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⑨をねらえ!

作者: シロクマ

※本作はひだまり童話館様の第33回企画「開館9周年記念祭」応募作です。

 お題は「びりびりな話」「ふにゃふにゃな話」「9の話」の三つすべてを使用させていただきました。

 ⑨のボールを(あな)()っことせば()ち。

 それがビリヤードのルールのひとつ、ナインボール。


 そして長方形ちょうほうけい台座だいざむっつのあないたビリヤードだいはとてもたいせつなもの。

 ぜったいに、ビリヤード台にひとったりしてはいけないのだけれど。



挿絵(By みてみん)




 その悪党あくとうはどかっとおしりとして、ふんぞりかえってこういうのです。


「ふにゃふにゃにゃ! おとなしくこのビリヤードじょうわたしてもらおうかにゃ」


 悪党あくとうは、ビリヤニ。

 タバコのことをヤニとんで、ウィリアムの愛称あいしょうをビリーとびます。合わせてビリヤニです。

 ビリヤニはくろいスーツをこなしたおっきなネコのケモノビトです。


 タバコのけむりかし、土地とち権利書けんりしょをひらひらさせながらだいうえでビリーは物顔ものがおでくつろぎます。

 タバコダメ! のポスターなんてらんぷりです。


 そのうしろで三匹さんびきのほっそりとした子分のネコたちもニヤニヤしちゃってやーなかんじ。


「このとーり、土地とち権利書けんりしょはオレサマのものだにゃー。このふるぼけたビリヤードじょうをぶっこわして、にしてりにすんだにゃ。わかったらとっととていけにゃ」


 ふてぶてしいビリヤニ。ほーんとやなかんじ。


「う、うう……」


 一方いっぽう、ビリヤードじょうあるじのステファニーはトゲトゲしいご様子ようす

 いえいえただしくは、こわがるなあまり、ハリネズミのかみをトゲトゲさせ、カラダをまるめてブルブルおびえていました。



挿絵(By みてみん)



「で、でも! うちには正当せいとう借地権しゃくちけんがあります! 土地とち権利書けんりしょがあっても、土地とちうえ建物たてものてる権利けんりはちゃーーーんと! うちにあるわけで……」


 ハリネズミのステファニーはトゲトゲまんまるのままかえします。


 それがまたいたいところをかれたらしく、ビリヤニはバンとだいたたきます。


「いい度胸どきょうだにゃ……。ちょっといたみてもらうにゃよ、やれ! 子分ども!」


「ふにゃふにゃにゃーー!」


 子分こぶんのネコたちはってましたとばかりにびだします。


「きゃーーーっ!!」


 あわや、乙女おとめだいピンチ。


 ――もうだまってみている場合ばあいではありません。


「そこまでだ! ゴロツキにゃんこども!」


「ぎゃああああーーーっ!」


 勇気ゆうきをだして、赤毛あかげのキツネのローリーは彼女かのじょまもろうとしました。



挿絵(By みてみん)



