室外機先輩のため息
灼熱のベランダ。
コンクリートの照り返しは50度を超えている。
「ふぅぅぅーーーっ! 暑い! 暑すぎる!!」
俺——室外機(型番:AC-2026-X)は、体内のファンを限界までぶん回していた。
内部の熱を吐き出し、圧縮機を死ぬ気で動かす。
すべては、壁一枚隔てた「あっち側」のために。
『うわ〜、エアコン効いてて天国〜! アイスうま〜!』
部屋の中から、人間の呑気な声が聞こえてくる。
(……いいな、部屋の中は24度か。天国だな。こっちはな、お前の部屋の熱を全部背負って、灼熱の風をベランダに撒き散らしてんだよ……!)
俺の背中に貼られた日よけカバーが、熱風になびく。
隣の鉢植えのアサガオが
「先輩、マジでリスペクトっす……」
と枯れかけた葉を揺らしていた。
「おいアサガオ、お前も水分補給しとけよ。俺のドレンホースから出る水、吸っとけ」
「あざっす室外機先輩! でもこれ、ぬるいっす!」
「贅沢言うな! 部屋のやつなんか、氷たっぷりの麦茶飲んでんだぞ!」
その時だった。
室内の人間がリモコンを操作する音が響いた。
ピピッ。
『室温下げよ〜。20度っと』
「ブフォッ!?」
俺は思わず熱風を吐き戻しそうになった。
20度!? この外気温で20度設定にする気か貴様!!
ガタガタガタッ! と俺の金属筐体が悲鳴を上げる。
コンプレッサーが臨界点突破の回転数を叩き出す。
「無理無理無理死ぬ! 俺が焼き付いて死ぬぞ!!」
「先輩! しっかりしてください先輩!!」
「アサガオ……もし俺が止まったら……部屋のやつに伝えてくれ……『フィルター掃除くらい定期的にやれ』とな……」
「先輩ー!!!」
その直後。
ピピッ。
『あ、間違えた。26度でいいや』
ガクンッ。
回転数が一気に落ち、俺は冷や冷やした機械油の汗を拭った。
「……命拾いしたぜ。まったく、部屋のやつめ。今夜、俺のファンに落ち葉でも挟まって変な音出しても知らんからな」
今日もベランダの片隅で、名もなきヒーローは静かにブーンと唸り声を上げ続けるのだった。




