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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
ルーキー隊 始動
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嫌な予感

『カスクートビル14階にて、巨大生物の目撃情報アリ。ルーキー隊の如月隊員は単独でビルへと入り対象を調査、あるいは駆除せよ』


「しかし情報が少なすぎないか? このビルやけにデカいし、1フロアも広いし」

「ビル内に潜んでいるならそこまで大きく動くことはないだろ。まず14階からくまなく探せばいい」


 清掃スタッフの新人として、清掃服にモップ、バケツの中には雑巾とモスを突っ込んで現れたレイ。

 大型オフィスビルであるカスクートビルに清掃員として潜入し、誰にも悟られないようエイリアンを駆除する初仕事である。


「しかしタカシのやつを家に匿って良かったのか? 下手したらレイも逮捕コースだろ」

「全部僕がやったことなんだ。タカシは無実なんだ。いつか僕がそれを証明する」

「証明って、エイリアンのことをおおっぴらのするのか? 国があんなに隠したがってるのに」

「……いつかな、いつか」


 エレベーターで14階に上がり、床を清掃しながらエイリアンを探す。


「しかし国も、エイリアンを隠すなんて無茶なことするもんだ」

「いや、身近なところにエイリアンがいるなんて発表したらパニックになるだろ。そうしたい気持ちはわかる」

「隠せているのは今のうちだ。やがて……どうにもならないときがくる」


 トイレ清掃中の看板を出し、中をくまなく捜索。女子トイレに入るのはかなり勇気が必要だったものの、中を探しても何も出てこなかった。


「そういえばこの前も、まだヤツらが来ていないとかどうとか言ってたな。ヤツらってのは誰の事なんだ?」

「……」


 途端に口をつぐむモス。迂闊に言えない事情があるのか、口に出すのも恐ろしいのか。


「そうだレイ、オレ最近結構大きくなったと思わないか?」


(急に話を変えたな……)


「そうだな、最初に会った時と比べたら、倍にはなってるんじゃないか?」

「何となくだが、オレももうすぐ繭を作る時が来るんだと思う」

「ああ、そういえばお前、蛾だったもんな」

「繭になるとしばらく喋れなくなるからな。その直前に、いろいろ教えてやるよ」

「何をもったいぶってんだか」


 トイレを出て、様々なオフィスに顔を出しながらエイリアンを探していくレイ。

 しかし当然どこにもその姿はなく、やがて最後の倉庫へとたどり着いた。


「ここで見つからなかったら、全36階を一つずつ潰していく最悪な仕事に様変わりだな」

「そもそも通報自体が何かの間違いだった可能性もあるぞ」


 静かに倉庫の扉を開き、電灯を点ける。すると視界の端で、素早く動く黒い影が目に入った。


「何かいるぞ!」


(よかったぁ、これなら36階全部探さなくて済みそうだ)


 逃げ出さないよう倉庫の扉を閉め、黒い影を追う。


「エイリアンの割にはだいぶ小さかったな。まだ子どもか?」


 影が逃げていった先を追うと、今度は棚の隙間から飛び出して背後に逃げ回る。


「うわすばしっこいなぁこいつ! いっそ煙でも焚いて蒸し殺すか?」

「……いや、できれば生け捕りにして、話が通じるなら話を聞きたい」


 バケツを降ろし、モップを両手に抱えて影の逃げたほうをにじり寄る。


「……来たっ!」


 棚を横にずらし、飛び出てきたところにモップを突き立てて抑え込んだ。


「これはゴキブリ……じゃなくて、アリ?」


 三つに繋がる球体の先端から伸びた触覚、大きめのあご。60センチ程あるものの、真っ黒いその姿はまさしくアリそのものだった。


「アリ⁉ アリだと⁉ レイ、もっとよくみせろ!」


 バケツの中から這い出てきたモスがそのアリへと近寄る。


「お前……喋れるのか?」

「……ギィギィ」


 どうやらそのアリは話すことができないらしい。

 そんなことよりレイは、モスがアリの姿を見てやたら焦っていることが気になった。


「アリ、アリ族がついにやってきたか……」

「なにかマズいことでもあるのか?」

「いや……こいつはとりあえず捕獲しよう。麻酔は持ってきたか?」

「ああ、まあ一応」


 レイは片手でモップを抑え込みながら、もう片手で腰に差した麻酔注射を取り出す。


「これ本当に効くのか?」

「ああ、オレも何回も実験台にされた」

「お前、結構大変だったんだな……」


 注射をアリの腹部に突き刺し、麻酔液を流し込む。すぐにアリの力は弱まり、そのままぽとりと床に落ちた。


「よし、じゃあ下で回収してもらって——」

「いや、このまま他の階も探そう」

「えっ?」

「今すぐにだ! 早く!」


 結局レイはモスに言われるがまま、カスクートビル全36階の全てを調べる羽目になったのだった。


  *


「あぁ疲れたぁ……」


 ようやく家に帰ってこられたのは夕刻。玄関の扉を開け、そのままベッドに倒れ込む。


「結局1階ずつ階段移動かよ。もう足パンパンだ」

「結局、あの1匹以外は見つけられなかったな」

「なんであんなに必死になって探したんだ?」


 するとモスもリュックの中からベッドに這い上がり、ぐでんと横になる。


「アリ族は本来集団で生活する種族。1匹知るなら周りに1000匹知ると思ったほうがいい」

「だが、結局あの辺りには何も見つからなかったな」

「おそらく他の種族が地球に来る際、引っ付いてきちまったんだろうな。ちょっと安心したぜ」

「そういえば……タカシはどうした?」


 家に匿っていたはずのタカシがいなくなっている。大っぴらに報道はされていないものの、警察が血眼になって探しているだろうから、外には出ないように言っていたはずだった。


「そこになんか、置手紙があるぞ」


 モスが手を伸ばした先のテーブルには、チラシの裏に書かれた何かのメモが置いてあった。

 それは、タカシからレイに対する書置きだったようだ。


『俺のことをかばってくれてありがとう。もうここにはいられなくなった』


 半開きになった窓から、秋の冷たい風が流れ込んだ。

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