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4話「赤い魔導書と“教師のフリ”」

一章【10話】までは毎日投稿の予定です

初回投稿は4話分あります



『学園長!校内に不審者が居ましたので捕まえました!魔法警ら隊に連絡してください!』


バンッと勢いよく「学園長室」と書かれた扉を開ける銀髪の少女――シリカ。


『ちょ、ちょっと待て!まずは話を聞けって!これは誤解だ!』


俺の必死の弁明など無視して、シリカは学園長らしき人物の前に俺を突き出す。


『……!』


その瞬間、俺は思わず息を呑んだ。

目の前には――いや、目の前の“それ”は、現実感を一瞬で吹き飛ばす光景だった。


二足歩行で歩く箒。宙に浮かぶ鳥籠。紙の上を勝手に走り回る羽根ペン。黒板には、さっき浴場で見た魔法陣に似た模様がいくつも描かれている。

そして極めつけは――厚手のローブを纏い、二メートルはありそうな巨大な猫。

毛並みはふわふわ、耳はぴくぴく、尻尾はゆったりと揺れている。……いや、猫でいいんだよな? メガネかけてるけど。


おとぎ話とかアニメの世界に放り込まれたみたいで、俺は完全に飲まれていた。


『事情は理解しました。シリカさん。この件はこちらで預かります。ですからあなたは早く戻りなさい』


『あ、副校長もいらしたんですね! そうなんです、女子寮の覗きをする不届き者が――』


副校長と呼ばれた、落ち着いた声の女性が軽く手を上げ、シリカを制した。眼鏡の奥の瞳が、まっすぐ俺を射抜く。


(こっちは……人間、だよな? 50代くらいに見えるけど、知性の塊って雰囲気だ)


『シリカさん、あなた……気付いていませんね?』


『えっ?』


『女子たるもの、そのような格好で校内を歩き回るものではありませんよ』


言われて初めて、自分がバスタオル一枚だったと気付くシリカ。


『――っっっ!!』


『お、やっと気づいたか』

横からミラルトと呼ばれた少女がニヤつく。


『や、やだ! うそ、忘れてた! ってミラルトはもう着替えてるし!』


『いや普通は着替えるやろ? その格好で飛び出してくるあんたのほうが珍しいわ』


『気づいてたなら教えてよッ!』


シリカは全身を両腕で隠しながら、顔を真っ赤にして飛び跳ねる。


『なはは、いつ気づくか見てみたかったからついな』


『ついじゃなーい!』


――なんだこの漫才。怒り顔から照れ顔への切り替えが秒単位なんだが。


副校長はそんな二人にため息をつき、静かに告げた。


『貴女のそのまっすぐな所は長所ですが、少し注意力が足りません。……さあ、戻りなさい』


『は、はい!』

去り際、シリカが俺を振り返り――


『アンタ、絶対許さないから!』


……いや俺、それについては無実なんだけどな?


女子二人が退出し、残ったのは学園長(猫)と副校長、そして俺。

気まずい沈黙が流れる。

が、その沈黙を破ったのは意外にも大きな猫のほうからだった



『本当に申し訳ない! ワシのミスでお主に迷惑をかけてしまったのじゃ!』


いきなり二メートルの猫が土下座した。


『……は?』


副校長が眼鏡の位置を指先で直しながら、静かに口を開く。


『とても急なことで、あなたも状況を把握しきれていないでしょう。まずはそこから説明します』


――こうして俺は拘束を解かれ、事情を聞かされた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『えーっと、この世界は〝マグヌス〟って名前の世界で、俺の知ってる日本とは別の世界。そして、ここは魔法学園都市の中等部……』


『その通りじゃ』


『さらに、召喚の手違いで本来別の人を呼ぶはずが、俺が来てしまった……と』


『飲み込みが早いですね。素晴らしい』


パチパチと副校長が控えめに拍手。


『いや、全然わかってないから! 異世界ってなんだよ! ファンタジーじゃん!まるでおとぎ話だよ!漫画だよ!』


しかし目の前の大きなしゃべる猫の存在が『これは現実だ』と、否応なしに突きつけてくる。


『……はぁ、わかりました、いや、わかってないけど話を続けてください』


『立ち直りの早さはトップ魔導士クラスじゃな』

『学園長、あれは半ばヤケクソと言うのです』


ーーそこ、黙っててください


そして俺は深呼吸してから本題を問う。


『……俺、ちゃんと元の世界に戻してもらえるんですよね?』


『もちろんじゃ……じゃがな』


嫌な間。悪い予感しかしない。

そしてそんな予感ほどよく当たる。


『元の世界に戻すには特別なゲートを開かねばならんのじゃが、それには時間と準備が必要なのじゃ。今すぐに、と言いたい所ではあるが無理なのじゃよ』


『どれくらいかかるんです?』


『正確な時間は我々にもわかりません』

ハッキリと副校長に言われ方を落とす。


マジかい!


『そしてもう一つ重要なことがあります。魔法を使えぬ者はこの学園都市には立ち入る事を許されていません。これは、はるか昔から決められたマグヌスの決まりでもあります』


『そ、そんな、魔法だなんて俺使えないですよ。』


しかしこの学園都市を出て行くのは利口な判断じゃ無い、なにせ俺はこの世界の事を知らなさ過ぎる。そうなると存在を隠すしか……



『姿を隠すと言う手段も悪手ですね。異世界召喚の儀を行うには魔導士協会の申請が必要になります。つまり貴方の召喚も当然知られているのです。そして魔法の使えない者がこの地に足を踏み入れたと判断され、協会から何かしらの罰が下るでしょうね』


『ワシだけなく、おそらくお主も巻き込む形になる可能性が高い。協会は掟を重んじるからのぉ…』


俺の考えを先回りでし潰されてしまう


『じゃあ、一体どうしたら…』


『そこで、一つ貴方に提案があります』


副校長はコツコツと歩き学園長の机の奥にある本棚に向かう。そしてその本棚にあった一つの箱を出す。なにやらその箱には幾つもの魔法陣が描かれていた。まるで厳重なロックだ


『まさか……しかし、その手しか残っては居ないのかもしれんのぉ』


学園長が何かを察する


ーーいったいなんだ?


副校長が何か呪文を唱えると箱に描かれた魔法陣が光った後消えた。


すると箱を開けて何かを取り出す。


『そう……貴方には〝魔法使い〟になってこの学園の教師になってもらいます』


『ーーーは?』


副校長の唇が、艶やかにわずかだけ弧を描く。


『――正確には〝魔法使いの教師のフリ〟ですけどね…ふふ』


その笑みは、炎のように温かくも見え、氷のように冷たくも見えた。

彼女がどちらの温度で笑っているのか、俺にはまだ判別がつかなかった。


その手には真っ赤な分厚い魔法の本らしき物を持っていた。表紙には金色の龍の紋様があり印象的だ。そしてそれを俺に差し出す。


――おいおい、俺に全校生徒と教師を騙し通せってか。

人生半分ぐらい詰みの上に職業詐欺。人生終了の二段重ねじゃないか。


冷や汗が頬を伝う。


『今日の最下位は獅子座のあなた! 予想外のアンラッキーが訪れるかも? ラッキーアイテムは“本”!』


またしても朝の運勢占いが頭をよぎる。


……ああ、朝の占いって本気でバカにできないんだな。


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