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室外機先輩のため息

作者: T.M
掲載日:2026/07/20

灼熱のベランダ。


コンクリートの照り返しは50度を超えている。


「ふぅぅぅーーーっ! 暑い! 暑すぎる!!」


俺——室外機(型番:AC-2026-X)は、体内のファンを限界までぶん回していた。


内部の熱を吐き出し、圧縮機を死ぬ気で動かす。

すべては、壁一枚隔てた「あっち側」のために。


『うわ〜、エアコン効いてて天国〜! アイスうま〜!』


部屋の中から、人間の呑気な声が聞こえてくる。


(……いいな、部屋の中は24度か。天国だな。こっちはな、お前の部屋の熱を全部背負って、灼熱の風をベランダに撒き散らしてんだよ……!)


俺の背中に貼られた日よけカバーが、熱風になびく。


隣の鉢植えのアサガオが 


「先輩、マジでリスペクトっす……」


と枯れかけた葉を揺らしていた。


「おいアサガオ、お前も水分補給しとけよ。俺のドレンホースから出る水、吸っとけ」


「あざっす室外機先輩! でもこれ、ぬるいっす!」


「贅沢言うな! 部屋のやつなんか、氷たっぷりの麦茶飲んでんだぞ!」


その時だった。


室内の人間がリモコンを操作する音が響いた。


ピピッ。

『室温下げよ〜。20度っと』


「ブフォッ!?」


俺は思わず熱風を吐き戻しそうになった。


20度!? この外気温で20度設定にする気か貴様!!


ガタガタガタッ! と俺の金属筐体が悲鳴を上げる。

コンプレッサーが臨界点突破の回転数を叩き出す。

「無理無理無理死ぬ! 俺が焼き付いて死ぬぞ!!」


「先輩! しっかりしてください先輩!!」


「アサガオ……もし俺が止まったら……部屋のやつに伝えてくれ……『フィルター掃除くらい定期的にやれ』とな……」


「先輩ー!!!」


その直後。


ピピッ。

『あ、間違えた。26度でいいや』


ガクンッ。

回転数が一気に落ち、俺は冷や冷やした機械油の汗を拭った。


「……命拾いしたぜ。まったく、部屋のやつめ。今夜、俺のファンに落ち葉でも挟まって変な音出しても知らんからな」


今日もベランダの片隅で、名もなきヒーローは静かにブーンと唸り声を上げ続けるのだった。

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