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13話 『風紀委員と断罪の鎌』



時代錯誤、いや――世界観錯誤の格好をした五人組の男子生徒が、通りの真ん中を肩で風を切って歩いてきた。

先頭を歩くリーダー格の大柄な男は、リーゼントに刈り上げ、上着は袖を通さず肩に羽織り、腰には金属の鎖をじゃらつかせている。昭和のヤンキーそのままの姿だ。


「……え、ここ異世界だよな? なんで“絶滅危惧種”が歩いてんだ?」

宗一郎は半開きの口で呆然とつぶやいた。


リーダー格の男が声を張り上げる。

「おうおう! ここで会ったが百年目じゃい! のう、リディ・アンセン!」


周囲の人々が振り向き、広場がざわめく。

その視線の先にいたリディは、ため息をひとつついて優雅に髪を払った。


「どうやらわたくしの知らぬところで、随分と名前が広まっているようですわね。……で、どちら様かしら?」


男はニヤリと笑う。

「どうやらウチの舎弟がこの前ずいぶんと世話になったようじゃのう!」


「まぁ。それはご丁寧に。けれど……」

リディは一歩踏み出し、冷ややかな視線を向けた。

「わたくし普段から大勢の方と接しておりますの。お顔を覚えていないのはご容赦を。ただ――あなた方のように、教養のかけらもないお方々は特に記憶に残りませんの」


後ろにいた男の一人が、顔を真っ赤にして怒鳴る。

「て、テメェふざけやがって! 一昨日、俺がダチと遊んでるとこに割り込んで邪魔しやがってよ! 忘れたとは言わせねぇ!」


腕や頭に包帯を巻いたその姿が、何より雄弁に“結果”を語っていた。

リディは小さくため息をつき、静かに言葉を返す。


「………邪魔したとは何を言いがかりを、わたくしはあなた達の見るに耐えない行動を注意しただけです。」


するとリディは真っ直ぐにその男を睨む


「それに、遊びとおっしゃってましたが、人を路地裏に連れ込み、金品を巻き上げる行為は〝遊び〟とは申しません、恥を学びなさい!」


「う、ウルセェ! テメェはアニムス学園の生徒だろう! ウチのアガード学園の生徒に何しようが他校のテメェには関係ねぇだろ!」


必死の反論も虚しく、周囲から失笑が漏れ始める。


宗一郎は慌てて小声でミラルトに尋ねた。

「お、おい、あいつら何者だ?」

「まぁ、リディに絡む他校の生徒はこれが初めてやない、コレもいつもの事やで」

「いつものこと?」

「リディは風紀委員でな。正義感の塊みたいな子や。街で悪さしとる奴を見つけたら、どんな相手でも放っとけへんタイプなんや」

「……筋金入りの生真面目か」


ナナセも頷く。

「さっきのマーケット街でも、よくトラブルが起きたときなんかはリディちゃんが仲裁してくれるんですよ。なので、結構有名人なんです」


そんな会話をしている間にも、男は口角を歪めていた。

「フン、まァそういうことじゃ。ウチの舎弟を可愛がってくれた礼をしに来たんじゃ。それに、その噂に聞く風紀委員のお嬢様の腕前とやら、この目で確かめたくてな」


リディは微笑を浮かべ、扇子のように手をひらりと上げる。


「あら?先程ここで会ったが百年目とおっしゃってませんでしたか?」


「ふん、物の例えじゃい」


「ーー比喩の選び方まで時代錯誤ですのね。この時代の言葉を学び直されては如何かしら?」


その挑発に、場の空気が一瞬で張り詰めた。

後方の四人が一斉に前に出る。

その雰囲気はとても話し合いをする様な空気ではない。


「リディ、私も加勢するわ」

シリカが静かに一歩踏み出した。

銀髪が朝の光を反射して煌めく。


「おいおい、待て待て! お前ら、ここ公道だぞ!」

宗一郎が慌てて止めに入る。

「暴力沙汰はまずいって!」


「まぁまぁ先生、見守ったらええやん。これも日常茶飯事や、大目にみてや。」

ミラルトがにやりと笑う。

(……この世界、喧嘩が日常茶飯事なのか!?)


リディはシリカに視線をやる。

「あらシリカさん、昨日の怪我はもう平気なんですの?また今日も怪我をされては目も当てられませんのよ?」

「だから平気だって言ってるでしょ。それに、あんたがモタモタして手間取ったりでもしたら、次の風絨便に遅れるでしょ」

「ふふ、言ってくれますわね」


宗一郎は頭を抱える。

(なんでこうもトラブルに巻き込まれるだ……くそ、俺は余り目立ちたく無いのに……)

それでも教師としての立場がある以上は一言わねばならない。

「公道での私闘は原則禁止、だから速やかに終わらせること。あと、周囲に被害を出さないように!」

リディとシリカは顔を見合わせ、同時に微笑んだ。

その笑顔が妙に頼もしくて、宗一郎は一瞬言葉を失った。


上空で謎の大型の鳥が鳴く。

その鳴き声が合図となり、空気が一気に爆ぜた。


――戦いの火蓋が切られた。


四人の男が怒号を上げて突っ込む。

シリカは跳ねるように一歩踏み込み、掴みかかってきた腕をするりとかわした。

軽やかな回転。跳躍をする。


「ど、どこに消えやがった!」

「上だ!」


シリカは太陽を背にして空へ舞い上がると、彼女の影が男の頭上に落ちた。

次の瞬間、シリカの姿を追い、空を見上げた男の顔面に乾いた衝撃音が響く。

「ぐっ!」

見事な踵落としが男の顔面を打ち抜いた。


もう一人が拳を振り上げる。だが――

シリカは低く身を沈め、足払いで相手の膝裏をすくう。

倒れかけた相手に膝蹴りを叩き込み、二人をまとめて地面に沈めた。

スカートの裾を払う仕草まで無駄がない。


(……強ぇ。しかも昨日の怪我、完全に治ってるじゃないか)