 ――けど。

 ローリーがふさがるよりはやく、ゴロツキねこたちが悲鳴ひめいをあげます。

 まだローリーはなにもしていないのに、ふしぎです。


 それというのは三匹さんびきのわるものネコたち、すばしっこくてローリーがよしめた! とおもったときにはもう、ハリネズミのステファニーにねこっとび。


 でも、そこはそれ、かんがえてもみてください。

 ステファニーはハリネズミですからね、ゴロツキねこのネコパンチがとんでくるとシャキーンとかみがトゲトゲにぷすっとさってアイタタタ! なのです。

 ハリネズミのトゲトゲのチクチクでぎゃくいたをみちゃったわけです。


「トゲが! トゲがチクチクするにゃがー!」


「ビリヤニさま! バンソーコくださいにゃ!」


「ぐぬぬ、ほれ、救急箱きゅうきゅうばこだにゃ。おみゃーらさがってろにゃ! ケガしたら消毒しょうどくちゃんとしろにゃよ!」


「は、はいっ!」

 うしろにさがって消毒液しょうどくえきに「ぎゃー、しみるー><」とさわぐ子分こぶんたち。


 ふるふるとふるえてうずくまっていたステファニーがおそるおそるかおげると、そこにはあっけにとられてくす赤狐あかぎつねのローリーの勇姿ゆうしがあったのです。


「まぁ! わたくしをたすけてくださったのですね! あなたさまはいったい……?」


「え、いや、まだなにも……。あ、はい、ローリーですけど」


「ローリーさま! ありがとうございます! あなたはいのちの恩人おんじんですわ!」


「ええ……」


 どーしたことかとこまってしまう赤狐あかぎつねのローリー。


 しかしまぁ、かよわい乙女おとめによってたかってわるものがおそいかかり、それをローリーがたすけようとしたのはウソじゃありません。

 幸運こううんにもステファニーはハリネズミだったから鉄壁てっぺきのニードルガードでかえちにしちゃっただけでしかありません。


女狐めぎつね! ローリーつったにゃあ! オレサマにさからい、かわいい子分こぶんをトゲトゲのチクチクでメソメソにするとはいい度胸どきょうだにゃ! トゲトゲこわこわびょうになったらどうしてくれるんだにゃ!」


「ハリこわいハリこわいにゃ」


「ええ……」


「ネコこわいネコこわいですわー……!」


 こーゆーのをぎぬといいます。

 けれど、こわくておびえるステファニーの心細こころぼそさがローリーにはわかります。

 いのちの恩人おんじんとやらにはこれからなればいいのです。


「……ビリヤニ! わたし勝負しょうぶしろ! 暴力ぼうりょく以外いがいでな!」


「ふにゃっはっはっ! さてはオレサマとケンカしててる自信じしんがないにゃ?」


 ぎくりっ。

 ローリーは反論はんろんのかわりに、すっとハリネズミのステファニーをやって。


「え? もっとトゲトゲされたい?」


 とおどかします。


 するとビリヤニはさておき、子分こぶんのネコたちがうるうる涙目なみだめで「ヤメテヤメテ」とうったえます。

 暴力ぼうりょくってるのはなぜかこっちなのです。


「ぐぬぬ、しょーがにゃーなー。暴力ぼうりょく反対はんたい賛成さんせいだにゃ。ここは平和的へいわてき勝負しょうぶってやるにゃよ。でもなにするってんだにゃ?」


雪原せつげんネズミとり競争きょうそうとか?」


「ネズミがかわいそうだにゃ! っていうかクソさむゆきなかにもぐるのイヤにゃ!」


「たのしいのにー。じゃあボーリング対決たいけつでどう? わたしこないだ250てんとったし」


「ダメだにゃ! オレサマはガーター連発れんぱつ苦手にがてにゃ! オレサマの得意とくいなものでやらせろにゃ! 毛玉けだま競争きょうそうでどうにゃ!」


「んなもんポイポイけるかぁ!」


 どっちもおたがいじぶんの得意とくいなことで勝負しょうぶしようとゆずりません。

 これを平行線へいこうせんをたどる、といいます。

 やがてハリネズミのステファニーがひらめいたとばかりにハイと手をあげて一言ひとこと


「ここはビリヤードじょう! ビリヤードで勝負しょうぶするべきですわ!」


 と提案ていあんしました。


 すると意外いがいなことにビリヤニは余裕よゆーぶってタバコをスパスパしては「ったにゃ」と返事へんじしたのです。まるで自信じしんがあるかのように。


「な、毛玉けだま競争きょうそうじゃなくていいのか?」


「オレサマはビリヤードの勝負しょうぶをむかーしここでよくやってたにゃよ。あのころはまだビリヤードが流行はやってたからにゃあ、うまけりゃモテたんでがんばって練習れんしゅうしたもんだにゃ。それがいまじゃあのオワコンだにゃ。さぞ経営けいえいがくるしいんじゃないかにゃ? もうビリヤードなんておしまいだにゃ。ふにゃっはっは! だからオレサマがこれっきりおしまいにしてやるにゃよ!」


 ビリヤニの高笑たかわらいに、ステファニーはかえすことができません。

 経営けいえいがくるしい、というのはホントのようです。


「……わかりましたわ。ビリヤードじょう運命うんめいがビリヤードによってまるのだったら、くなったパパもきっと納得なっとくすることでしょう。一週間いっしゅうかんのち、ここで観客かんきゃくまねいて、ビリヤードのナインボールで勝負しょうぶしましょう。約束やくそくですよ」


