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6話「担任初日、銀髪の生徒から決闘申請!?」

一章【10話】までは毎日投稿の予定です



『お疲れ様でした。ソウイチロウ先生』


『先生はやめてくださいよ副校長……』


『ホッホッホ、なかなかに堂々としていたぞい』


始業式を終えた俺、天龍宗一郎は、再び学園長室を訪れていた。壇上で浴びたあの大仰な称号に、いまだ頭がクラクラしている。


『しかし何ですかアレ。さすがに話を盛りすぎじゃないですか? 天才魔導士とか。それに精霊魔導士って……聞いてませんよ。会場ざわついてましたし』


『簡単に言えば、エリートの中のエリート、さらにその頂点の称号みたいなもんじゃな』


『どんだけですか⁉︎』


めまいが本気でしてきた。俺がそんな大層な存在として紹介されてたのか。


『ふふっ。まぁアレだけ盛っておけば、貴方にけしかける生徒も出てこないでしょう。割と居るんですよ、力試しに教師に挑んでくる生徒が……』


副校長が眼鏡の奥でニヤリと笑った。

ーー食えない人だ。そこまで織り込み済みか。


『それでは、そろそろクラスに行く時間ですよ? いきなり教師が遅刻するのはよろしくない』


『しかし、俺……魔法の授業なんて出来ないですよ?』


『ふむ、今日は軽い挨拶と顔合わせだけじゃ。授業は無いから安心なされ。それに……』


学園長が俺の左手に視線を落とす。

そこには、淡く光を帯びた銀の指輪がはまっていた。


『その指輪を無くさないように気をつけてくださいね。貴方がここで生活できるかどうかは、半分その指輪にかかっているのですから』


俺も指輪を見下ろす。

ーーそう、この指輪はこの世界の言葉を翻訳してくれる“翻訳指輪”。言語だけじゃない。文字や記号も理解できるらしい。

この世界に召喚された時から、すでに俺の指にはめられていた。浴場でのドタバタ続きで気にもしなかったが……どうりで会話が通じるわけだ。


(これ、もし日本にあったらノーベル賞どころじゃないよな……)


そんな馬鹿げた妄想で気を紛らわせつつ、俺は学園長室を後にした。


⸻⸻⸻


長い廊下を歩く足取りは、やけに重い。

(俺、本当に教師なんてやっていけるのか……)

胸の奥に不安が広がる。だが、窓の外に広がる空はやけに澄み切っていた。見慣れない鳥たちが飛び交い、遠くには浮遊する島まで見える。

本当にここは、もう俺の知る地球じゃないのだと改めて実感する。


俺の手には一冊の本があった。金色の龍の紋様が浮かぶ、赤い表紙の魔導書。昨日、この学園長室で渡されたものだ。


⸻⸻⸻


【昨日・学園長室】


『教師のフリ……ですか?』


『ええ、そうです』


副校長は静かにそう告げ、机の上に重々しく魔導書を置いた。


『その魔導書は少し特別でしてね。魔法を扱えぬ者でも、一定の条件下で魔法を行使できるようになるのです』


『ーーつまり、それでうまく“誤魔化せ”と?』


『ふふ。誤魔化すとは人聞きが悪い。私はただ、“フリ”をしてやり過ごして欲しいと言っているのですよ』


『……』


『ほんとうは、こんなことを強いるのは心苦しいのじゃ。だが、魔法が使えない君の正体が露見すれば、教会が動くじゃろう。捕らえられれば……いつ解放されるか分からぬ』


学園長の真剣な眼差しに、俺は息を呑む。

これはただの脅しじゃない。本気だ。


魔導書の封印を解く時に見せられた、あの尋常じゃない術式。コレは普通の本じゃ無い。

今はそれだけの“緊急事態”ってことだ。


『ーー分かりました。その話に乗ります。すべてを信じる訳じゃありませんが……俺自身の為です。こうなったらもう腹を括るしかない! 矢でも鉄砲でも持ってこいってやつですよ!』


