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第12話 『街の朝と風絨便』


寮の外に出ると、眩しい日差しと心地よい風が頬を撫でていった。空には二つの太陽が昇り、柔らかな金色と白色の光が重なり合って校舎や湖を照らしている。周囲を見渡すと、自分の住む寮と同じ形をした建物がいくつも並んでいる。どうやらこの一帯は学生寮エリアらしい。

宗一郎は思わず目を細め、立ち止まって深呼吸をした。


(……現実離れしすぎてるのに、不思議と気持ちいい景色だな)


少し歩くと大きな湖が目に飛び込んでくる。澄んだ水の底には魚が群れ泳ぎ、陽光を反射してキラキラと輝いていた。


(……まぁ、知ってる魚がいないのは残念だけど)


昨日、副校長の召喚獣に案内されて辿り着いた時は気が張り詰めていて、こうして周囲を眺める余裕もなかった。


「ねぇ、先生も一緒に行くでしょ? こっちこっち!」

先を歩いていたシリカが振り返り、銀髪をふわりとなびかせて手を振る。その笑顔に宗一郎は小さく返事をして、慌てて駆け足で追いついた。



湖沿いの道を抜けると、石畳の広い大通りに出た。そこで目に飛び込んできたのは、想像以上の賑わいだった。


「うわぁ……」思わず声が漏れる。


行き交うのは人間だけではない。獣人らしき商人が大声で客を呼び込み、翼を持つ小柄な種族が頭上を飛び交う。長い耳のエルフが香辛料の屋台で店主と値切り交渉をしていた。


焼き串の肉が香ばしく焼ける匂い、果実を切った甘い香り、香辛料の刺激臭が入り混じり、鼻腔をくすぐる。遠くでは大道芸人の火吹きに歓声が上がり、通りを走る子供たちの笑い声が響いていた。


(今更だけど、本当に異世界なんだな……漫画やアニメで見た光景そのまんまじゃないか。いや、むしろ匂いや温度まである分、圧がすごい……)


ふと視線の先に見えたのは、馬に似た四足の魔獣に引かせた馬車……だけではない。宗一郎の目を引いたのは、自分の世界にある車にそっくりな乗り物だった。ただし排気ガスを出すマフラーはなく、代わりに車体下で魔法陣が淡く光を放っている。


(電気自動車……じゃないよな? 魔力で動いてるのか? 便利すぎるだろこれ……)


宗一郎が呆気に取られていると、ナナセが隣でくすりと笑った。

「先生、驚きました? この辺りはマーケット街なんです。それで朝から人でいっぱいなんですよ」

「そ、そうなんだ……」


その時、周囲の商人や住人から声が飛ぶ。

「おう、みんな今日も元気だな!」

「気をつけて学校行っておいでよ!」

「シリカお姉ちゃん! また遊ぼうね!」


シリカは少し照れくさそうに手を振り返し、リディは優雅に会釈し「ごきげんよう」と返す。すると相手は思わず背筋を伸ばして畏まってしまった。ミラルトは子供とハイタッチを交わし、「次はもっと強いモンスターの話を教えてな!」と冷やかされて笑っている。


(……すごいな。みんな、この街に完全に馴染んでるんだな)


「私たち、この辺りでよく買い物したり、課外のクエストを受けたりしてるんです」

とナナセが補足する。


「クエスト?」

宗一郎は思わず聞き返す。


「はい。アニムス学園では課外授業の一環として、街の人たちのお手伝いをするんです。荷物運びや魔獣退治、畑の手伝いまで色々ですよ」


(ゲームみたいな言葉が日常に溶け込んでるのか……なんだか不思議な気分だな)



やがてマーケットを抜け、少し開けた広場に出る。人だかりができていて、皆が同じ方向を見上げていた。


(なんだ……イベントでもあるのか?)


宗一郎も空を仰いだ瞬間、頭上に巨大な影が差した。風が巻き起こり、髪が乱れる。慌てて目を凝らすと、空からゆっくりと降りてくる巨大な長方形の物体が見えた。


「な、なんだあれ……」


やがて姿がはっきりする。宗一郎は思わず叫んだ。

「こ、これ……絨毯⁉︎ 浮いてる!? まさか魔法の絨毯ってやつか!?」


「せやせや。しかもただの魔法の絨毯とちゃうで」


隣でミラルトが得意げに胸を張る。


「このデカさの〝風絨便〟(ふうじゅうびん)はそうそうお目にかかれへん。この学園都市の目玉の一つや」


風絨便はゆっくりと広場に降り、縁に設けられた階段から乗客が次々と降りてくる。その後、待っていた人々が整列し、きびきびと乗り込んでいった。


(なるほど……俺の世界でいうバスか)


「私たちが乗るのは次の便ですわね。あと五分ほどで来ますわ」

リディが懐中時計をちらりと確認しながら、宗一郎に説明する。


その時、人混みの奥でざわめきが起こった。人々が左右に分かれ、自然と道ができる。その道を、肩を揺らしながら四人組の男子生徒がこちらへ歩いてきた。


「……え?」


宗一郎は自分の目を疑った。

リーゼントに刈り上げ、上着は袖を通さず肩に羽織り、腰にはチェーンをぶら下げている。まるで昭和のヤンキーそのままの格好だったのだ。


(おいおい……ここ、異世界だよな? なんで俺の世界ですら絶滅危惧種扱いされてる恰好した連中が普通に歩いてくるんだ!?)


彼らは肩で風を切りながら歩み寄り、リーダー格の一人が吠える。

「おうおう! ここで会ったが百年目じゃい! のう! リディ・アンセン!」


広場のざわめきが一層大きくなり、宗一郎は口をあんぐり開けたまま固まっていた。


(……マジかよ。異世界ファンタジーって、こういう世界観だっけ?)


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