「ふにゃっはっは! いい覚悟かくごだにゃ! ……けーるぞ、おめーら」


「は、はいですにゃ!」


「きょうはこのへんにしといてやらぁ! おみゃーらおぼえてろよー!」


 子分こぶんネコらが三下さんした台詞ぜりふのこし、、そそくさげていきます。

 ビリヤニはのっそりとビリヤードだいりて、ローリーをちらっとにらみます。


「ステファニー、その“ド素人しろーと”をせーぜーきたえあげるこったにゃ」


「……え!?」


 のしのしとさっていくビリヤニ、おどろいてかおつめてくるステファニー。

 赤狐あかぎつねのローリーはあせをかいていました。


「……その、はじめてです、わたし


「ええええーーー!?」


 決戦けっせん一週間後いっしゅうかんご――。

 それまでに赤狐あかぎつねのローリーはビリヤードをどこまで上手うまくなれるのでしょうか。













 赤狐あかぎつねのローリーはなぜビリヤードが上手じょうずとステファニーにまちがわれたのでしょうか。


 それはコスチュームのせい。


 ビリヤード競技きょうぎ大会たいかいでは、衣装いしょうまりごと、ドレスコードがあります。

 えりつき長袖ながそでしろいカッターシャツに、くろいスラックス、くろいベストにネクタイ。こうしたビリヤードの正装せいそうがあるのです。


 この白黒しろくろなオシャレコスチュームをている赤狐あかぎつねのローリーをれば、いかにもビリヤードの上手じょうずなひとだとまちがえるのもしかたありません。


 けれども、その真逆まぎゃくでした。

 ローリーはいわゆる“カタチからはいるタイプ”の初心者しょしんしゃでした。


「ごめんね、ステファニー。だますつもりはなかったんだけど、わたし、なんでもまず格好かっこうつけたい主義しゅぎで……。ビリヤードのコスチュームってカッコいいでしょ? ビリヤードのふる映画えいがたら素敵すてきだなっておもって、まずコスチュームをっちゃって、せっかくだから自撮じどりをSNSにアップするだけじゃなくてためしにあそんでみようかな、って」


「どうかおきになさらず。そんなことより、まだあたらしいおきゃくさんがあそびにてくれることのほうがうれしいですわ。すっかりさびれて風前ふうぜん灯火ともしびなのはホントですから……」


 ビリヤードじょう地上じあのビリヤニのいやがらせのせいで客足きゃくあしとおのいているのです。


 ネットのくちコミサイトに「ふるくさい。ショボい。☆2」みたいな書き込みをしたりして。


 でもそれはホントのことだったりします。

 このビリヤードじょうはもう何十年なんじゅうねんもまえにたてられたので古臭ふるくさいのはホントです。


 もちろんあたらしくなおすようなおかねだってありません。

 それはさびれた店内てんないを見まわせばローリーにもすぐにわかることでした。


「……ローリーさま、いっそ勝負しょうぶをとりやめにしましょう」


「ステファニー、それはできないよ」


 ローリーはえりただして、カッコつけていいます。


「しっぽをいてげるだなんて、カッコわるい。わたし流儀りゅうぎはんするのよ。それにせっかくのステキなビリヤードコスチュームをかなしませてしまうよ。ここはって、あの土地とち権利書けんりしょをビリビリにやぶいてしまおうってほうがカッコいいでしょ?」


