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蒼黒のオーレリア  作者: 桐島ヒスイ
第二部 人攫い撲滅作戦編

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6、コリン――雷光――3





 自室に戻ったオーレリアは盛大に混乱していた。

(エリスは妾の婚約者候補……なのか!?)

 ほっぺたを押さえてぐるぐるしている小さな主に侍女は困惑した。

「殿下、如何なさいました」

「にゃ!?んでもにゃい!!」

 噛んだ。

 侍女は目を丸くしてオーレリアを見下ろした。じわじわと王女の頬が紅く染まっていくのが堪らなく可愛らしくて侍女は内心身悶えた。

「殿下、頬をどうされました?」

「こ、これは……噛まれ……いや、舐められた?」

 なぜ疑問形、と思いながらも侍女は瞬時にきりっと表情を変えた。

「まあ、犬ですか?」

「犬ではない!」

「では他の動物!?この離宮にそのような……すぐにアーネストさまにご報告を」

「ちがう、人だ!」

「………ひと?」

 侍女の声が一段下がった気がしたがオーレリアはアーネストへの報告だけは阻止しなければと焦っていたためそれどころではなかった。

「……殿下、お相手はまさかガイ……それともコリンさんですか?」

 オーレリアはそこで漸く侍女の不穏な様子に気付いた。何やら顔が怖い。

「ちがう、二人ではない」

「では一体誰が――」

 怖い顔で壁際まで追い詰められてオーレリアは白状した。

「……エリスだ」

「……まぁ、エリスさま?」

 侍女はポカンとした。少々意外な人物だったようだ。

「……エリスは妾のこ、婚約者候補……だと言っていた」

 本当だろうかと窺うように上目遣いで侍女の顔を見上げると、侍女は微笑んだ。

「……殿下はどう思われましたか」

「……嘘を、言っているようには見えなかった」

「いいえ、そうではなく。………お嫌でしたか?」

 オーレリアは瞬いた。……嫌?エリスにも聞かれた。

「……わからない……」

 オーレリアの胸に一瞬ウィルフレッドが浮かんだ。けれどそれを打ち消すようにオーレリアは首を振る。

(兄さまはちがう……)

 泣きたくなるのを必死に堪える。

「殿下がお嫌でしたらお断りになってもよいのですよ」

 オーレリアが首を振ったのを嫌だと思ったのか、侍女が優しく慰めるように言う。

「そうなればエリスさまとはもうお会いすることもなくなりますが……」

「――それは嫌だ」

 オーレリアは反射的に答えていた。エリスと会えなくなるのは嫌だった。

「……エリスに側に居てもらうためには、妾は婚約しなければならないのか?」

 途方に暮れるオーレリアに侍女はふわりと笑んだ。

「今すぐ結論を出す必要はございません。あくまでエリスさまは候補者のお一人ですから。選ばれるとは限らないとエリスさまもわかっておられます」

 オーレリアは困ったように眉根を寄せた。

「……それでよいのか?……妾はエリスにどう接したらよいのだ」

「殿下はこれまで通りでよろしいのですよ。まだお小さいのです、これからゆっくり将来どなたと一緒にいたいか考えてゆけばよいのです」

 侍女は柔らかく言葉を紡いだ。だが次の瞬間、目が眇められる。

「――ですがエリスさまには少々厳しくお諫めしなくてはなりませんね。まだ殿下にほっぺといえどもキスは早すぎます!」

 低くて早口だったのでオーレリアは侍女がなんと言ったのか聞き取れなかった。小首を傾げると侍女はあら、ほほほと誤魔化し笑いをした。

 オーレリアはエリスとは今まで通りでいいと言われて少しほっとしていたため、侍女のことは構わず放っておくことにする。

(エリスが悪いのだ。いきなりあんなことをするからびっくりするではないか)

 ほっぺたがじんじんと熱を持っているようで、オーレリアは落ち着かなげに頬を手で押さえるのだった。



 一方、アーネストに引き摺られて行ったコリンは。

 アーネスト直々に剣の稽古を付けられていた。

「脇が甘い。まだまだだな、小僧」

「……!!」

 雷光の異名を持つコリンは決して弱くはない。まだ細身の身体から繰り出される攻撃は軽いけれど一瞬で急所を突く速さは誰にも避けられない。――はずなのだが、アーネストは例外だった。軽やかに舞うようにコリンの剣を避けている。その合間に当たったら骨折すること間違いなしの重い攻撃を甚振るように遊ぶように仕掛けてくる。

(――この人、絶対ドSだ!!)

 コリンの顔が引き攣る。避けるので精一杯だ。段々と反撃する余裕がなくなっていく。

「殿下に近付く不埒な輩は全て排除しろ。それ以外でお前が殿下のお側にいることは許さん」

(姫さま大好き病もここまで来るといっそ清々しいですね!)

 王女はまだ六歳で近付いた不埒者であるところのガイはまだ八歳だ。心配し過ぎというか、狭量過ぎではないだろうか。――思っても絶対に言えないが。


 一時間程休憩なしで攻撃を受け続けたコリンは疲労困憊だった。だがアーネストは涼しい顔でさらりと容赦なく鬼畜命令を下した。

「外周五周」

「……!!」」

 コリンは呻いた。だが逆らう術はない。それにこの扱きを受け入れる覚悟をしたばかりだ。

 気力を振り絞ってよろよろと門の外へと向かったのだった。






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