13、蒼黒2
コリンと共に居間を出てガイが眠っている部屋へと向かう。
ガイの容体が気掛かりだった。部屋の外に待機していた騎士に確認すると、気を失ったガイをアーネストが担いで戻ってきたらしい。
「魔力切れを起こしたようです。ですが隊長がすぐに処置をしたので今は眠っているだけだと」
外傷も特にないらしい。エリスとコリンは一先ずほっと胸を撫で下ろした。
室内に入るとガイが静かに眠っていた。
エリスはガイの首筋に手を当てて魔力の流れを確認した。特に問題はないようだ。
「大丈夫そうですね」
コリンの言葉にエリスも頷く。二人はガイのことは看病の騎士に任せてそれぞれ宛がわれた部屋へと向かった。
エリスは肘掛椅子に腰を下ろすと軽く足を組んで肘掛部分に両肘をついて指を絡めて思案した。
「問題はリアの変化だな……」
雪白にアイスブルーを溶かし込んだような綺麗で珍しい蒼色の髪。黒髪でなくなってしまったことは少し残念だけれど、神秘的な蒼色もオーレリアに似合っていたから別にいい。
問題は瞳の色だった。
エリスは一瞬だけ目にしたオーレリアの漆黒の瞳を思い出して目を瞑った。
美しい黒曜石のような黒だった。
黒い瞳は王位継承権を与えられる色だ。現在王位継承権を持つのはオーレリアの長兄である王太子とその下の第二王子、次いで国王の末弟でウィルフレッドの父親の黒の公爵、そしてウィルフレッドの四人だ。
双黒のウィルフレッドは国民に人気がある。そのことを王太子はあまり快く思っていない節があり、二人の間には距離があった。そのウィルフレッドがオーレリアの遊び相手となったため、王太子はオーレリアとも距離を置いている。
オーレリアは国王に溺愛されている妹だが黒瞳を持たなかったため王太子にとってはそれ程問題もなかった。だが、もしも王太子がオーレリアの瞳が黒に変わったことを知ったら。エリスは眉間を軽く揉んで息を吐いた。
面倒なことになる予感がした。
翌朝、エリスは起きるとすぐにオーレリアの様子を見るため彼女の部屋を訪れた。オーレリアは昨晩のうちにアーネストによって彼女に宛がわれた部屋へと移されていた。コリンは既に起きていて、オーレリアの部屋の外で見張りを担当していた。
オーレリアはまだ目を覚ましていないということだったが、室内にいたアーネストの許可によりエリスは入室することが出来た。
エリスは寝台に横たわるオーレリアを一瞥して瞠目した。
オーレリアの髪の色が黒に戻っていたのだ。
「アーネスト殿……これは」
アーネストはちらりとエリスに視線を送るとすぐにオーレリアへと戻し、言った。
「……あの時殿下はトランス状態になられたのだ。魔力の変質が起き、御髪や瞳の変色が発生したのだろう。だがその状態が途切れ、沈静化したため元の色に戻ったのだ」
「では、瞳の色も?」
「恐らく戻っておられる」
「………!」
エリスは安堵なのか残念なのかわからない吐息を零した。
トランス状態とは自分の能力の限界を超えた力を振るえる状態のことを言う。
本来人は自身の持つ力の数割しか使用していないが、緊急事態などに際して驚くべき力を発揮することがある。火事場の馬鹿力などがそのいい例だ。ただしその代償として使用後はとてつもない疲労感に襲われ、倒れてしまう場合が多い。
アーネストによると、トランス状態は滅多に起こることではないらしい。あの時のオーレリアの集中力は神懸っており、気力体力ともに充実した状態だったために奇跡的に起こせたのだろうということだった。
「太い糸を極小の針孔に通すようなものだ。殿下の凄まじい集中力で奇跡的に成功したが、そうそう思い通りに制御出来る物でもない。今の段階ではな」
「今の段階では……?」
エリスはアーネストの思わせぶりな発言に眉根を寄せた。アーネストはちらりと横目でエリスを見遣ると、そのダークチョコレート色の瞳を細めた。
「……殿下がご成長され、魔力制御が出来るようになれば話は変わってくる」
「……!!」
「殿下はいずれ蒼黒となられるだろう。それは良くも悪くも殿下の周りが騒がしくなるということ。心しておくがよかろう」
予言のようなその言葉にエリスは小さく呻いた。
「……そんなことが」
「過去に例がないわけでもない」
「!!」
アーネストはそれ以上は口を閉ざし、慈しみの籠った眼差しで眠るオーレリアを見つめた。
(……本当に、興味深い方ですね……)
アーネストの盲目的な忠誠心がどこから来るのかも気になるが、オーレリアの髪と瞳の色が変わるという事態の方がエリスにとってはとても興味をそそられるものだった。それが面倒なことにならなければもっと純粋に楽しめるのだろうが。
(覚悟をしろということでしょうか)
この先もオーレリアの側に居るために。生半可な気持ちでは居続けられない。その覚悟を問われている。
だが、エリスは複雑な物事を紐解くことが得意で、むしろ単純な事態よりも好む傾向にあることを自覚していた。