「ローリーさま……!」


 ステファニーはトゲトゲをふるふるさせて感動かんどうしています。

 まぁ、これは赤狐あかぎつねのローリーお得意とくいたんなるカタチからはいるかっこつけ、てる理由りゆうはないのですが。


「なに、まだじかんはある。これから猛特訓もうとっくんだ」


「は、はい! がんばりましょう! ローリーさま!」


 ローリーはビリヤードだいふちかまえて、しろたま華麗かれいこうとほそめます。


「……で、ナインボールってどうやるの?」


「そこからですの!?」


 赤狐あかぎつねのローリーが競技用きょうぎよう細長ほそながぼう、キューをにぎるすがたはちゃんとしてみえます。

 ふしぎなことに、ステファニーのからてもその姿勢しせいただしいのです。

 しかしルールをちっともらないとは。

「むしろふしぎですわ。どうしてフォームがただしいのかしら」


「カタチからはい主義しゅぎだからね。写真しゃしんうつりのために友達ともだち練習れんしゅうしたんだよ」


「まぁ、それで……」


「よっと」


 そしてローリーはしろ無地むじ手球てだまをコンといて、①②③④⑤⑥⑦⑧⑨とそれぞれしるされたビリヤードだまのかたまりをはじきます。

 白球はくきゅうが④のボールにぶつかり、その④がほかの⑥や②をはじく。


 そうするとビリヤードだいふちはじかれたたまがぶつかり、また軌道きどうえる。そのうちのいくつかはころころころりところがって、だい四隅よすみ両脇りょうわきにあるつのポケットにちることになります。


 こうして⑨のボールをポケットにとせばち、のはずだとローリーはおもっていたわけですが。


「まぁ、力強ちからづよいブレイクショットですわ。でも……」


「おや、なにかおかしかったかい?」


「ナインボールはかならしろ手球てだまを、はじめは①にてないとダメですのよ。①がポケットにちてようやく②、③、④と的球まとだまわるのですわ。いきなり④にてたら反則はんそくです」


「……そ、そうなんだ。ごめんね、ステファニー」


「いえ、初心者しょしんしゃですもの。どうぞお気になさらず。さぁ、たのしいレッスンのはじまりですわよ」


 こうして一週間いっしゅうかん、ステファニーの指導しどうもと、ローリーの特訓とっくんがはじまったのです。

 ローリーはとフォームだけはバッチリなのですが、なにせルールをおぼえるところからはじめる始末しまつです。


 はじめの三日間みっかかん、ローリーはおしごとがえりにすぐビリヤードじょうちよってはみっちりと練習れんしゅうしてとがんばっていました。

 おうちにかえってもビリヤードのほん解説かいせつ動画どうがでルールやコツもおぼえていきます。


 それでもまだまだ初心者しょしんしゃですからローリーもホントは不安ふあんでいっぱい。

 そんなとき、ローリーのルームメイト、ウサギのアンゴラはふしぎそうにたずねます。


「ローリーったらバカね。その試合しあいってもけても、どうせビリヤードじょうはもうおしまいじゃないの。退りょうはちゃんとくれるんでしょ? いいじゃんあきらめたら」



挿絵(By みてみん)



 アンゴラは携帯電話スマートフォンをいじってぶつくさいいます。

 はりきっているルームメイトのがんばりをバカにするのは、ローリーがうつらうつらとねむりこけながらルールブックをんでいたからです。

 こっくりこっくりコックリさんです。


「ふにゃふにゃむにゃむにゃ」


「こら、あたしのはなしを聞きなさいよ。あんなボロいプールバー(※ビリヤードじょうのこと)どうせつぶれるてってるのよ」


「むにゃ、え、あ、ん、そう……そうかもしれないね」


「なんだ、わかってんじゃん」


「けどさ、やってみるとこれがたのしいんだよ。コン! ってキューって細長ほそながぼうでボールをたたくと、カンカン! ってボール同士どうしがぶつかってねてどうころがるかを心待こころまちにする瞬間しゅんかんがたまらなくわくわくするし、ハラハラと緊張きんちょーするんだよ。それにね」


「ふーん、それに?」


「ステファニーのおしかた上手じょうずなんだ。手取てと足取あしと親切丁寧しんせつていねいってだけじゃない。あれができないこれができないとおこったりせず、こう、勝負しょうぶちたいってあせりより、ビリヤードをきになってくれた新入しんいりのわたしにあれこれおしえてあげるのが楽しいみたいでさ。トゲトゲがシャキンとしてるんだよね」


