【幕間】宮廷占術師エーギルの見た夢
「頼む!助けてくれ!ニーナが病気なんだ」
必死の形相で頼み込むガイに貧民街の住人たちは冷ややかだった。
「人買いに売ればいいだろ」
まっとうな人間が住む下町とは違い、貧民街は人情も倫理も欠落している者たちの集まりだ。誰も手を差し伸べてなどくれない。
そしてガイはニーナを奪われた。
「高い薬を買ってやったんだ、対価を貰うのは当然だろ?」
ニーナを助けてやると言って薬を与え、その薬代の対価としてニーナを奪う。
どのみち奪うことが前提の行為は先に救いを与えることでよりその後の絶望を深くするだけだ。
ガイは男たちに散々殴られ、甚振られ、瀕死の状態で放り出された。
だが悪夢はここで終わりではなかった。
ガイはニーナの行方を追った。そして人買い市でどこかの貴族に買われたことを突き止めた。だが誰が買ったのかまでは分からなかった。
人攫いたちはガイも売るつもりだった。だが気性の荒いガイは扱いにくく、調教が必要だと考えていた。そのため先にニーナを取り上げたのだ、人質とするために。
ガイは男たちに乞い願った。ニーナの行方を教えて欲しいと。男たちはガイに教える代わりにと汚い仕事をさせた。ガイは歯を喰いしばって屈辱に耐えた。しかし男たちは中々教えてくれない。元々教えるつもりはなかったのだ。ガイも成長するとともに薄々そのことに気付いた。けれど他に方法がなく、ほんの少しでも可能性があるならと組織に身を置いた。
ニーナを奪われてから三年が経った頃。
貧民街のどぶ川に小さな遺体が浮かんだ。薄桃色の髪の少女だった。
身体は傷だらけであちこち痣があった。遺体はニーナだった。
遺体を目にした瞬間ガイは半狂乱に陥った。
そして直後に貧民街は大炎上したのだった。火は数日間消えず、被害は下町にまで及び、かなりの部分が焼け落ち、多くの住民が犠牲になった。
その日を境にガイは貧民街から姿を消した。
尤も、多くの人が犠牲になったため、亡くなったのか行方不明なのかわからない人間はガイ以外にも大勢いた。
だがガイはそれから五年後、王侯貴族が集う魔術学院に入学する。ある貴族の養子として――。
*****
宮廷占術師エーギルは頭痛を堪えて重たい瞼を上げた。
(心配はいらぬ…………姫さまが未来を変えて下さる…………)
少しずつ、エーギルの未来視とは異なる現実になっている。
ほんの少しのきっかけ、ささいな出来事によって未来は無数に枝分かれしていく。
(姫さま、懸命に生きなされ…………その姿勢が周りの者の心を動かすのです)
エーギルは口元に優しい笑みを浮かべると、そっと瞼を下ろした。




