The ママの味(il sapore della mamma)
200年続いた味の話を、ひとつの御伽噺として書きました。
静かに読んでもらえれば十分です。
200年間、変わらぬ製法でトマトソースを作り続けている、そのメーカーの会社ロゴを、俺が変えた。
一新したのは見た目だけではない。
経営、営業から製造まで組織を刷新、製造方法にも効率化の手を入れた。
そういう依頼だった。
わかっている、何より大事なのは味だ。
味覚センサー分析によって、従来製品との味覚グラフは一致させた。
某国の新進気鋭パネルによる官能評価も済ませている。
俺自身でも味はみている。
俺はこの国の出身ではないから、この舌が役に立ったとは言えんがね。
しかし、どうやら売上げが芳しくない。
リサーチによれば「おなじみさん」にあたる高齢世代の支持が下がり、それよりも下の世代にも陰りが見える、とのことだ。
生産性は向上させた、味は変わっていない。
だとすれば新たなロゴが、おなじみさん世代にはどうしても浸透しづらいのかも知れない。
心因的な要素で一時的に売上げが落ちるなど、無いことではない。
…まあいい、おなじみさん世代など、どうせすぐにいなくなるのだから。
消費者にも世代交代を、会社と同じ様に、な。
この国にはかつて、数多の家庭料理に使われ、どの世代にも親しまれたトマトソースがあった。
それは「The ママの味(il sapore della mamma)」と呼ばれていた。
中東あたりがまたきな臭くなり始めた年、ひとつの法律が制定された。
トマトソースの製法に関わる法律だ。
材料とその割合、使用する器具、調理時間など「伝統の継承」を理由に、事細かに決められた。
その製法から外れたものはトマトソースとしての販売を認めない。
その製法とは、あるメーカーが現在とっている製法、そのままであった。
そして数年、中東情勢も落ち着いた頃、この国からトマトソースは姿を消した。
読んでくださり、ありがとうございました。