「は? トゲトゲ?」


「ハリネズミなの、彼女かのじょ


「あー、そーゆー」


「……時間じかんりないからさ、明日あしたから有給休暇ゆうきゅうきゅうかをつかってお仕事しごとおやすみするよ」


「なにそれ、バカじゃん」


「ステファニーはさびしがってるんだ。わたしにはわかるよ。わたしとアンゴラがおな趣味しゅみでつながって、さびしくなくなったときのうれしさを、キミはわかってくれるだろう?」


「……それくらいは、まぁ」


「もしかして、ちょっといてる?」


 ローリーはほんわきにおいて、アンゴラのことをぎゅっときしめます。

 ごきげんななめだったアンゴラはすこしいやがります。

 でもローリーにせなかをポンポンとされると、そのうちにすなおになりました。


「いまはふたりのじかんなんだから、もうちょっと、あたしもさびしくさせないでよ」


「はいはい、こまったおひめさまだね」


 ローリーのなんともあま言葉ことばとおかお間近まじかでふれると、アンゴラのしろいもふもふのみみはシャンとしてたのがふにゃふにゃになってしまいます。

 そりゃあだって、ちっともきでもないひととはいっしょにらしませんものね。


「ローリー、もうたら? このままいっしょにてくれるならゆるしてあげる」


「ん、そうするよ。ルールブックによだれたらしちゃこまるしね」


「あたしだってこまるけど!? ふにゃふにゃのふやふやになるからてるあいだにおみみはぐはぐするのもなしね!」


「あはは、それじゃおやすみ……」


 そのうちにこけて、ローリーのとっくん三日目みっかめわりました。









 四日目よっかめ、なぜかビリヤードじょうにはウサギのアンゴラがやってきました。


 もこもこふわふわなウサギのアンゴラは携帯電話スマートフォン練習れんしゅう撮影さつえいしてくれています。

 トゲトゲチクチクのハリネズミのステファニーとは見比みくらべてみるとなかなかおもしろです。


 ちなみに、アンゴラのみみはふにゃふにゃのふやふやで歯型はがたもうっすらのこってるのですが、むしろ気分きぶんは上々《じょうじょう》ごきげんよしではりきっています。


「あの、アンゴラさまはなにを……?」


練習れんしゅう風景ふうけい撮影さつえいして配信はいしんするんだって」


配信はいしん……?」


「バカね。勝負しょうぶつだけじゃダメなのよ。がりそうなイベントはチャンスよ。プールバーをつづけたきゃおきゃくさんをってるだけじゃダメ! 自分じぶんからあつめないと!」


「は、はぁ」


「おみせ存亡そんぼうけた世紀せいき大勝負おおしょうぶでしょ! 観客かんきゃくをまねくんでしょ! ビリヤードがたのしいんだってとこをせいぜいアピールすることね、あたしの相棒あいぼうしてあげるんだから」


「あの、おふたりはどういうご関係かんけいで?」


「あっちが動画どうがつくるひと、わたし動画どうがうつるひと、かな」


 ローリーは華麗かれいにブレイクショットをめます。


 あいかわらずフォームだけは綺麗きれいですが、①はポケットはちず失敗しっぱい、ミスショットになります。


「ううん、全然ぜんぜんよくならないなぁ」


「でも、①のボールをちゃんとポケットのそばにころがせてます。もうすこしですわ」


 ステファニーとローリーの特訓とっくん試合しあい前日ぜんじつまでつづきます。


 コンディションをととのえるため、ローリーははやいうちにぐっすりとます。


 そのよる、アンゴラはステファニーに電話でんわします。


「ねえ、ステファニー。ひとついておきたいんだけど、なんであんたが試合しあいないの? ローリーにきそびれちゃって」


「それは……」


 アンゴラはローリーのすやすやとした寝顔をながめながらはなします。


「ホント、ててきないかおよね」


 とアンゴラは向こう側に聴こえないようぽそっとつぶやき、ほんのりわらって。


「ローリーはおひとよしなのよ。明日あした勝負しょうぶてる見込みこみはぶっちゃけうすい。それでもあんたが試合しあいせずにローリーにやらせる理由りゆうはなに? ……あたしにもおしえなさいよ」


