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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
ルーキー隊 始動
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結果発表 / 帰宅

 程なくして、廃墟を覆うほどだったトンボ型エイリアンは殲滅。死体は全て回収され、研究施設へと運ばれた。


「任務ご苦労だった。如月隊員も、初めての任務にしてはよくやった」


 ルーキー隊は基地に戻され、グラウンドで軍曹からの講評を受ける。


「永野ケイ副隊長」

「はいっ!」

「前評判に違わない見事な采配であった」

「ありがとうございます!」


「内海ダイスケ隊員」

「はいっ!」

「今回最も多くのエイリアンを駆除したと報告を受けている。よくやった」

「恐悦至極にあります!」


 一人ずつ功労者の名前を挙げていく高田軍曹。だがいつまで経っても、レイの試験の結果を口にする気配がない。


「高田軍曹! 質問よろしいでしょうか!」


 しびれを切らしたレイは、話を割って手を上げる。


「なんだ、如月隊員」

「今回トンボ型エイリアンの大量出現から、対応が早すぎたように思うのですが、もしかして付近にエイリアンがいるとわかったうえで試験を——」

「その通りだ」

「えぇ……」


 正直すぎる返答に、思わずため息を漏らすレイ。


「広い森の中で撃破していくのは時間がかかる。だからあえて如月隊員1人におとりをさせ、仲間をおびき出した」

「じゃ、じゃあ初めから僕の試験は嘘だということに……」

「いや、試験は別として評価させてもらった」

「そ、そうでありますか!」


 急いで姿勢を正す。高田軍曹はレイの方に向き直り、試験の講評を始めた。


「まず制限時間だが、こちらは当方の基準と大差ない」


(よかった……)


「またエイリアンへの対処について。上手く敵の特性を利用し、早急に仕留めることができていた。これも評価に値する」

「と、いうことは」


 期待に胸を躍らせるレイに対し、高田軍曹は冷たい目を向けた。


「ただし貴様、戦闘中にトランシーバーを落としてそのまま逃げようとしたそうだな」

「ど、どうしてそのことを!」

「全てドローンカメラから確認している。命綱ともいえる連絡手段を絶やすとは、どういう神経をしているのだ!」

「も、申し訳ありません!」


 冷や汗を垂らしながら頭を下げる。高田軍曹はその姿を見て、ふんと荒い鼻息を吹いた。


「しかし、見事にその失敗をカバーする活躍を見せた。ということで……」


 ゆっくりと顔を上げるレイ。その姿を高田軍曹は笑顔で見ていた。


「合格だ。入隊1か月でよくやった!」


「「おめでとう!」」


 隊員たちから起こる拍手。レイは一瞬照れつつも、すぐに喜びの顔を見せた。


  *


「あぁ、ようやく家に帰って来たぁ!」


 特命隊員試験を終え、暦も9月に入った頃、レイはようやく帰宅を許可された。


「埃臭いなぁ、少し掃除するか」


 すっかり体力がついたレイは、家に帰ってもすぐベッドに倒れず、てきぱきと掃除を始める。


「冷蔵庫の中は全滅かな? あとで買ってこよう。その時ついでにリンカさんとご飯とか——」


 その時、突然玄関のチャイムが鳴った。


「まさか、ちょうどいいタイミングでリンカさんが来てくれた……?」


 しかしそんなにわかな期待は、はかなくも打ち砕かれるのだった。


「如月レイさん、お久しぶりです。ワタクシどもの事、覚えていらっしゃいますか?」


 怪しげに作った笑顔、水成社の兵動と笹倉だった。


「な、なんですか、人が帰ってくるなりいきなり——」

「ああ、やはりどこか旅行にでも行かれていたんですか?」


 すかさず言葉の節々を拾い上げる兵動。この人の前では迂闊にボロを出すことなんてできない。


「あ、ああまあ……ちょっと長い旅行に」

「しかし如月さん、かなりガタイが良くなられたと思うのですが……以前はかなり細身の方でしたよね?」

「うっ……」

「ワタクシの知り合いにも、同じような変化を遂げた方がいます。韓国籍の方で、軍に入隊して帰ってくると、同じように逞しくなって帰ってこられました」


 この人はつくづく、核心をついたようなことばかり口に出す。

 返す言葉に詰まるレイの態度は、肯定しているに等しいと取られてしまうだろう。


「……あの、今度は一体何の御用でしょうか?」

「いやぁ、サークルの皆さん心配していたんですよ。急に警察の方々に連れ去られて」

「まさか、うちのサークルにも手を出したんですか⁉」


 すると兵動は何がおかしいのか、急に笑い出した。


「手を出すなんてそんな! キャンプ場で起こった騒ぎについて、一報道陣として取材していたまでです」

「それは……一体どういう報道がされたんですか?」

「深藍湖でボートに乗っていた男性1名と、捜索に出ていた警察官1名が行方不明。湖に大きな影を見たとの目撃情報アリ、と」


 エイリアンのことに直接触れてはいないものの、明らかに通常ではない何かを匂わせている。見る人が見れば、湖に巨大生物がいたことぐらいは想像してくるだろう。


「如月さんもあの時、あのキャンプ場にいらしたらしいじゃないですか。是非お話を聞きたいと張り込んでいたのですが、いつまで経ってもこの家には現れないし」

「如月さん、事件のことについて何かご存じではないですか?」

「……僕から言えることは何も」

「それは裏を返せば、何か知っているということになりますが」

「好きに受け取ってください。それより僕がいない間に、何か変なことはなかったですか」


 何気なく聞いたつもりだったレイだが、兵動は待ってましたかというような感触を見せた。


「そうですね、情報はギブアンドテイク。ワタクシどもが得るばかりではいけません。如月さんにも我々が得た、とっておきの情報をお教えしましょう」


 兵動はじっとレイの方を見つめる。


「飯田タカシが留置所から姿を消しました」

「えっ?」


 兵動は笑んだ顔を崩さずに、もう一度同じことを口にした。


「飯田タカシが、留置所から忽然と姿を消したんです」

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