一歩間違えたら昨日の俺は、目の前で撃沈された不良達と同じ結末を迎えていたと思うとゾッとする。

(よく生き延びたな俺……)

宗一郎は唖然とする。


一方リディの方を見ると――

既に決着がついていた。


二人の男が地に伏し、リディは涼しい顔で髪をかき上げている。

「威勢が良いのは口だけでしたわね」


(速っ! もう終わってるの!?)


観衆から拍手と歓声が起こる。

「リディ様ー!」「かっこいいー!」

子供が笑い、露店の主人が口笛を吹く。

広場の空気が一気にお祭り騒ぎのように変わった。


「このままおとなしくお仲間を連れてお帰りなさい。そうすればこれ以上は何もしませんわ」

「そろそろ次の便が来るわよ」

シリカの言葉にリディが頷いた、その時だった。


「……女がてら、やるじゃねぇか」

リーダーの男が鎖を外して手に取り、ムチのように振り抜く。

空気がビュンッと裂けた。

「だがな、舎弟の仇を前に引くわけにゃいかねぇ!」


「はぁ? 先に喧嘩売ったのそっちでしょ!」

シリカが反論するが、リディが手を上げて制した。

「この手の人種には言葉は通じませんの。――シリカさん、次の便まであと何分ですか?」


「三分ちょっと」

「ふふ……お釣りがきますわね」


リディはゆっくりと前に出た。

砂塵の中で風が舞い、銀の三日月型のピアスが陽光を反射する。


「さぁ、武器を取れ! リディ•アンセン!こっちは俺の相棒《連撃鎖鞭レンゲキチェイン》や! 舐めたらアカンぞ!」

男は鎖を地面に叩きつける。石畳にヒビが走り、観衆が後ずさる。


だが――リディは一歩も動かない。


「……どうした? 怖気付いたのか!」


「お気遣いなく。わたくしは、もう“持って”いますので……」

宗一郎の目には何も見えない。

(持ってる? 武器を? どこに?)


男が吠える。

「負けた時の言い訳か!? なら大怪我しても後悔するなよ!」

再び鎖が唸りを上げる。

すると男は腕を大きく振り鎖を走らせる。

その威力は空を切る音と地面に亀裂を入れながらリディに襲いかかる。


(なんて威力だよ!あんなの喰らったら怪我じゃ済まない!)


鎖がリディを捉える

風切音と同時に鎖が地面に直撃し、土煙が周りに巻き上がる


――だがその瞬間、土煙の中から一つの影が走り抜け、風が舞う。白い閃光。その影は男と交錯する。

鎖が音もなく断たれ、金属片が雨のように散った。


「な、なんだと……」

男が目を見開いたまま崩れ落ちる。


風が止むと、そこには――

巨大な大鎌を携えたリディが立っていた。

彼女の背丈ほどもある銀の刃。

その表面には魔法陣の紋が淡く浮かび、残光を放っている。


「これが……リディの武器……いつの間に?」

宗一郎は呆然とつぶやいた。


リディは大鎌を軽く回転させ、最後にビシッと華麗に構えを決める。

裾がふわりと舞い、観衆が息を呑む。


「どうやら、わたくしの勝ちのようですわね」

勝利宣言と同時に、歓声が爆発した。


するとすぐにリディは懐から小瓶のようなものを取り出し、空へ放り投げる。

瞬時に瓶が弾け、そこから金色の縄が伸びた。

それは倒れた男たちを絡め取り、数秒で五人をひとまとめに縛り上げる。


(あ、あれ! 俺が覗き魔扱いされた時のアレだ!)

宗一郎の脳裏に苦い記憶がよぎる。


リディは観客の方へ向き直り、涼しい笑みで言った。

「こちら、我がアンセン商会開発の最新拘束具《自動縛術縄〈バインドライン〉》でございます。魔力の流れを感知して対象を自動で拘束いたします。このように、防犯にもお役に立てるかと思います。――どうぞお買い求めを」


完璧な営業スマイル。

群衆がどっと笑い、拍手が広がった。


「さすがリディ……宣伝まで抜かりなしやな」

ミラルトが肩をすくめる。

その時、広場の上空で影が差した。

風が巻き上がる。


「次の便が来たよ、皆んな」

ナナセが声を掛ける

風絨便――巨大な空飛ぶ絨毯がゆっくりと降下してくる。


歓声と笑い声に包まれながら、宗一郎は思わず小さく笑う。

(……このクラスは一筋縄じゃあいきそうにないな……)


絨毯が地面に着地する。

風に揺れる髪の中で、リディがちらりとこちらを見た。

「先生、行きますわよ」

「あ、ああ……」


風絨便が浮かび上がる。

下に残るのは、縛られた不良たちと、それを笑いながら見送る街の人々。

空の青が広がり、朝の光がまぶしかった。


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