牡丹は再び小刀を構え、俺に突進するように向かって来る。

 あぁ……何とかしたいとは思っていたがどうやら俺はここまでらしい。そう感じた俺は静かに目を閉じる。

 

そう、全てを諦めた時だった。


「えっ?…きゃあああっ!」


 突如、鋭く空気を切り裂く音が俺のすぐ脇で鳴り、牡丹が悲鳴と共に倒れる音がした。


「やれやれ…ギリギリって所か」

 

 そして


 いつものぶっきらぼうな声が聞こえた。

 

 俺は思わず、閉じていた目を全力で開ける。想像通りの人物がそこにいた。


「わ、渡!?」


「田上、待たせたな。だが来るのが遅いとは言わせない。これでもお前の電話を受けてから心配で、父さんの原付を借りて、フルスピードで走行して来たんだ」


 渡はそう、手に持った木刀を、倒れた牡丹に向かって構えながら言った。


「なんで…」


 倒れた牡丹が呟いた。素早く、俺と渡は視線を牡丹に移す。牡丹は、ゆっくりと立ち上がる。渡が木刀のせいか、倒れた時に打ち付けたのかは分からないが、牡丹は軽く額から血を流していた。その瞳は相変わらず暗く淀み、僅かに怒りが浮かんでいた。


「なんで私の邪魔をするんですか…!渡さん! 渡さんは、私の気持ちを分かってましたよね?分かっているなら、どうして邪魔をするんです?どうして私の行動を理解してくれないんですか?」


「理解…か……」


 渡は、木刀を正面に構えたまま呟く。大抵の場合、無表情なその顔には珍しく、はっきりとした感情の色を見せていた。その表情は、

 

 深い悲しみ、そして確かな怒りだった。


「ああ、確かに俺は牡丹ちゃんが俺と田上に対する感情の違いには気付いていたよ。だから、一歩引いて、牡丹ちゃんを見守る事にしたんだ」


「だったら…私の」


「だが、牡丹ちゃん。今日の事は見過ごす訳にはいかない」

 

 牡丹の話を遮ると、渡は語気を荒げて言う。


「そんな事をしても、本当の田上は牡丹ちゃんを受け入れてはくれない、牡丹ちゃんの言う通りに田上を洗脳しない限りはな」


 げ、素直にするってのはそう言う事だったのか。牡丹に捕まった時の事を考えて血が流れて、ただでさえ寒いのに、さらに寒気が走る。


「うるさい……うるさいですよ…渡さん。そんなに私の邪魔をするなら…」


 牡丹は暗い目のまま小さく呟き、小刀を渡に向ける。


「今ここで、死んでください」

 

 渡は、全く動じずに冷静に分析する。


「ふむ…ざっと刃渡り30cm程か、小刀と言うよりは脇差しに近いか…。おい田上、これを使え」


 渡は、そう言って牡丹を見据えたまま、片手をポケットに突っ込み、包帯を俺に向かって投げる。


「ここは、俺が時間を稼ぐ。その間に腕の傷を押さえて、逃げるんだ」


 そう言い終わると、渡は再び両手で木刀を構える。

「あははっ、渡さんは覚悟はいいですか♪」


 笑いながら、牡丹が小刀を向けながら渡に突撃してくる。それを渡が木刀で弾いて刃先をずらし、激しい激戦が始まった 

 俺は慌てて痛む左腕を庇いフラフラと歩いて、少し離れた所にある茂みに向かい、その影に避難した。

 避難した俺は、さっそく処置をしようと、ジャージの腕を捲る。

 腕の傷は、牡丹の小刀が深く刺さったために、生皮が剥がれ、一部からは筋肉らしい部分が覗いている。その隣の細い管は血管なのだろうか。そのせいか、出血が止まらない。うえぇ、やっぱりかなりグロテスクな事になっている。 だが、当然、そんな事を気にする暇は無い。気にしないようにし、傷がある部分の上の腕に包帯を巻き付けて右腕と口を使い、しっかりと締め付ける。まぁ、流れる血も収まってきたし、とりあえずはこれで大丈夫だろう。俺がそう考え、早速さらなる逃走を進めようと立ち上がった時だった。


 ブチュリ


 そんな感じの鈍い音が背後から聞こえた。


「が…っ…!は…っ……」


 そして、渡の苦し気な声。最高に嫌な予感がして痛む左腕を無視して全力で振り返る。

 そこには、最悪の光景が広がっていた。両腕を、だらんと垂らして、目をカッと見開く渡。歪んだ笑顔を浮かべる牡丹。そして、渡の腹には


 深々と小刀が刺さっていた。


「あははははっ!! 自分から言い出してその程度ですか渡さん!?」

 


 え…?嘘だろ…?

