食うもの 食われるもの
「ワシもいっぱしの生物だ。栄養を取らない限り生きてはいけん」
「だからって、こんなところに巣くって堂々と人間を食うなんて!」
「なら人間たちは、命を一つも奪わず生きていると申すのか?」
価値観こそ合わないが、話は通じるタイプのエイリアン。しかしこのまま放っておけばどんどん被害者が増えてしまう。
「そういうエゴな話はやっててもキリがない。僕は同じ人間として同族を守りたいだけだ」
「ワシは同族の生き死にに興味はないがなぁ」
その時、後方からどんどん近寄ってくるカップルの声がする。
「こっちに来ちゃだめだ! 恐ろしい化け物がいる!」
「えぇ、今度は化け物だって。こわぁい」
「大丈夫だって、どうせ造り物なんだから」
レイの言葉をまるで真に受けず近づいてくるカップル。
「あれ? 前に追いついちゃったみたい」
「お兄さん一人? 一人で入ったくせに怖くて動けないとかかわいそぉ」
そう言って笑いながらレイを追い越していったカップル。その間蜘蛛型エイリアンが動くことはなかった。
「……ワシは生きるために最低限の人間しか食わん。これを否定するというのなら、家畜を飼う人間も己自身を否定することになる」
「どこにいる。さっさと姿を現せ!」
スマホのライトで天井辺りを照らす。照らされる天井の端っこで素早く動く影があった。
「……そこかっ!」
影を追うようにスマホを動かすと、目の前に人間ほどの大きさの蜘蛛が現れた。
「グァァぁぁ! 眩シい! 眩シイ!」
「な、なんだ、どうした⁉」
ライトに照らされた途端、悶えるように這い回る蜘蛛型エイリアン。
「ワシに向かッテ、光を向ケルな!」
急に光を照らされ正気を失いかけているのか、ところどころ喋り方に怪物みが出てくる。
「レイ! おそらく奴は影の生活が長すぎて光に目が慣れていない。これを利用すれば倒せるかもしれない!」
「しかし、弱点はわかってもなぁ……」
エイリアンは高速であちこちを這い回り、それを追いかけているばかりでは埒が明かない。
「ワシを殺ソウナどと馬鹿ナこトは考えるな。貴様らゴトキ、狩ロウと思えばイツでも狩レル」
「へ、へえ……ならやってみろよ」
レイは小さく震えながらも右手でバールを握り直し、左手のスマホであたりを照らし続ける。
その時、突然背後で何者かの影を感じた。
「そこか!」
振り向きざまにバールを振り回すレイ。だがそこには誰もおらず空振る。
そして再び背後に何者かが現れる。
「くそっ!」
またしても空振り。まるで部屋中のどこにでもエイリアンが潜んでいるように感じられる。
「いい加減にしろ! 僕は必ずお前を倒す。これ以上犠牲者が出ないように!」
するとエイリアンは、真上から叫び声をあげた。
「それホドまでにワシが憎イカ、傲慢な人間メ! ナラば教エテヤる。どチラが食う側で、どちラガ食わレる側カ!」
「なっ!」
天井から飛び降りる蜘蛛型エイリアン。何十キロもの重量が一気にレイにのしかかった。
「細い、肉がナイ、食う所ノないツマラん男ダ!」
「やめ、ろ……!」
のしかかられた勢いで、バールもスマホもモスのカバンも手から離れてしまう。レイはエイリアンの大きな体と8本の鋭い足で、がっしりと抑え込まれていた。
「痛い、痛い痛い!」
鋭い足がレイの右腕に突き刺さる。よだれのような体液が頭から降り注ぎ、じわじわとレイのうなじを焼いていた。
「なんだこれ、酸か⁉ くそっ、首が痛い!」
「ワシの胃ノ消化液だ。 ジキに骨マデ溶かす」
「くそっ! なんとか、なんとかしないと!」
目の前にあるバールに何とか左手を伸ばすレイ。だがその腕にもエイリアンの足が突き立てられる。
「まあ、溶けるまで待つツモリはないガナ。ワシに無謀ニも喧嘩を売ったコト、後悔スルガいい」
振り上げられた前足、そのつま先がレイの首に突き刺さろうとした、その時だった。
「……ナンだ毛虫の小童。お前も殺さレタイのカ?」
レイの首のすぐ横に突き刺さった前足。蜘蛛型エイリアンの目がレイからその横に向けられる。
「レイがやられるのを、黙って見てられるわけないだろ!」
「モス!」
カバンから転げ出たモスが、口から吐いた糸をエイリアンの足にくっつけて軌道をずらしてくれたのだった。
「同郷のヨシミで見逃しテヤロうと思ったが、ワシノ邪魔ヲするナラ容赦はセンゾ!」
「危ない!」
エイリアンの意識がモスに向かった隙に、レイが一瞬で立ち上がりバールを手に取る。
「これでもくらえっ!」
「ッグヌウゥ!」
フルスイングしたバールがエイリアンの頭部にヒット。だが音も立たずあまり効いていている気配はない。
「……年老イてカラ肉が柔ラかクナッテなぁ。痛ミヲアマり感じんのヨ」
「マジかよ……」
再びレイに襲い掛かるエイリアン。足の隙間からかろうじてかわし、急いでモスを拾い上げる。
「逃げるぞ! 出口まで行けばこっちのものだ!」
わき目も降らずに走り出すレイ。入り口からはかなり歩いてきたから出口はそう遠くないはずだ。
「逃がサン! ワシに楯突イテ生きて帰レルと思うナヨ!」
猛スピードで追ってくる蜘蛛型エイリアン。途中演者のスタッフがその姿を見て悲鳴を上げるが、エイリアンはそれらの人間など気にも留めない。
「あった! 出口だ!」
遠方の扉、その隙間からさす明るい光。
「きっと奴は外まで出れない! このまま逃げ切って水嶋さんたちに連絡を……なっ⁉」
突然背中を引っ張られ、盛大に顎を地面に打ち付ける。
「なんだこれ!」
背中を見ると、糸のようなものがエイリアンの尻からレイの背中までつながっていた。
「逃がしハセンゾ。ゆっクリと貴様を味ワッテやる」
エイリアンはじりじりと糸をまき、レイの身体はゆっくりとエイリアンの方に引っ張られていく。
「くそっ……あともう少しだったのに!」




