はじまりの日
秋月春菜は日常の学校生活を始める。
軽やかな会話とふとした仕草の中に、ありふれた日々にも奇跡が潜んでいることを見いだす。
チャイムが鳴り、廊下は声で満ちた。
春菜はリュックを整え、教室へ入る。
おはよう、春菜。机を並べる友達、さやかが声をかける。
おはよう。文学の課題、もう終わった?
頑張ったけど、寝ちゃったの。
春菜は微笑む。先生が入って授業が始まる。窓が風で開き、カーテンが揺れた。陽の光が思いがけず差し込み、春菜はじっと見つめる。
何を見てるの?後ろから亮が声をかける。
別に…今日は光が違う気がするだけ。
また変なこと言うな。
春菜は視線を落としながらも微笑んだ。休み時間、校庭でさやかと座る。
パン、食べる?
ありがとう。
亮がノートを持って近づく。
図書室に忘れてたよ。
見つけてくれたの?
うん。雨が降りそうだから濡れないように。
春菜はそれを大切に受け取る。まるで贈り物のように。空は暗くなり、雨粒が落ち始めた。生徒たちは廊下へ走るが、春菜は雨の下に立ち止まる。
入らないの?亮が傘を差しながら尋ねる。
雨の音を聞きたいの。
じゃあ聞けばいい。でも風邪ひくなよ。
亮は傘を広げ、春菜の隣に立つ。二人は並んで教室へ戻る。春菜はその小さな仕草を、日常に隠れた奇跡だと感じた。
放課後、荷物を片付ける春菜をさやかが見つめる。
なんで笑ってるの?
今日は特別だったから。
雨はまだ降り続いていた。春菜は思う。毎日には秘密がある。誰も気づかなくても。




