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旧人類の所有物  作者: 白湯のお湯割り
第一章 : 旧人類 目覚める
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第6話 新たな借金

 リュミスの開発した透明な布は、大ヒットした。


 雨の夜、透明なレインコートを纏ったエミリーたちは、妖精のようだと街中の噂となった。


 雨粒を受けながらも肌の輪郭を曖昧に透かし、街灯の下では滴る雫が艶やかな輝きを放つ。その姿を一目見ようと、雨の日には客が詰めかけ、娼館の売り上げは跳ね上がったらしい。


 フィンが様子を見に行った時、娼館の老女、ガネーバは皺だらけの顔をにやりと歪めた。


「雨の日は稼ぎ時なんでね。あんたらの相手はできないよ」


 かつて雨が降るたびに嘆いていたというのはにわかには信じがたい。


「また面白い商品があったらうちに真っ先にもってきな」


 そう言ってガネーバは、目を細めながら上機嫌でキセルを咥えた。


「私ね、プリマドンナになりたかったの。大勢の人に注目されて、夢が叶ったみたい。本当にありがとう」


 エミリーも笑顔で感謝を伝え、リュミスは少し照れくさそうに頷いた。


 もちろん、レインコートを欲しがる店が他にも出てきた。フィンは、「一年後からなら受け付ける。今は専属契約中でな。文句があるならガネーバに交渉しろ」とつっぱねていた。


 信用もないのに俺たちの商品を買ってくれた重要顧客だ、大事にしねぇとなと嘯くフィンにゼニーバが当たり前だよ、と返す。


 そして——


「商会の申請? このタイミングで?」


「むしろ今しかねぇ。今なら実績がある。ガネーバから口利きももらえたからな。追加の仕事をしても釣りがくる」


「追加でポンチョを作らされたのはそういう事だったんですね……。」


 リュミスは急ぎの仕事を思い出してげっそりとする。


「だけど、商会設立ってお金が必要なんじゃ…?」


 新たな商会を立ち上げるには、莫大な資金が必要だ。この国ならば組合に、一億ガネーを納めなければならない。


「だから、借りた」


「…………え?」


 リュミスの動きが止まる。


「一億ガネーを、お前の名前でな」


「はぁぁぁぁぁっ!?!?」


「かはは、問題ねぇ! 半年で返すさ。期限は半年だからな」


 フィンは笑うが、リュミスには笑えなかった。


(無理……五千万ガネーでも差し押さえられかけたのに……)


 額に手を当て、眩暈を覚える。


(こうなったら……私が売るしかない……!)


 覚悟を決め、リュミスは立ち上がった。


◆◆


「……なんで、依頼がこないのぉ……?」


 商会設立から一週間。


 リュミスは街中を駆け回ったが、商談は全滅だった。


「うちには既存の取引先があるんでね」「新規の商会? 興味ないね」「間に合ってるんだ、他を当たってくれ」


 どこへ行っても門前払い。


 足は棒になり、喉は乾き、心は折れかける。


「……ははっ」


 笑えてくる。


 驚くほどに、誰も見向きもしない。


「……フィン、お仕事、ないよぉ?」


 夕暮れ、家に戻るなり、リュミスは崩れ落ちるように椅子に座った。


 だが、フィンは余裕の笑みを浮かべた。


「当たり前だろう。新規の商会なんてのは、商売敵を増やす行為だ。つてもなしに歓迎されるはずがない」


「うわぁぁぁん!やっぱり!借金どうするのよ!!」


 リュミスが叫ぶと、フィンはニヤリと笑った。


「……もう手は打ってある」


 その瞬間——


 コン、コン。


 扉が叩かれる音がした。


 リュミスが顔を上げると、フィンは微笑んだ。


「お出迎えしてこい。お前が主なんだからな」


 リュミスは息を呑み、ゆっくりと扉へ歩み寄る。


 扉の向こうから、低くくぐもった声が聞こえた。


「……リュミス商会というのはこちらでしょうか?」


 震える手で扉を開く。


 そこに立っていたのは——


 薄汚れたスーツをまとい、疲れた目をした初老の男だった。


 彼の口元が、わずかに歪む。


「……私、モンソワール劇場のオーナー、アンドリューでございます」


 リュミスは驚きに目を見開いた。だって、モンソワール劇場といえば、老舗の劇場だ、自分だって名前を知るほどに——。


「あなた方が作った外套……魔法を拝見しました。あれは実に美しかった……。あのようなショーを見たことはありません。


そんなあなた方に、ぜひお願いしたいことがあるのです。」


 フィンがリュミスの肩に手を置いた。


「話を聞かせてもらいましょうか」



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