6、コリン――雷光――2
「ガイへの教育が終わるまでは彼に近付いてはなりません、殿下」
「ガイは悪気があったわけでは」
「存じております。ですから罰するつもりはありませんが教育は必要です」
庭園を見渡せるテラスで優雅にお茶を飲みながらエリスは笑みを湛えてオーレリアの擁護を撥ね付けた。取り付く島もないとはこのことだ。
ガイは執事のジョナサンに預けられた。
コリンはアーネストに引き摺られてどこかへ消えた。
ニーナもメイドたちに連れられて行ってしまった。そろそろお昼寝の時間なのでそのためだろうとオーレリアは自分に言い聞かせる。
ガイに抱きしめられてオーレリアは胸の奥に抱えた孤独が癒されたのを確かに感じた。
ガイがオーレリアを好きだと言ったのは、オーレリアの「きらいなのか」という問いに対する返事だ。
最初はびっくりして固まってしまったが、すぐにわかった。
あれは仲直りの抱擁だ。それがオーレリアには嬉しかった。うそ偽りなくガイがオーレリアを大切に想ってくれていることが言葉よりも雄弁に伝わってきたからだ。
確かに主従の関係であればあんな接触はあってはならないのだろう。しかしオーレリアにとってガイとニーナは使用人というよりは自分が保護したこどもで例えるなら弟や妹のような存在だった。ガイは年上ではあるが、兄というよりは自分が守るべき対象という気持ちが強いため弟だ。
オーレリアは二人を大切にしたかった。過酷な境遇にいた二人を守ってあげたいと思ったのだ。
だからガイが主従の垣根を越えてオーレリアがガイを大事だと思うのと同じようにオーレリアを大事だと言ってくれたことが嬉しかった。
少し避けられていると感じていただけに余計に。
他の使用人のように一歩引かれてしまうのは淋しいと思っていた。けれどそれをエリスはダメだという。
オーレリアは立ち上がった。エリスは突然のオーレリアの行動に怪訝そうな表情をしたがマナーとして腰を上げた。
オーレリアはつかつかとエリスに近寄ると、ぶつかるようにエリスに抱き付いた。
「殿下……!?」
エリスが珍しく狼狽えた。
「妾はエリスのことをただの家庭教師だとは思っていない。……と、ともだちのように思っているぞ。……嫌か?」
見上げて来る碧眼は拒絶されることを恐れるように不安を浮かべている。エリスはやられたと嘆息した。
ただの家庭教師だと言われるよりも嬉しいと感じてしまった。
抱きしめ返してあげたいとも。それをすればガイのことも見逃さなくてはならなくなる。それは少し気に食わない。けれどここで拒絶すればオーレリアが傷付くことは目に見えていた。そしてエリス自身もそれを後悔するだろうことも。そんな風に自分が思うことは予想外だったけれど、悪くないと思った。
エリスに選択の余地はなかった。だが素直にそれを選ぶのは少々面白くなかったのでほんの少しだけオーレリアを困らせてやろうと決めた。
膝を付いてオーレリアと目線を合わせてにっこりと微笑む。
「……嫌です」
オーレリアの胸がズキッと痛んだ。が、直後にふわりとエリスに抱きしめられた。
「……ともだち、はね。俺は殿下の婚約者候補の一人なので」
ちゅ、と音を立ててオーレリアの頬に口付ける。
「殿下の一番になりたいのです。……嫌ですか?」
オーレリアがものの見事に硬直した。じわじわと顔が紅く染まってゆく。それを見てエリスの溜飲が下がった。エリスの楽しそうな笑い声が庭園に響いた。