『あら、そのような旧世代の武器は今では余り使われませんよ?』


『そういう意味じゃない! 気持ちの問題なの!』


俺の空元気のツッコミが、学園長室に虚しく響いた。


⸻⸻⸻


そして今、俺は魔導書を抱えてクラスへ向かっている。

その重みは、ただの本の重さじゃない。

“偽物の教師”として、これから生き延びていかなきゃならない重圧そのものだ。


だが、それでも。

(やるしかない……俺が、この学園で生き残るために)


そう胸の奥で呟き、俺は教室の扉へと歩を進めた。


ーーーーーーーー



『そろそろ教室か……どんな子達が居るんだろ?』


長い廊下を歩きながら、俺は自分に言い聞かせるように呟いた。

自然と、あの副校長の言葉が頭をよぎる。


『居るんですよ、力試しに教師に挑んでくる生徒が……』


正直、不安は拭えない。この世界は俺の常識では測れない。いくら副校長の話が誇張気味だとしても、挑んでくる物好きな生徒が本当に居てもおかしくはない。

その時、俺は対応できるのか? ーーこの、得体の知れない魔導書で。


俺は歩きながら、懐に抱えている赤い魔導書にそっと触れた。表紙に刻まれた金色の龍の紋様が、指先に温もりを返す。気のせいかもしれないが、生きているように感じるほどの温かみだ。……ほんと、ファンタジーだな。


(一応、使用条件はざっと読んだけど……実際に魔法を発動したことなんて無い。とうぜん勝手がわかるはずがないよなぁ……)


胸の奥に広がる不安を誤魔化すように深呼吸しながら歩を進める。やがて、廊下の先に木製の扉が現れた。

その上には「2年A組」と刻まれた銘板。


ーーここが、俺の担当クラス。


ついに目的地にたどり着いた。

この扉を開けたら、もう後戻りはできない。騙す相手は、生徒たちであり、教師であり、魔導士教会であり、ひいてはこの魔法が統治する世界そのものだ。


(……腹を括れ。俺は、もう引き返せないんだ)


そう覚悟を決め、ガラガラッと引き戸を開いた。


⸻⸻⸻


『…………』

『…………』


一瞬にして、室内に静寂が訪れた。

おそらく今まで賑やかに談笑していたであろう生徒たちの視線が、一斉に俺に集中する。

その空気に圧倒され、思わず息を呑んだ。


(うわっ、全員女の子……って、そうだよな。ここは女子中等部なんだから当然か)


俺は生まれてこのかた、女子校に足を踏み入れたことなどない。

だからこそ、この光景は異様に思える。女の子だけで満たされた空間ーーこれも一種の「女の園」なのか。

30人近い視線が突き刺さる中、居心地の悪い沈黙が続いた。だが、その沈黙を破ったのは、1人の少女だった。


『あら、これは、これは。ソウイチロウ・テンリュウ先生。お待ちしておりました。ようこそ2年A組へ!』


そう言いながら、俺の前に歩み出てきた少女。

明るい茶色のセミロングヘアに、耳には特徴的なピアスを揺らしている。


『はじめまして、わたくしリディ・アンセンと申します。テンリュウ先生はその歳で既に高位の魔導士だとか。そのような方が担任になってくださるなんて光栄ですわ』


(な、なんだこの子……堂々としてるな。というか、妙に社交的というか……)


俺は気圧されながらも、ぎこちなく返す。


『あ、ああ、よろしく頼むよ』


そのまま視線を部屋全体に走らせる。

部屋の隅では、黒髪の少女がじっとこちらを見つめている。薄いオレンジ色の髪の少女は、俺の顔を見て驚いたように目を丸くしていた。猫モチーフの帽子を被った少女もいる。他にも個性豊かな生徒たちが、興味津々といった表情で俺を観察していた。


(今日から、この子たちの担任になるのか……)


そう思った瞬間ーー


『!!!』


心臓が大きく跳ねた。

俺の視線の先に、見覚えのある銀髪の少女が座っていたのだ。忘れるわけがない。ーーいや、忘れられるはずもない。昨日、浴場で遭遇したあの少女。

彼女もまた俺を見据えており、その眼差しは他の生徒とは違う何かを秘めていた。


(あの子の担任って……ま、まじかよ……)


⸻⸻⸻


【シリカ・アルステリア】


ーーやっぱり腑に落ちない。

みんなはこの男を〝精霊魔導士〟なんて雲の上の存在だと信じているけど、どうしても引っかかる……。


精霊魔導士なんて、エリート中のエリート。そんな存在の人が昨日の事件で、あんなにあっさり捕まるなんてあり得る? たまたま? 偶然?