たしか渡は、この前、鉄パイプ持った不良三人を軽く素手で倒したよな?んで、渡って、剣道三段だったよな?俺より断然強い渡が、年下の女の子の、それも素人のハズの牡丹に負ける?嘘…だろ?

 そうしている間にも牡丹は渡の腹から小刀を引き抜き、渡を軽く突き飛ばす。渡はそのまま背後から倒れる。倒れると共に、渡の腹からは血が滲み出した。


「……渡…渡っ!!」


 俺は、いてもたってもいられなくなり、無我夢中で渡に向かって走り出した。


「渡!おい!しっかりしろよ!」


 俺は、渡に駆け寄り必死で呼びかける。渡は俺の呼びかけに、途切れ途切れになりながらも返事を返す。その表情はいつもと変わらない無表情だが安心出来ない。                  


「予想の…数倍は痛む……出血も酷い……一人では…歩けそうに…ない… 」

 

 そう返事を返しながらも渡の目が虚ろになってゆく。本格的に危なさそうだ。


「あれ~お兄ちゃん、来てくれたんだ」


 と、その瞬間聞こえた嬉しそうな声に咄嗟に振り返る。いつの間に近づいていたのか俺の背後にはいつの間にか牡丹が佇んでいた


「それじゃあ、まずはお兄ちゃんに処置をして、渡さんにトドメをさすのは、その後だね♪」


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。絶体絶命、まさにそんな状態だ。俺は、無駄だとは思いながら、右肩で渡を支え、牡丹から歩いて離れようと、する。


「あ、また逃げるんだね。イイよ、100秒だけ待っててあげるね?」


 牡丹は楽しそうに言うと、目を閉じて、いーち、にーい、と数を数え始めた。

 俺は、振り返らない様にして、渡を支えながら必死で足を進める。しかし、そんなに遠く逃げられるはずも無く。先程、俺が隠れていた茂みまで逃げた所で、俺は体力を使い切って倒れた。もう限界だ、頭では逃げなくちゃいけないと分かっているけど体が動けない。もしかしたら渡を此処に置いて逃げれば、まだ動けるかもしれないが、親友を捨ててまで自分の命が惜しいとは思わない。この方法は無し。俺も渡も再び牡丹と戦える体力は無い。よって俺には、打つ手なしって事だ。


「クッソ…!何でだ!?何で、こんな事になっちまったんだ!?」


 俺は思わず悪態をつく。すると一緒に倒れている渡が、今にも消え入りそうな、いつものぶっきらぼうな声で呟く。


「そんな事は決まってる…クッ…こうなった原因は……引き金は…お前だよ田上」


 その言葉の意味が理解出来なかった。俺が呆然としていると、珍しく渡が皮肉るように言った。

 

「やはり分からないんだな。鈍いよ…本当にお前は…致命的に。あのな、牡丹ちゃんはお前が大好きだったんだよ。それも…ゲフッ…!兄妹としてじゃなくて…異性として、な。」


「牡丹ちゃんは、積極的にお前にアプローチをしてきた。だがお前はそれに気付かない。

 そうしている内に牡丹ちゃんは不安になってきた、だから、その不安を消すために、お前と一つになりたくて、料理やお菓子に自分の一部を入れたんだ。」


「暫くの間は、そうしている事で牡丹ちゃんは十分に満足して安心していたんだろう。

 だが、そこで大問題が起こった。」


 渡は、一旦言葉を区切り『分かるよな?』と、いう目で俺を見た。


「俺が…ラブレターを貰って…しかもOKしようとした事か…」


「…Exactly(その通りでございます。)」


 愕然とした、俺は大馬鹿だ。

 なんであの時、渡の忠告の意味を聞こうとしなかった?なんで、牡丹が毎日ように俺の家に来るのかを考えなかった?なんで牡丹が急な話なのに快く引き受けて、夕食を作ってくれたか考えなかった。なんで牡丹の気持ちに気付いてやれなかった!?

