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旧人類の所有物  作者: 白湯のお湯割り
第一章 : 旧人類 目覚める
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第4話 フィンの魔法

その扉が開くと、熱気と香水の甘い香りが流れ出た。

華やかなロビーには女たちが思い思いにくつろぎ、壁には細かな彫刻が施された照明が輝いている。


「で、でかい……」


リュミスは圧倒されながら周囲を見回した。

見るからに金を持った女たちが談笑し、煌びやかな装飾が施されたソファが並んでいる。


(こんなところに来るの、初めてなんだけど!?)


不安が募るリュミスの横で、フィンは馴染みの店にでも来たかのように堂々と歩く。


「エミリーを呼んでくれ」


受付にいた女性が頷き、奥へと消える。


リュミスは顔を引きつらせた。


「ねえ……本当にここで間違いないんですか?」


「あ?」


フィンは眉をひそめる。


「いやいや、こんな高級店にいる人って、貴族とかのお金持ちでしょ? かなり場違いっていうか……!」


「俺がなんのために香水まで買ったと思ってんだ」


「は?」


「羽振りのいい大店の男の香りになるためだろうが」


フィンは呆れたように肩をすくめる。


「こういう店の女は、匂いや身なり、特に 小物 で人を判断するんだぜ」


リュミスがぽかんとするのをよそに、フィンは続ける。


「お前、さっきの女の格好見てたか?」


「え?」


「高級なドレスに宝石、体型がはっきりわかるデザイン。あれだけの装飾を揃えられるのは、おそらく、このあたりじゃトップクラスの女だ」


「……え?」


「まさか、本気で気づいてなかったのか?」


フィンはため息をついた。


「この店は娼館だ。エミリーは娼婦。ここの女たちは 金持ちの旦那に高値で買われるために必死なんだ」


リュミスは息を呑む。


「他の女と差をつけるためなら、いくらでも金を積む。俺たちが売るのは……」


フィンは懐から、 密封されたパッケージ を取り出した。


「布でも服でもない。──"最高に目立つ女" になるための魔法だよ」


リュミスはその言葉に、ようやく理解した。


(こいつ……! 最初から、娼婦に売りつけるつもりで……!)


その時──


「お待たせ」


艶やかな声が響き、エミリーが現れた。


◆◆


エミリーは紅いドレスを揺らしながら、優雅に近づいてくる。


「さて、"新商品" を持ってきてくれたのかしら?」


フィンはニコリと笑い、両手で大事そうに 透明な袋 を掲げた。


「もちろん。見ての通り、まだ誰の手にも渡っていない」


その仕草は、まるで貴族に献上品を捧げる商人のようだった。


エミリーは興味深そうに袋を覗き込む。


「……透明な板?」


不信感を滲ませる彼女に、フィンは軽く微笑んだ。


「まぁまぁ。開けてみてくれ」


「……?」


エミリーは言われるがまま、接着剤を剥がす。


── プシュッ


小さな音とともに、袋が膨らんだ。


同時に、中の服が キラキラと輝く光を放つ。


「……!!」


エミリーは思わず息を呑んだ。


その瞬間、周囲の娼婦たちが何事かと振り向く。


「なに……?」

「今の音……?」

「え、何あれ?」


フィンは 透明な布をそっと持ち上げる。


光の下、それはまるで 水晶のヴェール のように煌めいた。


「……!」


エミリーだけでなく、周囲の娼婦たちが息を呑む。


誰もが、 一瞬でそれが特別なものだと理解した。


「……これが、あなたの言っていた "魅せる雨避け"?」


エミリーの声は、微かに震えていた。


「あぁ。"世界一目立つ女" の為の服だ」


フィンはにこやかに頷く。


その時。


「なんの騒ぎだい?」


落ち着いた声が響いた。


女たちがざわめき、ロビーの奥から 一人の老女 が現れる。


「……!」


リュミスは、無意識に背筋を伸ばした。


エミリーを含め、周囲の娼婦たちが一斉に黙り込む。


ただならぬ気配を纏ったその老女を見て、フィンは口元を歪めた。


「本命のご登場だぞ」


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