5話「昨日の敵が、今日の先生」
一章【10話】までは毎日投稿の予定です
初回投稿は4話分あります
「おはよー」
「おはよ。」
昨日の〝覗き魔〟事件から一晩。
翌朝の学園校舎の玄関は、新学期初日ということもあって、張り出されたクラス分けの紙を囲む生徒たちで大賑わいだった。
「私、C組か……」
「うわ、あの人と同じクラスかぁ、 苦手なんだよね……」
「やった!同じクラスだ!」
「嬉しい、これからよろしくね!」
悲喜こもごもの声が飛び交う。
その中に銀髪の少女、シリカ・アルステリアと、その親友ミラルト・クワッドの姿もあった。
「お、ウチの名前あったで。えーっと……A組やな。おお、シリカも同じA組やん」
「げっ!? 本当に? 何年連続で同じクラスなのよ。誰かの陰謀なんじゃないの?」
「酷いなぁ~。親友のウチと一緒なのがそんなに嫌なん? 悲しくて泣いてしまうやん」
ミラルトがわざとらしく目尻を押さえて泣き真似をする。
シリカは呆れ顔でため息を吐いた。
「親友ねぇ……悪友の間違いじゃないの?」
「どっちも似たような意味やろ? それに昨日だって親友らしく、他の人には見せられん、あられもない姿を見せてもらったしなぁ?」
「っ……! そ、それは見せたんじゃなくって! あんたが言わないからっ! ていうか思い出させるなぁー!」
顔を真っ赤にしながら、シリカはミラルトの背をポカポカ叩いた。
頭から離れかけていた昨夜の出来事が、またしても蘇ってくる。
そこへ、薄いオレンジ色の髪をショートボブに切り揃えた少女が人混みをかき分けて近づいてきた。
ナナセ・ハーヴェストだ
「おはよう、シリカちゃん、ミラちゃん」
「あ、ナナセ! おはよう!」
「おはようさん。ナナセも、もう来てたんやな」
「ふふ、朝から仲が良いんだね。うん、クラス分け表をみてたの、私もA組で、二人と一緒だよ」
「えっ!? 本当に? やった! 一年間よろしくね!」
「……なんや、ウチと態度違いすぎひん?」
「なんで違うか、自分の胸に聞いてみなさい」
子犬のように喜ぶシリカと、それを横目に苦笑するミラルト。
そんな二人を見て、ナナセは少し気まずそうに話を切り出す。
「それで……昨日の件は、ごめんね。私、怖くて一緒に学園長室まで行けなくて……」
――そう。ナナセもまた、昨日の浴場事件の時にその場に居た一人だった。
「そんなの、ナナセが気にすることじゃないわ」
「せやで。シリカは興奮しすぎて、バスタオルのまま突っ走っただけやからな」
「……あれは、私もびっくりしちゃったかな。でも、シリカちゃんらしかったけど……」
「っ……!」
頬が熱くなる。まさかそんなふうに見られていたなんて。忘れたいのに、余計に忘れられなくなる。
「でも、結局あの〝覗き魔〟は学園長に突き出したやろ? 今頃は警ら隊に捕まって牢の中やろな」
「……牢、か」
シリカは思わず昨日の〝彼〟を思い出す。
確かに覗き魔ではある。けれど、あの黒い瞳にはいやらしさは感じなかった。むしろ、何か必死さのようなものが――。
ーーいや、首を振る。忘れよう。終わった事だ、全部。
「それじゃ、そろそろ学堂ホールに集合の時間だし、行きましょ」
「おっと、もうそんな時間か。じゃ行こか」
「うん!」
三人はざわめく廊下を抜け、学堂ホールへと向かった。
⸻
学堂ホールは、全校生徒が集まる大規模イベントの舞台。
入学式や卒業式など、式典のたびにこの場所が使われる。
時間が近づき会場に次々と生徒たちが集まってくる。今年中等部に入学したばかりの1年生から3年生まで、その数は2000名を越える
「いやー、今更やけど……ゴツい人数やなぁ」
「う、うん……同じ学年でも顔覚えてない子がたくさんいるし」
「これでも魔法学園都市にある学園のひとつなんだから、驚きよね……」
改めて規模の大きさを実感しながら3人はそれぞれの席につき開演の時間を待つことにする。
2000名を超える生徒たちが席につき、やがて会場全体に鐘の音が響いた。
空中に浮かんでいた光球が消え、魔導スコープによる映像が投影される。光の粒が舞い落ち、ホールが一瞬揺らめいた。
「えー、ゴホン、ゴホン。それではアニムス学園始業式を開始するのですじゃ……」
学園長の声。恒例の長い挨拶が続き、生徒たちは次第にざわめきをやめていった。
ウトウトし始める者も出てくる。
(昨日眠れなかったせいもあるけど……長話は苦手……日課の朝のトレーニングはしたから余計に眠いかも…)
小さなあくびをした時、ようやく担任発表の段になった。
一年生の担任が次々に読み上げられ、いよいよ二年生の番。
シリカたちの二年A組――。その時だった。
「えー、二年生の担任を発表する前に……お知らせがあります」
壇上に、副校長が姿を現した。
その瞬間、会場はざわつきに包まれる。眠気も吹き飛ぶようだった。
「皆さんにご報告が遅れましたが、この度、中等部に新しい先生をお迎えすることになりました。そして、その先生に二年A組の担任をお願いすることになりました」
「えっ、私たちのクラスに?」
「新任……?」
二年A組の生徒たちがざわつく。
副校長は一呼吸おいて、言葉を続けた。
「その方は……若干十九歳という若さで、この魔法都市学園の教員試験を突破された、稀代の天才魔導士です。加えて、精霊を使役する〝精霊魔導士〟でもあるのです」
「なっ……!」
会場がどよめく。
「十九歳?」
「ほとんど私たちと変わらないじゃん」
「精霊魔導士って……国家魔導士でも一握りしかいないでしょ!?」
「まさかそんな人が、この学園に?」
周りの反応と同じく、シリカの心臓も跳ねる。
精霊魔導士――。雲の上の存在。
けれど、そんな若さで?
しかもそんな人がわたしのクラスの担任⁉︎
「それでは、ご紹介します。〝ソウイチロウ・テンリュウ〟先生です」
(……ソウイチロウ? 随分変わった名前……どんな人が?)
緊張と期待と、得体の知れないざわつきに、シリカは目を凝らす。
コツ、コツ――。
硬い靴音が壇上に響く。
光を受けて、黒髪が青く揺れる。歩み出たその人影を見た瞬間、シリカは息を呑んだ。
「――――!」
黒い髪。深い緑色のスーツ。
そして、あの黒い瞳。
見間違えるはずがない。昨日――浴場で。
裸を見られ、〝覗き魔〟と罵った相手。
「なっ、なんで……っ!?」
声が喉から漏れたが、会場のざわめきにかき消される。
(嘘……捕まったんじゃなかったの!? なんで精霊魔導士? なんで担任!?)
理解が追いつかない。頭が真っ白になる。
心臓が暴れるように高鳴り、ざわつく。
そして頬は再び熱を帯びる。
ミラルトとナナセも同じ顔をしていた。驚きに口を開けたまま、言葉が出ていない。
――信じられない。昨日の〝覗き魔〟が、今日から私たちの先生だなんて…
何がどうなってるの⁉︎
続きは明日9月22日になります。
読んで頂けると励みになります。




