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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
遊園地の怪
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約束

「遊園地、か……」


 レイは両親を亡くして以降、周りの子どもたちが言っているようなお出かけスポットに出向いたことはなかった。


「あんまり気乗りしないなぁ」


 短期間で四度ものエイリアン事件に巻き込まれ、その度に命を脅かされてきたレイ。今はレジャー施設に行って遊ぼうという気にはなれなかった。


「えぇ、せっかくチケット貰ったんだし、今度の週末に行こうよ」

「そうだぞレイ! オレも遊園地ってとこに行ってみたい!」


 キッチンから誘ってくるリンカ、ベッドの上からそれに同調するモス。


「でもここ車じゃないと行きづらくないですか? 僕車も免許も持ってないし」

「じゃあ私がお父さんの車借りてくるよ! 免許も持ってるし」


 するとモスは突然体を大きく伸ばして立ち上がった。


「よっしゃぁ! じゃあ今度の週末は遊園地だな!」

「お前、そんなに遊園地に行きたいのか?」

「ああ、テレビで見ていてずっとあの、ジェットコースター? ってやつに乗りたかったんだ」


「いやあれは乗れないだろ」

「なんでだよ。いつも通りカバンに入っておけば感覚くらいは——」

「ジェットコースターって、手荷物預けないと乗れないし」

「なっ……」


 モスは体をぴんと伸ばしたまま、ベッドに倒れ込んだ。


「はい、カレーできたよ。モス君はいつものサラダね」

「あ、ありがとうございます」


 リンカが用意してくれたカレーとサラダを囲み2人と1体で夕食をとる。


「しかしモス、なんでジェットコースターになんか乗りたいんだ?」

「確かに、私はちょっと苦手なんだよね」


 するとモスはむしゃむしゃとサラダを食べながら答えた。


「もう2人とも知ってると思うが、オレはこの星で言う“蛾”なんだよ」

「ああ、だから“モス”と呼べって」

「この星の蛾と一緒で、オレたちもやがて繭を作って成虫へと変身する」


 モスが成虫になった姿。それは一体どんな姿をしているのだろうか。かの怪獣のように美しい羽を魅せるのか、ハエ族のようにおぞましい姿になるのか。


「ざっくりいえば、大人になって自由に空を飛べるようになることへの憧れだな。ジェットコースターに乗ると、空を飛んでるような感覚を味わえるんだろ?」

「……なるほどな」

「いつかオレはこの星の王になって、この大きな空を自由に飛び回りたいんだ」


 まるで小さな子どもが、大リーグ選手になる夢を語るかのように希望に満ち溢れた目。


「そのためにはレイ、お前の助けが不可欠だ」


 レイはその姿を見て、思わずふふっと笑った。


「またあんな事件に巻き込まれるのかよ。勘弁してくれ」

「この程度で挫けていてはダメだ。やがてこの星の王になる者なら、全ての災難を蹴散らしていくんだ」

「あぁ、わかったよ。これからもよろしくな、相棒」


「……なんか男同士の友情っぽくてカッコいい!」


 それからも束の間の楽しい時間は続き、レイは久しぶりにお腹いっぱいになるまでカレーを平らげた。

 すぐにモスが毛布にくるまって眠りにつき、静かになった部屋でレイとリンカがコーヒーを飲みながら向かい合う。


「リンカさんもそろそろ帰りますか? もう夜も遅いし送りますよ」

「ダメだよそんなの!」


 リンカは突然立ち上がり、ベッドの方に腰を下ろしてすぐ隣を叩く。


「レイ君また体痛めちゃったんだから、今晩は急に容体が悪化しないように私が見守っててあげないと」

「は、はぁ……」


 おそらくこの人は、こうなったらもうてこでも動かない。


「さ、早くこっちに座って」


 リンカに言われるがまま、そのすぐ隣に腰を下ろすレイ。

 緊張からか、しばらく沈黙の時間が続いた。


「……モス君はすごいね。まだ子どもなのにしっかり将来のことを考えてて」

「そうか……よく考えたらこいつ、まだ子どもなのか」

「私はずっと俳優になりたいって思ってたんだけど、最近本当になれるのか、怖くなってきちゃったよ」

「いやぁ、リンカさんなら綺麗だし演技上手いしきっとなれますよ」

「ありがとう、レイ君」


 するとリンカは優しくレイの身体を抱きしめた。


「ちょ……ちょっとリンカさん?」

「腕、火傷してる。きっとすごく危ない状態だったんだね」

「あのリンカさん、何を——」

「私、初めてレイ君と怪物事件に巻き込まれてから、本当はずっと怖かったの」


 リンカはレイの身体に抱きついたまま、少しずつ内心を打ち明け始めた。


「助かったと思ったら大学病院でも怖い目に遭って、それから毎晩のようにあの怪物が夢に出てくるの」


 どうやらリンカも、一連の事件をトラウマに感じているらしい。


「レイ君と一緒なら大丈夫って思うようにしてた。でも今日レイ君が火事に巻き込まれたって聞いて、もしレイ君に何かあったらどうしようって……」

「リンカさん……」

「私、いつの間にレイ君のことがこんなに大切に思うようになったんだろ」


 リンカはそのままレイをベッドに押し倒した。


「あの……リンカさん?」


 レイの顔にリンカの顔が近づく。


「きっとレイ君とモス君は、これからたくさん怖い思いをしていかなきゃならない。私もなんとなくそう思う」

「そう、なんですかね」

「だから約束して? これからレイ君とモス君の身に何があっても、必ず私の元に戻って来てくれるって」


 戸惑っていたレイだが、その言葉を聞いて真面目な表情になおす。


「わかりました。約束します」

「ありがとう、約束だよ」


 リンカはそっとレイの唇に口づけをした。

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