エイリアン襲来!
「なんだよ、なんだってんだよ!」
午後11時を回った繁華街の路地裏。表の煌びやかな町並びとは打って変わって、一歩路地に入り込とその光は届いていない。
「あいつら、なんで僕のこと追いかけてくるんだ⁉」
その真っ暗な路地裏を走り抜ける、いたって普通の大学生、如月レイ。彼はサークルの飲み会の帰り、どういうわけか謎の男たちに追われていた。
「こっち来るなよ!」
ゴミバケツを転がし、段ボールを放り投げ、なんとか男たちから距離を取ろうとするレイ。しかし男たちの運動神経はすさまじく、華麗に障害物をよけて追いかけまわしてくる。
「はぁ、はぁ……ちょっと近道しようとしただけなのに!」
このまま走っていけばレイの家につくが、おそらく男たちに追いつかれる方が先。
「一旦回り道するか……!」
レイは路地の角を曲がり、繁華街の方へと駆け出す。
(人ごみに紛れてやり過ごすか、最悪このまま警察に駆け込んで——)
だが人ごみの多い繁華街に出た瞬間、男たちが追ってくることはなくなった。
「はぁ、はぁ、はぁ……結局何だったんだ?」
振り返るとすでに男たちの姿はなく。真っ暗でどんな顔をしているかさえ見えなかった。
「ああ、なんだか体が重い。やっぱ飲み過ぎたのかな」
レイはフラフラの足取りで家へと帰り、床にカバンを放り投げるや否や、すぐさまベッドに倒れ込み、そのまま眠りについた。
「……は?」
翌朝目を覚ました時、レイの目の前にあったのは、子犬かと思うほどの大きさをしたモフモフの……何かだった。
「えっ、何これ。昨日なんか間違えて持って帰ってきたか?」
ベッドから起き上がりゆっくり近づくと、どうやらその物体はもぞもぞと動いている。
「猫か何か迷い込んだか?」
恐る恐る指でつつくと、その物体はにょろりと姿を変えた。
「ああ、おはよう母上。今日もいい天気だね……ん?」
ちなみに今喋ったのはレイではない。この奇妙なモフモフした物体だった。
「あぁそうだ。オレは昨日から地球に来ていたんだっけか。あれ? じゃあ今オレの身体をつついたのは?」
ヌルッとレイの方に顔を向けるその物体は、芋虫のような形状をしてしている。いや、モフモフと毛が生えているから毛虫の方が近いのかもしれない。
どちらにせよ、その間レイは口をあんぐりと開けてみていることしかできなかった。
「あぁそうか。オレは昨日奴らから逃げて誰かの背中に飛び乗って——」
「うわぁぁぁぁ! なんだコイツ! 喋る毛虫か⁉」
戸棚からゴキブリ駆除スプレーを持ち出すレイ。腰を落として噴射口を毛虫の方に向ける。
「おっ、落ち着け落ち着け! オレは敵じゃない! 敵じゃないからその殺虫スプレーらしきものをこっちに向けるのはやめろ!」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
レイは両手に構えたスプレーをゆっくりと降ろす。
「よぅし、それでいい。とにかくここは、理性的に話し合おう」
なぜこんな大きい毛虫がいるのか、それがなぜ喋っているのか。しかもどうして自分の家にいるのか。レイの聞きたいことは数え始めたらきりがない。
「お、お前はなんだ? 人の言葉をしゃべる機械か何かか?」
「いや違う。オレはなんというか……この星でいう蛾だ」
「よし、駆除しよう」
「あぁぁ待て! 痛い痛い! それ結構痛い!」
レイがスプレーを噴射すると痛がるように悶える……毛虫のような何か。
「待てってホントに! オレのことは生かしておいたほうが、あんたにも利益があるぞ!」
「……利益ってなんだよ」
スプレーを噴射する手を止めると、それはしばらくうねうねした後ようやく動きを止めた。
「ふぅ……まさかこの星で害虫として普通に死にかけるとは思わなかった」
「僕の質問に答えてくれ。まずお前は誰なんだ? 見たところ毛虫にしか見えないが」
「オレのことはそうだな……モスとでも呼んでくれ。こっちの星じゃオレたち蛾のことをモスって呼ぶんだろ?」
「さっきからこの星この星って、お前は宇宙人か何かか?」
するとモスと名乗るその毛虫は、こくりと頷いた。
「ああ、そうだ。オレは地球とは別の星から来た」
「つまりお前はエイリアン……いやいや、そういう冗談はやめてくれ」
「冗談じゃない。今のお前には、俺の言葉を信じる以外に選択肢はないんだ」
(そんなこと言って……本当は誰かがいたずらで仕組んだ機械なんだろ?)
だがモスの身体をいくら触っても、スイッチどころか硬い部分すら見当たらなかった。
「まさかこいつ……本当にエイリアン⁉」
「だからそう言ってるだろ」
「やばいやばい! 早く警察に連絡を——」
「あぁ!それだけはやめてくれ!」
スマホで警察に連絡しようとするレイの方へ必死に、だがちんたら近づいていくモス。
「警察に見つかるのはダメだ!」
「お前なんかすぐ保健所が来て殺処分だからな!」
「待てって! オレを生かしておいた方がお前にも良いことがあるって言っただろ!」
レイはなぜだかその言葉を聞いて、警察に連絡するのをためらってしまった。
「よぉしよぉし、それでいい」
「それで、良いことって何だよ」
するとモスは偉そうにふんぞり返った感じで答えた。
「オレはやがてこの星の王になるものだ。その暁にはお前を、一番の臣下にしてやる」
「よし、通報するか」
「あぁ! ちょっと待って!」