差し込む光
「レイ、今すぐ助けてやるからな!」
レイの身体に糸をくっつけ、必死に引っ張るモス。
だがその努力も虚しく、蜘蛛型エイリアンの牙はどんどん近づいてくる。立ち上がろうにもずるずると引っ張られて手をかける場所すらない。
(僕は、ここで死ぬのか……)
ふと思い出したリンカの顔。そして今さっき交わした、必ず彼女の元に戻ってくるという約束。
「こんなところで……諦めてたまるかぁ!」
レイは何とか立ち上がり、エイリアンの方に向かって走り出す。
「自ら食ワレに来るトハ愚かナ人間メ!」
大きく口を開けるエイリアン。だがレイはその直前で大きく飛び上がり、蜘蛛の背中に飛び乗った。
「何のツモリだ。そんナコトをしテモ時間稼ぎニモナら——」
「誰かぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇ!」
レイは突然、出口に向かって大声をあげた。
「助けてくれぇぇぇ! 怪物がいるんだぁ!」
「ククククク、何をするカト思えば、ミットもナく助けヲ呼ブカ?」
レイのことをあざ笑うエイリアン。だがその時、通路奥の扉が開いた。
「グアァァァァ! 眩しイ! 眩シイ!」
出口からまっすぐと、強烈にエイリアンの目を照らす光。その奥からリンカやスタッフたちが走り寄ってくる。
「レイ君大丈夫……何これ!」
「なんだこれ! こんなの仕掛けにあったか⁉」
突然現れた巨大な蜘蛛を見て、驚きを隠せないスタッフたち。
「今しかチャンスはない! モス、もう一度糸を吐けるか!」
「任せろ!」
完全にスタッフたちの目の前で喋ってしまっているが、もうそんなことを気にしている場合ではない。
モスは勢いよく糸を吐き、悶えるエイリアンの顔面に張り付けた。
「クソッ! ふザケタ真似ヲ!」
奥の方に逃げ出す蜘蛛型エイリアン。だが引っ付いた糸をレイが引っ張る。
「逃がすか! このままお前を、外の世界に引きずり出す!」
「私もやる! みんなも手伝って!」
すぐに状況を察して糸を掴むリンカ。だが周りのスタッフたちは戸惑いを隠せない。
「なんだなんだ⁉ どういう状況なんだ!」
「いいから早く、糸を引っ張って!」
レイとリンカだけでは力が足りず、どんどん奥の方に引っ張られていく。
「お願いします! このままじゃ被害が増えるんです!」
「訳は後で説明するから、お願い!」
「わ、わかりました!」
リンカの一声で、何も状況を掴めていないスタッフたちも次々と糸を手にする。
「貴様ラァ、人間の分際で!」
「一斉に引っ張るぞ!」
すると引っ張られるレイの足が止まり、今度は反対にエイリアンの身体が引っ張られだす。
「いいぞ! このまま、このまま外まで引っ張りだせ!」
「グァァ! 眩シイ!」
じりじりと近づく出口。エイリアンは何とか足を壁に突き刺し抗おうとする。
「負けるなみんな! ここで絶対に勝つ!」
「お……おぉ!」
「グヌォォ!」
エイリアンの足が壁から抜け、増した勢いで外へと引っ張られる。
「いけぇぇぇぇ!」
エイリアンはその勢いのまま、外へと放り出された。
「アァァァァ眩シイ! 熱イ! 熱イィ!」
午後1時、日は傾きつつもまだ高くから地面を照り付けている。
幾年ぶりかの太陽の光に焼かれ、蜘蛛型エイリアンは苦しみ悶えていた。
「ダガ……だがワシはコンナコとデハ死ナヌ!」
「こいつ……しつこいぞ!」
目を焼かれながらも暴れまわるエイリアン。
だがそこに、水嶋率いる大勢の警察官が現れた。
「……総員、射撃準備!」
水嶋の掛け声とともに銃を構える警察官たち。
その姿を見たレイはモスを拾い上げて、リンカたちと射線上から逃げる。
「害虫を駆除しろ。一斉に撃て!」
水嶋が手をあげると、真昼の遊園地に多数の発砲音が響き渡った。
*
「やれやれ、これはさすがに隠ぺいのしようがありませんね」
エイリアンの遺体はすぐ封鎖されたお化け屋敷に運ばれたが、あまりにも目撃者が多すぎた。
「水嶋さん、助けに来てくれてありがとうございます」
レイは首の治療を受けながら、駆けつけてくれた水嶋に頭を下げる。
「いえ、斎藤さんから怪物がいるかもしれないと連絡を受けましてね。たまたま仕事で近くに来ていましたから」
「そうだったんですね。あの人は本当に機転が利くなぁ」
「して、その斎藤さんは今どちらに?」
「ちょ、ちょっと先に駐車場に向かったみたいです」
(なんて、本当はモスを車に隠して見つからないようにするためなんだけど……)
スタッフの前では完全に喋ってしまっていたが、暗かったこともあり、まさかぬいぐるみみたいな毛虫が喋っていたと思うわけはない。
「それより、あんな人の多いところで発砲なんてしてよかったんですか?」
「いいえ、ダメですよ」
「えっ……」
開き直ったその水嶋の態度に、驚きを隠せないレイ。
「これで私は完全にクビです。刑事を辞めることになるでしょうね」
「これって、罪に問われることは……」
「いえ、それはありません」
水嶋はこれもまたきっぱりと答えた。
「どうしてですか?」
「それは、詳しくはお話しできないのですが、前にすでに決まっているとお伝えした左遷先が関わっています」
「うぅん? なんか話が良く見えません……」
「如月さんはこれで怪物事件に5度も関わりました。おそらくあなたには、怪物を引き寄せる何かがあるのでしょう」
「そう、なんですかねぇ……」
「私の左遷先のことも、きっとすぐにお伝え出来ますよ」
(ということは、エイリアンに関する何かなのか……?)
「……首の治療が終わったようです。如月さん、このまま自分で帰られますか?」
「はい、リンカさんに運転してもらって来たので」
ゆっくりと立ち上がり、駐車場の方へと向かう。
そんなレイを、最後に水嶋が引き止めた。
「如月さん。今回もご協力ありがとうございました。いつも解決していただいて、我々は本当に感謝しております」
「はぁ、それはどうも……」
スーパーレジャーワールドを後にして、リンカとモスの待つ駐車場へと向かうレイ。
「……あっ、お土産買ってくるの忘れた」
———遊園地の怪 完———




