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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
恋は人類特有の感情?
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忍び寄る魔

「ごめんねレイ君、お腹空いてると思うけど」

「いや、全然大丈夫ですよ」


 レイたちの所属しているのは演劇サークル。レイは裏方として働いているが、一方でリンカは積極的に劇に出演しているサークルの看板女優である。

 そんなリンカはサークル内外を問わず人気があり、レイのような裏方が2人でご飯を食べることなど滅多に叶わないことなのだ。


「すぐ終わらせるから、ちょっと待っててね」


 いつから用意していたのか、ポケットから部室の鍵を取り出しドアノブに差し込むリンカ。


「じゃあ僕、外で待ってますね」

「あっ、それはちょっと——」

「えっ?」


 急にレイの腕を掴んだリンカ。初めて肌同士がふれ、レイの顔は一気に赤くなる。


「レイ君も中に入って! 一緒に探してよ」

「は、はいっ」


 リンカに釣られ、まんまと部室の中に連れ込まれるレイ。


「誰もいない……珍しいですね」


 演劇サークルは人数も多く、部室も広いため休み時間には何人か部室に来てご飯を食べたり作業をしたりしている。

 だがその日は一人も部員がおらず、抜け殻のようになっていた。


「探し物って何なんですか?」

「それは……ちょっとこっちに来て」


 再びレイの身体を引っ張って奥に向かうリンカ。その時、部室の中で何かが動く気配がした。


「あれっ、なんか誰かいません?」

「そ、そう? 気のせいだよ……ちょっと、ここで立ってて」


 そう言ってリンカは部室の真ん中にレイを立たせると、ゆっくりと後ずさりしてレイと距離を取った。


「あのリンカさん、これは一体何を——」

「ハイ、ウチノ勝チ!」


 その瞬間、レイの腹に大きな衝撃が走った。


「きゃぁぁぁ!」


 リンカの悲鳴が部室に響き渡る。レイの身体は一瞬宙に浮き、壁の方までぶっ飛ばされる。


「女、演技ガ上手イジャナイ。部下ニシテヤッテモイイワ」

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

「ごほっ、ごほっ、うええぇぇ!」


(なんだ……何が起こったんだ⁉)


 なんとか立ち上がろうとするレイの目にぼんやりと映ったのは、人間とは思えない巨大な姿。


「男、ヨクモウチノ家族ヲ殺シテクレタワネ」


 レイの頭を掴み上げ、身体を持ち上げたのは巨大なハエの化け物だった。


「げふっ……エイリアンはどいつもこいつも、頭を掴むのが好きなんだな」

「アラ、マダ喋レルノ?」

「うわぁっ!」


 エイリアンは思いっきりレイの身体を振り回し、テーブルの方へとぶん投げる。


「痛いっ!」

「レイ君大丈夫⁉ ごめんなさい、本当にごめんなさい!」


 レイの方に駆け寄り体を支えてあげるリンカ。だがその腕は恐怖で震えあがっていた。


「ごめんなさい、私この化け物に脅されて、レイ君のこと連れて来いって言われて……」

「今サラ言イ訳? ショセン同族ヲ裏切ッタ悪女ノクセニ」

「お前……!」


 立ち上がろうとするレイだが、2度の衝撃で全身が痛み、上手く体を支えることができない。


「アータガウチノ妹タチヲ殺シタ人間ネ。殺サレル前、アータノ事ヲ話シテイタカラ間違イナイワ」

「なんだお前……あのハエ夫婦の家族か?」

「妹ハウチラ一族ノ中デモ一番ノ美形ダッタワ。旦那モ新シイ苗床ヲ見ツケテ、コノ星ノ王ニナルハズダッタノニ……!」


 エイリアンは複眼を真っ赤にして怒り出した。


「アータノセイデ家族ノ未来ガ奪ワレタ! コノ恨ミ、ドウシテ晴ラシテヤルベキカ!」


 その時突然、リンカがレイとエイリアンの間に立ちふさがった。


「やめて、やめてください!」

「何ヨアータ。今サラウチニ楯突ク気?」

「あ、あなたの狙いは別のエイリアンですよね?」


 リンカはレイの方を振り返って続ける。


「レイ君、毛虫みたいなエイリアンがいるんでしょ? 早くこいつに渡して逃げよう」


(リンカさん……こいつからモスのことを聞いたのか!)


「そのエイリアンさえ捕まえたら、私たちの事逃がしてくれるんでしょ?」

「そんなの……嘘に決まってるだろ」


 レイはカバンを抱きかかえてようやく立ち上がる。


「モスは渡さない。どうせ渡したって僕たちのことは殺すつもりだ」

「アラ、正解」

「そ、そんな……⁉」

「ソウ言ッタホウガ言ウコト聞イテクレルト思ッテ。サッキモ言ッタケド、コノ男ハウチノ家族ヲ殺シタノヨ? ダッタラ同ジ目ニ遭ワセナイト」

「そんな……そんなのずるい! 初めから私たちのことも殺すつもりで——」

「もういいですよ。リンカさん」


 リンカの身体を後ろに下げるレイ。

 自分のせいで、あこがれの先輩すら危険な目に巻き込んでしまった。そう思うと、レイはなんとしても自分の力でなんとかすべきだと考えた。


「確かにあんたの家族なら、僕が殺した」


 そう言った途端、エイリアンは全身の筋肉に力を入れて一段と大きくなる。


「ホラヤッパリ! ウチノ考エニ間違イハ――」

「どいつもこいつも、汚い顔してたから処分してやったんだよ」


 レイが挑発するような笑みを向けると、エイリアンはいよいよ激高して床を叩きつけた。


「ムキィィィィッ!絶対許サネェ! ウチガミンチニシテヤンヨ!」


 まっすぐとレイの方に突進してくるエイリアン。レイは思いっきり横に飛び、なんとかそれを交わす。


「モス! ハエ族は何か弱点とかないのか?」


 するとようやく、カバンの中で息をひそめていたモスが喋り出した。


「知らんっ!」

「なんだよお前! 僕も無鉄砲で喧嘩売ったんだぞ!」


 エイリアンはレイの事しか見えなくなり、リンカのことはほったらかしにしている。矛先がリンカに向かないうちに、なんとか決着をつけないといけない。


「死ネ死ネ死ネ死ネェ!」


 相手は完全に人間の身体ではない。前の大男のことも考えると、人間離れした力や身体能力を持っていることは想定しないといけない。


「仕方ない、ここはオレの秘密兵器を使うか」

「何? お前そんなの持ってたのか⁉」

「レイ、俺の口をあのハエ女の方に向けてくれ」


 カバンの中からモスを取り出し、顔をなんとかエイリアンの方に向けた。


「こうか!」

「完璧だ、これでもくらえ!」


 するとモスの口から、何か糸のような物が飛び出した。

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