時間帯
今日も、モール氏は会社の勤務に疲れ果てて眠り込んでしまった。世の中は就寝の時間帯である。
翌朝、目を覚ましたモール氏は急いで出勤の支度を済ませた。朝食はコーヒーだけで済ませ、家を飛び出すように出ていった。
電車は通勤ラッシュの時間帯なので、車内はいつものように超満員だった。
通勤ラッシュによる窮屈さと寝不足による眠気を何とか耐え抜いたモール氏は、駅を出て徒歩で会社へと向かった。
そして到着すると、目の前にそびえ立つのはわが社、と言わんばかりにビルを見上げ、ロビーからはエレベーターで自分の部署があるフロアに行き、自分のデスクへと向かうのだった。
就労の時間帯になると、モール氏は必死に事務をこなし、適度に休憩を取った。
やがて昼食の時間帯となったので、モール氏は同僚たちと共に社員食堂へと赴いた。
彼らは、そこである話に花を咲かせる。
「昨日は六二階だったらしいな」
「ここ数ヵ月、五十階から百階に集中しているらしい。困ったものだ」
「最近は更にエスカレートしてるらしいな」
「こちとら、いつ来るか不安で堪らないよ」
「我が社の分析官によると、今日は九十階から百階あたりが危ないらしいぞ」
「俺たちの勤める階層が含まれてるじゃないか。嫌だなあ」
「これだけは運だからな。天に運を任せるしかあるまい。おや、そろそろ時間だな。戻らなければ……」 再び、就労の時間帯が訪れた。みながせっせと働き、じわじわと時間が過ぎてゆく。
退社の時間間際、一人の同僚がモール氏に話しかけた。
「おい、そろそろあの時間帯になるぞ」
「なに、もうそんな時間か。しかし、まだ退社するには少し早い。ここは一つ、どうか我々が助かるよう神に願おうじゃないか」
その時だった。女性の叫び声が部署の近くから聞こえてきた。モール氏たちは、慌ててその場に駆けつけた。
「どうしたのだ」
「そ、それが……一階に降りたはずなのに、エレベーターから降りてみるとまたここに戻ってきていたんです」
その場に居合わせた一同は愕然とした。モール氏は暗い口調で言う。
「俺たちは、異次元の波にのまれてしまった。現実の世界とは時間がズレているから、次はいつ出られるかわからない」
「俺、出てくるまでに最高で二歳ほど歳をとったって聞いたことがあるぞ」
「私は、消えた階層が実際視覚的に消えているという噂を聞いたことがあるわ。会社の外から見たら、なくなってるって……」
「それ、私も聞いたことがあります。現にエレベーターで降りてる時、消えた階層の数字を飛び越してるもの」
「いずれにせよ、これは事だぞ。まさか我々がこんな目に合うとは。一応、こんな時のために食糧は保存してあるが……」
この事実を知った一同は、愕然とした。中には泣き出したり、怒鳴りだしたりする者もいた。
この様子を、大きなスクリーンを通して見ていたモレック星人が、会場に集まっている賭博人たちを見回して言った。
「さあ、お立ち合い。今日も皆さんお待ちかねの時間帯となりました。いつものように、ある惑星の、ある会社のあるフロアが我がUFO内の異次元室に収まっております。さて、彼らの行動について、それぞれのチップを賭けていってもらいましょう。この中で一番初めにトイレに行こうとするのは誰でしょうか。一チップ以上から受け付けます。自殺・殺人に関しては百チップ以上から受け付けますよ。時間延長に関しては五十チップでお引き受け致します。さあ、早くお賭けになって下さい。おや、去年の八月六日に拉致してきたクラリオン星のエフ製造会社、フロア五十八では、食糧を巡って殺人が行われたようです。これにチップを賭けた方はいらっしゃいますでしょうか……」
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