緊急会議
「みな、忙しい中集まってくれたことに感謝する。これより、ACD緊急会議を始める」
広い会議室の中に集められたACDの各隊隊長と副隊長、そして研究員たち。
レイとモスもその中に混じり、厳粛な空気の中会議が始まった。
「今回の議題は主に2つ。我々に協力してもらっているエイリアン、モスの管理と、我が隊員を狙っているというハエ型エイリアンの王についてだ」
会議室の真ん中で話を切り出す神崎リュウガ総司令。下々の隊員の前には滅多に姿を現さず、レイも目にかかるのは初めてのことである。
「まずモスの管理についてだ」
神崎総司令が合図を送ると、水嶋が立ち上がりレイの方に目をやる。
「如月隊員、モス君を前に」
「はい!」
膝に置いていたモスを拾い上げ、幹部たちの視線を集める中緊張した面持ちで中心のテーブルに置く。
「なぁに緊張してるんだよレイ。手が震えてるぞ」
「おまっ、ちょっと黙ってろ!」
参謀や他部隊の隊長から冷たい目を向けられる。だがモスはそんなこと全く気にも留めていないようだった。
「何をこんなに辛気臭くやる必要があるんだよ。オレの故郷ならもっと楽しく騒ぎながらやってたぞ」
「うるさい、ここはお前の星じゃないんだ」
「如月隊員」
ぎろりとレイを睨みつける総司令。
「はっ! 申し訳ありません!」
「いや、よい。エイリアンに人間のルールをわきまえさせるのは無理なことだろう。一旦座れ」
「はいっ!」
総司令に言われるまま、自分の席へと戻るレイ、横でケイがひそかに微笑みかけた。
「……モスよ、現在お前は我々人類に対してどのような感情を抱いている」
「感情?」
「単刀直入に聞けば、これからも我々に協力する気があるか、ないかだ」
「ふぅむ」
モスはしばらく考え込んだのち、神崎総司令の威圧にも臆することなく答えた。
「オレの目的はあくまで、この星の王になることだ。それを邪魔するなら人間は敵だし、邪魔しないなら人間は共存対象になる」
横にいる参謀が素早くメモを取りながら、総司令が質問を続けた。
「ではお前がその星の王となったとき、我々人間のことをどう扱う?」
「どうもするもんか。今答えたとおりだ」
「……質問を変えよう。お前がこの星の王になったとき、お前は我々に何を見せてくれる」
モスは再び考え込むと、ぽつりぽつりとゆっくり答え始める。
「……オレは母上と一緒に過ごした温かい時間が好きだった。レイといろんな日々を過ごして、同じような気持ちを抱いた。だから俺はレイに、この星の王になった暁にはお前の見たい景色も見せてやると言った」
「それは一体、どんな景色だ?」
「それは——」
モスはレイに見せたい景色を答えた。
ACD隊員全員があっけらかんとする中、総司令だけは感慨深そうにうなずいていた。
「わかった。我々もお前に協力しよう。あれを出してくれ」
総司令が合図すると、会議室の扉から大きなガラスケースが運び込まれる。
「これは、なんだ?」
「お前が繭でいる間、この中で管理させてもらう。温度、湿度管理も徹底され、ガラスは銃弾にも耐えうる特別製だ」
「ここでオレが、繭の時間を送るのか……」
目の前に迫る変態の時をリアルに想像しているのか、モスはガラスケースに映る自分をしきりに眺めていた。
「繭を作るときそのケースに入ってもらい、地下の研究室で管理する」
「わ、わかった」
「この話は以上だ。続いて、如月隊員を狙っているというハエ族の王、蠅王と呼称するこのエイリアンへの対応を考えていきたい」
その時、総司令の横にいた参謀たちが声を上げた。
「総司令、王と言えども相手は同じエイリアン。強く警戒する必要もないかと思われますが」
「刀を振れば切れるし、銃弾は貫かれる。確体の構造自体は今と変わらないでしょう」
「だが、やっこさんはハエ族の王。数多の軍勢を率いてくることも予見される。なにより捕縛されたカメムシ型エイリアンが名前を出すだけで怯えるほどだ」
総司令の言葉に黙り込む参謀たち。
「如月隊員はしばらくこの基地で生活してもらう。ここなら場所もバレていないし、民間人が巻き込まれる必要はないからな」
「はい、わかりました」
すると不意に総司令が研究員たちの方に目を向けた。
「それでカメムシ型エイリアンの研究はどうなっている」
それに対し、一番偉いと思われる老齢の研究員が答えた。
「研究は順調です。体内で生成されるガスを用いれば、エイリアンに対する新しい武器が作れるかと」
「よし、そのまま任務を続行してくれ」
順調に会議は進む。そんななか突然、水嶋が腰を落としてレイの方に近寄って来た。
「如月隊員、これを」
水嶋が手渡してきたのは、1つの鍵と数字が書かれたメモ。
「研究室に出入りするためのカギと暗証番号です。モス君の様子は常に見ておきたいでしょう」
「あっ、ありがとうございます」
鍵とメモを受け取り、とりあえず隊服の右ポケットの中に入れる。
「……ん?」
だがポケットに手を突っ込んだとたん、何か小さいものが入っている感触があった。
「なんだこれ?」
ポケットから出てきたのは小さな機械。
レイには全く見覚えがなかったが、それを見た水嶋が突然その機械を奪い取った。
「これはGPSだ!」
なぜそんなものがレイの隊服に入っているのか。
そんな疑問を呈する暇もなく。水嶋はGPSを踏みつけて破壊した。