 そんな考えが頭を埋め尽くす。自己嫌悪が止まらない。自分の愚かさに吐き気がした。


「しかし、俺は…俺、自身は…今日の出来事の引き金がお前だとしても、その結果で俺が刺される事になってるとしても…お前を恨まない。だから、死ぬ覚悟で助けに来たんだ。」


 渡が、苦しいだろうに無理矢理笑顔を浮かべる。

 何で、お前は笑えるんだ…?

 俺のせい、なのに


「何故?って顔してるな。それは俺がお前を恨まないのは、俺が一番に悪いと思うのは、自分が心から愛しているお前を暴力に頼って自分の物にしようとした、牡丹ちゃん……あるいはそうさせた運命だと考えているからだ」


 それと、もう一つ。そこで、渡は、自身の血に濡れた左手で俺の右手を握って言った。


「俺達…『親友』…だろう?」


 渡は、笑顔で俺に向かって言った。その瞬間、俺はある決断をした。ある行動を起こす事を。


「さぁ、田上。俺を此処に置いて早く逃げろ。なぁに、俺の事は心配するな。何とか出来るなら何とかするし、出来ないなら、それまでさ。さぁ早く行けよ。」


「ごめん、渡。そういう訳にはいかないよ。俺は責任は」


 自分で取る。

 俺は、そう言って走り出す。その方向は


「ななじゅうはぁーち、ななじゃうきゅーう♪」


 目を閉じて数を数えている牡丹がいる方角である。


「なっ、止めろっ…!田上、危険、ゲハッ、過ぎる…ぐうっ!」


 もう叫ぶなよ、渡、血が足りなくなる。

 大丈夫だ、終わらせる。

 俺が、これをスタートさせてしまったと言うなら


俺が、終わらせる。


 勿論、ハッピーエンドで


 はっきり言って保障は、まったく出来ない。実に穴だらけで無茶で馬鹿な作戦だ。だが、それでも俺は実行しよう。

 渡を救うため、そして牡丹を救うため。


「牡丹!聞いてくれ!」


 俺は、牡丹に向かって大声で叫ぶ。目を閉じて数を数えていた牡丹は、数を数えるのを止めて、ゆっくりと目を開く。


「なぁに、お兄ちゃん。やっと大人しく私に捕まってくれるの?」


 牡丹は、歪んだ笑みを浮かべる。止めてくれ牡丹。そんな笑顔は、お前には似合わない。だから…俺は…


「すまない!牡丹!!」


 俺は、出来る限りの大声で牡丹に謝り、それと、同じタイミングで土下座をした。


「えっ…?お、お兄…ちゃん?」

 

 その瞬間、驚きで牡丹の目からあの暗闇が消え、いつもの表情に戻る。俺は、顔を上げて、さらに続ける。


「本当にすまない!俺はお前の気持ちに気付いてやれなかった!そのせいでお前を苦しめてしまった!だから、今日!お前の気持ちが分かった今日!俺は、お前に俺の気持ちを伝える!」


 そうして俺は立ち上がり、牡丹に、渡の話を聞き、牡丹との思い出を探って出した結論。例え俺が偽善と罵られ踏みにじられようが俺の為に命を賭けてくれた渡も、こんな鈍感でどうしようもない俺を愛してくれた牡丹も、これ以上傷付かせない為の心からの思いを伝えた。










「俺も牡丹が好きだ!!」








 牡丹は、俺の言葉を聞いた瞬間に涙を流す。その顔は、完全に俺の記憶に残る。佐原牡丹の姿そのものだった。


「や…やったよぅ…お、お兄ちゃんが、お兄ちゃんが、私の事を好きだって言ってくれた…お兄ちゃんが私の気持ちに気付いてくれた…お、お兄、ヒクッ、お兄ちゃぁぁぁん」


 牡丹は小刀を捨て、泣きながら俺に向かって駆け寄る。俺は、痛む左腕も気にせず両手を広げて牡丹を迎え入れる。牡丹は両手でしっかりと俺に抱きついた。


「ごめんねお兄ちゃん!料理やお菓子に体の一部を混ぜてごめんね!お兄ちゃんに怪我させちゃってごめんね!渡さんを刺しちゃってごめんね!ごめんね!ごめんね!ごめんね…」