 ステファニーはしばらくだまってしまいます。

 けれどそのうち、はなしてくれました。


「……それは、ローリーさまがみずから勝負しょうぶするとおっしゃってくれたからです」


「どゆこと?」


対戦たいせん相手あいてのビリヤニというおとこ勝負しょうぶったのはローリーさまが初心者しょしんしゃだと見抜みぬいたからです。もし愛好家あいこうかのわたしがお相手あいてするとったら、きっと約束やくそくがちがうととりやめにしてしまいます。てそうな勝負しょうぶしかしないおとこなんです、ビリヤニは。それに……」


「それに?」


「ローリーさまをみてたら、本当ほんとうってくれるんじゃないかって気がして」


「そう、バカげてるわね。奇跡きせきでもきなきゃムリじゃん、そんなの」


 すぅすぅと寝息ねいきてるローリー。

 きっとゆめなかでも練習れんしゅうしてるのだろうなとアンゴラは苦笑にがわらいします。


「ま、奇跡きせき期待きたいしたっていっか。けてもこまるのあんたとこのバカだけだし」


「……ですね!」


 電話でんわえると、アンゴラはパソコンにかいます。

 明日あしたのために彼女かのじょにもやるべきことがあるからです。
















 そして試合しあい当日とうじつ


 ビリヤードじょうにはたくさんの観客かんきゃくあつまっていました。

 これには対戦たいせん相手あいてのビリヤニと子分こぶんのネコらもおどろきでした。


「どーなってやがるにゃ! こんなさびれたとこにこんなに……」


「うう、こう見物人けんぶつにんがいちゃやりづらいっす」


 観客かんきゃくはすべて常連客じょうれんきゃくというわけではありません。

 ここにあつまったのはアンゴラのつくった動画どうがびかけにおうじてくれたひとたちです。


念願ねんがんなまローリーよ! ああ、おうつくしい!」


「キャー! ローリー! こっちいてー!」


退きをけた世紀せいき大勝負おおしょうぶといわれちゃちまうよなぁー、そりゃあ」


 観客かんきゃくのおかげか、雰囲気ふんいきはローリーに味方みかたしてくれています。

 凛々《りり》しくしろくろのハスラースーツをこなしたローリーはまるで一流いちりゅうのプロみたいな風格ふうかく試合しあいのぞみます。


 一方、ビリヤニも同じく白と黒の正装せいそう試合しあいのぞむのでした。


「ルールはナインボールの5ゲーム先取せんしゅ、そして勝敗しょうはいみせ今後こんごめる。いいね?」


「ああ、もちろんだにゃ」


 ステファニーとアンゴラ、子分のネコらが見守みまもなか、コイントスで先攻せんこうめます。


「……わたしからだ。くぞ、ビリヤニ」


「やってみろ、ド素人しろうと


 ローリーは綺麗きれい姿勢しせいで、さいしょのブレイクショットを行いました。


 ちゃんと自分じぶんの白いたまが、的球まとだまの①にたり、②③④⑤⑥⑦⑧⑨とそれぞれのたまがビリヤードだいうえ四方八方しほうはっぽうはじかれてコロコロところがっていきます。


 ナインボールは⑨をポケットに落とせば勝利しょうり、1ゲームをることができます。

 ローリーのブレイクショットはこのまま①をポケットに落とせば、つぎは②を的球まとだまにしてつづけてつことができます。


 理想的りそうてきちつづければ、ずっと相手に打たせずに⑨をポケットに落とすことさえできますし、うまくやれば途中とちゅう的球まとだまをうまくぶつけて⑨をポケットに落とすこともできます。


 そしてローリーのブレイクショットは……うまく①をポケットに落として成功せいこうです。


「よし!!」


「ほーう、にゃかにゃか練習れんしゅうしてきたようだにゃあ」


「当たり前だ! この調子ちょーしで……あっ」


 早速さっそくのミスショットです。

 手番てばんはビリヤニに交代こうたい、そしてかれはものの見事みごとに②をポケットへ落とします。


「上手い……!」


「ふにゃふにゃふにゃ! オレサマも練習してきたんだにゃ~。経験けいけん実力じつりょくもオレサマが上にゃ」


「おまえ……じつはビリヤードきなんじゃないか!」


「“好きだった”がただしいがにゃ」


 ビリヤニは⑤と⑥をポケットに落とし、さらに⑨まで落として1ゲームをせいします。


 でかいみかけに似合にあわぬ繊細せんさいなコントロールにはおどろきです。


 観客かんきゃくもおもわず「おい、あいつすごくねーか?」「ああ、ただのゴロツキじゃなかったのか」と見事みごとなプレイにナイスショットにパチパチと拍手はくしゅをおくります。