そもそも覗き魔が教師になったなんておかしいけど……学園長や副校長が嘘をつくとも思えないし。昨日のあれは、なにかの事故だったの……?


ーーああ!もう、考えても仕方ない!

(なら、直接見極めてやるんだから!)


私は立ち上がり、教師になった男に向かって言葉を放った。


『ーー先生って本当に〝精霊魔導士〟なんですか? 今一信用できません。もし本当なら少しその力をわたしに見せてくれませんか?』


⸻⸻⸻


【天龍宗一郎】


『……え?』


教室に、再び静寂が訪れた。

生徒全員の視線が、今度は俺に一層強く注がれる。


(いま……力を見せろって言ったのか? もしかして昨日の件で怪しんでる?)


どうすればいい? 力を見せろと言われても、俺には何もできない。魔法を披露できれば納得してくれるかもしれないが……戦えなんて言われたら完全にアウトだ!


そんな俺の動揺を余所に、リディが口を開いた。


『あら、シリカさん。貴方は先生の実力を疑いになっていますの?』


『そうよ、文句ある?』


『あなたまさか精霊魔導士の称号も知らないんですの? まぁ何事も猪のように突撃するばかりのシリカさんなら知らないのも納得できますけど』


『は、はぁ⁉︎ そんな訳ないでしょ! 知ってるに決まってるでしょ!ーーってか猪って言うなぁーー!』


リディの挑発に、シリカが真っ赤になって噛みつく。


『ち、ちょっと二人とも、お、落ち着いて! 喧嘩はよそう!』


慌てて止めに入ろうとする俺。だが、その横で猫耳帽子の少女が肩をすくめて笑った。


『まぁ、そんな慌てることあらへんて先生。あの二人は昔っからこの調子や。ちょっとした喧嘩友達みたいなもんや。言うやろ? 喧嘩するほど仲が良いって』


『だれが仲が良いって⁉︎』

『だれが仲が良いですって⁉︎』


息の揃った怒声に、思わず生徒たちから笑いが起こる。


『おお!怖っ!』


大袈裟におどけるミラルト。その様子にクラス全体が盛り上がり、どうやら日常的な光景らしい。


だが次の瞬間、シリカは真剣な眼差しで俺を指差した。


『先生……わたし、本当に知りたいんです。精霊魔導士ってどんな人なのか……だから、わたしと決闘して。先生なら生徒なんて簡単に相手できるでしょ!』


(……出た、嫌な予感は的中か)


副校長が言っていた「物好き」が、まさに目の前にいた。


『あ、いや……生徒に怪我をさせるわけにも……』


俺が必死に言い訳を探すより早く、リディが畳みかける。


『ここまで言われては流石の先生も我慢ならないでしょう! それなら一度、あの世間知らずのシリカさんにお灸をすえる意味もかねて、お力をお見せ下さい!』


『え⁉︎』


リディの一言に、生徒たちは一斉に沸き立った。

拍手、歓声、期待の眼差し。ーー俺の小さな声は、その熱気にかき消されてしまう。


『あ、あの、ちょっと……俺はそんな……』


だが、もう遅い。完全に「勝負を受ける流れ」になってしまっていた。

銀髪のシリカは満足そうに笑みを浮かべ、周囲のクラスメイトも〝精霊魔導士〟の力を目の当たりにできると、目を輝かせている。


圧倒的なプレッシャー。

心臓が破裂しそうなほど高鳴る中、俺は観念するしかなかった。


『…………わかった。受けるよ。この勝負……』


(ここで逃げれば、怪しまれる可能性がある。シリカだけじゃない、クラス全員が俺を疑うかもしれない……)


女性たちの歓声が、これほどまでに辛いと感じたのは、俺の人生で初めてだったーー。


7話は9月23日にアップします。

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