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蛾王~第一章 幼虫期~  作者: 秋一番
出会って別れてまた出会って
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カバンにひっそり

「なるほどね。地球人にとってエイリアンっていうのは、こんなにもおぞましく描かれているんだな」


 TSUTAYAで借りてきたインデペンデンス・デイを見ながら、モスはその映画の出来栄えに感心していた。


「もし現実でオレが見つかったら殺されるか、良くても実験体だな。ならなおさらお前に感謝しないといけない」


 結局レイは、モスを警察に通報はしなかった。それどころかモスの


「この星でエイリアンがどんなイメージなのか見てみたい」


 という願いを聞き入れて映画を借りてきてあげている。


「……別に、たまたま僕もこの映画が見たかっただけだ。変なことすればすぐ警察に突き出すからな」

「そんなこと言って、本当はあんたも気になったんだろ? 俺が王になって作るこの星の未来が」

「別に、僕はそんなことどうでもいい」

「さっきから別に別にって……あんたがそうなったのは人生が上手くいってないからか?」

「なんだよ、お前には関係ないだろ」


 如月レイには両親がいない。レイが小さいときに事故で失くし、その後は親戚の家を転々としながら、今は大学生をしながら一人暮らしをしている。


「……僕の人生に興味があるか?」


 モスは映画にかじりつきながら首(?)を横に振る。


「興味ないね。人間のことは正直どうでもいい」

「そうか……でも僕はお前に興味津々だよ。どうして地球に来たのかとかさ」


 そう言うと、モスはようやく視線をテレビからレイの方に移した。


「さっき言ったろ? この星の王になるって」

「それが良く分からないんだけど……」


 するとモスは突然、身体ごとレイの方に翻した。


「なあ、そろそろ別の映画が見たい」

「はあ? まだインデペンデンス・デイを見てる途中でしょうが!」


 あの名台詞に合わせていってみたのだが、モスはまるで気にしていない。レイはスベっていた。


「この映画の展開は想像がつく。人類が一度は滅亡まで追い込まれるけど、精鋭の隊員が家族愛を見せながら命を賭してエイリアンに打撃を与える、お涙頂戴パターンだよ」

「そこまで正確に当てられるもんかね」

「さ、早くオレをカバンの中に入れてくれ」


 いつの間にか僕のカバンはモスの居場所になってしまった。出かけるときはカバン化リュックの中に入り、こっそりと外を覗いているようだ。


「何か人類とエイリアンが友好的に接触する映画はないのか?」

「さあ、僕はあんまり映画に詳しくないから……」


 その時、電話を受信したスマホがポケットの中で震えた。


「電話、タカシか……もしもしタカシ?」

『レイ、今何してた?』

「TSUTAYAに行こうとしてたところだけど」

『今からうちで飲まない? 懸賞で酒がめっちゃ当たっちゃってさあ』

「まだ昼だぞ? それにお前の家実家だよな?さすがにそれは迷惑だって」

『いや父ちゃんは今出かけてるし、なんなら母ちゃんがレイを呼んで宅飲みしたらって言ってきたんだから大丈夫だよ』

「ああ、それならいいけど……」

『じゃあ今すぐ来てくれな!』


 タカシはそう言って電話を切った。


「タカシってのは、お前の名前か?」


 カバンの中からモスが喋り出す。


「いや違う。この際言っておくけど、僕の名前はレイだ」

「レイダー?」

「違う。レイ、だ。タカシは僕の友達の名前」


 飯田タカシ。僕とは高校の同級生で、今も同じ大学に通っている。学部もサークルも違うが、今でもこうやって飲みに誘ってくれる仲の良い友達だ。


「で、その友達がなんだって?」

「ああ、なんかこの後一緒に飲み会をしないかって」

「飲み会?」

「……一緒に酒を飲んだり、ご飯を食べたりすることだよ」


 するとモスは不思議そうな顔を向ける。


「ほお、人間はご飯を食べるために仲間と集まるのか?栄養を補給するなら横取りされないよう一人の方が良いと思うんだが」

「人間は、そういう生き物なんだよ……もしかしてついてくる気か?」


 モスはにこやかな目をして、大きく頷いた。




「あらレイ君、いらっしゃい」

「ああ、おばさん。お久しぶりです」


 出迎えてくれたのは、ボブカットで薄く化粧したエプロン姿のタカシ母。

 レイは高校時代もよくタカシの家に遊びに来ていたのだが、ひっそりタカシのお母さんに憧れていた。

 年齢のわりに若く見えるし、普段からジムに通っているらしく体は引き締まってところどころ豊満なものも持っている。男なら、誰しも憧れてしまうような熟れた魅力があった。


「レイ君、前に会った時よりも大きくなって——」

「なあレイ、レイ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「ん? カバンの中で誰か喋ってる?」


 タカシ母は不意に、モスの入っている手提げカバンに目をやる。


「そこに何か入っているの?」


 タカシ母がカバンの中を覗こうとした途端、レイはそれを背中の方に隠した。


「なんでもないですよ! ちょっとスマホで動画流しっぱなしにしちゃってたみたいです」


(危ない危ない、中にデカい喋る毛虫が入ってるなんて知られたら大事になるぞ)


「ふぅん……」


 タカシ母は、異様に膨らんだレイのカバンを怪しんでいるようだった。


「タカシなら今おつまみ買いに行ってるから。先に部屋に上がってて」

「あ、ちょっと先にトイレ借りますね……」


 レイは急いでトイレの中に入り、カバンの中からモスを引っ張り出した。


「なんなんだよモス! あんなところで喋ったら怪しまれるに決まってるだろ!」

「すまんすまん。どうしても聞きたいことがあって」

「なんだよ」

「その飲み会にオレが食べられるものってある?」


 レイは黙ってモスの身体を雑巾のように絞り上げる。


「痛い痛い痛い! やめろって、オレ昨日の夜から何も食べてないんだよぉ!」

「ったく。いったい何なら食べられるんだよ」

「草だな。オレは舌が肥えてるから上質な草しか食べないぞ」

「……多分ないと思うから、タカシにコンビニのサラダでも買ってきてもらうわ」


 レイは仕方なく、ダイエット中だからつまみはサラダでいいとラインを送った。

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