森のエイリアン
「危ないっ!」
リンカとユウトを突き飛ばし、自らも地面に転がったレイ。
その瞬間、目の前にあった大木が真っ二つに割れた。
「倒れてくるぞ!」
急いで立ち上がり、なんとか倒木を交わした3人。
だがその奥には、巨大な化け物が立ちふさがっていた。
「な、な、なんだよコイツ!」
「グ、グギ、グギギギ……」
3メートル近くはあろうか、そびえたつ細長い体、その目の前に構えられた巨大なカマ、そしてじっとこちらを見つめる2つの目玉。
「カマキリだ……カマキリのエイリアンだ、逃げろ!」
キャンプ場まで駆け出すレイとリンカ。だがユウトはその恐ろしい姿に圧巻され、足が震えて走り出せない。
「な、な……これは夢だ……」
「ユウト君何やってるの! 早く逃げて!」
リンカの声も届かず、恐怖のあまり小便を漏らして立ちすくむユウト。
その目の前で、エイリアンが巨大なカマを振り上げた。
「ユウト、危ない!」
振り下ろされるカマ。咄嗟にレイがユウトに突進し、すんでのところでそれをかわす。
「グギギィ」
すぐ目の前に立つ巨大なエイリアン。その姿は実際よりもかなり大きく見える。
「モス、糸を吐けるか!」
「任せろ!」
カマキリの目玉めがけて糸を発射。運よく命中し、カマキリの視界を奪う。
「グギ、グギギィ!」
「今のうちに逃げよう!」
ユウトの身体を引っ張って走り出すレイ。だがカマキリは触角を駆使して正確にレイたちを追ってくる。
「グギギギギィ!」
カマを振り回し、木々をなぎ倒しながら向かってくるカマキリ。だがそこまで足は速くない。
「な、なんなんだよあいつ!」
ようやく正気に戻り、自分の力で走り出したユウト。木の根に足を取られそうになりながらも、死ぬ気でキャンプ場を目指す。
「エイリアンだよエイリアン!」
「はあ⁉ エイリアン⁉ じゃあその肩に乗ってる毛虫は」
「こいつもエイリアンだけど、味方だから心配するな」
「なんだよエイリアンの味方って! 大体エイリアン自体意味わかんないんだよ!」
「詳しいことは後で話す。今はとにかく助けを——」
その時、カマキリが大きな羽を広げて空に飛びあがった。
「こいつ、普通に飛べたのかよ!」
レイたちの目の前に着地し、戦闘態勢を取るカマキリ。カマを広げて体を大きく見せながら、じりじりとレイたちの元へ近寄ってくる。
「……ここで別れましょう。リンカさんとユウトは横に向かって走って」
「でもそれじゃあレイ君が!」
「どの道このままキャビンに戻っても被害者が増えるだけです。誰かがここで食い止めていないと」
「リンカさん、オレたちだけでも逃げましょう!」
「そんな……」
「大丈夫です、後で必ず合流します。」
「……わかった。信じるよ」
2手に分かれて走り出すリンカとユウト。狙い通りカマキリは2人を追わず、じっとレイの方を睨みつけている。
「……十分距離は取れたな。モス、逃げるぞ!」
体を翻して走りだずレイ。だがカマキリもみすみすそれを見逃さない。
「グギィ! グギィ! グギィ!」
連続で振り回される巨大なカマを、木々の陰に身を隠しながらかろうじてかわしていく。
「逆に森の中で良かった。遮蔽物がなかったら速攻で狩られてた」
「娑婆ってる暇はないぞレイ! あいつらは戦闘民族だ。狙いをつけたやつはどこまでも……やばいっ!」
不意に現れた、木々のなくなっている開けた場所。カマキリはその場所に礼を誘導していたのだった。
「身を隠すところがない! このままじゃ——」
「グギギィ!」
羽を広げ、一気に距離を詰めてくるカマキリ。
「ぐあぁ!」
そのまま大きくカマを振り回し、レイの身体を吹き飛ばした。
「……痛えぇ!」
地面に転がるレイ。血こそ出ていないものの、殴られた右脇腹には鈍く重い痛みが走る。
「大丈夫かレイ!」
「グギ、グギギギギィ」
にじり寄ってくるカマキリ。あまりに強烈な痛みで立ち上がることもままならないレイ。
「グギィ」
カマキリはとどめを刺さんかの如く、右のカマを大きく振り上げた。
(ああ、ここで終わりか……)
「グギィ!」
「うっ!」
だが、そのカマがレイの元まで届くことはなかった。
「……あれ?」
目をあげると、そこには巨大なカマを刀一本で防いでいる人の姿があった。
「あなたは……?」
黒のショートヘアに青いTシャツ、ベージュのズボン、腰に巻きけた刀の鞘。
一瞬男かとも思ったが、顔立ちと体の形から何となく女性だと察した。
「自己紹介は後で! うちが食い止めている間に、立ち上がれる?」
「あっ……はい!」
「うぅわ、こいつ結構力強いなぁ……うちの体力が持ってるうちに早く!」
カマキリの方が力は圧倒的に強いらしく、カマを抑え込む刀はプルプルと震え、徐々に下の方まで押し下げられている。
「もう大丈夫です。一緒に逃げましょう!」
レイはモスを拾い上げカバンの中に隠し、森の方へと駆け出す。
「よし、ちょっと待ってて!」
「グギィ!」
女性は刀をずらしてカマを横に受け流し、そのまま体を回転させながら顔面を切りつけた。
「よし行こう! とりあえず森の中へ」
レイとその女性は再び森の中に身を潜め、キャンプ場の方へと走り出した。
「……追いかけてこない? もう諦めたのかな」
「まだ油断はできないよ。やっこさんはすぐに再生して獲物は絶対に逃がさない」
「お姉さん、あいつのこと何か知ってるんですか?」
「まあね。とにかく今は応援が必要だ。キャンプ場に戻って応援を呼ばないと」
それからキャンプ場に戻るまで、カマキリ型エイリアンが追ってくることはなかった。
「ふぅ……到着!」
キャンプ場ではすでにリンカとユウトが危険を知らせていたらしく、たくさんの警察官がシールドを構えて防御態勢を取っている。
そしてその警察官たちの中に、水嶋の姿もあった。
「水嶋さん! 来てくれたんですね!」
「如月さん、あなたの事だからまた巻き込まれているんだろうと思っていましたよ」
「水嶋隊長、まだお話しできる状況じゃないみたいです」
女性がソラの方を指さすと、こちらに飛んでくる大きな物体が見える。
「さっきのカマキリだ。空から追ってきやがった!」
「総員距離を取れ、着地した隙を狙ってハチの巣にするぞ」
水嶋の指示に従い、一歩ずつ後ろに引いていく隊員たち。
だがその時、背後から悲鳴が聞こえた。
「ぎゃぁぁぁ! 助けてくれぇ!」
「こ、今度は何だ!」
振り返るとそこでは、湖から這い出した黒い物体が警察官に襲い掛かっていた。




