12、人攫い撲滅作戦2
二日後、捕えた男たちのうち二人にガイを人身売買組織に連れて行かせた。残りの三人は人質だ。
男たちはアーネストによってたっぷりと調教され、ガイに余計な手出しや組織に告げ口などしたら殺されるよりも酷いことをされると刷り込まれていた。そのためガイと対面してもガイが拍子抜けするほど大人しかった。それどころか怯えているようだった。
男たちの後をアーネスト率いる一隊が密かに尾行する。
競売が開催されるのは翌日だ。アーネストはこの競売に参加する客たちも一網打尽にするつもりだ。そのためガイは一晩人身売買組織に囚われることになる。
オーレリアは心配で堪らなかった。
離宮出発直前、オーレリアはガイにお守りを与えた。
「ガイ。おまえの無事を祈っている」
爪先で立ってガイの頬に口付けをしたのだ。
ガイはこれからならず者に捕えられて人身売買組織に売られる。衣服は初めて出会った時のボロボロの物を着ており、形のある物は持つわけにいかない。
オーレリアはどうすればガイを守れるか必死に考えた。書物を沢山漁って調べた。
そこで見つけたのが魔力の加護を与えるという方法だった。
それは古来より受け継がれし愛する者の無事を願って行われる儀式。
オーレリアに口付けられたガイは固まった。
じわじわと頬が染まり、首まで真っ赤になった。エリスはガイがこれから危険な任務に入ることを勘案して仕方ないと目を瞑った。少し羨ましくは思ったけれど。
しかしアーネストは納得しなかったようだ。ガイは後ろから物凄い殺気を感じた。怖くて振り向けない。
紅かった顔が一気に蒼白になった。
その場にいた誰もが思った。アーネストは大人気ないと。
ガイたち一行が離宮を出た後、オーレリアは素早く鍛錬服に着替えてコリンの元へ向かった。コリンは今回オーレリアの護衛のため離宮に待機している。
「コリン、妾と来い」
「姫さま、嫌な予感しかしないんですが」
コリンが顔を引き攣らせるとオーレリアは首を傾げた。
「別に危険なことはしないぞ。貧民街の近くまで行って作戦の成功を祈るだけだ」
「なんで貧民街の近くに行くんですか!ここで待っていましょうよ」
「落ち着かぬのだ。せめて近くまで行きたい。ガイやアーネストたちは夜も眠らずに任務に当たるのだろう?妾だけぬくぬくといつも通りなど出来ぬ」
「大将とはそういうものなんですよ!姫さまはどーんと構えていないと」
「コリン、頼む」
「っ……!!」
オーレリアに頭を下げられてはコリンに選択の余地などなかった。
(あぁ……隊長に殺されるな……)
コリンは遠い目をして天を仰いだ。
オーレリアとコリンがこそこそと馬車に乗り込んでいる所へエリスが現れた。美しい笑顔を浮かべているが、一目見たオーレリアは蒼褪めた。
「リア?どちらへ行かれるのですか」
「……」
オーレリアの頭の中で目まぐるしく言い訳が踊る。けれどそのどれもエリスに通用するとは思えなかった。オーレリアは観念して正直に言うことにした。
「……エリス。妾は少しでもガイの近くに行って無事を確認したいのだ。こんなところで結果を待つだけなど嫌だ」
「……アーネスト殿に内緒でですか?それは彼に対する裏切り行為ですよ」
「!!そんなつもりは」
「リア。どうしても近くまで行きたいのなら作戦の指揮を執っているアーネスト殿の許可を取りなさい。でなければここは通しません」
厳しく言われてオーレリアは項垂れた。
アーネストに言っても許してくれるわけがないと端から諦めていた。いや、きっとそれ以前に彼に対する苦手意識が彼への交渉を厭わせたのだろう。オーレリアは自分の弱さと卑怯さを痛感した。
「……わかった。アーネストに言う」
踵を返すオーレリアの後を追うコリンにエリスは絶対零度の微笑を向けた。
「コリン。あとでお仕置きです」
「……………」
コリンは頬を引き攣らせたが、小さく頷いて先を行く幼い主の後に付き従った。コリンは自分では止められなかった王女を止めたエリスに尊敬の眼差しを向けた。
(すごいなエリスさま。うん。お仕置きは……仕方ないよなぁ)
若干涙目になってしまったけれども。