 つづく2ゲーム目、ビリヤニは①②③④⑤⑥とそのまま1ゲームさらにるのではと見事につづけるのですが、⑦を落としそこねて交代こうたいになります。


「ちっ、ほら、おみゃーのばんだにゃ。ふにゃははは! ……はずすにゃよ?」


「わ、わかっている……!」


 ローリーには連続れんぞく失点しってんゆるせるような余裕よゆうはありません。


 このワンショットをミスしてはいけない。


 そういうおもたさが、ローリーの指先ゆびさき余計よけいちからあたえてしまうのです。


 そこでアンゴラは、ステファニーになにかこしょこしょ耳打みみうちして。


 ステファニーは力いっぱいにさけびます。


「ローリーさま! カッコわるいですよ!!」


「……は?」


「ダサいです! カッチンコッチンに緊張きんちょうしきっててちっともカッコよくないですわ!」


「んな、だ、だれのためにこんなことしてるとおもって……!」


 ローリーはキューの棒先ぼうさきをステファニーに向けて抗議こうぎします。


「じゃあどうしたらいいんだよ! 私は!」


 そのいかけに、ステファニーは全力ぜんりょくでこう返事へんじします。


「もっと理想りそうのカッコいい自分じぶんになりきるんですわ! こんなボロいみせのことなんてにせず! ローリーさまがなりたい最高さいこうに、ビリビリとしびれるくらいカッコいいハスラーになりきるんですわぁぁーーーっ!!」


「最高の……」


 ローリーは思い出しました。


 このハスラースーツに袖通そでとおしたのも、ついたすぶねしてしまったのも、一週間ずっとがんばってきたのも、すべてはステファニーとおみせたすけたいため“だけ”じゃない。

