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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
眠りの準備を
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訪問者

 その男はある日、突如としてACD基地の目の前に現れた。


「誰だ。ここから先は立ち入り禁止だぞ」

「この先は国有地だ。民間人が入ることはできない」


 屈強な隊員たちが引き止めるも、男は何食わぬ顔をしている。


「ここに知り合いがいるんだ。会わせてほしい」

「そんなこと言って、中で動画でも撮影してユーチューブにあげようってか?」


 馬鹿にしたように笑う隊員に対し、男は少し嫌な顔をしながら言った。


「如月レイに会わせてくれ」

「如月レイ? 知らんな。そんな人物は中にはいない」


 明らかに男を弄んでいるような隊員に対し、男は徐々に苛立ちを見せ始める。


「お前らに構っている時間はないんだ。中に如月レイという男がいるだろ」


 すると横で黙っていた真面目そうな隊員が口を開いた。


「個人情報が関わるので、その質問に回答することはできない」

「とにかくここは部外者立ち入り禁止だ」


 すると男は小さく舌打ちをして、隊員たちにこう問いかけた。


「だったらこれでも、中に通してもらえないのかな?」


  *


 男は関門を潜り抜け、ACD基地の目の前までやって来た。


「誰だお前! どこから侵入してきた!」


 男の姿を見かけ、続々と近づいてくる隊員たち。

 その中に紛れ込んでいたレイが、男の姿を見て大きな声を上げた。


「タカシ! なんでこんなところにいるんだ⁉」


 基地に入り込んだその男とは、レイの前から姿を消した飯田タカシだった。


「レイ、久しぶりだな」

「久しぶりじゃねえよ! 急に消えたと思ったらこんなところに現れて……まさか、お前が僕の隊服にGPSを付けたのか!」

「レイ、ちょっと昔話をしようか」


 タカシは和やかな雰囲気でそう切り出す。


「昔話なんかしてる場合じゃないだろ! お前が何の目的でGPSを——」

「俺はさぁ、父ちゃんが自営業で会社をやってて、母ちゃんは専業主婦で、まあお金に関しては何一つ苦労をしたことがなかったんだ」


 強引に話を進めるタカシに、レイも流されて黙ってしまう。

「でもレイは大変だったんだって? 小さい頃に両親が事故で亡くなって、親戚中をたらいまわしにされたんだろ?」

「……タカシ」

「まあそんな2人が、高校で同級生として出会ったわけだ」

「……あぁ、そうだな」


「お前は羨ましかったんじゃないのか? 自分は必死に勉強して高校に入ったのに、周りはそんな金の苦労とは無縁で、将来の不安もなく楽しく生きてる。特にクラスのリーダーで人気者だった俺の事なんて、本当はずっと羨んでたんだろ?」

「そんなことは——」

「だから俺の両親を殺して、家まで焼き払って逃げたんだ」


 隊員たちの驚きの目線がレイに向けられる。レイはその状況に焦りを感じていた。


「お前、それは説明しただろ! あれはエイリアンの仕業で——」

「みなさぁん! こいつは個人的な恨みで罪のない人を殺した極悪非道な殺人犯です! こんな奴と一緒にいてていいんですかぁ?」


 隊員たちの目が曇りだす。疑念のような眼差しを向ける者もいた。

 そして、ゆっくりとタカシがレイに詰め寄る。


「レイを俺に引き渡せ。こいつを殺人と放火の罪で警察に突き出す」


 その時、全ての事情を知っている水嶋が前に出た。


「それはできません。あなたの両親はエイリアンに寄生され、如月隊員を襲おうとしました。その両親を殺したのは、正当防衛に当たります」

「なんだよ、お前」


「家を焼いたというのも、中でエイリアンが繁殖していたゆえの行動。繁殖を止めるために家を燃やしたのは、緊急避難に当たります」

「……」


「よって如月隊員の行動に違法性は阻却され、無実になるでしょう」

「……うぅ!」


 するとタカシはうめき声を上げながら地べたに膝をついた。


「……ああそうかい、じゃあ俺が直々に復讐してやるよ!」


 突如レイに殴りかかってくるタカシ。

 レイはその一直線なパンチをするりとかわし、腕を抑え込んでそのまま背中で固めた。


「痛い、痛い痛い!」


 入って数か月とはいえ、所詮は軍人と一般人。力量の格差は如実なものだった。

 そこに水嶋が隊員たちに向かって大声を張り上げる。


「みな落ち着け! 如月隊員は法に触れることは一度も行っていない。我が隊は信頼関係が大事だ。敵によってその信頼を削ごうとする術中にはまってはならない!」

「……くそっ」


 ようやくレイから解放され、後ずさりするタカシ。だがその眼はまだ諦めていないようだった。


「人間のルールで裁けないなら、俺たちのルールで裁くだけだ」

「俺たち?」


 その時、森全体から振動するような音が聞こえてきた。


「何か来ます!」


 ケイが指さす方向には、無数の飛翔体の影が。全てACD基地に向かって飛んできている。

 それを見たモスが、レイの背中から大きな声を上げた。


「あれは……ハエ型のエイリアン!」


 前のトンボ型エイリアンの比ではない。山を覆うほどの黒い物体が迫ってきている。


「すぐに戦闘準備! 重火器の使用も許可する! 一網打尽にしろ」

「さぁて、そう上手くは行くかな?」


 飛んでくるハエ型エイリアンに背を向け、ニヤリと笑うタカシ。

 そこに戦闘準備を済ませたレイが駆け寄った。


「タカシ! お前まさか、ハエ族と結託していたのか!」

「あぁそうだ! レイ、家族を殺したお前に復讐するためにな!」

「あれはお前の知ってる家族じゃない、ただのエイリアンだったんだ!」

「黙れ! それでも俺の唯一の父ちゃんと母ちゃんだった!」


 涙を見せながら、レイと戦おうとファイティングポーズをとるタカシ。


 ACD創設以来、最大の戦いが今、始まる。

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