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とある日の日常  作者:
1/8

〇〇と






とある昼下がり

気持ちのいい風を感じながら、庭園にある木陰の下で寝転がる。

普段は鬱陶しい太陽だけれど、この木漏れ日から感じる太陽の温もりは嫌いではない。

面倒な仕事を抜け出して昼寝をする時間が俺にとっては最高に幸せで、何度怒られても辞められそうにないのだ。

頭の下に腕を差し込みさあ、眠ろうかと態勢を整えゆっくりと瞼を閉じる。おやすみ世界、バイバイ面倒な仕事。


いざおやすみ三秒前、というところで胸に軽い衝撃を感じ思わず眉を潜めたまま固く閉ざした瞼を開いては上下する己の胸になにか小さな物がのっかっている。



「ピ」

「…、………はァ?」







「え、これ雛ですよね?」

「あ、やっぱり?」


あの後、図々しくも昼寝をしようとした俺の胸元を陣取りドヤ顔で鳴いていた生き物を指先で摘み、放り投げ再び眠りにつこうとしていたものの、何故かまた胸元へと帰ってきたピイピイ煩い生き物にイラついて俺は早々に昼寝を諦めた。

タイミングが良いのか悪いのか、起き上がった所で執事長に見つかり仕事に戻る羽目になってしまったしなんだか踏んだり蹴ったりである。

唇を尖らせ屋敷の方へ戻るために歩みを進めるも、そんな俺に慌てて後ろを付いてくる生き物に執事長は驚いていたものの、何かを考えるそぶりをした後「まあ、見つけやすくはあるか」なんてつぶやいていた。

いや確かにピイピイ煩いから俺を見つけやすい、って意味だろうけどこんなよちよち歩きの生き物に付きまとわれる俺の意思は無視ですかー、生き物差別ですかー、そーですか。執事長のベビーフェチ。


そんなことを考えながら屋敷に戻ってくれば偶々洗濯物を山のように持ったスコーンちゃんを見つけ、良い暇つぶ…じゃなくて優しい俺は仕事を手伝ってあげることにした。ほら、なんだかんだ俺えらいし?洗濯物は一人でやるより二人でやった方が捗るだろうしねぇ。


シーツを軽く振り、干す作業をしながら今までの経緯をスコーンちゃんに話せば「私、スコーンちゃんじゃないですけど…」なんて文句を言いながらもふんふん、と頷いて聞いてくれた。

やっぱり羊ちゃんところの子はなんというか全体的にふわふわしている気がする、上司に似るってやつなのかなあ。

ピイピイと未だに俺の足元で鳴いている生き物を見ながら口にしたスコーンちゃんに習うように、俺も足元に視線を向ける。おいこら、誰の靴の上に乗ってんのさ。なにそのドヤ顔、こいつ図々しすぎない??

眉を寄せ不機嫌丸出しの俺とは違い、どうやらスコーンちゃんは靴の上で鳴きながら落ちないようにとゆれるふわふわの生き物に夢中なようだ。


「小さくてかわいー!お母さんと離れ離れになっちゃったのかな。あっくんさんに懐いてますねぇ」

「スコーンちゃん大変、俺の足が折れちゃった」

「すっごいウソじゃないですか、靴の上にこんな綿毛みたいな子が乗っただけじゃあっくんさんの足は折れません」

「ちぇ、ちょっとは優しくしてくれてもいいじゃん。スコーンちゃんのケチ、アホ、食いしん坊女ぁ」

「後半ただの悪口ですよね」


怒ったように此方をみてくるスコーンちゃんに、てへ♡なんて小首を傾げながら自分で頭を小突くポーズをすれば死んだ目でこちらを見ている。

あの厨房で会った時は人を散々天才だのなんだの言ってきた癖に、時が経つって怖いよねぇ。


「それで、その子どうするんですか?」


洗濯物もひと段落し、空になった籠を持ちながら立ち上がったスコーンちゃんに問われれば顎下に手を置きうーん、と唸りながら首を捻る。


「つっても、こんな食べるところ無さそうな鳥どうしようも…」

「え」

「ン?」


首元を指先で摘み上げながらおとなしく持ち上げられた雛をみつめる、ふわふわの毛はあるがどう見ても食べられる部位はないに等しい。

食料にもならない雛をどうしたもんか、と本気で困っている俺の様子に何処か青ざめた顔をしながらスコーンちゃんは素早い動きで俺から雛を取り上げる。


「なんて残酷な事言うんですか!そんなの絶対ダメです!」

「この世は弱肉強食だよ、スコーンちゃん」

「世の中をなめ腐ってるような人が世間を語るなんて!だめです、この子は責任持ってあっくんさんがお世話してあげてください!」


すごいやこの子、目上の人間に対してすごい暴言吐くようになっちゃった。

まあ、俺はこういう子の方が面白くて好きだし目上とか全然気にしないんだけど、明らかにこの屋敷にきて神経図太くはなってるんだろうなあ。


ミャーミャーと鳴きながら抗議の声をあげるスコーンちゃんは、何を思ったのか大事に持っていた雛を俺の胸ポケットに入れ腰に両手を当てながらふん、と鼻を鳴らした。


「いいですか、ちゃんとお世話してあげてくださいよ!私は怒られちゃうんでそろそろ行きますが、しっかりやるんですよ!」


そう言って颯爽と籠を持って立ち去ったスコーンちゃんの背中を俺は見送ることしかできなかった。



「…、……女ってこわ」

「ピ」



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