鱗粉
自分の気持ちを直接文字にするのはなんだか味気ないのでこれからは架空の世界で、小説という枠組みの中で記録していこうと思います。
この作品はその1頁目です。
あらゆる色が交差したこのネオン街で、君の姿が目に入ったのは今思えば当然のことだったのかもしれない。
中学生の時に彼女のことが好きだった。別にクラスのマドンナだったわけでもない。
ショートカットが似合う少し背が高めの彼女。僕をからかうときに見せる楽しそうな笑顔。中学生男子という生き物を夢中にさせてしまうには十分過ぎる魅力を彼女は持ち合わせていた。
中学生活三年間のうち僕と彼女が同じクラスになったのは一年生の時だけだ。それ以降は違うクラスになり、廊下ですれ違ったときに他愛もない挨拶を交わす程度の関係であったが、その日彼女に会えたか会えなかったかが少年を一喜一憂させていたことは言うまでもない。
しかし学生時代とは残酷なものでどんな人間にも等しく終わりがやってくる。
あっという間に卒業を迎え、そこそこ勉強ができる方だった僕は地元から少し離れた高校へ、彼女は中学のすぐ近くにあった高校へ、それぞれ進学していった。
高校生活はあまりよく覚えていない。部活動に大学受験、友人との遊び、やりたいことはなんでもやっておそらく充実していたんだと思う。そんな気がする。
唯一心残りを挙げるなら恋愛をしなかったことくらいだが、それも大きな問題ではないと今になって思う。もし僕がその時恋というものを知ってしまっていたら、あの日彼女を見つけることはなかっただろうから。
大学生になった僕が特にやることもなくただ過ぎていく毎日にちょうど退屈し始めていた時であった。
地元から一番近い繁華街のある駅で中学の友人と久々に会ってお酒でも飲もうと集まった。大学以前の友人とは素面で遊びたいという変なこだわりがあったが、少し前までスポドリやメロンソーダを飲んでいた友人がアルコールを手にしている姿を見るのは存外悪いものではなかった。
一軒目の酒場を出てほろ酔いになった僕の周りから一瞬全ての音が消え去ったことを今でも鮮明に覚えている。
あらゆるドラマが止めどなく飛び込んでくるこの町で、彼女をこんなにも容易く見つけられたのには複雑な理由なんて必要がなかった。
彼女は蝶に姿を変えていたのだ。とてもきらびやかな、艶やかな羽を広げて、誰よりも大きく羽を広げて。
普段は少し弱気な僕も酒の力を借りて、頑張ればその蝶を捕まえることはできたのかもしれない。
でも僕はそれをしなかった。できなかった。
「お前ってほんと、昔からそのまんまだよなぁ」
友人のその声で世界がまた動き出した。気が付くと蝶は飛んでいってしまった。