釣り上げ作戦
「まさか本当に1人で湖の上に放り出されるとは……」
カヌーに大量の魚や肉を乗せ、カバンに入ったモスとともに湖へと漕ぎ出したレイ。
「普通おとりになるなら警察官の誰かがやらない? 一般人にやらせる?」
「全くだ。ていうかオレまで乗せる必要あったか?」
「道連れだ。悪いな」
ゆっくりとボートを漕ぎ、湖の真ん中までボートを動かす。
「まあ奴が現れたら、後は予定通りにやってくれれば上手くいくはずだ」
ボートにはロープが付けられ、湖畔に停めているパトカーに繋がっている。ゲンゴロウが現れたら、一気にパトカーで岸まで引っ張る想定だ。
「だが、そう簡単に現れるかね? 奴はたった今デカい獲物を捕食した直後だ」
「それなんだよなぁ」
釣り針に魚を括り付け、湖の中に糸を垂らす。
「ほぉら餌だぞぉ。早くかかってくれぇ」
餌を揺らしながらしばらく待ってみるものの、ゲンゴロウがかかる様子はない。
「……かからないなぁ」
「釣りは気長にやるもんだ。焦ると獲物も逃げていく」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
レイは釣り竿を持ったまま立ち上がり、軽くジャンプしてボートを揺らす。
「早く出てこいエイリアン! お前は包囲されている!」
相変わらずゲンゴロウがやってくる様子はない。満月は徐々にてっぺんまで上りつつある。
「おいエイリアン! お前もこの星の王になるつもりか? でも残念だな、テッペンを取るのはこのモス様だ!」
モスがそう啖呵を切った、その時だった。
「誰ガテッペンヲ取ルダッテェ!」
「何か来る!」
暗くなった水面がさらに黒くなっていく。影はどんどん大きくなっていきボートの周囲を覆いだす。
「コノ星ノ王ニナルノハ、オレサマダァ!」
「なっ!」
突然レイたちの目の前に現れたゲンゴロウ型エイリアン。水上に飛びあがると同時にボートを繋いでいたロープを噛みちぎった。
「ククク、オレサマヲ罠ニカケヨウト思ッテイタヨウダガ、ソウハイカンゾ」
「まずい、これじゃあ岸まで戻れないぞ……」
ブクブクと泡をたてながら、ゆったりボートの周りを泳ぎだすゲンゴロウ。体格は先ほどのカマキリより二回りも大きく見える。
「人間ヨ、オレサマガ恐ロシイダロウ、コンナ湖ノ真ン中ニ置キ去リニサレテ……ククク」
「……は、ははっ、恐ろしいもんか。僕はこれまで何体ものエイリアンを倒してきたってうぉ!」
ゴトンッ、と音を立ててボートを揺らすゲンゴロウ。まるでレイのことを弄んでいるよう。
「強ガルナ、オレサマハマダコノ湖ノ中デ力ヲ貯メテイルガ、ヤガテ地上ニ繰リ出シコノ星ヲ支配スル」
するとモスがカバンから顔を出し、ゲンゴロウを煽った。
「お前なんかにできるもんか。水中の小さい魚か弱った獲物しかつまめない軟弱野郎め」
「馬鹿ニスルナァ!」
「うおぉ!」
さらに大きくボートが揺れる。
「オ前、蛾ノ一族ノ連中ダナ。チョウドイイ、ココデ厄介払イヲシテヤロウ」
「うわぁ! なんだ⁉」
何度もボートに体当たりし、転覆させようとしてくるゲンゴロウ。
「何するんだよモス! 怒らせてどうするんだ」
「でも奴も頭に血が上ってる。おびき出すなら今がチャンスだ」
「しかしロープが……!」
ロープは千切れ、かなり遠くの方で浮いている。向こうで水嶋たちが何か叫んでいるようだが、ここまで声は届かない。
「覚悟シロ! 貴様ラハココデ、オレサマノ餌トナルノダ!」
「やるしかない! 飛ぶぞモス!」
ボートごと沈めようと。水中から大きく体を出してのしかかってきたゲンゴロウ。レイはカバンを抱えてボートか飛び、間一髪でそれをかわす。
「意外とロープが近い! あとは引っ張ってもらえれば……」
浮かんでいるロープに手を伸ばすレイ。だがそのすぐ背後にゲンゴロウが迫る。
「水ノ中デ、オレサマカラ逃ゲラレルト思ッタカ!」
「うわぁぁ!」
レイがロープを掴んだ瞬間、ゲンゴロウがその体にかみついた。
「コノママ沈ミ込ンデ殺シテクレル!」
湖の深くへと沈もうとするゲンゴロウ。レイはロープを掴み、死ぬ気で抵抗する。
「グヌゥ、シブトイ奴……ヌオォ⁉」
その瞬間、湖畔でパトカーが走りだし勢いよくレイたちが引っ張られだした。
「グヌオォ! 引ッ張ラレル!」
「ぐわぁ痛い痛い痛い!」
ゲンゴロウの噛みつく力と、パトカーにより引っ張られる力。2つの力がレイの体をむしばむ。
「クソォ、ココデ離シテヤルモノカァ!」
ゲンゴロウはプライドがあるのかレイを離そうとはしない。かといって水中でその引力に抗う術はなく、そのまま岸辺へと引っ張り出された。
「クソォ! コンナトコロデ死ンデタマルカァ!」
一斉に銃を構える警察官たち。だがそこで水嶋が制止の声をあげる。
「待て撃つな! 如月さんに当たる!」
「しかしこのままでは飲み込まれてしまいます!」
徐々にゲンゴロウの口に飲み込まれていくレイ。このまま食べられてしまうのか、諦めかけていたその時だった。
「車が来たぞ! よけろぉ!」
駐車場の方から走って来たマイクロバス。それはレイたちのサークルがここに来るまでに乗って来た車だった。
「あいつ、このまま突進するつもりか⁉」
その言葉通り、マイクロバスはスピードを落とさずゲンゴロウ型エイリアンに突撃した。
「グアァァァァ!」
猛烈な勢いで吹き飛ばされるゲンゴロウ。その勢いでようやくレイも吹き飛んで解放された。
「今だ!」
水嶋の声に合わせ、何発もの銃声が響く。ゲンゴロウはえもいえぬ奇声を上げたのち、やがて動かなくなった。
「レイ君! レイ君大丈夫⁉」
マイクロバスから降りてきたのはリンカとユウト。どうやら2人が運転してレイを助けてくれたらしい。
「リンカさん……」
「レイ君、怪我はない?」
「はい、まあ……」
(さっきの衝撃で骨が折れたような気がしたけど……)
救助されたレイのもとに、水嶋と永野も駆け寄ってくる。
「素晴らしい活躍でした、如月さん」
「うちもびっくりしたぁ! まさかエイリアンと戦える一般人がいたなんて」
緊張が解かれ、穏やかになっていく雰囲気。
だがその時、ユウトの口からまさかの言葉が発せられた。
「こいつも、こいつもエイリアンをかくまってます! 多分カバンの中にいるはずです!」
一斉に視線を集めるレイ。水嶋がゆっくりとレイに近づき、抱えていたカバンを奪い取って中を覗き込んだ。
「あっ……こ、こんにちは……」
水嶋はモスの声に何も反応せず、じっとレイの方を見つめた。
「これは由々しき事態です。如月さん、我々とともに来ていただきましょう」
———湖畔の激突 完———




