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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
Alien Containment Division
32/48

契約

「対異星人、防衛機構……?」

「省略してACDとでも呼びましょうか。如月さんがこれまで遭遇してきた、虫型エイリアンに対抗するために極秘につくられた組織。そのためこれまで如月さんにも存在を明かすことができませんでした」


「ということは……これまでにもエイリアン事件が何度も起こっていたってことですか」

「ええ、その度に我々は極秘にエイリアンを駆除し、メディアにも一切その存在を公言していません」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 机を叩きながら立ち上がるレイ。


「じゃあ、じゃあモスも駆除されるんですか! あいつは悪いことなんて何もしていないのに!」

「落ち着いてください如月さん。まだ決まったわけじゃ——」

「永野隊員、余計な口に出さないように」

「あっ、はい……」


 水嶋は落ち着いた口調で進める。


「奇しくもあのエイリアンは日本語が話せるそうですね。意思疎通が取れるのであれば、駆除前に様々な情報を聞き出すことができます」

「情報を聞き出したら駆除するんですか! 自分たちだけ利用して殺すんですか!」

「とりあえずは我々に害がないかを調査するのが先決事項です。あのエイリアンに害意がなかったとしても、常に放射線を発しているなど不都合な状態があれば駆除せざるを得ません」

「そ、それは……」


「如月さん、あなたはあのエイリアンにかなり情が移っているようですね」

「あ、当たり前じゃないですか。これまで何度も、2人でピンチを乗り越えてきたんです」

「なるほど……友情は惑星間を超える、ですか」


 おもむろに立ち上がる水嶋。


「まずは検査の結果を待ちます。その後の対応は結果に寄りけり、ですが、あまり期待はしないように」


 水嶋は体を翻し、面会室を後にする。


「……如月さん。うちは如月さんの事を信じていますから。きっとみんなわかってくれます」


 そう言い残し、永野も面会室から去っていった。


「面会は終わりだな。部屋に戻るぞ」


 それから数日間、レイは独房の中で生活せざるを得なくなった。

 毎日水嶋と永野は面会に来ていたが、レイが巻き込まれた事件の詳細を聴取するのみで、レイやモスを解放してくれそうな気配はない。

 スマホも没収され、リンカや兵動たちに連絡することもできない。ただ独房に置いてあった本を読むだけで、少しずつ時間を潰していった。


 そうして独房生活をつづけ、1週間が経ったころ——


「面会だ。出てこい」


 いつものように兵士に連れられ、面会室へ向かうレイ。

 中に入ると、いつも通りの表情をした水嶋と、いつもより明るげな表情をした永野の姿があった。


「精密検査の結果が出ました。レイさんの身体に異常は見つかりませんでした」

「それにモスという名のエイリアンからも、規定値以上の放射線は検出されませんでした!」

「じゃ、じゃあモスは駆除されずに済むってことですか!」


 表情を緩ますレイ。真っ青になっていあ顔色に少し血の気が戻った。


「それは、かのエイリアンが我々に協力的かどうかで決まります」

「協力的に決まってるじゃないですか! これまで何回も他のエイリアンを倒してきたのに」

「しかし、彼はあまり協力的ではないように見えました」

「えっ……?」


 水嶋は懐から手帳を取り出し、メモされていた事項を一つずつ読み上げる。


「1日目、対象は一言も喋ることなく沈黙を続ける。昼頃になると『サラダを食わせろ』と一言だけ発し、野菜を食べさせると満腹になってそのまま眠りにつく」


(……なんか、モスらしいな)


「2日目、朝から『レイに会わせろ』とばかり発言。この星に来た目的を聞くも、質問には答えず同じ発言を続けた」

「モス……」


「3日目、相変わらず如月レイとの面会を要求。しかし安全性を確保できず却下。それを伝えると野菜だけを食べて眠り込んだ」

「安全って、結局何もなかったんでしょ?」


 水嶋はその言葉を無視して続ける。


「4日目、改めてこの星に来た目的を尋ねると『この星の王になるため』と返答。しかしとうエイリアンは人間を襲うことはせず、共存を目的としているとも付け加えた」

「……なんだ、協力的じゃないですか。一体どこに問題が」


「5日目、我々ACDの概要を伝えると、『オレはエイリアンに関する重大な事実を知っている』と発言。だがその内容を答えることはせず」

「重大な、事実?」

「如月さん、なにか心当たりはありますか?」


 尋ねる永野に対し、レイは首を横に振る。


「いいえ、そんな話は何も……」


 水嶋は少し呼吸を置いて話を続けた。


「6日目、『レイに会わせてもらえるなら、この事実を話してもいい』と交渉を要求。しかし安全性が確保できないため却下」


 水嶋は最後に1ページ、メモ帳をめくる。


「そして本日7日目、検査により安全性が確保されたため、如月レイと該当エイリアンとの接触を試みる予定です」

「そ、それってモスに会わせてもらえるってことですか!」

「はい、ですがその前に一つ条件があります」

「条件?」


 水嶋はメモ帳を閉じ、机に肘を立ててじっとレイの方を見つめた。


「あなたにはこれから2つの選択肢を提示します」

「2つの、選択肢……」


 水嶋はレイに向かって人差し指を立てる。


「一つはエイリアンに関するすべてのことを秘密にし、大学生として普通の生活に戻ること。この場合はモスというエイリアンにも、二度と接触はできなくなります」

「そんな、そんなの嫌です!」


 すると水嶋は、次に中指を立てた。


「もう一つは、我々ACDの隊員となり、ともにエイリアンと戦っていく道です」

「エイリアンと戦う……」

「どちらの道を選ぶのも自由です。今、ここで決断してください」

「……」


 考え込むレイ。当然モスとは会いたいが、兵士として戦っていく自信はない。それに普通の人生を送るということは、レイにとって望むべき道に違いない。

 だがその時、無邪気そうに空を飛ぶ夢を語るモスの姿が思い浮かんだ。


(そうだ……俺はあいつの語る夢に惹かれて、一緒に戦ってきたんだ)


 レイはじっと水嶋の方を見つめ返した。


「戦います。モスと約束したんです。あいつをこの星の王にさせるって」

「わかりました」


 水嶋はカバンの中からペンと1枚の契約書を取り出した。


「ここにサインをお願いします」

「……はい」


 筆を走らせるレイ。契約書の内容なんてどうでもいい。レイはもう、この道に進むしかないのだから。


「……ありがとうございます。これはこちらで預からせていただきます」


 水嶋は契約書をファイルに入れてカバンにしまい、ようやくにこやかな笑顔を見せた。


「ACDへようこそ、如月隊員」

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