 牡丹は俺の腕の中で、必死で謝りながら泣き崩れていた。俺は、牡丹を安心させるために、優しく頭を撫でてやる。


「大丈夫だ……大丈夫だよ牡丹。俺はお前に怒ってなんかいないし渡だって……牡丹が心から謝るなら、きっと許してくれるさ。俺が約束する」


「お兄ちゃん、ありがとう…ありがとう……」


 俺は、そう言うと赤ん坊のように泣きながら抱きついて甘えてくる牡丹の頭を撫でてやる。と、突如牡丹は、少しオドオドしながら言った。


「あ、あのね、お兄ちゃん。お願いがあるんだ……」


「……何だ牡丹?」


「あ、あの、その、お兄ちゃんは嫌だと思うけど…」


 牡丹はそこで再び区切り、オドオドしながらしかし迷わずに口にした。



「お兄ちゃんの……お兄ちゃんのお肉を私にちょうだい……」



 ああ、何だ、そんな事か。


 俺は、瞳に小さな狂気の色を浮かべる牡丹の言葉に答えるため笑顔で頷く。俺は、知らなかったとは言え、牡丹の心を傷つけてしまったんだ。そのくらい安いもんだ。


「じゃ、じゃあ、その…いただきます……」


 ゆっくりと顔を近づけてくる牡丹。その淡い、桜色の唇が目に止まった、と、その瞬間、俺の唇を暖かい感覚が優しく包み込む。


 優しく、柔らかいキスだった


 数秒程して、牡丹は唇を離すと、今度は牡丹は、俺のジャージをずらして、左肩を露出させるとそこに、そっと顔を近づける。

 

 大丈夫、もう、何も恐くない。後悔もしない


 俺は心からそう思い、牡丹の背中を撫でた。


 次の瞬間、牡丹は俺の左肩の肉を食いちぎった。










――3ヶ月後――


「まったく…本当に馬鹿で、間抜けで、穴だらけな作戦だな。そもそも作戦と言うべきかさえ怪しい。」


「そう言うなって。お陰で俺も渡も、牡丹も助かったんじゃないか。」


 退院して、速攻で俺に愚痴を言う渡を、俺はそつ言いながら肩を叩いて宥めた。

 あの日、牡丹が俺の肉を咀嚼しおえた後、ふと、辺りを見ると、いつも間にか、やたらに体格の良く、男臭い顔の若い警察官が近くにいた。その、警察官は、一部始終を見ていたらしく。妙に高いテンションで


『うん中々、面白いのを見せて貰った。お前らに免じて、この事件を無かった事にしてやるし、俺の友人の病院に連れていってやる。その代わり、また何かあったら必ず俺に連絡しろよ』


 と言って、戦いで壊れた公園の一部をマッハの速度で元に戻し、俺と渡と牡丹をパトカーに乗せて、法定速度を軽く50㎞はオーバーする速度でパトカーを走行して、自分の知り合いの病院へと連れてゆき、携帯番号と名前が書かれた名刺を置いてさっさと立ち去った。


 …嘘の様な話だが本当の話だから余計に混乱する


「それにしても、あの警察官の人は一体何者だっただろうな?」


「さぁな……俺達が分かってるのは名前と職業くらいだ」


  そう言うと渡はあの日あの警察官に貰った名刺を出す。そこには、やたらに太いゴシック体の文字で


『史上最強の警察官、ながれ 大和やまと


 と、書かれていた。


「史上最強なんて名刺に書いてある人、俺初めて見たぞ……」


「まぁ常識的に考えているはずは無い。もし仮にいたとしても俺は、精神を疑う」


 俺の、呟きに渡も同意する答える。それほどまであの警官は全てが異質だったのだ


「……お兄ちゃ~ん!渡さ~ん!お昼ご飯作って来たよ~。一緒に食べよ~」


 と、間延びする声が聞こえて来たために、そこに視線を向けると息を切らせ、遠くから走ってくる牡丹の姿が見えた。よく見ればその片手にはバケットを持っている。


「おや……お前の嫁が来るぞ。しかも、何やらテンションが高いようだな」


「ああ……この後、デートだから」


「ふん、早速色ボケしやがるな」


 渡はそう、ひねくれた様に言うものの、その口と目は確かに笑っていた


 そして体力の無い体で頑張って走って近付いて来る牡丹もまた、俺とのデートが楽しみなのか汚れの無い、可愛らしい笑顔を浮かべていた。


「ふふっ……」


 そんな二人を見て、つられて俺もまた気づけば声に出して笑っていた





 見上げた空は青く美しくどこまでも透き通り、今日はデートは最高の物になりそうだと、俺は確信じみた晴れやかな気持ちでそう思った。

次回は、ヤンデレは、スポーツ少女を書きます。更新は…なるべく早めにします(^^;

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