真っ黒
戦争だからこそ奪われてしまうものがある。
家族や友人、大切な宝物を失ってしまう。
私は30年前に戦争を経験した。
その時に家族も感情も全てを失った。
そんな私は生き抜くために必死になった。
そんな私の…全てを失ってしまった物語。
時は1944年。東京府。
雪の降る寒い日私たちは神社へと赴いていた。
なんでそんなことをしに来たかと言うと私の国の軍隊が勝てることを祈るために赴いている。
お父さんはたいえき軍人?とかいう物で元々軍の人だったから。
そのため、私もお母さんも毎年、この時期にはせんしょうきがん?という物をしているの。
でも、私は一つ不思議なことがあった。
なんで、こんな寒い日にせんしょうきがん?という物をやりにいかないといけないのか。
別にこんな雪が降っている時じゃなくてもいいじゃん。
暖かい日でも問題ないじゃん。
「お父さん、お母さん。なんでいつもこんな雪の降る日にせんしょうきがん?という物をやりにいくの?」
お父さんとお母さんの手を繋いで歩きながら、ぴょんぴょんと跳ねながら聞く。
「それはお国のために戦っている人たちを応援するためでしょ」
「それはわかっているの!」と、心の中で思った。
だけどそれを言うと、「それでいいじゃん」と不思議そうに返されてしまう。
だから、これ以上の何かをいうのをやめる。
本当は雪の降る寒い日に行く理由を教えて欲しかっただけなのに。
お母さんの返答に不満を覚えたまま歩いていると少しずつ白い世界のなかにある朱い鳥居が見えてきた。
雪で積もった道はとても寒く足の感覚がなくなりそうになっていた。
だから私にとってはあの赤い鳥居が見えてきたのは嬉しい。
やっぱり、足元に雪が積もっていない神社は足の感覚がなくならないまさに最高の場所だからだ。
ワクワクと心を弾ませながら、つないでいた手をぱっと離して神社の赤い鳥居に向かって走り始める。
その直後に耳がキーンと鳴るような轟音が遠くの方から聞こえてくる。
私はその音に耐えられなくて耳を押さえる。
一体なんなのかとワクワクとした気持ちで見ると、白い世界の中に赤い色の世界と空へと昇っていく灰色の物が見えた。
いつの間にかワクワクとした気持ちは消え、何が起きているんだろうと興味が不思議と湧いてきていた。
「ねぇ…お母さんー」
私がそれを言いかけた時に再びキーンと耳が鳴るような大きな音が聞こえた。
私はまた耳を塞ぐ。
そして、今度は突風が吹き荒れて飛ばされないような踏ん張ることしかできなかった。
でも、すぐに突風は収まった。
一体何なんだったのだろう、不思議な突風だなと思って、お母さんたちの方を見ると、目の前は赤い色の世界に染まっていた。
本当はすぐにでも逃げないといけないと思っているのに、なぜか身体が動かない。
その世界に取り憑かれたのか分からないけど、なぜか注視してしまっている。
なんでだろう
なんでなんだろう
あぁ…
目の前でお母さんとお父さんが丸焦げになっているのを見ているんだ。
なんで
逃げないとじゃん
逃げないと自分も死んじゃうよ
なのに私の足は身体は動かない
さっきまで私の方に駆け寄ってこようとしていたお母さんは腕を伸ばしながら黒くなっていた。
お父さんはもうすでに形が見えなくなっていた。
しだいにお母さんの身体が伸ばしていた腕から順番に身体が崩れていくのを見る。
そんな酷い光景を見続けてしまう。
すると赤い世界はだんだん目の前から聞こえていく。
奥にも赤い世界が広がっているのが見えた。
その世界にもお父さんとお母さんみたいになっている人も多くいるのが見える。
黒い塊だけとなった二人を見たら、なぜか私は動けるようになった。
赤い世界が広がっている方へと私は歩みを進める。
焼き焦げたにおいが辺りに充満していているが、私はそのことなど気にもしなかった。
それに、目の前でお父さんとお母さんが死んでいく過程を見ていたのになんで悲しくないんだろう。
嬉しくもないんだろう。
なんでなんにも感じないんだろう。
なんでこれからどう生きていこうかなとかしか考えてないんだろう。
周りでは声にならない悲鳴が四方八方から聞こえてくる。
私と同じぐらいの子が私のお父さんとお母さんと同じような感じになっていて号泣している。
何も分からずにお父さんかお母さんがいるから赤い世界へと飛び込む私よりも小さい子。
私よりも下の子か同じぐらいの子が赤い世界に覆われてしまい泣き崩れてしまうお母さん。
そんな景色を私はなんにも感じない、辛さも感じない、同情も湧いてこない。
その後のことは記憶はぼんやりとしている。
赤い世界を歩いていたような…そうじゃないような…
夢のような世界。
そうだ。
この赤い世界が夢ならばお父さんとお母さんが目の前で死んでいないはずだ。
だから…目が覚めればきっと…元通りなはず。
赤い世界を見ていたのか分からない状態の中、私は白い世界へと意識を向ける。
………。
変わってない。
あの世界と変わってない。
だって…知らない天井なんだもん。
身体を静かに起き上がらせてみると辺りには黒くなった家の跡地とかが最初に目に移る。
少し歩くと「ぐちゃ」と言う音が聞こえてきた。
その音の正体を探るため下を見ると身体の半分が黒くなっている女の子の姿があった。
だけど私はそれを踏んでも何も感じることがなかった。
ただ汚いし臭いなしか感じなかった。
だって赤い世界での出来事が夢ではないのであれば…お父さんとお母さんは私の目の前で死んだ。
こんな赤の他人の死なんて気にするなんて必要ない。
「はやく…食べれる物を探さないと」
死体のある道をぐちゃぐちゃとまだ昨日の雪が残っているところをザクザクと歩いて進む。
ただ、何か食べる物を探すために。




