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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
ルーキー隊 始動
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再会

 翌日、レイは久しぶりに大学を訪れ、すっかり元の場所に戻った演劇サークルの部室へと足を踏み入れた。


「レイ……」


 部室に入って最初に気付いたのはユウト。だがレイはユウトに対して、笑顔を向けることはできなかった。


「お前、なんか変わったな。ごつくなったっていうか」


 どうやら素人目に見ても、レイの変化は著しいものらしい。


「……ははっ、まさかこんな早く戻って来れるなんて思ってなかったよ。あの時は急に連れて行かれてみんなびっくりしてさ」

「びっくりした? 最初から僕を捕まえさせるつもりだったんじゃないのか?」

「そ、そんなわけないだろ!」


 申し訳なさを感じてか、屈強になったレイの姿を見たからか、何とも言えない表情を見せるユウト。


「あの時はなんていうか……俺も焦ってたんだよ! 突然化け物が現れるし、それはエイリアンだなんてお前が言うし、お前もエイリアンを持ってるし」

「……あぁ、まあ驚くのも無理はないよな」

「そ、それよりさぁ」


 ユウトはレイの袖を引っ張って、部室の端へと連れていく。


「そのエイリアンの事なんだけど、水嶋って人にやたら口止めされてるんだよ。俺がレイの事、エイリアンをかくまってるって言ったのもすごい怒られて」

「なにか教えてもらったか?」


 ユウトは勢いよく首を横に振る。


「何にも。唯一言われたのは、あれはエイリアンではなく突然変異した地球の虫だってことと、このことは絶対他人に喋ってはいけないってことだけ」

「なるほど。水嶋隊長はそんな風に……」

「隊長? あの人何かの隊長なのか?」

「ああいや、なんでも」


「それよりさ、あの時見た毛虫、まだ一緒にいるのか?」


 今度はレイが周囲を見渡し、誰も聞き耳を立てていないことを確認した。


「ああ、ここにいるよ」


 レイはリュックのチャックを開けると、中に入っているモスとユウトの目が合った。


「飼ってるのか」

「飼うっていうか、相棒っていうか?」

「相棒……?」


 その時、1人の女の子が部室に入って来た。


「あっ、キョウカちゃんおはよう」

「ユウトさんおはようございま……ってレイ先輩!」


 レイの存在に気付き、駆け寄ってくるキョウカ。


「ずっと心配してたんですよ! 急にいなくなるから」

「ああ、ごめん……」


 キョウカの目は、どこか潤んでいるように見える。


「あの、キョウカちゃん。それより今日、リンカさんは?」

「リンカさん、ですか? 今日は授業ないし1日バイトのはずです。多分部室にも来ません」

「あぁ、そっか……」


 するとリンカは潤んだ目をぬぐって、レイを見上げながら尋ねた。


「レイ先輩とリンカ先輩って、付き合ってるんですか?」

「えっ、な、どうしてそう思うの⁉」

「だって先輩たちスパレジャにデート行ってたし、キャンプでレイ先輩が連れて行かれてから、ずっと泣いてたんですよ。リンカ先輩」

「そう、だったんだ……」


 会いたい、今すぐリンカさんに会いたい。だがレイはリンカの住所もバイト先も知らない。

 レイはポケットからスマホを取り出し、ラインのリンカのトーク画面を開いた。


『今日、会いたいです。うちで待ってます』


 それだけ送って、レイはサークルの活動を夕方まで手伝うことにした。


  *


 午後6時ごろ、レイは自宅前で2人の人影を見た。


「あっ、レイ君お帰り」

「あ、あのこの前の通話で、変な誤解されちゃったみたいで」

「大丈夫、大丈夫だから」


 そう言いつつも、明らかに信用していないような顔を見せるリンカ。


「それより、こっちの人なんだけど……」


 視線を移すとそこには


「……レイ、助けてくれ」


 留置場を脱走したという、タカシの姿があった。


「レイ、頼む。何か食わせてくれ」

「ねえレイ君、この人誰? 知り合いなの?」

「……はい、大事な知り合いです」


 レイはリンカとタカシを家の中に連れ込んだ。


「タカシ、留置所から脱走したんだってな」

「えっ⁉」


 リンカはキッチンに立ちながら、驚いたような顔で振り返る。


「……なんだ、もう話は伝わってたのか」

「レイ君……その人、犯罪者なの?」

「ち、違うんです! 俺は何にもやってなくて——」


 レイは優しく、タカシの肩に手を当てた。


「わかってる。わかってるよ……だから家に入れたんだ」

「タカシ君? には何があったの?」


 そう尋ねるリンカに対し、タカシはぽつぽつと話し出す。


「まず夏に入るくらいの事、当然うちの両親が姿を消したんです」


 それはレイがモスを救うために殺した時のことだ。


「しばらくして家に変な鍵が見つかって、防犯カメラの映像でそれがある倉庫の鍵であることがわかりました。その倉庫で、両親の遺体を見つけて……」

「そんなことが……」

「どっちも緑色の血とか黒いぶよぶよとかが出ていて、とても人間の物には見えませんでした。警察に通報しようかと思ったんですが、こんな化け物を持って行っても信用してもらえないと思って、自宅の浴室に隠したんです」


 やはり死体を運んだのは、タカシだったのだ。


「そしたら数日後に家が燃えて、死体も全部燃えちゃって……俺が放火と死体遺棄、それに両親の殺人の疑いで捕まりました。」

「そんな!」


 両手で口を覆うリンカ。タカシの言っていることに嘘はないだろう。全てを知っているレイはそう確信した。


「……それで、そこでサラダを食っている毛虫は何なんだ?」


 タカシはすぐ側にいたモスを指さす。


「これはまぁ、なんていうか、今までの話の元凶だよ」

「はっ? 元凶?」


 レイは今までタカシの周りで起こっていたことを、全て伝えた。


「——つまり、うちの両親はエイリアンに寄生されていたから、仕方なく殺した。家ではエイリアンのタマゴが繁殖していたから、燃やすしかなかった……」

「タカシの家族も家も、僕が全部奪ってしまったんだ」

「……そうか」


 タカシは怒るかと思いきや、思いのほか砕けた表情を見せた。


「これで俺たちは、エイリアンの存在を知る3人ってことになるな」

「ああ、まあ……」

「じゃ、じゃあレイ君が今までどこで何してたか聞いてもいい?」

「私も、あの女の人とのことも気になる」

「ああ、それは……」


 ACDのこと、この2人に話してもいいのだろうか。

 そんな疑問も湧く一方、この2人にもう隠し事をしたくないという思いが強かった。


「実は——」


 レイはリンカとタカシに、ACDという機関があること、そこで1か月間訓練を受けていたことを伝えた。


 否、伝えてしまった。


 タカシはその話を聞いて、ニヤリと笑った。

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