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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
出会って別れてまた出会って
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夢の終わり

「……んあ?」


 目が覚めると、レイはいつものベッドの上にいた。


「夢でも見てたのかな……」


 見渡してもモフモフの毛虫はいない。カバンの中身は空っぽだ。


「そうだな。夢だな」


(よく考えたら喋る毛虫? エイリアン? 地球の王? 馬鹿馬鹿しい)


 スマホを見ると、数時間前にタカシからLINEが来ている。


『昨日はごめんな。家飲みに誘っておいて先に寝落ちしちゃって。レイのことは父さんが運んで行ってくれたから』


 玄関に向かうと、扉には鍵が閉められポストに鍵が入れられている。


「僕もタカシの家で眠っちゃってたのか……なんか夢と現実がごっちゃになってる」


(タカシと家で飲んでいたのは現実の事。喋る毛虫がいたのは夢の事。じゃあタカシの母に迫られたのは……?)


 考え込むレイ。無駄に時間だけが溶けていく。

 結局その日、レイはボーっとしたまま1日を過ごしていた。


(……いや、もう忘れよう。僕はタカシの家でタカシと一緒に酔いつぶれてここまで運ばれた。それだけだ)




 翌日からもレイはモスやタカシ母のことを忘れ、ただ普通の大学生としての生活に戻っていった。

 そんな日が続いた金曜日。レイに憧れの先輩であるリンカと仲良くなるチャンスが訪れた。


「レイ君、映画ってよく見る?」

「えっ、僕ですか?」


 サークル終わり、突然リンカから話しかけられたレイ。


「え、映画はよく見ますよ。今でもTSUTAYAに行って色々映画探すのが好きです」

「ならこの前私が見た映画も見てみてよ! すっごく面白かったから誰かと語り合いたくて!」

「へえ、一体どんなの見たんですか?」

「それがね、女子高校生が第二次世界大戦時の日本にタイムスリップする話で——」


(内容は全然興味ないけど……リンカさんと話を合わせるために観るしかない!)


 明くる土曜日、レイはその映画を借りるためTSUTAYAを訪れた。


「あっ、これ新作かぁ……料金高くなるけど、このチャンスを逃すわけにはいかない!」


 レイはリンカがおすすめした映画と自分の見たい映画2本を持ってレジまで向かう。

 だがそこで、思いもよらぬことを言われた。


「お客さん、前借りられていたDVDの返却がまだですね」

「えっ? 僕何か借りてましたっけ?」

「インデペンデンス・デイだけですけど、本日中に返却をお願いします」

「いや、そんなはずは——」


 その映画を観たのはモスと一緒、つまり夢の中で。でなければレイが過去に何度も見た映画を借りる理由もない。


「もしかして、夢じゃない……?」


 突然レジに映画を置いたまま走り出すレイ。


「すいません。それやっぱキャンセルで!」

「ちょ、ちょっとお客さん!」


 モスとのことが夢かどうかは分からないが、レイがDVDを借りたのは事実らしい。


「確かめに……確かめに行くしかない!」


 レイはおよそ1週間ぶりの全力疾走で、タカシの家へと向かった。




「はぁ、はぁ……しかしどうするか……他人の家でエイリアンを探すなんて言えないし」


 そもそも他人の家を漁って物を探すということもできない。かといって


「でっかい喋る毛虫探してるんだけどいない?」


 なんて聞くわけにもいかない。


「もしかしておばさんが何か知っているのか? あれが夢じゃなかったとしたら、おばさんがモスをさらった張本人なわけで……」


 その時、ちょうど家の扉が開いて誰かが出てきた。


「あれっ? レイじゃん。何してんのここで」

「なんだ、タカシか……」

「俺に用か? だったら悪いんだけど、今から出かけないと行けなくて——」

「いや、タカシに用というか、この前一緒にここで飲んだじゃん?」

「ああ、あの時は悪かったな。先に酔いつぶれちゃって」

「それはいいんだけど。あの時ここに忘れ物しちゃったみたいで」


 するとタカシは何かを思い出そうとするように、視線を右上に向ける。


「そんなのあったかなぁ? 俺の部屋にはそれっぽいのはなかったけど」

「ちょっとだけ、家の中探させてもらってもいい?」

「ああ、いいよ」


 二つ返事でOKするタカシに、思わず面食らってしまうレイ。


「今家には誰もいないんだけど、そのうち母ちゃんが帰ってくるから。それまでは家にいてくれ」

「わかった。ありがとう」


(チャンスだ! おばさんがいないうちにさっさと見つけてしまおう)


 レイは心の中で大きくガッツポーズをした。




「おいモス! どっかにいるんだろ!」


 ここまで来たレイはどうしてか、モスが本当にいたのだと信じることしかできなくなってしまっていた。状況的な証拠もあるが、何よりモスに存在していてほしいという気持ちが強かったのかもしれない。


「おいモス! 助けに来たぞ!」


 しかし一向に返事はない。キッチンに居間、夫婦の寝室らしき場所をくまなく探しても、何も見つけることはできなかった。


「まずいな……このままじゃおばさんが帰ってくる」


 おばさんがモスを奪ったのだとすれば、モスを探していることがバレればただじゃすまないかもしれない。


「モス! 早く出てこい! またサラダ食わせてやるからさぁ!」


 だがどれだけ家の中を漁っても、モスが出てくることはなかった。

 そしていよいよ、ガチャリと玄関扉の開く音が。


「タカシいるの? 玄関の鍵開けっ放しよ!」


(最悪だ……おばさんが帰って来た)


 隠れていては、見つかったときに余計怪しまれる。

 レイは観念してタカシ母の前に姿を現した。


「レイ君⁉ また遊びに来ていたの?」


 タカシ母は1週間前の妖艶な姿とはまるで違う、普通の専業主婦という感じだった。


「タカシは……タカシはさっき出かけましたよ」

「じゃあ、どうしてレイ君だけがうちにいるのよ」


 まだタカシ母が黒かどうかはわからない。それっぽい話を持ち掛けても、適当にはぐらかされるだけかもしれない。


(しかし、もうこの人以外モスに辿り着く手がかりはない……!)


「あの、おばさん」

「なあに?」

「モスを……モスをどこにやったんですか」

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