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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
出会って別れてまた出会って
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この星の王に!

「こんなこと、警察に言えるわけないじゃないか……」


 レイは倉庫から家に逃げ帰り、モスを毛布にくるんでベッドに寝かせていた。


(僕は悪人だ。最悪の犯罪者だ……)


 レイにだって正義感はある、常識もある。もし事故ででも起こして人にケガをさせてしまった時は自ら警察に自首する気持ちでいた。

 しかし現実はどうだろうか。レイは2人の遺体を倉庫の中に隠し、鍵をかけて誰にも見つからないようにしてしまった。


「こんなこと警察に自首したところで、信じてもらえるのか?」


 レイのことを襲ったタカシ母のことはともかく、もう一方は人間ではない化け物。


「いや、警察に行ったって信じて貰えるわけがない。これは、秘密にしておいたほうが良んだ」


 しかし殺してしまったのはタカシの母とおそらく父と思われる人物。嫌でもタカシは両親が帰ってこないことに気付き、レイに連絡を入れてくるだろう。


(僕は何も見てない。何も知らない。あそこでは何もなかったんだ)


 そんなことより優先すべきは、未だ意識の戻らないモスの容態。


「サラダも買ってきてやったんだぞ……早く食べろよぉ……!」


 その時だった。


「うるさいなぁ。いい夢見ていたところだったのに」


 なんと突然、毛布の中でモスが動き出した。


「おまっ、なんだよ! 心配させんなよ!」


 目にたまった涙をぬぐうレイ。それを見たモスが冗談めかして笑う。


「おいおい、まさか泣いてくれてんのか?」

「うるせぇ、僕がどれだけな思いをしてお前を……」


 ホッとすると余計に涙がこぼれだす。


「オレがあれくらいで死ぬわけないだろ。見くびられたもんだ」


 モスの元気そうな顔を見た途端、今日一日の疲れが吹き飛んだような気がするレイ。

 だがタカシの両親を殺してしまったことを思い出し、再び顔が暗くなる。


「レイ、お前あいつらを手にかけたこと、気にしてるんだろ」

「なんでその事を……お前見てたのか?」

「うっすら意識だけな」

「なんだよ! 生きてたんなら返事くらいしろよ!」


「生きてたっていうか、生かされてたんだよ」

「生かされてた? あいつらはお前を殺すためにさらったんじゃないのか?」

「うぅん、話が難しいなあ」


 モスは毛布からのろのろと抜け出し、パックに入っているサラダにむしゃぶりつきながら話し始めた。


「初めてレイと会った時、オレは蛾だって言っただろ?」

「ああ、だからモスと呼べって」

「オレがこの星で言う蛾だとするなら、あいつらはハエだ」

「ハエ……そういえば、あの大男もハエみたいな顔を」

「ああ、あいつらはああやって他の生物に寄生して繁殖していく。あの夫婦は苗床にされたんだよ。かわいそうなことにな。脳みそまでハエどもに侵されちまった」

「ま、待てよ! そもそもなんでお前らはこの星の虫と似たような見た目をしてるんだ? なんでこの星に来たんだ?」


 するとモスはレイを見下したような顔をした。


「知らないのか?この星で数億年前から生きてる虫っていうのは、オレたちの祖先が宇宙に送り出した種なんだよ」

「種……?」

「オレたちは古代から様々な種を星々に送り、適応できた星に飛来してその星の王になることを目指す。中でも著しい適応を見せたのがこの地球だった」

「ごめん……全然話が見えてこないんだけど」

「なんだよ、人類の癖に頭が悪いんだなぁ」


 モスはサラダを食べ終えると、そのまま眠そうに横になった。


「ざっくり言うと、オレたち蛾族もあいつらハエ族も、この地球の王になるためにやってきたライバルなんだ。オレが捕らえられたのは、一族に対して有利な交渉を持ち込む、この星で言う人質みたいなもんだった」

「なるほど。だから生かされていたわけか」

「ハエ族は狡猾で汚い手段を好む。オレたちとは違って、人類に悪影響が出ても問答無用な連中だ」


 モスは横になったまま、ビシッとのようなものをレイの方に向けた。


「お前は人間を殺したんじゃない。ハエどもから地球を守ったってことさ」

「そんな、そんなこと言われたってさぁ」

「前にも言ったな。お前には、オレの言葉を信じる以外に選択肢はない。これ以上事を大きくしたくないのなら、あの死体は倉庫に隠したままにしておけ」


「……ああ、わかったよ」

「だがハエ族は仲間意識が強い。仲間がやられたと気づいたらすぐやり返しに来るだろうな」

「は……はぁ⁉」


(僕ってもしかして、とんでもないことに巻き込まれてしまったのでは?)


 しかしレイは不思議と、絶望した感情も大きな不安も抱えることはなかった。


「まあその時は、僕のことを守ってくれよ。モス」

「は? 嫌だけど?」

「えっ?」


 モスはのっそりと立ち上がり、ふんぞり返って話す。


「見てわからない? オレはこんなに可愛らしい毛虫の姿だよ? 自分の身も守れない甘ちゃんなのに、何ができるんだよ」

「お前それ、自分で言ってて恥ずかしくないのか……?」

「オレがお前を守るんじゃなくて、お前がオレを守るの。OK? Do you understand?」


「なんか僕、やっぱり自信無くなってきたわ……」

「心から負けていてはダメだ。きっとオレたちにはこれからたくさんの刺客が訪れる」

「刺客? そんなにたくさんのエイリアンがここに来てるのか?」

「ああ、中にはハエ族のように手荒な種族もいる。オレたちはそいつらを蹴散らし、この星の王となるんだ!」


「それが、モスがこの星に来た目的……?」

「そうだ。それをレイ、お前と2人で成し遂げるんだ。きっとその先に、お前が望んでいる世界もある」

「……」


(もしかしたらコイツ、本当にこの星の王になるかもしれない……)


「さ、真面目な話はこれくらいにしてオレはもう寝るわ。寝起きのサラダも用意しておけよ」


(いや、やっぱりだめかもしれない……)


———第一節 出会って別れてまた出会って 完———

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