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蒼黒のオーレリア  作者: 桐島ヒスイ
第二部 人攫い撲滅作戦編

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12、人攫い撲滅作戦3





 オーレリアは離宮の警護に残っていたジェロームの元へ向かった。

 アーネストが不在の現在、彼が臨時の責任者兼アーネストへの連絡係だった。

「ジェローム。妾は貧民街の近くまで行きたい」

 オーレリアの話を聞き終えたジェロームはしばし沈思した。

「……わかりました。では手筈を整えましょう。準備が出来るまで殿下はお身体を休めておいてください」

 あっさりと言われてオーレリアは拍子抜けした。

「アーネストに許可を取らなくてよいのか?」

「隊長は許可されますよ」

 ジェロームは朗らかに笑った。

(殿下が隊長の側に居たいと仰ったことにすればよいのだ、きっと泣くほど感激される)

 ジェロームが勝手にオーレリアの気持ちを意訳していることなど知らずにオーレリアはほっとしていた。

(なんだ……別にこそこそせずとも最初からアーネストにお願いすればよかった)

 側に居たコリンはジェロームの思惑を感じ取り、オーレリアの身を案じて蒼褪めた。

「副隊長……」

「コリン、おまえはすぐに馬車の準備を」

 ジェロームはコリンにそれ以上言わせず、コリンは諾々と従うより他なかった。


 エリスはジェロームが許可したことに驚いた。彼がアーネストに事後承諾の形を取ったことにも。

「本当に……アーネスト殿に確認せずともよろしいのですか?」

「ご心配召されるな、エリス卿。殿下を潜入させるわけではないのだ。寧ろ隊長殿のお側に居られた方が安全だろう。隊長も殿下のお側に居る方が意欲が高まるであろうし」

「ジェローム殿がそう仰るのなら」

 エリスとしては事後承諾だろうとアーネストがオーレリアの動向を把握出来れば別に構わないだろうと思っている。ジェロームが後で怒られようと、どうでもいい。


 エリスはオーレリアの意志を尊重したいのだ。彼女の身の安全を最優先に考えるなら行かせるべきではない。けれど閉じ込めるだけでは王女の成長は見込めない。

 エリスは師として教え子の成長と、純粋にオーレリアという少女がどう動くのかを見たかった。





 夕刻、オーレリアはエリスやコリンと共に下町の外れに位置する古い建物の中にいた。

 そこはアーネストが所有する屋敷の一つで、今回の作戦の司令室となっていた。

 地下競売はこの建物の近くで行われるらしい。

 建物の外観は古く寂れたような雰囲気だったが、中は快適に過ごせるよう整えられていた。

 オーレリアたちが屋敷内に入ると、すぐにアーネストの元へ案内された。

 オーレリアはエリスの魔術で商人の小間使いに姿を変えていた。屋敷内に入った時点で魔術は解かれ、オーレリアは元の姿に戻っていた。オーレリアは簡素ながらもドレス姿だ。移動や突発的な事態に備えて鍛錬服を着るつもりだったのだが何故かジェロームにドレスを指定されたため、比較的動きやすいものを選んだが、どうにも場違いな気がしてならない。だがエリスもコリンもドレスを推奨してきたのでオーレリアは首を傾げながらもそれに従ったのだった。

「殿下、お疲れではありませんか。すぐに飲み物を」

 アーネストはオーレリアの心配をよそに彼女を上機嫌で迎えた。側に控えていた騎士が素早くお茶を用意してくれた。

(本当に大丈夫だった。邪魔だと言われると思ったのに)

 ドレスも場にそぐわないと眉を顰められるかと思ったのだが。

 オーレリアは呆気にとられたが、ほっと肩の力を抜いて自然と笑みを浮かべた。

「アーネスト、邪魔をして済まない。首尾は?」

 アーネストはうっとりと蕩けるような表情でオーレリアを見つめた。

「殿下が邪魔のはずがありませんよ。ガイは恙なく組織に買い取られました。彼らを尾行することに成功し、競売にかけられる人々が集められている場所もわかりました」

 作戦は上々のようだ。

(よかった。……ガイも酷いことをされていないといいが)

 頷くオーレリアにアーネストはふと表情を引き締めた。

「殿下、この屋敷からは絶対に出ないでください。それだけはお約束ください」

 オーレリアはきゅっと身が引き締まる心地で頷いた。流石にこれ以上の我儘を言うつもりはない。


 ジェロームが敢えてオーレリアにドレスを着るよう指示したのはオーレリアの動きを封じるためと、単純に騎士たちだけの殺風景な詰所に可愛らしい花を投入して彼らの、というかほぼアーネスト限定で士気を高めさせるためだろうとエリスとコリンは読んでいた。

 ドレス姿の少女は嫌でも目立つ。オーレリアがこっそりと屋敷を抜け出すことは不可能だろう。

 そして例え地味目のドレスといえども、王女がいるだけで場が華やいだ。まだ幼いながらも整った容貌は人目を惹く。オーレリアには気品と王女らしい風格があり、騎士たちからすれば鍛錬服を着させることはむしろ申し訳ないとさえ思うのだった。




 離宮の侍女たちが持たせてくれた軽食で簡単に夕食を済ませると、オーレリアはエリスに寝台に押し込められた。一応緊急事態に備えてドレスは着たままだ。

「リアはもう寝る時間です。寝るまでここにいますから」

「妾は総大将なのだぞ」

「でも子供です」

「エリスも子供ではないか」

「リアより年上です。リアが寝たら寝ます」

「……眠れぬ」

「では子守唄を歌いましょうか?」

「……歌えるのか?……いや、そういうことではなく、ガイが……一人で頑張っているのに、妾だけ」

 エリスの子守唄はちょっと聞いてみたいと思ってしまったが、ガイのことを考えると心配と罪悪感で胸がちくちくと痛む。

「ガイは図太いのでこういう時はさっさと寝ますよ」

「……ガイは優しい子だ」

「そうですね。優しい子だからこそ、リアが危険なことをしたり不安で眠れないことを知れば哀しみます」

「……わ、わかっている。でも」

 エリスはふわっと微笑んでオーレリアの額を撫でた。

「リア。ガイはアーネスト殿が必ず無事に取り戻します。アーネスト殿の強さはご存知でしょう?」

「それでも不安なのだ」

「仕方ないですね……」

 次の瞬間、オーレリアはぎゅうっとエリスに抱きしめられていた。

「エリス!?」

「リア。大丈夫ですから。……信じて待つのも総大将の務めです。ガイは強い少年です。貴女は明日、笑顔でガイを迎えてください。目の下に隈なんて作っていたらガイが心配します」

 エリスの腕に力強く抱きしめられて、オーレリアの心から不安がほろほろと消えていった。

 こくりと小さく頷くと、エリスが腕の力を緩め、瞼の上に口付けた。

「では、お休みなさい、我が姫」

 優しい声が耳に落ちるのと同時にオーレリアの意識は途絶えた。







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