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蒼黒のオーレリア  作者: 桐島ヒスイ
第二部 人攫い撲滅作戦編

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9、ガイの覚醒2





 目を覚ますと心配そうに自分を見つめるオーレリアの顔が間近にあった。

「ひ、めさま……?」

 本物……?と呟くガイに、オーレリアは安心したように破顔した。

「よかった、気付いたな。ガイ、具合はどうだ?」

 ガイはじっとオーレリアを見つめた。夢の続きなのか現実なのか、よくわからない。手を伸ばすとオーレリアがきゅっと握ってくれた。温かいその感触に、胸の奥が締め付けられる。

「姫さま」

「……ガイ?」

 掴まれていた手をぐいっと引き寄せられてオーレリアはガイの胸に抱きしめられた。

「よかった……ひめさま、……もうダメかとおもった……」

「ガイ!?……どうしたんだ?妾は大丈夫だぞ」

 オーレリアは混乱したが、ガイの混乱の方が重症だと感じ、宥めるように背中をぽんぽんと撫でた。するとさらにぎゅっと抱きしめられた。ちょっと苦しい。

「……そこまでです、ガイ」

 エリスがガイの腕を緩め、オーレリアを引き寄せた。エリスの声は少し不機嫌だ。オーレリアは益々困惑した。

「エリス、ガイの様子が」

「……ええ。少し混乱しているようですね」

 エリスはオーレリアを安心させるように微笑むとやんわりと彼女を追い出した。

「少しガイと話します。リアは後で見舞いに来てください」

 オーレリアはガイの様子が心配だったがニーナが一人で心細がっているのではないかと思い、後ろ髪を引かれながらも部屋を後にした。


 ガイは寝台の横に置かれていた椅子に座ったエリスに物問いた気な目を向けた。

 エリスは軽く息を吐くと仕方なさそうに口を開いた。

「まず、おまえを驚かせてしまいすまなかった。見た通り殿下はご無事だ。……あの時木立の脇にいたのはコリンだ。俺の幻惑の術で殿下の姿になっていたんだ」

 ガイは目を見開いた。

「……どういう」

「……おまえがなかなか魔力を発現出来ないから、アーネスト殿と試してみたんだよ。おまえは自分がどれだけ瀕死の状態になっても発現させなかったが、大切な人を傷付けられそうになって初めて守るために魔力を発現させた」

 エリスの表情が柔らかく優しいものになった。

「……おまえは優しい心の持ち主だよ、ガイ。その力は大切な人を守るために使うべきものだ。騎士に相応しい力だよ」

 その言葉はガイの心の柔らかい部分に触れて強く響いた。オーレリアを守る力。胸の奥から湧き上がるのは嬉しいという感情。誇らしいという思い。

 エリスはまだ何か説明をしていたが、ガイの頭には何も入って来なかった。

「……試して悪かった。本物の殿下を囮にするわけにはいかないからいざとなったら直前で避けられるコリンを代役に使ったんだ。殿下はこのことをご存じない」

 ガイが聞いていないことに気付いてエリスは苦笑したが、咎めはしなかった。

 嬉しそうに笑ったガイの瞳から涙が溢れた。エリスはハンカチを貸してやり、ふわふわの赤毛を撫でた。そんな自分にエリスは内心驚いていた。エリスにとってガイは既に弟のような存在になっていたのだった。これまで他人に無関心だったエリスが誰かを大切に想うようになるなど、本人でさえもあり得ないと思っていた。オーレリアに出会ってから、予想外のことばかり起こる。知らなかった自分を知ってゆく。それはとても楽しいことだった。

「……まったく…貴女の側は退屈しないな。リア姫」

 くすりと笑って独り言ちたエリスの言葉は誰にも聞こえなかった。だからエリスがとても優しい表情で少女の名を大切そうに呼んだことも、誰も知らない。




 オーレリアの囮役をしたコリンはアーネストの弾いた剣が真っ直ぐに自分の心臓を貫く角度で飛んできたことに肝を冷やした。

「割と本気で俺を殺そうとしてましたね……」

 恨みがましく半眼で睨むがアーネストは微塵も動じることなくむしろ楽しそうに笑った。

「本当に死にかけなければガイの魔力を引き出せないからな」

 アーネストはガイの魔力量は相当あると睨んでいた。だからそれが表出していないのならば暫くはそのままにしておいた方がいいとは思っていた。膨大過ぎる魔力は小さな子供の身体には毒だからだ。

 オーレリアは生まれつき魔力が表出していたためそれを抑える術を施しているがそれでも時折抑えきれずに噴出し、オーレリアの身体を蝕む。身体が成長すれば魔力も安定し、制御も本人の意志で出来るようになるがそれまでは適当に誤魔化すしか為す術がないのが実情だ。

 それを承知で強硬にガイの魔力を引き出したのは、身体が丈夫であることと、この先予期せぬ場面でガイの魔力が発現し、それにガイ自身が混乱して暴走することのないように慣らしておく必要があったからだ。

 ガイはオーレリアと歳が近い。それはオーレリアの護衛騎士になりたいガイにとっては有利な条件だった。強い魔力を持つのなら尚更。ただし完璧に魔力を制御出来ることが前提だ。そしてオーレリアがガイを気に入っている現状、常に近くにいるためには不安定な状態でいさせるわけにはいかなかった。

 だがガイはなかなか魔力を発現出来なかった。

 自身がどれ程命の危機に瀕しても。けれどオーレリアを守ろうとしてあっさりと魔力を制御してみせた。

 オーレリアの姿を纏ったコリンにぶつかる寸前だった剣を一欠片も残さず、コリンに傷も付けず焼き尽くした。想定以上の成果だった。

「鍛え甲斐のある子供だ」

 くつりと楽しそうに笑うアーネストにコリンは頬を引き攣らせた。

「……ほどほどにお願いしますね……?」

 そう言いながらもコリンもガイを鍛えるのは愉しいだろうなと思い小さく笑った。







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