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The ママの味(il sapore della mamma)

作者: qmmkruz
掲載日:2026/05/21

200年続いた味の話を、ひとつの御伽噺として書きました。

静かに読んでもらえれば十分です。


200年間、変わらぬ製法でトマトソースを作り続けている、そのメーカーの会社ロゴを、俺が変えた。


一新したのは見た目だけではない。

経営、営業から製造まで組織を刷新、製造方法にも効率化の手を入れた。

そういう依頼だった。


わかっている、何より大事なのは味だ。


味覚センサー分析によって、従来製品との味覚グラフは一致させた。

某国の新進気鋭パネルによる官能評価も済ませている。

俺自身でも味はみている。

俺はこの国の出身ではないから、この舌が役に立ったとは言えんがね。


しかし、どうやら売上げが芳しくない。

リサーチによれば「おなじみさん」にあたる高齢世代の支持が下がり、それよりも下の世代にも陰りが見える、とのことだ。


生産性は向上させた、味は変わっていない。


だとすれば新たなロゴが、おなじみさん世代にはどうしても浸透しづらいのかも知れない。

心因的な要素で一時的に売上げが落ちるなど、無いことではない。


…まあいい、おなじみさん世代など、どうせすぐにいなくなるのだから。

消費者にも世代交代を、会社ここと同じ様に、な。



この国にはかつて、数多の家庭料理に使われ、どの世代にも親しまれたトマトソースがあった。

それは「The ママの味(il sapore della mamma)」と呼ばれていた。



中東あたりがまたきな臭くなり始めた年、ひとつの法律が制定された。

トマトソースの製法に関わる法律だ。


材料とその割合、使用する器具、調理時間など「伝統の継承」を理由に、事細かに決められた。

その製法から外れたものはトマトソースとしての販売を認めない。

その製法とは、あるメーカーが現在とっている製法、そのままであった。


そして数年、中東情勢も落ち着いた頃、この国からトマトソースは姿を消した。


読んでくださり、ありがとうございました。


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