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幼なじみ

 昨日とは違って赤い世界の中にいた人々の姿はなく、黒くなったものになって白い世界の中に溶け込んでいた。


 しばらく歩いていると人の姿がちらほらと見えてくる。

 その場所は比較的黒いものが少なく原型を保っている物が多かった。


 ひとまずここなら食い扶持に困ることは少ないはずだ。


 親とはぐれてとか言えば、大人の人たちは同情して何かしらくれるだろうから。


 同情を誘うために私は演技の涙目を用意し、大人たちの近くに行こうとする。


「菊ちゃん?」


 後ろから聞き覚えのあるような声が聞こえてきた。


 私は声が聞こえた方を振り返る。


 そこにいたのは私と一番仲の良い友達の原田千花が立っていた。


「千花ちゃん?無事だったの?」


「うん。私もお母さんたちも無事だったよ」


 千花ちゃんは笑顔で答えてくれる。


 だけど、その笑顔を見たら私はなぜか胸が苦しくなる。


 あの赤い世界を鮮明に思い出してしまう。


 でも、千花ちゃんは何も悪くない。


 私とは違って…みんな生き残ったから嬉しくなるのは当然だ。


「そうなんだ。千花ちゃんのお母さんは無事なんだ…」


「菊ちゃんのお母さんは?一緒じゃないの?」


 千花ちゃんは「なんでお母さんと一緒じゃないのかな?」と、疑問に思っている顔をしていた。


 答えづらい。


 でも、答えないと、


「お父さんとお母さんは私の目の前で真っ黒になったよ」


「えっ…」


 千花ちゃんは驚きと困惑したような顔になる。


 その後、千花ちゃんは悲しい顔をして、何か気まずい空気になってしまう。


「ごめん…菊ちゃん。何も知らずにお母さんが無事とか言っちゃって…」


 千花ちゃんは泣いてしまった。


 その涙は今の私にとってはとても暖かい物に感じた。


「ううん。大丈夫だよ。知らなかったんだし。それにお母さんたちが無事だったら私も千花ちゃんと同じ気持ちだろうから」


 私は感情が爆発しそうになるのを我慢した。


 お父さんとお母さんがいない。


 私が頼れる人なんてもういなくなっていると思っていたから。


 千花ちゃんは優しいからそんな当たり前の気持ちでもすぐに謝ってくる。


 そんな千花ちゃんが今は私にとっての拠り所なんだ。


「千花ちゃんが生きてくれていただけでも私は嬉しいから泣かないで」


「でも…」


「私なら大丈夫だから。千花ちゃんのお母さんたちが無事で本当によかったよ」


 そこまで言うと千花ちゃんは私に抱きついてきた。


 さっきまでは冷たい感覚に襲われていたのに今はなんだか暖かい。


 ずっとこのままでいたいと感じてしまう。


 そんなことを感じていると、千花ちゃんは抱きつくのをやめて真剣な顔でこっちを見てくる。


「菊ちゃん。私の家に来ない?」


「えっ?いいの?」


 千花ちゃんの提案に私は少し驚いてしまった。


 千花ちゃんの家には病気で長い時間動くことが難しいおじいさんがいる。


 ここはあんまり黒いやつは少ないから大丈夫なのかもしれない。


 でも、ここら辺にあったであろう食料や薬はもう簡単には見つからないかもしれない。


 千花ちゃんのお母さんの負担になってしまうかもしれない。


 こんな状況下だと人に頼ることは本来は断るべきなのかもしれない。


「大丈夫だよ。菊ちゃんは私の親友なんだから。お母さんもおじいちゃんもおばあちゃんも理解してくれるよ!」


 千花ちゃんは笑顔で言ってくれる。


「分かった。千花ちゃんと一緒にいるよ」


 私がそう言うと千花ちゃんは顔をぱっと明るくさせてきた。


「うん!その方がいいよ!」


 そう笑顔で言った千花ちゃんは私の右手を掴んで引っ張って行く。


 私はそれに従っておとなしく引っ張られていく。


 私たちは人が多いところを抜けて、どんどんさっきまで見ていた黒い塊が多い所に出てきた。


 横を見ると昨日、お父さんとお母さんが死んだ場所が見えていた。


 こっち側は確か一番最初に赤い世界になった場所だよね。


 千花ちゃんはなんでここに連れてきたんだろう。


 私は少し不安になってきた。


「千花ちゃん?」


 名前を呼んでみても千花ちゃんからの反応はない。


 まるで私をどこかに連れて行こうとしているんじゃないかと思ってしまう。


 しばらく千花ちゃんに引っ張られていると黒い塊しかない場所で立ち止まる。


 私は周りを見ながら何か胸騒ぎした。


「ここ、私の家があった場所なんだ。そして、この下にみんないる」


 千花ちゃんは指を差しながら笑顔で言ってくる。


「なんで、笑顔なの?」


 私は震えた声で聞く。


「だって…菊ちゃんのことを独占することができるじゃん」


 私は千花ちゃんが何言っているのか分からなかった。


 確かにこの状況を見れば千花ちゃんのお母さんやおじいさん、おばあさんは死んでいる。


 私も親が目の前で死んだから頼れる人は千花ちゃんしかいない。


 でも、私には一つだけ疑問があった。


「なんで、おばさんたちが生きていると言ったの?」

 私は困惑混じりに千花ちゃんに聞く。


 けど、千花ちゃんから返ってきた返事は衝撃のひと言だった。


「だって…菊ちゃんは私には優しいからこうやって嘘でもついておけばついてきてくれるでしょ」


 千花ちゃんの表情は笑顔のままだった。


「それに私も菊ちゃんも頼れるのはお互いしかいないんだからさ!これからはつ二人で生きていかないとだよ!」


 千花ちゃんは淡々と喋り続けている。


「大丈夫だよ。私たちならやっていけるよ」


 私が困惑している様子に気がついたのか両手をとって笑顔でそう話してくる。


 でも、私はどう返事をすればいいのかわからなくて、黙り込んでしまう。


 静かな時間は長く続き、まるで私の反応をするのを待っているみたいになっているように感じる。


「うん。千花ちゃんと一緒に生きていくよ」


 私は決断した。


 今、頼れる人は千花ちゃんしかいない。


 それに一人で行動するよりかは誰かと一緒にいた方がいいに決まっている。


「菊ちゃんならそう答えてくれると思ったよ。じゃあ、行こうか」


 千花ちゃんは笑顔で言い、私の手を取ってその場を去り始める。


 私は「これで良いんだ」と、思いながら千花ちゃんに手を引かれる。


 その先には白と黒の世界しかなく、まさに寂しい道だった。

 

 

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