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とある日の日常  作者:
4/8

なりそこないと、ふたご2






カン、カン、と叩きつけるような音が聞こえる。





辺りはすっかり真っ暗で、今この時間は坊ちゃんも、旦那様も、屋敷の使用人たちも眠っている。

そんな時間にこっそりと抜け出し、倉庫に締まってあった木刀を持ち出して庭園の隅にある大樹に打ち込む。ここならきっと音は屋敷迄届かない、木を傷付けた事を後で庭師に怒られるかもしれないけれど、そんなこと気にしていられない程に、焦っていたのだ。


つよく、ならなければならない。


たいせつなものをまもれるように、だれにもとられないように、きずつけないように

なかせないように。


おれは、おれは、だれよりもつよくなって、そして、そして



木刀を握る手に力がこもり打ち込む音が大きくなる。

もうどれほど同じことを繰り返しているのだろう、数刻は立っているかもしれないし、まだ始めたばかりだったのかもしれない。

強く握りしめた掌は摩擦で擦り切れ、掌にできたたこから出血もしていたが痛みなんて感じなかった。

いや違う、痛みを感じている暇なんてないんだ。

はやく、つよくならなければ。もっと、もっと、もっと。




_____じゃないと、おれは。







「やっほー」

「うわあ!!?」




木刀を思いっきり振り下ろそうとした所で、木の上からガサガサと草を搔きわけるような音が聞こえたと思ったら逆さまになった人間が顔を出したものだから驚いてそのままの勢いで前に転んでしまった。

ガ、という音と共に額を思いっきり木にぶつけてしまいその痛みに悶絶するように頭を押さえしゃがみこんでいれば頭上から「え、今頭割れた音した?」なんて陽気な声が聞こえてきた。

なんなんだこいつは、人が集中しているときに話しかけてきやがって。

いやそれよりもどうしてこんな時間に!こんな場所で!おれ以外の人間がいるんだよ!!


キッ、と眼光を鋭く尖らせ振り返ればいつの間に降りてきたのか男は楽し気に笑顔を浮かべておれを見ていた。

なんだこいつ、と睨みを聞かせていれば思い出したように掌を反対の拳で叩き男は意気揚々と口を開いた。


「あ、そっかそっか。ごめんね、まだ自己紹介してなかったっけ。俺はアモン、キミと同じあの屋敷の使用人だよ。気軽にあっくんって呼んでネ♡」


こんな真夜中だというのにサングラスを掛けた怪しい男は勝手に自己紹介を始めた。

おれのなかで見ず知らずの男から怪しい男にランクアップしたのはこの男は知るまい。


「いやぁ、こんな夜中に偉いねぇ。一人で修行してたの?さっすが双子ちゃんのお兄ちゃん!あ、いやお兄ちゃんか弟くんかは知らないんだケド。頑張ってる子は無条件で偉いよ~、そうだよねぇ。早く強くならないと、……キミ、弱いもんねぇ」


サングラス越しに重なった瞳が愉悦を表す様に弧を描く。

その様子にゾワリと背中の毛が逆立つ様な不快感と恐怖が湧き上がる、地雷を思い切り踏み付けられた怒りに思わず反射的に木刀の先を向ける。

呼吸が荒くなる、怒りだと思っていたこれは、怒りじゃないのか、意味の分からないこの男が、おれは__恐怖しているのだろうか。


そんなおれの葛藤に気付いてるのか気付いていないのか、先程とは違うにへらと間抜けな笑顔を浮かべたと思えば木刀を掌で握り締めている。

その力強さに思わず引っ張られてしまいそうになり、体重を踵に乗せ踏ん張るも必死なおれとは違い男は愉しそうだ。


「クソ、クソ…ッ離」

「威勢が良いのは結構、周りの誰にも負けないようにこうやって深夜に屋敷を抜け出して努力するのも合格。ただ、この世界は威勢だけじゃ生き残れない世界だからねぇ。」

「……ッなん」

「まあまあ聞きなよ、君たちがこの屋敷の奴等から歓迎されてないってコト幾ら餓鬼でもわかるでしょ?だったら少しでも警戒されるような事は控えなきゃ、我武者羅に頑張るのと考えがないのとじゃ話が違うからね」

「おま」

「だーから最後迄聞きなって、何だかんだウチで1番世話好きで教え上手なのは執事長だからね。修行付けてください、って頭下げて頼みなよ。なんで俺が?って顔だね、だってキミ強くなりたいんでしょ?だったらそれが敵であれ泥水啜っても這い上がれるように力を付けなきゃね。つまりお兄さんが言いたいのは、強くなりたきゃ周りに頼れって事」


じゃなきゃ、守れるモンも守れないよ。

そう静かに口にする男にドクリと心臓が鼓動する、なんでいきなり現れた男にこんなこと言われなきゃいけないんだとか、お前に何がわかるとか、そんな言葉は沢山出てくるけど、それで強くなれるんだろうか。


おれは、お前を護れるようになるのかな。

なあ、リュー。



そんな事を考えている間にいつの間にか力は抜けていて、持っていた木刀は男の手の中にあった。



「まあ、頑張りなよ双子ちゃん。____精々、俺に殺されないように、ね」



先程の掴み所のないふわふわとした陽気な声とは違う低く冷たい声に、ハッと顔をあげたおれの目の前にはもう誰もいなくて、冷たい風が頬を撫でる。

我武者羅に熱くなっていた頭を冷やす様な風に、何だか少し気持ちが落ち着いたような気がした。







「__執事長、闘い方を教えてくれ。いや、……ださい」




翌朝、そんなおれと執事長の光景を見ていたのかリューに心配されたし、坊ちゃんと一緒に稽古を付けて貰えるようになったのはまた別の話。




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