人の道②
東京は珍しく、大雪が降った。朝はいつもの雪で大雪と言う段階ではなかった。
千花ちゃんは「雪が強くなる前に食べ物を探してくるね」と言って、出かけた後だった。だけど、千花ちゃんはまだ帰ってきてない。
「大丈夫かな。道に迷ったりとかしてなければいいけど」
私は未だに帰ってこない千花ちゃんの心配をしながら、外を眺めていた。
目の前には、他の色は受け付けない白い世界が広がっていた。でも、私はこの光景は見たくはなかった。
あの日も…直前までは、この世界だったからー。
ガタン!
突然、玄関の方から大きな音が聞こえてきた。私はその音の正体を確かめるために音がした方向を見る。
でも、ここからだと、その正体を確かめることができなかった。
「ここからじゃ、何が来たかわからない。怖いけど…見に行くしか…もしかしたら、千花ちゃんが帰ってきたのかもしれない」
私はそう呟きながら、音がした方向へと歩く。
恐る恐ると歩みを進めていると、視界に映ったのは千花ちゃんの姿だった。私はその姿を見て、駆け足で近づく。
「千花ちゃん、大雪で寒かったでしょ。早く中に入ろ」
私は雪で白くなった髪を落とした後に、彼女の冷えた手を取って、中に入れようとした。だけど、千花ちゃんは動こうとしなかった。
「どうしたの?中に入らないと風邪をひいちゃうよ」
私は不思議と思いながら千花ちゃんの方をよく見てみる。もしかしたら、どこかしら怪我しているのかもしれない。そう考えたら、痛みで動けないんだと納得できる。
千花ちゃんが怪我してないかを確認しながら、私は千花ちゃんの体が少しでも冷えないように手は握ったままにしていた。
「ねえ…菊ちゃんはどんな私でも一緒に側にいてくれるよね?」
千花ちゃんが震えた声で突然聞いてきた。私には、なんでそんことを聞くんだろうと思うしかなかった。
だけど、そう考えていた直後に私は見つけてしまった。千花ちゃんの着ているものに…朝には付いていなかった赤い何かが付着していたのだ。
「と、当然でしょ。今の私には千花ちゃんしかいないんだからさ」
私は少し動揺したが赤い何かは見なかったことにした。ここで、それを聞いてしまったら、ダメな気がしたから。
「なら、よかった。じゃあ…今日はご馳走だよ。たまたまね、肉が手に入ったんだ!」
千花ちゃんは急に元気になって、一つの袋を見せてきた。その袋には底の方が赤く染まっていた。ここまで見てしまったら我慢できなかった。
「ねえ、千花ちゃん。この肉は貰い物だよね?」
その質問を聞いた千花ちゃんは、急に動きを止めた。また、さっきみたいに動かなくなって、静かな時間が流れる。
「ごめん。千花ちゃんが答えずらいことなら、答えなくていいからね」
私はこの空気感に耐えられなくて、千花ちゃんにそう伝える。いや、聞きたくないような答えから逃れようとしただけかもしれない。
「どんな私でも一緒にいてくれると言ってくれたよね」
千花ちゃんは持っていた袋を地面に落とす。その時に『ベチャ』と言う。その中には本当に肉が入っているんだと、確信した瞬間だった。
「この肉は貰い物じゃないよ」
千花ちゃんは諦めたような笑顔をこちらに向けて、静かに話し始める。私は千花ちゃんが見せる、初めての表情に声が出なくなる。
「これは…人の肉だよ。さっきね、殺したんだ。この刃物で…これで持っていける量になるまで解体したんだ」
千花ちゃんは着物の裾から包丁を取り出した。その刃先には赤く染まった血のような物が付いているのが確認できた。
「なんで、人を殺したの?」
私は千花ちゃんの方をまっすぐ見て聞いた。
「二人で生きたいから」
千花ちゃんは私の目を見ずに少し下の方を見ていた。私はその姿を見た時、考えることもなく、千花ちゃんの手を取って、中に入る。
私は何か言うことはできなかった。でも、頭の中では答えは出ていた。
千花ちゃんを部屋の方まで連れて、座らせた後、千花ちゃんが持っていた袋を持ってきた。
「菊ちゃん、怒っているよね…」
千花ちゃんはもう諦めているような声になっていた。きっと、私が何にも言ってこないからだろう。
勿論、何にも言ってくれなかった千花ちゃんには怒っている。困惑だってした。でも、私はただー。
「怒っているよ」
私はそう簡単に言った。
「そうだよね。もう…私は後には引けない。だからさ、別れてもいいんだよ」
千花ちゃんは完全に私の方を見なくなっていた。
「私は…そんなことを言ってほしいわけじゃない。私が言いたいのはなんで、一人で抱え込もうとしたことに怒っているの」
私は顔が見えない千花ちゃんの背中に顔を埋めた。その時に千花ちゃんの体は微かに震えていることに気がついた。
「私は千花とこれからも側にいたい。別れるなんてしたくない」
私は千花ちゃんの背中から腕を回して抱きつく。
「いいの?私といたら…」
千花ちゃんは回した手を握った。その手は入口にいた時と比べて、さらに冷たく感じた。
「千花から私のことを連れ出したじゃん。もう今更、千花ちゃんから離れるなんて考えないよ」
そこまで言うと、千花ちゃんは体を動かして私の方をやっと見てくれた。その顔は泣き顔だったが、表情はとても可愛らしい笑顔だった。
私はもう我慢ができなくなった。千花ちゃんの唇にキスをした。
この後は先のことなどは考えず、たとえ、人として駄目な道に進むとしても、私は千花と生きるんだ。