 そういう“まもるべきもの”のためだけにたたかうのは自分らしくないと気づいたのです。


「……そう、そうだね」


 ローリーがいま、ここでたたかうのは――。


 最高さいこうにカッコいいショットを決めて、かがやくためだと。


 最高の一打いちだ

 それは稲妻いなずまのように目のえる会心かいしんのショット。


 ⑦の的球まとだまが⑧を弾き、そのどちらもがポケットへい込まれていきました。


 つづけざまに白球はっきゅうが⑨を弾き、ポケットインしてゲームを勝ち取ります。


「クォォォォーーン! どうだ、見たかいステファニー!」


「おぎょうぎが悪いですわローリーさま! でも……かっこよかったですわよ」


 そこから試合しあい白熱はくねつ大接戦だいせっせんでした。

 ビリヤニとローリーはどちらもゆずらず、一進一退いっしんいったい、勝負は4-4のラストゲームへ。


「ぐにゃー! 初心者しょしんしゃがこのままビギナーズラックで勝てると思うにゃよ!」


「その初心者が見事に勝ったら最高にカッコいいだろ? だから私が勝つのさ」


「ええい、この一打で決めてやるにゃあ!!」


 ビリヤニは勝負を決めにいきます。


 むずかしいけれど、決まれば⑨を落とせるというテクニカルなショットを狙いました。


 しかしそれは空振からぶりに終わり、こんどはローリーにチャンスがやってきます。


 会場かいじょう熱気ねっきにつつまれ、アンゴラの実況じっきょう配信はいしんも大盛り上がりでした。


「すぅー……はぁー……」


 ローリーは深呼吸しんこきゅうをひとつ。

 そしてこう宣言します。


「ステファニー、もしこのワンショットで勝利できたら――」


「で、できたら」


 キューをかまえて、ローリーはうつくしくしずかにねらまします。


「このふるくてダサい店、リフォームしようよ。いっしょに」


 ステファニーはびっくりな言葉ことばにすこしおどろきますが、すぐに「勝てたら、ですわよ」とくすりと笑ってかえします。

 ローリーは「勝つさ」とつぶやいて、白球はっきゅうをキュースティックで弾きます。


 それは渾身こんしん一打いちだでした。


 ⑤の的球まとだまに当てられた⑦が弾かれてふちかえり、きっちり⑤はポケットへ。そして⑦がいきおいよくぶつかるのは⑧、その⑧がぶつかったのは⑨でした。


 ⑨はいきおいがよわいながらに少しずつ、じわり、じわりと四隅よすみのポケットへ――。


 ころころころり、ころりんこ。


 みんな、⑨の行方ゆくえあせにぎって見守みまもりました。


 ころころ――、コトンッ。


 ――⑨のボールはものの見事に、ポケットに落ちました。


 ローリーが勝利しょうりしたのです。


 わぁわぁと歓声かんせいが上がって、会場は熱狂ねっきょううずにつつまれます。


「ローリーにしみない拍手はくしゅを!」


「お見事! 最高にカッコいいぜ! ローリー!」


「ビリヤードってはじめてちゃんと見たけどこんなに面白おもしろいものなんだね!」


 けてしまったゴロツキネコどもは残念無念ざんねんむねん


「そ、そんにゃ~……」


 ぐったりと脱力だつりょくしきってふにゃふにゃです。

 がっくりとひざを落とし、ビリヤニはいやそうに土地とち権利書けんりしょをローリーにします。


「……約束だ、受け取れにゃ」


いさぎよいじゃないか、お前もなかなかカッコよかったよ、ビリヤニ」


 ローリーはカッコよく、土地の権利書をびりびりと破り捨ててしまいます。

 そしてキメ顔でキラキラした謎の光(なんのひかり?!)をまといながらステファニーへアピールします。


「どうだい? ビリビリとシビれるくらい最高にカッコよかっただろ?」


「ええ、とっても……」


 うっとりとしたあついまなざしで祝福しゅくふくするステファニー。


 ステファニーはうれしすぎて、ぎゅっとローリーにぽろぽろなみだしながらきつきます。


「ふたりでステキなリフォームをしましょうね、ローリーさま!」


「いた、あ、いたいっ! く、ない、いたくないもん……っ!」


 ステファニーのトゲトゲチクチクにえながらローリーは最後さいごまでカッコつけます。


 その足元あしもとでは、ふわふわもこもこのアンゴラが必死ひっし紙切かみきれをひろあつめてます。


「おいバカ!! だいじなだいじな土地とち権利書けんりしょをビリビリにやぶいてどーすんだひろあつめろバカギツネ!!」


「……え?」


「カッコつけすぎだバーカ!!」


 後日ごじつ、このうっかり土地の権利書をびりびりにやぶいちゃったワンシーンは、見事に⑨を落として勝利しょうりしたシーンより有名ゆうめいになってしまったとか――。


 リフォームされてオシャレになったステファニーのビリヤード場はそのおかげか話題わだいです。

 そこでは毎夜まいよ、なかよくビリヤードをたのしむふたりのすがたがあったとか。

 そうそう、ときどき、もう一羽いちわもいっしょだったりするそうですよ。

 めでたし、めでたし。




お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、感想、評価、いいね、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。


素敵なイベントに参加させていただき、作品を書く良い機会に巡り合わせていただきました。

イベントの関係各位にもこの場を借りて、お礼申し上げます。

読者様におかれましても、この機会に他の方々の素敵な童話にも触れる機会になれば幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読しました。 なんともかわいい戦いのお話でしたね。 擬人化イラストも、かわいくて。すごい! リフォームされたお店が、これから繁盛することを祈っております。 それにしてもビリヤニさん、…
[良い点] 素人から利用的なハスラーになったローリーさんがかっこいいです。 ⑨の字が本当にビリヤードの玉に見えますね。 昔、少年マガジンの『ブレイクショット』というビリヤード漫画を読んでいました。
[良い点] 9の話を考えようとして、まず浮かんだのがナインボールでしたが、真っ先にボツにしました。童話にするには難しいと感じたからです。それをわかりやすく、なおかつ楽しく書かれたこのお話を読んで、つく…
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